読書日記

INDEXページへ

西澤保彦「腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿」 2007年03月07日

腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿

著:西澤 保彦
実業之日本社 単行本
2005/07/16

 ステレオタイプな事務職員然とした外見で、両腕に腕貫をはめ、仏頂面で愛想がない男が、市内各所に神出鬼没で忽然と現れて開く「市民サービス課臨時出張所」。「個人的な悩みもどうぞ」という貼り紙がしてあり、雰囲気からして不思議というより不審極まりないのだが、何となく流れと勢いで相談を持ちかけた市民の相談に、見事、謎の真相を看破する、安楽椅子探偵ものの連作短編集である。
 
「腕貫探偵登場」遠いバス停で発見され、いつの間にか自宅マンションの部屋に移動した死体の謎。7点。
「恋よりほかに死するものなし」再婚を目前に幸せ一杯のはずが突然ふさぎ込み体調を崩した母親の謎。7.5点。
「化かしあい、愛し合い」浮気がもとで一度ふられた女性とよりを戻せそうと浮かれる男に対して腕貫男が伝えた裏。7点。
「喪失の扉」勤めていた大学の古い学生証が押入から大量に出てきた男性。男に覚えがなかったが…。6.5点。
「すべてひとりで死ぬ女」売れっ子シナリオライターが自著のハードカバーで撲殺された事件の真相とは。6点。
「スクランブル・カンパニィ」ストーリーはともかく(?)登場する女性ふたりのキャラが魅力的で印象に残った。7点。
「明日を覗く窓」第一話の主人公と第二話の主人公が再び登場。消えた、じゃなかった、消えなかった絵画の謎。6.5点。
 

五十嵐貴久「パパとムスメの7日間」 2007年03月01日

パパとムスメの7日間

著:五十嵐 貴久
朝日新聞社 単行本
2006/10

 娘はイマドキの高校生。今どきの家庭でよく聞くように、「うざいし不潔」だから父親とはほとんど会話もしない。父親の方は娘とコミュニケーションを取りたくてたまらないのだが、若者の感覚からはズレまくっているためますます鬱陶しがられてしまい、娘が幼少時の仲がよかった頃を思い出しては懐かしんでいる。
 
 そんな父親と娘が、事故に遭ったはずみで、体と心が入れ替わってしまう。突拍子もない設定だが、小説やマンガの世界ではすでにありふれた設定でもある。ということで、ストーリーはけっこうお約束的であまり目新しいところはない。女子高校生と中年サラリーマンが入れ替わったことによるドタバタと、それが逆によい結果をもたらしたりするという展開である。まあ新鮮さはないが、楽しめるエンターテインメント作品だ。ただ、終盤の、それこそ突拍子もない「事件」は意外な展開で話を盛り上げるためとはいえ何かちょっと据わりが悪い感じがした。ラストはやはりお約束で、一週間お互いの立場を経験した親娘は、ちょっぴり互いのことを理解できるようになって爽やかに幕を閉じる。7点。
 

大沢在昌「狼花 新宿鮫IX」 2007年02月22日

狼花 新宿鮫IX (新宿鮫 (9))

著:大沢 在昌
光文社 単行本
2006/09/21

 2006年の「このミステリーがすごい!」で第4位「文春ミステリーベスト10」では第2位新宿鮫シリーズもとうとう9作目である。
 
 鮫島と同期のキャリアでエリート警官・香田が個人的経緯から公安畑を離れた。目的は東京から外国人犯罪を絶やすこと。その目的のために警察組織としては決して表沙汰には出来ない画策を巡らす。一方、鮫島は法の秩序を重んじる立場から、香田の毒をもって毒を制す方式の非合法なやり方と対立する。ここに外国人犯罪者を組織して盗品マーケットの確立を目指す国際犯罪者・仙田、マーケットを狙う巨大な広域暴力団が絡んだアクションサスペンスが展開される。
 
 現実問題として社会にはびこる犯罪にどうやって対処すべきかというのは非常に難しい問題である。快刀乱麻を断つ明解な対応法などはそもそもありえないのかもしれない。…という背景があるためか、本書も鮫島と香田それぞれの犯罪観・警察観の衝突を軸にした葛藤が、かなり理屈っぽく繰り返し書かれていた。作者は言うまでもなく手練れのエンタメ職人であり、読ませる文章とストーリーの完成度は十分ではあった。しかしそもそもフィクションなのだから、もう少しスッキリとまとめても良かったように感じる。ここで描かれてる犯罪状況は、一見、現代社会の問題をそのまま反映しているようにも見えるが、治安悪化や外国人犯罪の増加などはかなり誇張や単純化が入っており、現実とは異なるフィクションととらえる方が正しい。ならばあまり深入りすることに意味はなかろう。もっとフィクションらしいストーリー展開に集中した方がさらに面白くなったのではないだろうか。7点。
 

