読書日記

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西澤保彦「麦酒の家の冒険」 2000年06月01日

 タックほか大学生4人のシリーズ長編第2作目。1作目「彼女が死んだ夜」の文庫本を買ったついでに図書館で借りた。

 ハリイ・ケメルマンの「9マイルは遠すぎる」(本作以外でもちょくちょく名前を聞く名作らしいがまだ未読。近いうちに読みたい)にインスパイアされた作品とのことで、ごくわずかな手がかりから推理して隠された真相を探り当てるという趣向。もっともタックシリーズは第1作目同様、推理と言うよりは想像を繰り広げるパターンだ。結果的に想像は当たってしまうが、それによって事件を解決するわけではなく、解決した後に"ああ、やっぱり想像は当たっていたなあ"となって終わってしまうのはちょっと物足りない。

 こういう純粋推理で真相にたどり着く安楽椅子探偵ものはやはり短編向きではないかなあと思う。あとがきによると作者はそこをあえて長編に挑んだようだが果たして成功と言えるのか? 短編にしてもインパクトは変わらなかったと思うぞ。しかしそれでも途中で退屈して放り出したりしないのは第1作目の感想でも書いた様に登場人物のキャラクターに負うところが大きい。決してハズレではなかったが。6.5点。

追記:実はこれ再読のはずだったのだけど覚えている結末が違った。あれれ?なんでなんで?おかしい!これは今世紀最後の謎かもしれない!!!-----「そうかっ、謎は解けたぞ」(by名探偵) 「何て迂闊だったんだ。あれは・・・」実は覚えていた結末は二階堂黎人の「名探偵水乃サトルの大冒険」に収められた短編「ビールの家の冒険」だった。これは西澤保彦のオリジナルに本歌取りした作品だ。しかし、ああ、なんで取り違えて覚えていたのだろう(~_~;)
 

西澤保彦「彼女が死んだ夜」 2000年05月30日

 タック・タカチ・ボアン先輩・ウサコが登場するシリーズもの第1作目。ただし正確に言えば、時系列的にずっと後(彼らの大学卒業後)の物語が本作以前の「解体諸因」の中で読める。

 西澤保彦と言えばSF設定の推理小説でこそ本領が発揮されると一般的には評価されている(かな?)。実は私もそう思う。「七回死んだ男」や「人格転移の殺人」は紛れもなく傑作だ。しかしだからといって非SFはダメかというとそんなことはない。本作品もなかなか良かった。

 文庫本巻末の解説で法月綸太郎も触れているが、登場人物が皆とてもユーモラスに描かれていてほのぼのとした雰囲気を醸し出しているのだが、これと裏腹に事件の内容はシビアでシリアスだ。ところが事件の第3者的な職業探偵ならともかく、彼ら自身の事件に対してもやや深刻さに欠けるところがあって、この辺りにわずかな違和感を感じる。一方彼らのキャラクターが物語を面白くしていることも事実だろう。実際とくべつ盛り上がる場面があるわけでも無いのだが、飽きることなく一気に読めてしまった。今後も期待!7.5点。
 

ミステリーアンソロジー 不在証明崩壊(アリバイくずし) 2000年05月28日

 角川文庫のアンソロジーシリーズ。たしか以前に"密室"と"誘拐"が出ている。今回はアリバイくずしをテーマにした8作品。執筆陣は浅黄斑、芦辺拓、有栖川有栖、加納朋子、倉知淳、二階堂黎人、法月綸太郎、山口雅也の各氏である。

 有栖川や法月の名に惹かれて買ったのだけど、両方ともどこかで読んだことのある作品だったのは残念。もっとも例によって内容はだいぶ忘れていたので問題はなかったけど(^^ゞ。このふたりの他に良かったのは芦辺拓と倉知淳。倉知淳は気になりながらまだ一度も作品を読んでいなかった作家である。本作は変化球的作品だったが他の作品はどうなのだろう。近いうちに読んでみたい。あと、加納朋子の作品は一見彼女らしい心温まる作品になっているのだが、"結局一番の被害者"(本文中の言葉)に同情してしまってすっきりしないものが残った。勝手にほのぼのしていないで彼をちゃんとフォローしてよ>真奈ちゃんとお姉さん。7点。
 

