- 泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」 2001年11月16日
- 颯爽とした見かけと裏腹なカメラマン亜愛一郎シリーズの短編集。普段は頼りない亜愛一郎だが、ひとたび事件が起こるとその名探偵ぶりは他の追随を許さない。
「DL2号機事件」泡坂妻夫氏のデビュー作(幻影城新人賞佳作1976年)。推理の鍵となる犯人の心理についての感想は、半分は納得、もう半分は、いくらなんでもそこまでは。。 「右腕山上空」飛行中の熱気球ゴンドラ内で起こった殺人事件。一種の密室殺人である。解決は力業だが伏線がうまく生きている。 「曲がった部屋」お化け団地の異名をとる美空が丘新団地は欠陥だらけ。欠陥の最たるは建物が曲がっている(傾いている)ことだ。これをヒントに団地で起きた殺人事件の謎を解く。解決は単純ではあるが、諸々がきちんと符合するのが気持ちよい。 「掌上の黄金仮面」辺鄙な町の巨大な弥勒像の手のひらの上で宣伝ビラを撒いていた奇妙な格好の男が撃たれて殺される。なぜ、そしてどうやって殺されたのか。 「G線上の鼬」イタチって読めなかった。。タクシー強盗に襲われた上に、その強盗を殺した罪を着せられそうになった運転手。仲間のタクシーの客として偶然現場に居合わせた亜が謎を解く。奇術に通じる心理がポイント。 「掘り出された童話」冒頭に読みにくい童話(もどき)が示される。暗号くさいなと思っていたら案の定、暗号だった。結末が、らしからぬ曖昧さを残している。 「ホロボの神」戦時中の南海の孤島で起きた原住民の酋長の死の真相は?酋長という言葉からして現代では問題になるかもしれないな。そんなステレオタイプの描写(もちろん悪意はない)はともかく、一を聞いて十を知る(というか十まで作ってしまう)亜の安楽椅子探偵ぶりが見物。 「黒い霧」ドタバタ喜劇のような展開で起こる事件の裏に隠された意図を、例によって亜が見抜く。この推理も必然性こそ無いが(十まででっち上げられている)、破綻はなく綺麗にまとまっている。 どれも、とくに現代小説に慣れた目で見ると古くささを感じるとともに、現実感は希薄でいかにも作り物のお話っぽい。しかしどれもふんだんに伏線が張り巡らされていて、推理小説の醍醐味が凝縮されたような作品ばかりである。レトロな部分を楽しみつつ推理の妙を味わえる一冊だ。7点。
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