読書日記

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雨の会 編「やっぱりミステリーが好き」 2001年03月02日

 本書の前に"やっぱり"が付かないアンソロジーが出ている(未読)。雨の会とは井沢元彦と大沢在昌のふたりが発起人となって結成したミステリ作家の親睦団体らしい。井沢元彦は右傾化した言動ばかりが目立って今は落ちぶれているが、雨の会も本書を出したところ(1990年)で活動を休止しているようである。以下、各話ごとの感想。

 井上夢人「書かれなかった手紙」手紙のやりとりだけで書かれた叙述トリックのミステリ。なるほどそう言うことか。7点。 大沢在昌「ベル」やはりこの人、この手のアクションものは上手い。お決まりのパターンも多いが素直に面白い。ラストで一捻りあれば文句がないのだが。7点。 折原一「殺人計画」妻に気付かれないようにメッセージを隠す方法とは? とても折原一らしい作品。とくにラストが。7点。 坂本光一「ウイニングショット」ゴルフ場でスキャンダルを追うフリーカメラマンが死んだ。殺人か? それとも事故か? カメラが捕らえたウイニングショットが事件を解くカギになる。6.5点。 高橋克彦「ゆきどまり」 唐突な交通事故から始まるが、本題は幽霊。今やオカルトにハマったトンデモ作家として有名な高橋克彦らしい。ミステリと言うよりホラーだろうが、ありきたり。6点。 新津きよみ「女に向いている職業」うーん。結局この題名に集約されてしまう話で、事件や謎はあまり意味を持たない。ちなみに雨の会の参加がきっかけで(?)新津きよみは折原一と結婚している。5.5点。 東野圭吾「名探偵退場」明らかにホームズを思わせるかつての名探偵も今はひっそりと老後の生活を送っている。そんな彼に久しぶりの事件の依頼がくるが。。本格推理の登場人物が悲しき現実に直面する。7点。 矢島誠「消えた輝き」殺人事件に巻き込まれた男。しかし彼を取り巻く環境から事件に巻き込まれたことを表沙汰にはできない。ミステリというか人間ドラマがメイン。6.5点。
 

黒崎緑「聖なる死の塔」 2001年02月27日

 主人公・高梨洋子は母校のミッション系名門女子校でシスターをつとめている同窓生でかつての親友から手紙を受け取る。彼女は手紙の中で、学校である事件が起こっていること、それを相談したいことを知らせていた。しかし直後に友人は不慮の死を遂げる。友人の死の真相を調べるために洋子は学校に乗り込んだ。

 まず読書中と読後に感じた不満点から書いてしまうおう。一言で言えば"人物が描けていない"というありふれた批評があてはまりそうだ。と言ってもそれは致命的なものではなく、おそらく全然気にならずに読み終えてしまう人もいるかもしれない。ところどころでちょっと首をひねる程度で物語の雰囲気を壊してしまうほどのものではない。が、このあたりの処理が上手ければずっと良くなるはずだ。あともうひとつラストも切れ味が悪く消化不良気味であるが、まあこれも人の好みによるかもしれない。

 と、いきなり文句を並べたが実はなかなか面白かった。真相を探るうちに出てくるいろいろな謎や不審な出来事は読者の興味をうまく惹きつける。半ば閉鎖的で独特の環境にあるキリスト教系の女子校やその寮が舞台になっていることもうまく雰囲気を盛り上げていた。7点。
 

東野圭吾「殺人現場は雲の上」 2001年02月23日

 容姿端麗で抜群に優秀なエー子こと早瀬英子と、好対照なビー子(エー子といつも一緒にいるためこう呼ばれる)こと藤真美子のスチュワーデスコンビが巡り会った事件を描いた連作短編の推理小説。本書はユーモア推理小説と銘打たれているが、ユーモアの部分を一手に引き受けているのはビー子である。そして事件の謎を解く探偵役はエー子。

