読書日記

INDEXページへ

新野剛志「もう君を探さない」 2001年05月19日

 「八月のマルクス」第45回江戸川乱歩賞(1999年)を受賞した作者の受賞後第1作
 
 表紙に大きく"Not Found"と書かれている。これはネットサーフィンをやる人にはお馴染みだろうエラーコード404のアレだ。高校教師の主人公がむかし家庭教師をしていたもと教え子-今はインテリやくざ-が開設していたホームページがこの作品の重要なキーになっている。その教え子が何ものかに殺され、いつの間にか閉鎖されていたホームページに真相が隠されている?
 
 インターネットが重要な役割を果たしているわりには作者はあまり詳しくないように思える。主人公をはじめ登場人物も同じくコンピュータなどに詳しくない設定なので致命的なボロは出ていないが、違和感のある箇所があった。また心理の動きやそれに伴う行動にも不自然さを感じる部分が多かった。そもそも前回は感じなかったはずだが、文体そのものがこなれていない印象を受けた。もちろん下手というわけではないがアマチュア以上プロ以下といった感じの文章だ。前作ではそんなことは無かったのだから、これらは作者のセンスの問題と言うよりは取材不足・練り込み不足ゆえだろうか。
 
 それでもこの人の書くちょっとハードボイルド風味の小説は嫌いではない。というかけっこう好みだ。本作品も傑作とは言い難いが決して読んで損したというものではない。また次作に期待して待ちたい。6.5点。
 

大沢在昌「らんぼう」 2001年05月16日

 "あぶない刑事"に"ダーティーハリー"を掛け合わせてさらに乱暴にしたような型破りの刑事コンビが活躍する(暴れまくる?)連作短編集。まあこんな奴らは現実には絶対にいない。あれだけ派手に立ち回って公には出来ないこともして、ずっと何のお咎めもなく刑事稼業が勤まるはずがない。捜査方法さえ組織に属しているとは思えない無軌道ぶりだ。
 
 そんな非現実的な部分を気にしなければ、とにかく痛快無比に暴れまくるふたりの滅茶苦茶ぶりを楽しめる。とにかくふたりはおそろしく喧嘩が強い。大抵の敵なら敵とも思わずばったばったと苦もなくなぎ倒す。敵-大抵は暴力団-に囲まれたりしたら普通は大ピンチなのだが彼らにかかれば大したピンチにならない。しかも敵に同情してしまいたくなるほどにほとんど手加減無しだ。凶暴という表現がぴったりくるコンビなのである。
 
 それでもだんだん後の話になるに従って雰囲気が変わってくる。ふたりの凶暴ぶりはマイルドになり、話は短い分単純だが人情味が前面に出てきたりして感情移入もしやすくなる。こういう変化は同じく大沢在昌の"アルバイト探偵"シリーズなどでも感じたが、書いているうちにキャラがだんだんと固まってくる過程で無意識に作者自身も感情移入できるようにしているのだろう。"ゴルゴ13"なんかもそうだな。もっともあれは人情味はあまり感じさせないが。7点。
 

今邑彩「盗まれて」 2001年05月11日

「ひとひらの殺意」一年前に殺人を犯して自殺した兄は実は殺された? とくにひねりもなくストレートな謎の解決。6点。
「盗まれて」二本目以降は適度にひねりもあって複雑で、いずれもミステリの手本になりそうな作品。この表題作はドッペルゲンガー出現の謎を解く。でもラストの人物は一体だれ?ちなみに本作品は日本推理作家協会編「殺人前線北上中」で読んだことがあった(奇しくも本書の直前に読んだ山口雅也「ミステリーズ <完全版>」の一編も同書で既読だった)。7点。
「情けは人の・・・」誘拐計画を持ちかけられた若者はある事情から応じるが、計画には裏の裏があって。。7.5点。
「ゴースト・ライター」人気女性作家の小説は夫がゴーストライターとして書いたものだった。しかしその夫は突然死んでしまう。窮地に立たされた彼女の元に本物のゴーストが現れる? 7点。
「ポチが鳴く」犬を飼えないトラウマの真相は?そこはかとない不気味さが漂う作品。6.5点。
「白いカーネーション」生きている母親へ毎年母の日に白いカーネーションを送る夫の謎。過去の話として語らせることで後味を良くしている。7点。
「茉莉花」父親に付けられた名前-茉莉花-に対する嫌悪は子供時代のある出来事の苦い思い出によるものだった。しかしその思い出の背景にあったものは実は。。6.5点。
「時効」時間を超えた不思議な再会によって古い昔の恩師が事故死した事件の真相が明らかにされる。最後の種明かしは好みが分かれるところか。無くてもよいと思うが、合理的に説明をつける姿勢は私的には好みだ。7点。
 

