読書日記

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西澤保彦「なつこ、孤島に囚われ。」 2002年05月03日

 うわわ。とうとうこう来たか、西澤保彦。
 
 まず登場人物が尋常の小説ではない。もちろんお話はフィクションなのだが、登場人物には作家さん仲間が実名のまま登場する(西澤本人は出ない)。主人公さえもが実在の作家だったりする。うわあ、いいのかこれ(もちろん許可は取ってあるのだろうけど)。あいにく私は登場する方たちにあまり馴染みがないので、その人柄や作風が忠実に再現してあるのか不明だが、とりあえず森奈津子は読んでみようかしらん(^o^)
 
 内容もなかなか・・、森奈津子氏の作風が反映されているのか分からないが、けっこう際どい。世の中じゃこういう世界は割と流行りなんだろうか。また森氏の作風はともかく、実はこれまでの西澤保彦本人の作風にもこんな感じは確かに入っていた。今まではチラリチラリと覗いていた程度だったのがここに来て爆裂したというふうに感じる。殺人事件が起こっていた気がするけど、なんかもう殺人事件なんかどうでもいいや(^^;;) なんとこれはシリーズになるのだそうである。6.5点。
 

殊能将之「鏡の中は日曜日」 2002年05月02日

 名探偵・石動戯作シリーズ第三弾である。第二弾の「黒い仏」はシリーズものとしてはトンでもない終わり方をしたのであるが、前作の世界はどう引き継がれるのか。
 
 第一章はどうやらかつての事件の関係者で、知力を失い子供にかえってしまった男の目線から描かれる。断片的に挿入される短い場面(次章の一部分)は予告編的な効果を狙っているのかもしれないが、そうだとするとただわけが分からず退屈だ。ここはもっと短くまとめた方が良いと思う。ただし最後まで読んでからもう一度見直すと腑に落ちる部分もあって、そちらの企みは成功している。またこの一章の最後には、これまでこのシリーズを読んできた人にはちょっとショックな事件が待っている。
 
 第二章ではもともとの事件が起こった14年前と、それを調べる石動戯作が交互に描かれる。正直なところここまではさしたる印象もなく凡庸な出来である。しかし、頁も残り少なくなる第三章で大転回がある。前作でもラストの展開の仕方には驚いたが、この作品も相当なものだ。とにかく読んでみるべし。
 
 そう言えば結局、前作の世界とはまるで関係がない話になっていた。助手のアントニオなんかまるで活躍の場がない。作者はこのシリーズをどのように続けるつもりなのであろうか。ふつうに言うシリーズものというよりは、一作ごとに趣をがらりと変えた実験作シリーズという感じがする。予測が付かない次回作にまた期待。7点。
 

有栖川有栖「暗い宿」 2002年04月27日

 作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生のシリーズの作品集。今回すべて舞台はホテルや旅館である。多分そうだろうなと思って読み始めたが、どの作品にもこの作者らしいセンチメンタルな味わいが感じられた。
 
「暗い宿」体調を崩したアリスは、もう営業していない辺鄙な場所の旅館に無理に泊めてもらう。帰宅後、その旅館の床下から人骨が発見されたことを知る。最後の客として事情を聞かれたアリスは火村とともに再び現場へ出向いて謎を解く。6.5点。
「ホテル・ラフレシア」世界一大きな花から名前を取った石垣島の優美なホテル、ラフレシアに泊まったアリス一行。メインイベントはホテルで開催された犯人当てゲームだったが、もうひとつの事件が起こる。ハッピーエンドになるかと思いきや悲しい結末。7点。
「異形の客」顔を包帯で隠す透明人間のような格好をした怪しい客の部屋で死体が発見される。意外な犯人ではあるが、単に意外であるだけで、膝を打って感心するという感じではなかった。7点。
「201号室の災厄」火村のアクションシーンが読める貴重な作品である。滞在した東京の高級ホテルで偶然行き会った来日中のロックスターに監禁されてしまう火村助教授。ロックスターの部屋には死体が転がっていた。無実を主張するロックスター。密室を構成するホテルの一室の死体は如何にして現れたのか、火村の推理は?そしてどんでん返し。7.5点。
 