 派手な展開こそ無いがどれも手抜きがない骨格のきっちりとした推理小説になっている。心情的な面では納得のいかない話もあったが謎解きの部分には文句無く、安心して読めた。この安心して読めるのってけっこう大事。下手な作家だとまさかこうはならないだろうなとか、このまま終わったりしないだろうななんて疑心暗鬼になりながら読んでしまって楽しみが減ってしまうのだ。東野圭吾はやはりその点で期待を裏切ることはほとんど無い。7点。
 

星新一 他「占いミステリー傑作選」 2001年02月21日

 題名の通り占いが関わるミステリーの小品を集めたアンソロジー。例によって古本として100円で手に入れた本書(河出文庫)の発行は1989年だが、収められている作品はさらにずっと古いものも多い(一番古いのは1959年発表)。このため作品によっては時代を感じる。以下、各作品ごとの感想。

 高木彬光「家捜し」これは別のところですでにネタを知っていた。オリジナルがこれ(1961年の作品)なのかそれとも他にあるのか分からないが、良くできたトリックだ。 阿刀田高「当たらぬも八卦」これもネタはすぐに分かった。最後の一行は言わずもがな星新一「夢と対策」懐かしの(^^)エヌ氏が登場。星氏らしい不可思議世界。 都筑道夫「腎臓プール」プールで溶けるように消えてしまった女の謎に、しがない占い師が挑む。謎はよいが解決は平凡小松左京「共喰い」さる金持ちの息子を誘拐するが身代金を要求する電話をかけてもいつも留守。その理由は.. 最後の部分まで占いがどう関わるのか分からない。 半村良「黙って坐れば」依頼者に対する占い師の言葉だけで進む。ひとしきり占いとは何かを語るのは良いが、結末はそれがどうした?という感じ。 黒岩重吾「死の札の女」占いのおかげで命拾いして以来人生に対する意欲を失ってしまった男。隠者のような生活の中である女性と知り合い人生の転機が訪れる。ミステリではないな。 泡坂妻夫「ヨギ ガンジーの予言」これは立派なミステリ。不吉な予言をされた男の話を聞いた自称超能力者(実はトリック)ヨギ ガンジーが真相を見抜く、安楽椅子探偵ものだ。予言トリックは手品に詳しい人なら予想が付くものだが面白い。
玉石混淆だが、まとめて7点。
 

北川歩実「猿の証言」 2001年02月16日

 失踪した異端の研究者。チンパンジーは目撃していた? 彼らに証言能力はあるのか。ヒトとチンパンジーは何が異なり何が同じなのか。

 チンパンジーは生物学的に人類にもっとも近い近縁種であるということはおそらく多くの人の知るところであるが、ではヒトとチンパンジーを本質的に分かつものは何かと聞かれたら答えるのは難しい。実際のところ最先端の研究者でも万人が納得する答えを示すことはできないだろう。答えを出すためには単にチンパンジーとの差異を挙げるだけではなく、なぜヒトはヒトなのか、ヒトの能力や行動・精神活動といったものは何によって決定されているのか、かなり根本的なところまで考えなくてはならない。この作品の事件はあくまで人間の思惑から起こった人間中心の事件であるが、背景に描かれているのはそのような非常に奥の深い学問的な話である。そんなわけでかなり専門的な解説にけっこうな分量が割かれている。もしかしたらこれが退屈な人もいるかもしれないが、私にはとても興味深かった。もちろん専門的な話も事件にうまく絡めてある。というか専門的な話がメインでそこにうまく事件を絡めていると言った方がよいかもしれないが。かなり長い小説だが長さはさほど感じなかった。でも事件はもっとシンプルにまとめても良かったかも。

 北川歩実の小説は非常に最先端の科学のような専門的な話をメインテーマにしたものが多いが、どれもなかなか面白い。広く一般受けはしないかもしれないが、私はひそかに注目している作家である。7.5点。
 

有栖川有栖・篠田真由美・二階堂黎人・法月綸太郎「「Y」の悲劇」 2001年02月10日

 エラリー・クイーンの「Yの悲劇」に4人の作者が挑戦した競作アンソロジー。いずれもダイイングメッセージ「Y」が残されたそれぞれのYの悲劇に各作者の持ちキャラが挑む。以下、各話ごとに感想。
 