山口雅也「ミステリーズ <完全版>」 2001年05月09日

「密室症候群」新たな密室ものに挑戦、っていうより単に密室を話題に取り上げた一風変わった文章。5.5点。
「禍なるかな、いま笑う死者よ」笑っている死者の謎。なぜ笑いながら死を迎えたのか?6点。
「いいニュース、悪いニュース」大体のところ予想がつく結末。ニュースはあまり関係ない。5.5点。
「音のかたち」推理小説ではなくオカルトホラー。曰く付きの年代物のスピーカーに取り憑かれた男の話。5点。
「解決ドミノ倒し 」探偵小説の見せ場である、関係者を集めて真相を解き明かす場面から始まる一種のパロディー。もちろん一筋縄で解決したりはせず、ドミノが連鎖的に倒れるようにてんやわんやのどんでん返しが繰り返される。面白かったのだが、ラストが陳腐。別の形で意表を付くものならばなお良かった。6.5点。
「『あなたが目撃者です』」じわじわと盛り上がる緊張感。結末の論理は見事だが、前半とのつながりには無理がある。6点。
「『私が犯人だ』」殺人犯が周りの誰からも無視されると言う不可思議な状況で始まる。明かされる理由はやや強引だがまあまあ面白い。6.5点。
「蒐集の鬼」SPレコード蒐集家の悲劇。コレクターの心理を上手く描いており、それ故の悲劇が上手くまとまっている。私はこれが本書のベスト。一番地に足のついた作品でもある。この小品は日本推理作家協会編「殺人前線北上中」に収録されており以前読んだことがあった。7点。
「<世界劇場>の鼓動」ハードカバー版には無くノベルス版に追加されたボーナストラック。人類滅亡直前の世界。比喩的な表現に終始していて良くワカラン。5点。
「不在のお茶会」神秘主義的な哲学(?)談義。オチは「解決ドミノ倒し 」と同工異曲。6点。
 
 この短編集は95年度の「このミステリーがすごい」で国内ミステリ第1位に選ばれたそうなのだが、果たしてそんなに良い作品だろうか?? まあ「このミス」と趣味が合わないのは今に始まったことではないのだけれど、ベストワンはちょっと理解できない。好きな人は好きだろうけど。。
 

若竹七海「古書店アゼリアの死体」 2001年05月05日

 「ヴィラ・マグノリアの殺人」の海辺の町・葉崎市を再び舞台にしたコージー・ミステリの第二弾。コージー・ミステリって何?という方、実は私もよく分かりません。誰か教えて。何となく雰囲気から察するところはあるのだが。辞書によると【cozy】(家・場所などが)居ごこちのよい,気持ちのよい;(雰囲気などが)くつろいだ,和気あいあいとした、である。
 
 作品中に「ヴィラ・マグノリアの殺人」と関連する話題が出てきたりするが、もちろん内容的にはまったく別のお話である。「ヴィラ・マグノリア」の方はもう細部は忘れているが、もうひとつ感心しなかった記憶がある。謎解きも、物語と文章自身の面白さも物足りなかった。しかし今回の「古書店アゼリア」は若竹七海の本領発揮でなかなかの出来である。
 
 まずユーモアがよい。冒頭の場面から思わず顔が緩むのを止められない。通勤電車の中で読んでいたのだから、ひとりで本を見てにやついているというのはあまり格好の良いものではないのだがしょうがない。こういう思わずクスリとしてしまう場面がいくつかあって、作品の魅力のひとつになっている。望むらくは、その手のユーモアはこの3倍くらい入れて置いて欲しかった。
 