我孫子武丸「屍蝋の街」 2002年04月23日

 「腐蝕の街」の続編。サスペンスフルな近未来SFである。ちなみに本当は"蝋"の字は旧字体(?)で書かれている(一作目の"蝕"も)。常のこととて「腐蝕の街」の記憶はわずかだけ。でも筋の細かいところはダメだが、基本設定は何とか覚えていた。覚えていなくても楽しめると思うが、どうせ読むなら一作目から順に読んだ方がよい(と作者のあとがきにも書いてある)。
 
 一作目のおぼろげな記憶では、設定は良いし我孫子武丸としては異色作で(もっとも作風が広い作者ではあるが)、印象は強かったのだが、何か(何かが何だったかはよく覚えていない)が邪魔していまひとつ引き込まれなかったように思う。しかし本作品では途中で飽きが来たり読むのが苦痛になる様なことはいっさい無かった。
 
 溝口とシンバはネット上に存在するバーチャル世界の中で賞金を掛けられ、現実の世界でも無法な若者たちに次々と命を狙われる。仕掛けたのは出所したばかりの赤坂? その赤坂に前作で背負わされた殺人鬼「ドク」の人格がときどき溝口の精神を乗っ取ってしまい危機をいっそう盛り立てる。対抗するために名うてのハッカーを利用しようとするのだが−。
 
 この手の知識に強い作者が描く近未来世界でのコンピュータを使った攻防はそれなりにリアリティもあり、読んでいて楽しい(物語はシリアスなんだけど)。なんとなく映像が目に浮かんできて、実際、映像作品にすると面白そうだ。ハリウッドあたりで実現しないものか。7.5点。
 

加納朋子「いちばん初めにあった海」 2002年04月20日

 中編の二本立て作品集。以下それぞれに感想を。
 
「いちばん初めにあった海」
 堀井千波が引っ越し準備の最中に見つけた本と中に挟んであった未開封の手紙。千波はどちらにも覚えはない。差出人のYUKIとは誰なのか。なぜこんな手紙があるのか。
 
 どんな事情があったのかは最後まで読まないと分からないが、YUKIが誰なのかは読者にはすぐに分かる。しかしどうやら千波は精神が不安定で、過去の記憶も定かではないのがもどかしい。またそんなわけで、千波を通して描かれる世界は茫洋としていて掴み所に困る。好き嫌いが別れそうだが、どうもこの種の文章は苦手である。
 
 最後までに謎はすべて解かれ、事情が明らかになる、、のだが、どうもあまり納得いかない。合わないピースを無理矢理押し込んだパズルみたいで、なるほどそうか、という感覚は得られなかった。6点。
 
「化石の樹」
 あまり他の人が気にとめない地味な木の化石に強く心惹かれる少年時代を過ごした「ぼく」。大人になった「ぼく」はなぜかアルバイト先のサカタさんに気に入られ一冊のノートを託された。ノートに書かれていたのはある古い事件の話だった。
 
 どんな事件があったのか、そしてその事件の真相は、ということに興味を引きながら「ぼく」がある人物に語りかける調子で描かれている。ある人物というのが実は重要なのだが、むむ、最初の方で語りかけていた人物が最後に明かされるその人物だとすると不自然な気がする。事件がけっこう深刻っぽく始まるわりに話はほのぼのした感じで終わるのだが、辻褄が合わない部分があるのが残念。6.5点。
 

倉知淳「壺中の天国」 2002年04月18日

 電波に操られたとか主張する人たちのことを電波系などと言ったりするようだが、こういう言葉が出てきたのはいつ頃からだっただろう。本書は宇宙の大いなる存在である天然の叡智とかナンとかから電波で指令を受けて、地球を救う使命を持つと思い込んだ人物による連続殺人事件が軸となって進む。
 
