読書日記

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黒川博行「キャッツアイころがった」 2000年05月02日

 第4回サントリーミステリー大賞受賞作。被害者がみんな高価なキャッツアイを口に含んでるという奇妙な連続殺人の真相は?

 警察と、なぜか最初の被害者の友人(?)がそれぞれ独自に真相を追求する形で物語は進む。素人が必然性も無いのに軽々しく殺人事件の解明に首を突っ込んでしまうあたりのリアリティーの無さがやや物語を絵空事にしてしまっている気がするが、そこに目をつむれば楽しめる話である。大盛り上がりこそ無いが展開は早くて飽きさせないし、インドまで行って歩き回ったりするのでTVドラマに向いているかもしれない。

 黒川博行はもとは高校の美術教師をしていたそうだ。最近作で直木賞候補になった「文福茶釜」(未読)にも美術関連の興味深い話が取り上げられているようだが、本作でも美術の専門知識がちらりと顔をのぞかせている。宝石の知識も出てくるが、これも美術と関係するのだろうか。7点。
 

坂東眞砂子「死国」 2000年04月29日

 映画にもなったホラー作品。坂東眞砂子は初めて読んだのだけど、これがデビュー作なのかな?

 さて内容はと言うと"四国"を舞台にした"こわい話"。ってそれだけじゃワカランですね(^^;) でもまあそんな感じなのだ。とくに興味を引かれるような謎が出て来るわけでもなく、ハラハラドキドキしたりも無かったのでちょっと物足りない。よくある”こわーい話"を細かく肉付けして引き伸ばして出来上がったようなストーリーと言えばよいだろうか。展開の仕方も少々間怠っこしい。6点。

 坂東眞砂子はその後「山妣」第116回直木賞を受賞しており、そちらは面白いとの噂。いずれ読んでみたい
 

綾辻行人「どんどん橋、落ちた」 2000年04月26日

 うむむむむむ。ちょっと評価が難しい本である。

 綾辻行人を読むのは久しぶりだ。それもそのはず、本作は綾辻行人のじつに3年半ぶりの新作本なのだそうだ。5つの短・中編から成り、すべてがフーダニット、"犯人当て"の小説になっている(途中に"読者への挑戦状"がはさまれ犯人を推理させる)。ただしどれもこれも一筋縄ではいかず、また全編がメタフィクション的な作りになっていて、本格推理小説は好きだけど純粋な推理パズルにはそれほど興味がない私にもけっこう楽しめた。

 一番気に入ったのは最後の「意外な犯人」かな。数年前にTVドラマの原作として書かれたものに手を加えている。TVドラマは未見なのが残念だ。映像作品であることをトリックにうまく生かした作品だが、ちゃんとうまく文章作品に仕上げているところはさすがである。4番目の「伊園家の崩壊」感想を述べるのが難しい。世間やインターネット上のブラックなうわさ話としてよく知られた設定を、詳しい描写があるきちんとした推理小説に仕立ててしまっている。うーん、やはり何とも言い難い。全部平均して7.5点。
 

和田誠「倫敦巴里」 2000年04月24日

 長年探し求めていた本が今ここに(> <)(←感動している)。

 正確には本を探していたわけではない。この中に出てくる「雪国」を探していたのだ。たしか高校の時だったと思う。妹が国語の授業で配られたプリントにこれが取り上げられていたのを見せてもらい(どんな授業だったのだろう?)、いたく感心(というか感動だったかもしれない)したのだった。ところが出典が分からず、やっと今巡り会ったというわけだ(再び感動)。

 「雪国」とはノーベル賞で有名な"トンネルを抜けると"のあれである。この出だしの部分1頁くらいが和田誠の手によって様々な作家風にアレンジされるのだが、これがビックリするくらい良くできている。特徴をばっちり捕らえていて本当にその作家が書いたようなのだ。星新一風や井上ひさし風、村上龍風に横溝正史風もある。変わったところでは淀川長治風(例の語り口だ)や「ねじ式」(つげ義春)風で漫画になっているのもある。

