読書日記

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真保裕一「密告」 2000年03月09日

 真保裕一を読み出したのはわりと最近のことである。2年前くらいだったか講談社文庫で東野圭吾&真保裕一フェアをやっているのを見て読んだのが最初だった。それまでは名前さえほとんど認識していなかったと思う。彼の書くものが本格物などとはジャンルが異なるため私の視界に入ってこなかったのだと思う。最近は「ホワイトアウト」の映画化が決まるなどして、あちらこちらで名前を見かけるようになった。

 彼の小説の多くでは何かの専門家、しかも比較的地味な専門家が主人公だ。どうやってその題材に目を付けるのか。毎回非常に専門的なことまで詳しく描かれていて感心させられる。

 さて現実の世界でも不祥事続発で警察が注目を集めている折、偶然ではあるが最近警察物を立て続けに読んでいる。本書は身に覚えのない密告者の汚名を着せられた警察官の物語だ。汚名をすすぐため数々の妨害を受けながらも真相に向かって奔走する。ハードボイルドと呼ぶほどは主人公はタフではなく(いやふつうの感覚からいえば十分タフだが)その判断は少し違うのではないかとか、感情に流されすぎではないかとか思う場面もあるが、隠された真実に一歩一歩と近づいていく真保得意の展開で読ませる。7点。
 

大沢在昌「氷舞 新宿鮫VI」 2000年03月05日

 新宿鮫シリーズの第6作目となる本書でまた鮫島はヤクザ・公安警察・大物政治家を相手に孤軍奮闘する。パターンといえばパターンなのだがハラハラドキドキさせられてやはり面白い。いや、パターンは同じでも決して飽きがこないようにプロットがそれぞれにちゃんと考えられ工夫されているのだ。

 でもちょっとだけ不満を言えば最後に×××や敵役の○○○が死んでしまうこと。これこそあらゆる物語にワンパターンなんだよね。物語に決着をつける一番簡単でそれなりに効果的な方法であるのは分かるけどね。とくに悪役の犯人を死なせて終わりにするやり方にはいつも不満が残る。作者(そして読者の多く)は死ぬのが悪行の最大の報いと思っているのかなあ。私はあっさり死なせてしまうより生かして後悔させる方が落ち着くのだけど。8点。
 

宗田理「消えた五百億円」 2000年03月03日

 図書館でまだ新しそうな本が目に留まったので借りてみた。作者は少年向けの「ぼくらの7日間戦争」(たしか映画にもなってたっけ?)で知られている人だが私は初めてだ(映画も見てない)。作者によると少年向け小説とは違って、勧善懲悪の物語にはなっていないので読後感はよくないそうだ。現実に存在する(いや、作者によるともっとひどいらしい) 政治家や銀行屋・総会屋などによる金銭を巡る死闘・化かし合いを描いている....そうだ。なぜ断言していないかというと実は全部読んでないのだf(-.-;) どうも文章が小説っぽくなくて(どちらかというと手記かルポみたい)読みにくいんだもん。いま他にも読みたい本がたまっていて、さらに図書館の返却期日も迫っているので1/3ほど読んだところであっさり放棄してしまうことにしたm(_ _)m でも小説としてはともかく、上に書いた"悪い奴ら"が裏の世界で何をしてるか知りたい向きには良いかもしれない。フィクションだしどこまでリアリティがあるのか判断できないけど、まあありそうなことではある。点数は未読了のため無し
 

宮部みゆき「理由」 2000年03月02日

 第120回直木賞受賞作。小説は不動産取引を背景にした一家4人殺害事件を核にしているがこれら自身は主題にはなっていない。ルポタージュ形式で明らかにされる事件の関係者それぞれの人間模様を描くことがこの小説のテーマのようだ。それぞれの物語相互の関連は薄く、すでに解決した事件に対する関係者へのインタビューだから、話はわりかしたんたんと進んでいく。ちょっとだけ、"最後にインタビュアが何者か明らかになって全体に隠されたもう一つの物語が明らかになる"、なんて展開を期待したのだけど。い、いかん、本格ミステリ中毒症状だ(~_~;)