東川篤哉「交換殺人には向かない夜」 2007年02月16日

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

著:東川 篤哉
光文社 新書
2005/09/26

 烏賊川市シリーズの4作目。これまでも十分に面白かったシリーズだが、その中でもこの作品はシリーズ最高傑作との呼び声が高い作品だ。
 
 このシリーズを分類すれば、ユーモアミステリというジャンルになるわけだが、本作品は純粋に本格ミステリとしての完成度も高い。お馴染み鵜飼探偵と大家の朱美さん、探偵の弟子・戸村流平となぜか(?)彼を慕うお嬢様さくらさん、そしてお馴染み砂川警部と志木刑事に今回突然登場した和泉刑事。別行動を取る彼らのそれぞれに発生した殺人事件を3箇所の視点で交替で描き、最後にそれぞれの事件が見事にそして鮮やかに組み合わさる。題名が示すとおり交換殺人がテーマなのだが、テーマに沿った巧みなプロットに加えて叙述トリックにも驚かされた
 
 ユーモアあふれる筆致も冴えていた。シリーズ初期の頃に見られた若干の不自然さも無くなり、ごく自然な感じでストーリーにギャグがとけ込んでいる。大昔に読んだユーモアミステリの傑作、我孫子武丸の「0の殺人」を彷彿とさせる。絶妙の味わいがあってとにかく楽しい小説なのだ。本作は2005年の本格ミステリ・ベスト10では第7位にランクインしていた(しかも次点に「館島」(未読)も入っている)。面白くて秀逸な推理小説を読みたい人には是非お薦め。8点。
 

吉田雄亮「夜叉裁き - 裏火盗罪科帖(2)」 2007年02月12日

夜叉裁き (光文社文庫)

著:吉田 雄亮
光文社 文庫
2003/05/13

 読点が多すぎるだとか、しばしば出てくる仰々しい表現が浮いているとか、やはり不満は多々あるが、前作に比べると文章には進歩の跡が見られる。ストーリー運びも多少は良くなっている。ただ、よくできた小説を、メインストーリーとなる太い幹があってそこから枝が次々と張りだし、青々と葉を茂らせている大樹に喩えるとすると、この作品は幹が細く、枝は多いが葉が寂しいという感じを受ける。舞台装置も道具立てもそろっているのだが、使いこなせていないというか、ひとつひとつのエピソードがふくらまないまま終わって次に進んでしまうのだ。
 
 身分の高い大名が黒幕で、血も涙もない残忍な盗賊や主人公を追い込む剣豪などが出てきて、とお約束的な設定は盛りだくさんなので時代劇好きならそれなりに楽しめるだろう。6.5点。
 

吉田雄亮「修羅裁き - 裏火盗罪科帖」 2007年02月08日

修羅裁き―裏火盗罪科帖 (光文社時代小説文庫)

著:吉田 雄亮
光文社 文庫
2002/10

 バリバリの時代劇である。普段は読むことのないジャンルなのだが、たまたま手元にやって来たので読んでみた。
 
 火付盗賊改方の長谷川平蔵によって、訳あって切腹のところを助けられ、平蔵の手が届かない悪を取り締まる「裏火盗」の長を命じられた剣の達人・結城蔵人。鬼の平蔵だの火盗改メだの、秘密裏に組織された「裏火盗」だのが出てきた時点で、時代劇ファンにはたまらない設定だろう。作者も池波正太郎フリークを名乗るくらいで、時代劇ファンによる時代劇ファンのための大活劇というところである。本書は作者のデビュー作だ。
 
 言葉の選び方や使い方などの文章全般、あるいはキャラの動かし方やストーリーの組み立て、今ひとつかふたつくらい不満が残る。デビュー作ということを考えれば仕方がないところか。ただ、ここぞという見せ場はもう少し頑張ってもらいたかった。終盤に入って悪との全面対決にいたるクライマックスにかけては、絶体絶命のピンチや仕掛けられた罠や剣豪との命をかけた勝負など、盛り上がる要素はたくさんあるのだが、それぞれ踏み込み方が浅くて盛り上がりきれず、結局そのまま終わってしまった。
 