 実はこの「倫敦巴里」は「話の特集」誌に発表されたものを集めて一冊にしたものだ。一連の「雪国」のほかにも「暮らしの手帖」ならぬ「殺しの手帖」やら、富永一朗風や小島功風の漫画、ダリ風イヤミ(赤塚不二夫の)やレジエ風鉄腕アトムにシャガール風ジョンレノン(ハマってる!)など、文章だけでなく漫画や名画のパスティーシュなどもてんこ盛りだ。しかも全部が名人級である。パロディ・パスティーシュかくあれかし!和田誠ってスゴイひとだったのだなあ(私が知らなかっただけか)。9点。

 ところでこの本のことはこのサイトで知ることができた。ここの作者は最近の作家を取り上げてオリジナルの「雪国」を自作されている。これらも素晴らしい出来だ。
 

貴志祐介「クリムゾンの迷宮」 2000年04月22日

 目覚めるとそこは見知らぬ神秘的な大地。ここは火星なのか?異次元のような世界に連れてこられた男はそこで強制的なサバイバルゲームに参加させられる。

 うーん、満足満足^0^)すっごく面白かった。貴志祐介といえば押しも押されもせぬホラー作家だし、本作も角川ホラー文庫から出ているが、これはホラーって感じじゃないな。冒険小説としても推理小説としても読める。初めからいきなり不思議な謎と雰囲気に引き込まれてしまうが、途中もまったく飽きることなく読まされてしまった。全体がまさにゲームの世界みたいで、じっさい異次元で展開する物語(SFかファンタジー的な)として仕上げることもできただろうが、ちゃんと現実的な説明のある物語になっているところも良い。肌身に、より直接感じることができた。

 終わり方がちょっとあっけなくて大きな謎の解決も中途半端な気がする。もうひとひねりあると良かったのだけどそれは贅沢ってものかな。9点。
 

霧舎巧「ドッペルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会流氷館へ」 2000年04月19日

 第12回メフィスト賞受賞作品。メフィスト賞受賞ってことであまり期待はしていなかったが(-_-;;) どうもメフィスト賞とは相性が悪いのだ。第1回受賞者の森博嗣氏の作品は何冊か読んでるけど回りくどいところがあって当たりはずれがある(ただ評判の高い受賞作の「すべてがFになる」はまだ未読でそのうち読みたいと思っている)。第2回受賞者の清涼院流水氏の作品もなじめない。第11回受賞の高里椎奈「銀の檻を溶かして」も読んだが、共通して言えることはみんなマニアックな作品である。商業小説というより同人誌作品そのままという感じなのである。

 島田荘司氏の推薦を受け"20世紀最後の新本格派"というふれこみであるが、うーん。じつは導入部と事件の発端部分だけ読んで投げてしまいました(_ _;) たしかに道具立てや舞台装置(本作は館ものである)は本格派なのだけどねえ。物語の運び方も強引だし本筋に関係ない細々としたエピソードも唐突だ。「銀の檻」でも同様に感じたが登場人物のキャラなどは少女漫画的なところがある。もうちょっと整理してコミカルテイストの少女マンガの原作にするとうまくはまるかも知れない。未読了のため点数無し。
 

桐野夏生「OUT」 2000年04月19日

 桐野夏生はどちらかというと苦手な作家なのである。乱歩賞受賞の「顔に降りかかる雨」やその続編も読んだがあまり感心しなかった。文章・ストーリーにも引き込まれず、主人公の性格も物語の展開に合わせてつぎはぎにしたようで共鳴できなかった。それにもかかわらず「OUT」はかなり話題になった作品だったので図書館で見つけて迷わず借りてしまったのだった。