 ところで宮部みゆきの書く人々ってみんなとても真面目だと思う。ここに出てくる人もみんな真面目な人ばかりだ。きっと作者が非常に純粋で真面目なのだろう。ときどきそれが(登場人物が真面目すぎて)うるさく感じることもあるのだが、宮部みゆき作品の魅力であることも違いない。8点
 

清涼院流水「ユウ〜日本国民全員参加テレビ新企画」 2000年02月26日

 清涼院流水の作品は癖のあるものばかりだと聞いていたのでこれまで敬遠してきた。実際、図書館に置いてあった「19ボックス〜新みすてり創世記」をぱらぱらっとめくって、そのまま本棚に返してしまったことがある。今回くろけんさんのHPに「ユウ」は「一般受けしそうな作品」と評してあったのと、メインの着想が面白そうだったので試してみることにした。

 結果は、あまり良くない(^^;;) 最初の方は同じことを何度も繰り返し説明してたりしてぜんぜん作品世界に引き込まれない。途中からはテンポも速くなってきてそれなりに楽しめたのだが。
 ところで一番の謎は作品の仕掛けだ。そのまま読んでも良いが、途中に挟まっている部分を一度飛ばして、ラストまで読んでから戻ってくると2度楽しめる、と書いてある。おっ、これは先に読むか後から読むかで物語の様相が一変するのかな、と期待したのだけど、結局ただの番外編的な物語があるだけだった。それとも私が何か見落としてるのかな? 4.5点
 

アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」 2000年02月26日

 たぶん再読なのだけどよく覚えていない。映画も遙かむかし中学生の頃にTVで見て以来である。2001年を目の前にして何となく読んでみたくなった。

 物語は結構たんたんと進むし、HALの反乱は全体にもっと大きなインパクトが有った気がしていたけど、これも思っていたよりさらりとしていて意外な気がした。まあ、私の勝手な思いこみである。記憶というのはいい加減なものなのだ。

 解説でも触れられていたが、ラストシーンは映画に比べてはるかに分かりやすい(^^) キューブリックのむちゃくちゃ哲学的なラストも良いのだが、やはりなにがしか説明してもらった方がスッキリとする。それでもやっぱり分からんことはワカランのだけど。8点
 

貴志祐介「黒い家」 2000年02月26日

 貴志裕介は「天使の囀り」に続いて読むのは2冊目。「黒い家」は映画になったりして話題になることも多かったので気になっていた。

本作は第4回日本ホラー小説大賞受賞作である。ところでホラーにオカルトは付き物だ。オカルトは良くできていれば良いのだが、安易なものだと嘘っぽさが目立って興醒めしてしまうのであまり好きではない。本作もホラーだっていうからおどろおどろしいオカルティックな物語かと思ったらそうではなく異常心理を扱ったサスペンスだった。

 終盤、ジェイソンみたいな敵と対決するのだがジェイソンほどは脅威じゃないのだからもっと反撃できるんではないかとか、ラストもありきたりだなあと少々の不満も感じたが、全体としては非常に面白かった。貴志裕介作品、早く次が読みたくなった。8.5点
 

井上尚登「T.R.Y.」 2000年02月26日

 面白かった。99年の横溝賞受賞作で筆者のデビュー作だそうだが、とてもデビュー作とは思えないうまさがある。放送作家をやっている(いた?)ようなので文章を書くのは慣れているのだろう。

 真保裕一の「奪取」を思い出した。犯罪者が主人公であるところや、息を付かせぬ展開でぐいぐい引っ張って行くところ、随所に散りばめられたユーモアなどが似ているのだろう。登場人物がみんな魅力的なのも同じだ。もしかしたら「奪取」の影響を受けているのかも知れない。

 もちろん主人公は犯罪者といっても悪者ではない。犯罪的なのはむしろ国家や権力者で、彼らを詐欺にかけようとする主人公と仲間たちは敢えて言えば義賊だ。舞台は明治時代。この重苦しい時代を舞台にして偽政者に一泡吹かせる活躍ぶりは痛快である。結局押し寄せる時代の荒波にはかなわないのであるが、それでも読後感は爽やかだ。9点
 

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