 ほかに本作品の魅力と言えばやはりロマンス小説に関する話題だろう。私はと言えばロマンス小説などにはとんと縁が無く、「風とともに去りぬ」「マディソン郡の橋」を映画で見たくらいで、「レベッカ」さえ読んでいない。巻末には作中に出て来たロマンス小説についての注釈が付いているので、本書はロマンス小説の入門にもなるかもしれない。実際自分もちょっとだけ読みたくなっているr(^^;)
 
 肝心の謎解きもしっかりしていた。ただし地味だし、あまり自分好みでは無い。ここが少し減点材料。せっかく魅力的な個性を持った登場人物がたくさん出てくるのだから、ここは謎解きよりも彼らの活躍ぶりの描写をとことんやればもっと面白くなったのではないかと思う(推理小説の読者としてはあるまじき感想だが・・)。ちょっとおまけで7.5点。
 

東野圭吾「回廊邸殺人事件」 2001年05月02日

 正統派の推理小説である。恋人だったジローを殺された女が復讐のために老婆に化け、かつて事件が起こった旅館「回廊邸」に再び乗り込む。彼女はここでジローを殺した犯人が誰なのか突き止めて復讐を果たさねばならない。しかし彼女の手によらない殺人事件が発生して事態は複雑な様相を見せはじめる。
 
 ところで回廊邸はなかなか変わった構造の旅館である。もちろんこの形が内容に大いに関係してくるわけであるが、綾辻行人の館シリーズほど謎解きのためのマニアックな建築物ではなく、実際にもありそうな洒落た構造をしている。もっとも作品中の設定もそうだったように気軽に泊まれる場所ではなく、相当お金のかかりそうな旅館だ。一度はこんな旅館でのんびりとしてみたいものであるが。。
 
 閑話休題。事件の謎と作品中に仕掛けられたトリック、なかなか盛り沢山の趣向が凝らされていた。ダイイングメッセージもある。人をして技巧派作家と評せしむ東野圭吾らしい作品だ。技巧的な要素が多い代わりにストーリー的には盛り上がりに欠けるきらいはあるが文章が上手いから飽きることはない。7点。
 

西澤保彦「瞬間移動死体」 2001年04月27日

 こんどの主人公はテレポーテーション能力を持っている。地球の裏側であろうと一瞬にして行けてしまうのだ。しかし制約もいろいろあって・・。例によってSF設定をうまく生かした本格ミステリ小説である。特殊能力を生かして完璧なアリバイを用意して妻の殺害を計画するところから話は始まる。しかし思わぬハプニングで妻は殺せず、事件は意外な方向へと進んで行く。その謎解きがメインになる。
 
 最後の最後にある事件の全体像の謎解きはなかなかに複雑なパズルで、それを強引に解いてしまうところが西澤保彦の腕の見せ所である。もっとも私にはあまり好みではないのだけど。どうしても無理矢理なところや不自然なところが目に付いてしまう。
 
 でも本作品の、そして西澤保彦作品の面白さはそんなことでは無くならない。こういったふつうは反則のようなSF設定は、もはや西澤保彦の読者には完全に受け入れられているところだろう。というか、これこそが西澤保彦作品の最大の魅力になっている。作者自身はそんな評価に満足していない節もあるが、やはり私もこの手の作品の方が面白く仕上がっている気がする。そんなわけで、本作品もこの後の筋がどう転ぶのかという期待に少しばかりワクワクしながら楽しく読めた。ちょっとコミカルな文体とテンポの良さも魅力の作品だった。7点。
 

真保裕一「震源」 2001年04月26日

 小役人シリーズ(これって正式名称なのかな?)の三作目。つまりけっこう初期の作品になるだろう。近所の図書館にも置いていなかったし、これまでずっと未読だった。今回これを読んで真保裕一の作品はほとんど制覇できたかな?(最新作はフォローしていないけど)
 
 題名が表すように地震、それも火山活動が引き起こす地震が事件の発端となる。主人公・江坂はその専門家である。もっとも次第に明らかになる事件の内容は単なる自然災害ではなく国家ぐるみの陰謀である。日本国家による犯罪的な計画とそれを巡る周辺国との駆け引きという、いつの間にやら随分とスケールの大きな事件になってくる。
 