 うん。これはけっこう面白かった。文章はやはり読んでいてやや疲れるのだけど、じわりじわりと事件が進むにつれてやはりじわりじわりとストーリーに引き込まれてしまう。弁当工場(コンビニ弁当がこんなに過酷な工場で生産されているとは思わなかった)で働くパートの主婦が死体をバラバラにして処理するというとんでもない設定だ。けっこう怖い。普通の(じゃないかも知れないけど)主婦がここまで出来てしまうのだろうか。でも読んでいて違和感はなかった。

 ただラストには不満がある。最後の数ページであんなに迷ったりする必要はないだろうと思う。すんなり結末に持っていった方がよい。さらに言えば佐竹も最後まで適役に徹した方が良かった。主人公が最後に佐竹にシンパシーを感じてしまうところはどうも。。最後に作者の悪い癖が出て、またしても主人公の性格が"つぎはぎ"になってしまった感じがする。7.5点。
 

貴志祐介「十三番目の人格(ペルソナ)貴志祐介 -ISOLA-」 2000年04月13日

 第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作で貴志祐介のデビュー作。翌年には「黒い家」で第4回日本ホラー小説大賞を受賞している。多重人格者に現れた十三番目の人格は実は***だった!とくに怖いというわけではないけどプロットもよく考えられていてうまくまとまっている。

 ところで小説の中でアメリカなどでは多数の症例が報告されているように書いてあったが、実際のところ多重人格というのはどれくらい起こるのだろう。また本当にそれぞれがまったく独立した人格なのだろうか。それがどんなメカニズムで起こり、各人格は互いにどう認識し合うのかなど考えを巡らすと非常に興味深い。この小説では結局、多重人格であることはさほど重要な要素ではなかったが、こんどは多重人格であることにもっと重点を置いた小説を書いてくれるときっと面白くなると思う。7.5点。
 

浅田次郎「プリズンホテル春」 2000年04月10日

 「プリズンホテル」「プリズンホテル秋」「プリズンホテル冬」に続く4部作の完結編、、なのだけど私はいきなりこれを読んでしまった(^^ゞ 前作までを呼んでいるとさらに楽しめたのかも知れないが、いきなり読んでも別に問題はなかったようだ。

 内容はドタバタ喜劇仕立ての人情物。ひとつだけではなく、プリズンホテルを舞台にいくつものストーリーが錯綜する。登場人物はみなキャラクターがはっきりしていて、深みはないけど分かりやすい。演劇にして舞台に上げると面白そうだな。7点。
 

井上夢人「もつれっぱなし」 2000年04月07日

 全編が男女ふたり(恋人とかには限らないが)の会話だけからなる短編集。以下、それぞれの感想。

 「宇宙人の証明」なんか世間にもよくありそうなオカルト支持派と反対派の論争みたい。現実と同じでお互い平行線をたどって結論は出ないが、ふたりの間には愛があるので決裂しない(-_-;)。「四十四年後の証明」いい!!この本の中のベストかな。現実的なオカルト対科学の論争だった一話目と違って、この話は純粋なSFとして読める。もちろんSFな設定だけの話ではなくて、こころ温まるストーリーなのだ。こういうはなし好き。「呪いの証明」これも途中はオカルト対科学の論争みたいだけど最後に、実は、ってオチが付く(真実が明かされる)ミステリっぽい仕上がり「狼男の証明」満月の夜に狼になってしまう狼男。ところで何で狼なんだろ。ほかにも変身する怪物っていたっけ?狸男とか羊男とか。どうせなら鳥男がいいかな、空を飛べるから。「幽霊の証明」ここに出てくる幽霊(なのか?)は生きている時となんにも変わらない。ちょっと顔色が悪いくらいだ。こんな幽霊ならのんきな幽霊生活を楽しめそうだ。「嘘の証明」最後に意外などんでん返しがある。やっぱりこういう仕掛けがあると全体が引きしまる。あれが全部**だったとは。ぜんぶ平均して7.5点。
 

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