読書日記

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法月綸太郎「雪密室」 2000年04月06日

 再読。手元に新しい本が無くなったため、ゴソゴソと押入をかき回して見つけた。前に読んだのは5、6年は昔のハズ。(おかげですっかり忘れていて楽しめた(^^;;)

 内容は題名の示すとおりで、足跡がない雪のじゅうたんに囲まれた密室殺人事件を扱ったガチガチの本格推理小説だ。しかも途中に「読者への挑戦状」が付いている(うわああああ)。もちろん、挑戦されても歯が立たないのですぐに解答編に読み進むのだけど(^^ゞ この後の作品で顕著になるのだが、全体を覆う暗い陰の部分とそれに関して理屈っぽく考え込んだりする法月綸太郎的な特徴はこの作品(探偵、法月綸太郎のデビュー)にもすでに現れているけど、まだあまり気になるほどではない。本格推理好きにはおすすめできる一品。7.5点。
 

朝永振一郎「鏡の中の物理学」 2000年04月01日

 まったくミステリとは関係ありません(見方によっては立派なミステリですが)。ご存じノーベル賞受賞者による素粒子物理学と量子力学についての一般向け解説。先日読んだ清水義範・西原理恵子の「おもしろくても理科」とはだいぶ違う(←当たり前だ!)。全くの初心者が読むより、いくらか予備知識がある人に向いているかも。また理系の専門家が自分の専門分野を一般向けに解説するときのお手本として良いと思う。昔の人だからいま読むと古くさい印象もあるのだけどこれだけ工夫して読ませてくれると楽しい。点数は恐れ多いので付けません。
 

藤田宣永「鼓動を盗む女」 2000年03月31日

 オカルティックな現象と人の心を軸にしたホラー(?)な短編集。うーん。起承転結も無い単にオカルトな物語もあって、それはあまり面白くない。でもオカルト現象をうまく生かしてスッキリまとめた話もあって藤田宣永らしさを出している。そうか、藤田宣永はこんなのも書いているのか、と発見した一冊。6.5点。
 

清水義範・西原理恵子「おもしろくても理科」「もっとおもしろくても理科」 2000年03月26日

 自称文系の人間はなんでそんなに理科を毛嫌いするんだ、けっこう理科って面白いのんぞお、と清水義範ハカセがいろんな理科を解説してくれる本。本人も言ってるとおりハカセは決して専門家ではないので、え?と思うところや間怠っこしく感じるところもあるのだけどそれはご愛敬。とくに私自身が門外漢の生物関連の話は知らない話もたくさんあって良かった。で、いい味だしてるのがサイバラのつっこみマンガだ。内容に関するつっこみよりもハカセ個人に対するつっこみの方が多いくらいなのだが、淡泊になりがちなこの本を一気にスパイシーにしている。社会編も出ているようなので読んでみよう。7点。
 

黒崎緑「闇の操人形(ギニョール)」 2000年03月21日

 4月から3月までの12ヶ月間ひとつの月をひとつの章にして、ふたりの女性の視点から物語は進んでいく。全体として(とくに前半は)たんたんと物語が進み、少しずつ積み重なった偶然と少量の悪意によって最後にカタストロフィーが訪れる。でも最後に明らかになる真相はおおよその予想が付いてしまって意外性はあまり無い。

 心の片隅に闇の部分を持ったふたりは被害者であり加害者でもある。サイコサスペンスや異常心理ものは現実味が感じられないものが多くて実は全般にあまり好きではない(むしろまったくぶっ飛んじゃっているやつなら良い)。でも数ヶ月前にあった実際の事件、我が子の通う保育園で他の園児を殺してしまった若い母親の事件なんかこの物語と共通するところがあるかも知れない。するとこれは現実に起こりうる話なのだ。