我孫子武丸「たけまる文庫 怪の巻」 2000年05月27日

 うわーいっ、久しぶりの我孫子武丸だ。個人文庫(笑)の第1回配本ということでホラーの短編9作品が収められている。最初の7作品にはある隠されたモチーフがある。たぶん○○ファンならすぐに分かってしまうだろう。私も1本目を読んで、「あれ?○○の**みたいだな?」と思い2本目で「うわ、まんま××だ、これ。やっぱり○○だ」とピンと来た。もっとも3本目まではすぐに分かったがそれ以降はほとんど分からなくてちょっと悔しい。。でも後ろに付いている作者の種明かしを読むと、まあ分からなくて当然かな?(ここまで伏せ字ばかりで何がなんだか分かりませんね(^^;;) ごめんなさい。)
ホラーといっても怖いものからそうでないものまで、あとホラーって感じじゃないものもあるが、どれもユニークで楽しめる。8点。
 

星新一「気まぐれスターダスト」 2000年05月25日

 なんと星新一の新刊!!思い起こせば小学校を卒業して中学生になり、図書館でも子供向けのコーナーを離れて一般向けの書架を探すようになった頃に一番よく読んでいたのが星新一のショートショートだった。最初に読んだときには面白い話でもあまりにあっけなく終わってしまうのを不満に思ったことを覚えているが、反面気軽に読めることもあってだんだんと引き込まれてしまった。ショートショートという形式もSF寓話としての着想も斬新で彼は実に素晴らしい業績を残したと思う。

 本書は1001篇に漏れていた単行本未収録の作品20篇とジュブナイル6篇からなっている。正直に言えば全般にあまり出来は良くないのだが、1949年(星新一22歳、もちろん正式な作家デビュー前)の作品第1号も収録されていて星新一ファンにとって貴重な一冊であることは間違いない。巻末には全著作リストがあり、懐かしい題名が並んでいた。題名からしてユニークなためか、案外よく覚えているのだ。6.5点。
 

歌野晶午「安達ヶ原の鬼密室」 2000年05月20日

 全部で四つのストーリーがタマネギ構造になって一冊に収まっている。最初のストーリーは漫画っぽいイラストが大きく入っていて、しかもひらがなばかりの"小学生低学年向き"って感じの体裁になっている(電車の中で読んでいて隣の人の視線が気になってしまった(^^;;)。物語は尻切れトンボで終わり解決編は本書の一番最後までおあずけになる。次は外国を舞台にした話になり、ここまで読んできて全然本格っぽくない(カバーには"本格超巨編"と書いてあるのに!)。3番目でやっとそれっぽくなる(今度はガチガチの古典的本格物の雰囲気)のだが、どうも2番目の話のナオミや3番目の兵吾少年の行動が思慮に欠けていてイライラさせられたりするのである。しかし実はここからが本書の見せ所なのであった。4番目の話でおっ、と言わせてそのあと順に3番目、2番目そして最初の話の解決編となっていく。

 身も蓋もない言い方をすればつまり、ひとつのトリックで四つの話を作っちゃって一冊にまとめた本なんですね、これは(^_^;) けどしかし、構成はよく考えられており面白かった。本格テイストあり、ユーモアありで一粒で4度おいしい話になっているわけだ。7.5点。
 

森博嗣「そして二人だけになった」 2000年05月17日

 森さんの作品にしては"本筋と関係ない話が間にたくさんはさまっていて退屈する"ということがほとんど無くて楽しむことができた。"理科系文章"にますます磨きがかかった気がするが、まあこれはこの人の個性である。いつもは気になる嘘っぽいキャラクターや設定も今回はあまり気にならなかった。

 内容は題名が示すとおりで、閉鎖状況で連続殺人が起こる。古典的でオーソドックスなミステリのテーマであるだけに新しいものを描くのは非常に難しいはずだが本作はその点見事に新作を物している。メイントリックは決して新しいものではなく似たような作品はいくつもあるが、それをうまく"そして誰も"に応用してしまった。

