- 池井戸潤「不祥事」 2007年08月04日
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不祥事
著:池井戸 潤
実業之日本社 単行本
2004/08
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著者は「果つる底なき」で第44回(1998年)江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。ちなみに同じ回には福井晴敏が「Twelve Y.O.」で受賞している。著者は大学卒業後、三菱銀行で働いたりしてきた経験を生かして、銀行・金融関係のミステリを得意とするらしい。これまで読んだことはなかったが、最近では各所で名前を見かけることも多い。 トラブルを抱えている支店の問題解決のため、あるいは技術向上のための指導に、本部から支店に派遣される臨店指導員として花咲舞が訪れた支店の先々で起こる出来事・事件を描いた連作短編集だ。銀行内幕もののミステリということで、やはり内幕ものを得意とする、横山秀夫っぽい部分もある(あちらは警察や新聞社だけど)。ただ、比べると、横山秀夫作品のような重みとリアリティは良くも悪くもあまり無い。 多くの話は権謀術数が渦巻く銀行という舞台で、顧客のことより出世や自己保身を優先させる銀行員や、他人を蹴落とす策略をめぐらす権力者に、向こう見ずなところもあるが正義感が強い女子行員・花咲舞が立ち向かい、バッサリとやっつけるという展開だ。何というか、水戸黄門とか遠山の金さんのような時代劇を連想させる展開だ。そう思って読むと、悪役のセリフが「ちょこざいな」「いまに、痛い目に遭わせてやるわ」「いいだろう、奴にいっておけ。かわいがってやれとな」など、いかにもという感じなのだ。その分リアリティは失われるのだが、水戸黄門的な勧善懲悪パターンは素直に面白い。ただ、必ずしもすべての話で分かりやすい勧善懲悪に徹していないのが難点だ。悪役も悪役に徹していない。もっと割り切ってパターン化したほうがスッキリとして、そうなればそのままシリーズ化しても面白いと思う。7点。
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