 "普通の"人から見ていわゆる"電波な"人というのは明らかにおかしいわけだが、そこまで突飛でなければ、根拠は無いのに多くの"普通の"人が信じている話というのは案外多かったりする。本作品にはそういう怪しげなものをいろいろと登場させている。最初の被害者も占いの信奉者で幸運を呼ぶ神秘グッズを身に付けている。電磁波公害なんて話も出てくるが、実際に電磁波の害は否定できない反面、まったくのデマや、効果がありそうもない電磁波防護グッズなどが世の中に氾濫している現状は困ったものだ。
 
 本書の半ばで血液型による性格分析を例に取り、正常と妄想の境界線という議論がされているのは本作品の隠れた白眉である。実際に血液型占いを信じている人がいかに多いことか! 朝のテレビ番組で必ず星占いがあるのはナゼなんだろう? また趣味ということも取り上げられている。電波な妄想はとうぜん周囲から理解されないが、個人の趣味というのもしばしば理解されない。結局思いこみの強さの問題であったりして、ここでもはっきりとした境界線は無いのである。
 
 最近、理科教育が軽視されて学力低下を招いているなどという話も聞かれる。本作品はミステリとしても面白かったが(被害者が選ばれた理由には少し無理があるけど)、ちゃんと物事を理解して論理的に考えることが大事である、ということも考えさせてくれた。7.5点。
 

西澤保彦「黄金色の祈り」 2002年04月11日

 なんか最近、西澤保彦付いている。しかもまだ読んでいない本も2冊キープしてあったりする。
 
 本書は西澤保彦らしいと言えばらしく、らしくないと言えばらしくない作品だ。らしいのは人間性や人間関係に対する考察や分析。大抵そこには少し影がある辺りも彼らしい。一方いつもの西澤作品と違うのは、ミステリ的謎解きの要素があまり前面に出ていないことである。いや、もちろん冒頭に書かれている事件、それが他殺なのか自殺なのかそれとも事故なのかという謎があるのだが、本書の主題となるのはその部分の謎解きではないだろう。少なくとも私はそういう印象を受けた。メインは中学時代から始まり40歳頃を迎えるまでの主人公の人間的成長の物語なのである。
 
 成長物語と言ってもまたこれが必ずしも前向きなものばかりではない。むしろほとんどが主人公の自分本位で未熟な振る舞いを描くのに費やされている。ただ、未熟ではあるが多かれ少なかれこういう部分を持っている人は多いと思う。いや自分はこんな人間ではないと断言する人がいたら、むしろそんな人こそがこの主人公のような人間かもしれない。共感までは出来なくても、ああこういうことってあるかもなあ、と考えさせられる。7点。
 

西澤保彦「死者は黄泉が得る」 2002年04月09日

 人が訪れることもまれな館に住むのは甦った死人たち。館には死人を甦らせる装置があった。さらに新たな死人を甦らせるその度に、館の住人の記憶はリセットされるのだった。
 
 館の中の死人たちの様子と、それより以前、近くの町で起こった連続殺人事件が交互に描かれる。それらをつなぐ人物は最初に分かるが、いったいどのようにつながるのか。また、館の住人は記憶をリセットされるのだが、もちろん読者はリセットされる以前の出来事を覚えているから時間通りには描けない。そのため館の中は時間を遡るようにして描かれているのだが・・。それがまさかこうなっていたとは!!アクロバティックな記述にものの見事に騙された
 
 これだけのプロットをよく思いつくものだと感心してしまう。複雑であるが、といっても分かりにくいわけではなく、大変面白く読めてしまう。いったいどうなっているのか、この先どうなるのかとページを繰る手を止められなくなる。本作品は西澤保彦の本領が存分に発揮された彼の代表作のひとつと言ってよいと思う。7.5点。
 