 有栖川有栖「あるYの悲劇」 登場するのは作家のアリスと火村助教授。こうやってほかの作者と並べるとそれぞれの作者の特徴がますます引き立つ。これは有栖川有栖らしいセンチメンタルな味付けをした作品。もちろん本格推理小説としての魅力はきっちり持っている。最後の謎解きでは巧妙に仕掛けられていた伏線の数々が明らかになり爽快。7点。
 篠田真由美「ダイイングメッセージ≪Y≫」 トリックというより人の心やそれを描くことで醸し出される雰囲気に主眼がおかれている。この人の作品はほかには1冊しか読んでいないのではあるが、たぶんこれがこの人の典型的な作風だろう。そんなわけで(?)ダイイングメッセージの謎解きもEmiの死の真相もちょっと無理があるというか苦しい。Yの意味するところは偶然にも次の二階堂黎人の作品の中で「ありふれたもの」と切り捨てられているくらいなのだが、むしろここでそんなダイイングメッセージを残したということそのものが不自然だと思う。6点。
 二階堂黎人「「Y」の悲劇-「Y」がふえる」 題名の最初の方のYは本当は右に45度傾いている。メタ・ミステリーの形態をとっており、かなり変わった印象を与える作品だ。基本的に嫌いではない。殺人のトリックは現実離れしているが、もしかしてこれを書きたいためにメタ・ミステリーにしたのだろうか。しかしそれにしてもいささか無理があるのでは?Yの示す意味もメタ小説ならでは。6.5点。
 法月綸太郎「イコールYの悲劇」 有栖川有栖とはある意味好対照で、救いとなるセンチメンタリズムは排され(それでも一抹の哀愁は感じる)、冷徹ささえ感じる論理の世界だ。途中でひとつの解答が示されるが、これは論理的ではあるが不満は残る。するとすかさずもう一捻り加えてくるあたり、さすがに上手い。すべてのパズルのピースをきっちりと収めてしまっている。7点。
 

響堂新「超人計画」 2001年02月06日

 東野圭吾の「鳥人計画」とはもちろん全然違う(スミマセン余計なことです)。壮大な野望がアマゾンの奥地で進行していることに気付いた日本人医師・佐倉は真相究明に乗り出す。しかし数々の妨害に遭い生命の危険にさらされる。

 サスペンス小説としてテーマは面白い。巻末に挙げられた参考文献の数も多く作品の分量もあり、作者の力の入れようが推察できる。残念なのはところどころに見られる不自然さと若干のご都合主義である。文章自体は下手ではないのだが小説としてこなれていない感じがした。実はこの作者の本は一度「紫の悪魔」(デビュー作かな?)を図書館で借りたことがあるのだが、最初の少しだけ読んで止めてしまったことがある。たまたま時間が無くて返却期限が迫っていたことが主な理由ではあるのだが最初の部分で引き込まれなかったこともやはり理由のひとつではあった。本作品でこの作者に再挑戦したわけだが上に述べたように不満点はあったものの最初に予想した以上には面白かった。今後期待しても良い作家だと思う。期待を込めて7点。
 

重松清「エイジ」 2001年01月31日

 第12回山本周五郎賞(1999)受賞作。もともと朝日新聞に連載されていた小説だ。朝日は取っているが連載時には読んでいない。新聞小説って読もうかなと思ったことは何回かあるのだけど結局ほんとに読んだことはない。なんとなく毎日少しずつ読むという読み方は合わない気がして。。

 図書館で借りてきたのだが作品と作者に対する予備知識はほとんど無かった。どこかでこの「エイジ」という作品の話題を目にしたことがあった気がしたので手に取ったのだ。すると借りたあとで作者の名前を本屋で見かけた。「ビタミンF」なる本が平積みになっていた。そう、重松清氏は先ごろ「ビタミンF」で第124回直木賞を受賞したばかりなのだ。いわば時の人といって良いだろう。