 もちろんスケールの大きなストーリーが魅力になるのだが、難を言えば政府や国家がらみの陰謀・事件としては派手すぎる。まあ実際のそれがどんなものか知っているわけではないのだが、やはり落ち着いて考えると、これはいかにも小説向けという気がする。スケールが大きくなりすぎたせいか、解決はいまひとつスッキリしない。
 
 とは言ってもそこは真保裕一の筆力にかかればやはり、読者をぐいぐいと引き込むだけの力を持っていた。堅実なプロットと分かりやすい文章で万人が楽しめる作品だ。7点。
 

芦辺拓「殺人喜劇の13人」 2001年04月18日

 第一回鮎川哲也賞受賞作品
 どちらかと言えばなんか同人誌というか大学のミス研の機関誌とか、そんなところで書かれたような文章だ。普通の人は普段使う機会が少ないだろう言葉がたくさん使われていたりして文章書きのマニアっぽさが感じられる。しかしあまりこなれた文章とは言えず(そんなに下手というわけでもないが)、読者を小説の世界に没頭させるには力不足であろう。本筋とは関係ないマニアっぽい描写も気がそがれる原因の一つである。
 
 と思いながら途中まで読んできたところで語り手が変わる(振り返ってみるとこの部分が本書で一番驚いた箇所だったな)。おおお、そうか、ここまではそういう人が書いたものなのだからあれでいいのか。いやでもやはりその後もあまり文体は変わっていないような。。。後半では前半部分の叙述に対する謎解きなどがあって、かるく読み飛ばしていた文章に実はこんな意味が隠されていた、なんてことが次々と明らかになるのだけど、まあそれほど面白いものではない。少なくとも私には。。受けるのはやはり一部のマニアではないか。
 
 冒頭には「綴じ違いの断章」と名付けられた結末近くの場面の一部が挿入されており、この仕掛けが(謎解きに)どんな意味を持つのかと思ったらあまり意味は無さそう(私の理解不足かもしれないが)。ただの映画の予告編みたいなものと思えばよいのか。
 
 というわけで意欲作であることはよく伝わってくるのだが、いかんせんデビュー作とは言えアマチュアっぽさがにじみ出ている。それにいくら本格推理小説とはいえ、やはり作品中の世界観が現実離れしすぎていると素直に受け入れるのが難しくなる。あれだけ派手な連続殺人があったにもかかわらず仲間はわりと平気で住み続けるし、警察も公の見張りを置くでなし、、なんか普通の感覚と違う世界である。賞を受けるレベルでは無いと思うのだが、まあ本格推理小説のコアなファンにならばOKなのかもしれない。6点。
 

高千穂遙「ダーティペア 独裁者の遺産」 2001年04月13日

 シリーズの外伝として久々に上梓されたダーティペアのルーキー時代のエピソードだ。今回文庫化を機会に読んでみた。上梓されたと言っても最初の登場は書物ではなくインターネット上の公開だった。最初の方を読んで、あれ、なんか読んだことある。デジャブ? などと一瞬考えてしまったが、そう言えば数年前にほんの最初の部分だけネット上で読んだことがあったことを思い出した。というわけで最初公開されていたMSNのサイトから引っ越しして現在はここ(http://www.franken.ne.jp/franken/dirtypair/)で読める。多彩なイラストなどが含まれていて、本とは違った楽しみ方ができるだろう。ただしNetscape4.7では表示できなかった。。
 
 見習い期間が終わりふたり単独の初仕事なのだが、例によって最後には惑星一個を壊滅に追い込んでしまう。注目すべきは宇宙最強生物・クァール族の末裔、ムギとの出会いが描かれている。
 
 で、感想だが。うん、やはり面白い。高千穂遙の小説って実はほかは一冊も読んだことがないのだけど、ダーティペアシリーズだけは読んでいる。軽いノリだがそこがよいのだ。理屈抜きでわくわくしながら読める。作者には是非シリーズを続けて欲しいのだが。あとがきを読むと一応その気はあるらしい。次なる作品の登場にも期待を込めて7.5点。
 

INDEX