 黒崎緑って最初に読んだのが「しゃべくり探偵」だったからユーモアミステリのイメージが強いのだけど、こんなのも書いていたんだねえ。7点。
 

歌野晶午「さらわれたい女」 2000年03月17日

 依頼された狂言誘拐をまんまと成功させ背負っていた借金も返してめでたしめでたしだったはずが、、、そこには思わぬ展開が待ち受けていた。

 誘拐は成功率が非常に低い犯罪なのだそうだが、本書を読むとそれなりにうまく行きそうじゃん、なんて思ってしまう(思うなっ)。なかなか鮮やかな手口である。しかしこの本の見せ場は誘拐のトリックではない。誘拐を依頼した側とされた側の互いに腹のうちを探り合いながらの騙し合いが読みどころである。そして結末は・・・。

 話がすこしずれるが以前(00/03/05)に”結末に私がよく感じる不満点”について書いたが、この本は図らずもその不満を回避した結末だった。なぜこの結末を選んだかを作者に変わって主人公が説明しているが(それがちょっといかにも説明的で蛇足っぽくもあるのだが)、もしかしてこの作者も私と同じことを考えていたのだろうか。7.5点。
 

鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」 2000年03月16日

 久しぶりに"感心”させられた作品だ。意外なトリックや巧妙な伏線といったものに感心したのではなく、展開する論理あるいは小説そのものにたいへん感心したのだ。内容は表題作ほか全六編のシリーズ短編になっており、それぞれ興味深くかつ有名な歴史を俎上にのせている。そして"歴史上の謎"を明快に解き明かし、さらには大胆にも歴史の常識を根底から覆してしまうのだ。

 巻頭に「この作品がフィクションであるという保証はどこにもありません。」なる作者の言葉がある。もちろん、これはフィクションです、というところをちょっと洒落てみただけで、本作がフィクションであることは明白だ。しかしあまりに明快な論理に、ちょっと文体を変えて「これは歴史学者が書いた解説書だ」と言われて読まされたら歴史に無知な私はすっかり信じてしまったと思う。いや、むしろ知識があっても馬鹿馬鹿しいと思うよりはますます楽しめるのではないかな。8点。
 

岡嶋二人「解決まではあと6人 5W1H殺人事件」 2000年03月13日

 謎の女が異なる探偵社に次々と奇妙な依頼をしていく。誰が・・? 何処に・・?探偵社は期待に応えてそれぞれの依頼に一応の解答を出していくのだが、探偵も、そして読者も、女がいったい何のためにこの奇妙な依頼をしてきたのか分からない。そしてとうとう謎の女までが殺されて・・・

 探偵社に持ち込まれたそれぞれの謎もけっこう楽しめるし、それらがどう関連するのか考えるのも楽しい(結局最後まで読まないと分からなかったが)。岡嶋二人の推理小説は謎がたくさん提示されて、真相(と思われるもの)も二転三転させるのが得意だと思う。ふたりでアイディアを交換し合ううちにこのような小説が出来上がるのだろうか。7点。
 

岡嶋二人「なんでも屋大蔵でございます」 2000年03月12日

 岡嶋二人1985年の作品。なんでも屋こと便利屋の釘丸大蔵が遭遇した数々の体験談を語るという形式で五つのエピソードが納められている。解説の宮部みゆきによると便利屋なる商売は電話帳に7ページにもわたって載るほどたくさんあるそうだ。でも大蔵さんがほかの便利屋と違うのは、殺人事件なんて物騒なものに次々と関わってしまうところだ。しかもあまり鋭いキャラには見えないのに名推理を駆使して次々事件を解決してしまうのだ。このあたりの大蔵さんの味のあるキャラクターが本作の一番の魅力となっている。6点。
 

吉村達也「文通」 2000年03月11日

 多作の吉村達也にはありがちなのだが、本作も深みが無くて消化不良気味だ(彼は面白い作品もあるんだけどね)。4人の文通相手が実は同一人物で、、という設定は面白いのだがそれだけで終わってしまっている。筋書きや登場人物のキャラクターは、平凡な少女マンガやTVドラマなどに有りそう。逆に絵で魅せることができるそれらの原作として使えばそれなりに成功するかも知れない。しかしそれでも不満が残るのはラストである。クライマックスのいよいよ盛り上がったところで唐突に終わってしまう。結末としても中途半端だし、読後の余韻も無い。人気が無くて連載をうち切られたマンガの最終回みたいなのである。剣持なんて結局いったい何のために登場したのか分からない。ラストの減点が大きくて5点。
 

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