 しかし結末はオーソドックスのままでは終わらず、真相は二転三転と宙返りを繰り返す。この宙返りはぱっと眺めるとなかなか見事なのだが、よくよく見るとやや着地に失敗気味であるのが残念だ。大がかりなトリックを仕掛けた動機についてうまく説明を付けられなかった森さんの苦肉の策だったかもしれない。しかしひっくり返される真相に完全な整合性が無く、すべてをうまく説明できる真相が何なのか結局よく分からなくなってしまった。7.5点。
 

清水義範・西原理恵子「どうころんでも社会科」「もっとどうころんでも社会科」 2000年05月14日

 先日読んだ理科編の続き? 今度は社会科なんである。あるテーマについて清水ハカセが思うことをあーだこーだ書いた章もあれば、旅行記に近い章もある。失礼ながら清水義範は文章がとくにうまい作家というわけでは無いと思う。その代わり着想・発想が非常にユニークな作家なのでツボにはまると非常に面白くなるのだ。そんなわけであーだこーだ書かれたものには少々退屈なところもあったが、とても興味深く読める章もあって全体としては面白かったと言って良いだろう。2冊の中で一番感心したのは文句無しで「幻の昆布ロード」だ。北の寒いところでしか取れなくてほとんどが北海道産の昆布。その消費量の第2位を誇るのが一番南の沖縄である(1位は富山)というミステリーを解き明かしてくれる。もともとは北大の先生が研究してまとめた話だそうだ。あと様々な食材の原産地はどこそこで昔からあるような気になっている食物が実は最近日本に入ってきたのだ、という話もよかった。7点。


(おまけ) このシリーズでクセになり、つい図書館にあったサイバラのマンガを借りてきてしまった。なんと彼女のマンガは小説に混じり一般書架に並んでいる。今回読んだのは「鳥頭紀行ぜんぶ」「できるかな」(「鳥頭紀行ジャングル編」は理科編を読んだあとにやはり借りて読んだ)。感想は、、読まなきゃ分からないので未読の人は読んでみよう!いやしかし、あまり無責任にお薦めできる種類のマンガじゃないかな(^^;;) これから初めて読むという人は覚悟して(何に?)読むように。
 

若竹七海「遺品」 2000年05月14日

 亡霊が現れて怪奇現象が起こり、人にも危害を加える。うん、まさに正統派のホラーですね、この話。一方で謎が少しずつ明らかになっていき、最後にはどんでん返し的真相が明らかになるという構成で、推理小説としても良くできている。というわけで、ラストだけはもっと普通にまとめても良かったんじゃないかと思うけど、全体としては面白かった。

 ところで若竹七海の小説ってたいていイヤーな奴が出てきて、それが本当に腹が立つイヤーな奴なんだよね。ここが悪いと簡単に説明できる、いかにもといった悪者ではなくて、周りからは嫌われてるのに本人が全く自覚していないようなパターン。現実の世界にもちょくちょくお目にかかるこのタイプの"やな奴"を描かせると若竹七海は日本でも5本の指に入ると思うのだがどうだろうか。7.5点。
 

姉小路祐「緊急発砲」 2000年05月10日

 ナイフを構えた男に警官が緊急発砲して殺してしまった。しかしこの緊急発砲は仕組まれたものだった?

 姉小路氏得意の着実なストーリー展開で公安警察による陰謀を暴いていく様が描かれる。難しい法律の話や複雑な社会背景を分かりやすくかつさりげなく説明しながら小説にしてしまうのは姉小路祐のお手のものだが、最近ますます磨きがかかってきた気がする。7.5点。
 

マイクル・クライトン「スフィア-球体-」 2000年05月08日

 「ジュラシックパーク」の作者のSFサスペンス小説である。舞台は深海の閉ざされた居住区。限られた人数で訪れた危機に立ち向かうのだが、ひとり減りふたり減りしていく。(映画の「エイリアン」みたいな展開だと思えばよい) 次から次にやってくるピンチに、文庫で上下巻に分かれた分量も読んでいて飽きないし、少しずつ明らかになる謎や、後半の幾たびかのどんでん返しもなかなかうまい。

 翻訳物は基本的に好きではなかったのだが最近の作品は昔と比べるととてもこなれた翻訳になって来ていると思う。これからはもう少し海外小説にも手を出してみようかな。8点
 

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