 まあ面白くなる要素は揃っている。すでにシリーズで6冊目あたりまで出ているようだし、実は3冊目まで手元にあるので少しずつ読んでみよう。6.5点。
 

石持浅海「顔のない敵」 2007年02月01日

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

著:石持 浅海
光文社 新書
2006/08/22

 「対人地雷」を共通テーマにして社会性を持ちながら、同時にミステリ度も高い6編と、作者の初めて活字になった作品という処女作短編が収録されている。
 
「地雷原突破」市民が見守るイベントの最中なぜ地雷が爆発したか?うーん、真相の"踏ませない仕掛け"は被害者本人が納得しない気がするが。。7点。
「利口な地雷」地雷の製造会社で起こった「罠」を使った殺人事件の謎。7点。
「顔のない敵」民衆が地雷に苦しむカンボジアで、復興に情熱を傾ける青年が爆死する。厳しい現実が招いた哀しい真相。7.5点。
「トラバサミ」一応筋は通っているが、ここまで鮮やかに解決できるほど蓋然性は高くないだろう。6.5点。
「銃声でなく、音楽を」推理を巡らすのは最初の「地雷原突破」の被害者サイモン。どうでも良いことだが、ノートPCをプロジェクタにつないでプレゼンテーションって1991年には無かったと思う。6.5点。
「未来へ踏み出す足」最新技術をつかった地雷除去ロボットを開発した三人のうち一人が遺体で見つかる。7点。
「暗い箱の中で」作者の実質デビュー作。現実性という点では無茶だが、小説的面白度は高い。あとがきで作者自身が言うように、まさに作者の原点と言える要素を含んだ作品だ。7.5点。
 

西澤保彦「ソフトタッチ・オペレーション」 2007年01月26日

ソフトタッチ・オペレーション (講談社ノベルス)

著:西澤 保彦
講談社 新書
2006/11/08

 <チョーモンイン>神麻嗣子シリーズ第8弾の短編集。
 
「無為侵入」念動力を使った住居連続侵入事件をめぐるミッシングリンクもの。むしろ本筋と関係ない部分で盛り上がっている。6.5点。
「闇からの声」ラストには意表を付かれたが、それだと辻褄が合わないというか不自然な気がするのだが…。6.5点。
「捕食」保科が若かりし頃の話。連続怪死を招く手料理という謎はインパクトがあるが、真相はまあそんなものかという感じ。6.5点。
「変奏曲“白い密室”」意外な犯人というところは良いのだが、謎解きの面白みはあまり感じられなかった。6点。
「ソフトタッチ・オペレーション」本書の半分近くを占める書き下ろし中編。動機の点が弱いと思うが、提示された状況と展開は面白かった。7点。
 
 最近の<チョーモンイン>シリーズ、あるいは西澤保彦作品全般は、どうも低空飛行気味である。論理への拘泥が先立ち、一番肝心の小説としての愉しみが少なくなっている気がする。もっとも、癒し系(?)のキャラたちのおかげか、それとも独特の世界が肩が凝らずに読めるからか、つい読んでしまう。下手な作品というのは読後に本を壁に叩きつけたくなるような不愉快さが残ったりするものだが、西澤作品の場合、読み終えて不満は多くても不快にはならないのだ、なぜだか
 

三浦明博「罠釣師(トラッパーズ)」 2007年01月21日

罠釣師(トラッパーズ)

著:三浦 明博
文藝春秋 単行本
2006/06

 今回も、自身がフライフィッシャーである作者によって、得意の釣りを背景に据えて描かれるミステリだ。常に飄々として人を食ったような性格の老人と、美少女で大人びているが気が強くて変わり者の孫娘。このふたりと、釣りに出かけた山奥で出会い、行き掛かり上「人助け」に巻き込まれる料理人の木之下が主人公。この風変わりな三人組みが、ニセの餌である毛鉤で魚を釣り上げるようにして、悪者を懲らしめるためのコン・ゲームを仕掛ける。
 
 物語の展開には強引なところもあり、キャラクター造形にもところどころ違和感があったりするのだが、全体的に勢いがあり、読んでいるうちに多少のことは気にならなくなって結果的にはとても楽しめた。魚を偽餌で騙すフライフィッシングと人を騙す詐欺の共通性というところをうまく作品に取り込んでおり、これまでの作者の作品の中でもっとも釣りとミステリが自然に融合した作品になっていた。7.5点。
 

三崎亜記「バスジャック」 2007年01月15日

バスジャック

著:三崎 亜記
集英社 単行本
2005/11/26

 話題作となった「となり町戦争」(未読)でデビューした作者の第2作である短編集。未読ではあるが話に聞く第一作と同様、ほとんどの話では非日常で非現実的な設定がなされている。
 
「二階扉をつけてください」不条理?それともファンタジー?いやこのラストはホラーか。7点。
「しあわせな光」現代のおとぎ話的な、心温まる3ページのショートショート。6.5点。
「二人の記憶」何かをデフォルメして表現しているのだろうか?話としてはまとまっているが、言わんとしていることよく分からなかった。6点。
「バスジャック」体系化し形式化している、社会にありふれた存在となったバスジャックに遭遇した乗客によるどんでん返し。7.5点。
「雨降る夜に」4ページちょっとのショートショート。とくにオチはなかった。6点。
「動物園」SFとしては弱いのだが、本書の中でもっともSFっぽい設定。うまく設定を練り上げればシリーズ化も出来そう。7.5点。
「送りの夏」最初これも非日常設定かと思ったら違った。しかしそれでも若干の非現実的感覚を伴うあるひと夏の物語。7.5点。
 

INDEX