 この作品では少年犯罪を絡めて揺れ動く中学生の心情と日常が描かれている。主人公はふつうの悩める中学生男子。完全にこの中学生の視点に立って物語は進行する。こういうのはなかなか難しい。中学時代ははるか昔の大人(作者)がイマドキの中学生になりきるのだから。書くのも難しいだろうが読んでいる方も何となく、例えばNHKの中学生日記を見るときに感じるような居心地の悪さを感じてしまうのだ。それでもその点、本作品はなかなか成功していると思う。何かずれているんじゃない?といった部分も確かにあるが、おおむねそれほど違和感を感じないで読めた。あまり「イマドキの中学生」にこだわっていないせいかもしれない。たぶんほとんどの場合はそれで正解だと思う。中学生も大人も、イマドキもムカシも思ったほどには変わりないのだ。7.5点。
 

氷川透「真っ暗な夜明け」 2001年01月27日

 第15回メフィスト賞受賞作。バンドの仲間が久しぶりに集まった夜、メンバーの一人が殺される。犯人はバンドの仲間? そしてさらに犠牲者が出て。。バンドメンバーで自他共に認める名探偵・氷川透が事件の真相に迫る。

 うーむ。名探偵役の主人公・氷川透の性格、これは一体なんだろう。ミステリマニアとは言え身内の殺人事件に直面しながら第三者的に名探偵であることを自分で常に意識しているというのは違和感を感じる。自信満々だったり、「いや自分は名探偵にふさわしくない」と控えめになったりして性格がつかみにくい。さらには冷めていたり妙なところで悩んでみたり、冷静さを見せたかと思えば慌てふためいたり、生真面目だったりウケない冗談を口にしたりでどうも人格が分裂気味である。作者は必ずしもこのようなキャラクターを書きたかったわけではないと思うのだが。。無理に「人間を描く」必要はないが、人物像ははっきり分かりやすくないと小説世界に没入できない。

 またミス研ならともかくバンドのメンバーがみんなして名探偵の登場を期待したりするものだろうか。おまけに警察まで名探偵に期待するのは。。いやもちろんそれだけの理由が示されれば納得するのだが。主人公に、一度や二度話して「こいつはすごい」と思わせるようなところは全然感じられないのだ。

 そうそう、視点が目まぐるしく入れ替わる文体も読みにくかった。何かトリックに使われるのかな、と期待していたがそれも無し。

 それでも途中まではけっこう期待しながら読んでいたのだが、後半は延々推理をめぐらす展開になってしまい退屈した。好んで推理小説を読んではいるが、地味でつまらない推理をああでもないこうでもないと繰り返すだけの小説はやはり好きではない。推理は単純明快なほどカタルシスがある。変に理屈っぽくならなければ面白いものを書くかもしれないということで今後に期待。6点。
 

歌野晶午「生存者、一名」 2001年01月21日

 祥伝社文庫の15周年記念書き下ろしシリーズの一冊。すべて定価が税込み400円になっていて、昨今の文庫本の値段としては安い部類にはいる。しかし中身が。。いや中身っていうのは小説の内容のことではない。このシリーズの本を開いて誰しもが思うだろうことは、文字が大きい!行間が広い!!四辺の余白も大きい!!!ということだ。これでは400円でも高い気がする。。作者のラインナップには魅力的な名前も多いのだが今まで買ってなかったのはそんな理由による。今回たまたま手元に読む本が無くなってしまったので仕方なく帰りの電車に乗る前に本屋に飛び込み購入した。

 余計な前置きが長くなってしまった。本書の内容は。。。本作品は「無人島」をテーマにした競作4冊の内のひとつである。爆破事件を起こしたカルト教団のメンバーが無人島に身を隠すことになったが、教団に裏切られ完全に外界から孤立してしまう。あまつさえ連続殺人まで発生する。冒頭に生存者は一名と明らかにされているが、いったい誰が生き残るのか? 殺人の犯人は? そして事件の真相は?

 長い話ではないが孤立した無人島でのサバイバルゲームが無駄なく描かれていてなかなか面白かった。事件の真相と結末は少し強引な気がするが中編の佳作である。7点。
 

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