- 大沢在昌「新宿鮫 風化水脈」 2001年08月10日
- 鮫島は自動車窃盗グループを追う過程で偶然古井戸の中に浮かぶ死体を発見する。最初、それは新しい死体かと思われたが実は屍蝋化した40年も前の死体であった。屍蝋は死体が水中や水分の多い土中で空気との接触を断たれて脂肪酸ができて、これがカルシウムやマグネシウムと結合して水にとけない石鹸様(せっけんよう)になったもので、ミイラとともに長くその原形を保つことが出来るため"永久死体"と呼ばれるらしい。本作はこの自動車窃盗と発見された死体を軸に展開される。
いつもの新宿鮫シリーズ同様、本書のテーマとして鮫島の警察官としての生き様や警察組織の抱える問題点が詳しく書き込まれている。さらに今回はそれらとともに新宿の歴史が大きなテーマになっていた。事件そのものとは関係はないのだが、数十年前の新宿の町の様子などが繰り返し、詳しく描かれている。40年前の死体の登場にあわせて挿入されたと言うよりは、おそらくこれが書きたくて古い死体を出してきたのではないだろうか。けっこう説明調だし新宿という町の様子をあまり知らないと面白くないかもしれない。でも、なるほどあそこは昔はああだったのか、なんて現在の新宿を具体的に頭に思い浮かべられる人ならわりと楽しめるだろう。 ふたつの事件が絡み合いながら物語はクライマックスを迎える。ふたつの事件はもともとまったく関係がない事件なので現在でそれらが絡み合うのは完全な偶然なのだが、最後にひとつの輪が閉じるようにして物語は静かに終わる。7.5点。
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