今邑彩「ブラディー・ローズ」 2002年04月08日

 作者の第二長編。薔薇が咲き乱れる邸に三番目の妻として迎えられた花梨。しかし邸には最初の妻だったという雪子の影が色濃く残っていた。また二番目の妻良江も雪子と同じく墜落死を遂げている。その良江は脅迫を受けていたらしい。そしてとうとう花梨のもとにも脅迫状が・・・
 
 脅迫状を送りつけているのは誰なのか。日記を遺していった良江の死の真相は? 雪子はどんな人物だったのか。さまざまな謎が交錯しながらミステリアスな雰囲気を盛り上げている。登場人物は少なく、誰もが怪しく見える。そして明らかになるのは意外な真相だ。意外な真相は本格ミステリのお約束であり要であるが、それが見事に決まっている。しかも、さらにエピローグでのさらなる真相!今邑彩って地味な印象なのだが、実はけっこう侮れない傑作を書いている。お薦め。7.5点。
 

日本推理作家協会編「名探偵で行こう」 2002年04月05日

 いろいろな作者の作品からシリーズ探偵ものを一作ずつ集めた短編集。といっても探偵ものという範疇に入らないものも多い。そもそも謎解きミステリとは言い難い作品も多し。
 
赤川次郎「三毛猫ホームズと永遠の恋人」三毛猫ホームズを読むのは、いや赤川次郎を読むのは何年ぶりだろう。本作品はあまり出来が良くない方だと思う。6点。
我孫子武丸「ママは空に消える」人形探偵シリーズからの作品(「人形はライブハウスで推理する」所収)。既読のはず、、でも例によってちゃんと覚えていなかった。幸いである。7点。
泡坂妻夫「金魚狂言」八丁堀同心・夢裡庵先生の捕物帖シリーズ。しかし私はこのシリーズ初読である。本作の評価は今ひとつだが、ほかの作品も読んでみたい。6.5点。
石田衣良「エキサイタブルボーイ」この作者は全くの初読。本作品は「池袋ウエストゲートパーク」所収。面白くなりそうな要素はたくさんあるのだけど、処理があまり上手くない。頻繁な場面転換と体言止めの多い文体も読みにくい。6.5点。
大沢在昌「あちらこちら」はちゃめちゃ刑事ふたり組の「らんぼう」からの一編。7点。
香納諒一「花を見る日」香納諒一って確か以前に読みかけて挫折した本があったような。。(どの作品かよく覚えていない) でも雑誌のライター・編集者を描いた本作品はわりと良かった。7点。
鯨銃一郎「「神田川」見立て殺人」マグレ(間暮)警部シリーズ。って読んだことないぞ。新しいシリーズかな? 一見無茶苦茶なマグレ警部の推理だが、実はズバリ真相を当てていた、、のかなあ?7点。
近藤史恵「ダイエット狂想曲」この作者も初読。日常の中の事件が短い中にうまくまとまっていて私的には本書のベスト。7.5点。
今野敏「最前線」結構ベテラン作家だが私は初読。地味と言えば地味だが、地に足のついたしっかりとした警察小説。人間描写もよい。7点。
柴田よしき「2031探偵物語 秘密」初めて読む作家。本作は2031年を舞台にした近未来小説。ただし未来社会の描写はたくさん出てくるが物語自身はとくに未来である必要はない。6.5点。
西澤保彦「招かれざる死者」タックのシリーズ。キャラに馴染みがあるので読みやすかったが、その犯罪計画にはやはり無理があるだろう。6.5点。
野沢尚「シュート・ミー」赤外線は目に見えないぞ。と、それはともかく殺し屋としてはさすがに感傷的に過ぎるのではなかろうか。6.5点。
横山秀夫「魔女狩り」この作家も初めて読んだ。警察組織内部から特定の新聞記者に捜査情報を流しているのは誰なのか。優れたプロットで短さを感じさせない出来。7.5点。
 

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