読書日記

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米澤穂信「インシテミル」 2008年07月08日

インシテミル

 著:米澤 穂信
文藝春秋 単行本
2007/08

 2007年の「このミステリーがすごい!」で第10位「本格ミステリ・ベスト10」は第4位「文春ミステリーベスト10」で第7位。表紙がポップで楽しげな本だ。最初のうち、この表紙のイメージはちょっと違うんじゃない?とも思っていたが、いや、案外ぴったりだったかも。
 
 古今東西の本格ミステリを小道具にちりばめた閉鎖空間ものの本格ミステリになっている。本格ミステリ好きならお薦め。ふつうな人にもたぶん面白い。本格ミステリが嫌いな人にはお薦めできないが、そもそもそういう人は最初から手に取るまい。
 
 ちなみに意味不明な題名「インシテミル」はよく見ると、"THE INCITE MILL"と英単語が併記してあった。もっともそれでもあまり意味がつかめないのだが。。
 
 前半は描写や表現などで若干筆が上滑りになっているように感じた。ちょっとひねってみましたという文章がわざとらしく感じたり…。あと、設定や登場人物のリアクションにも不自然さを感じた。ひとつ例を挙げると、登場人物たちは24時間、一挙手一投足にいたるまで常に監視されていて、それを知っているはずなのに、なぜかほとんど意識していないこととか…。まあしかし設定にあまりリアリティを要求しても仕方がない。冒頭に「警告」もされていることだし。文章の方も、後半は筆がのってきたのか力みが無くなったのか、違和感はなくなった。主人公が最初のうちは頼りなさそうだが、だんだん名探偵ぶりを発揮して頼りがいのあるキャラに変貌するのは、やはり書いているうちにキャラが生きてきたのか。練り込まれたプロットと相まって、ラストに至る展開は引き込まれた。7.5点。
 

恩田陸「ドミノ」 2008年07月03日

ドミノ (文芸シリーズ)

 著:恩田 陸
角川書店 単行本
2001/07/27

 非常に大勢の人々が登場する小説である。巻頭には、登場人物によるひと言と、似顔絵のイラストが付いた、一風変わった登場人物の一覧が載っている。これだけの人たちが出てきて、多視点でそれぞれパラレルに物語は始まるのだが、やがて共通のアイテムなどを通じて各々がリンクして、表題通りドミノ式の連鎖が進んでいく。こういうタイプの話は、ほかでもどこかで読んだことがある。最初は読む方も混乱しがちになるが、これをどれだけ分かりやすくして話を進めて行き、そしてどのように収束させるかというところが作者の腕の見せ所だ。
 
 もともとは雑誌連載だったようだが、適度に話がまとまり、かつ適度に次に引っ張るあたり、さすがである。様々な人物と物語が錯綜するが、テンポが良くて飽きない笑える箇所もふんだんに盛り込まれていてサービス精神が旺盛である。おっ、そう繋がったか、と楽しみながら一気に読むのももちろん良い。ラストの処理もうまく余韻を残して終わり、最後まで手抜きがなかった。
 
 この作者の作品はどうも食わず嫌いというか、これまであまり読んでいないのだが、作風を広げながら次々と新しい作品を発表しており、最近もっともノっている作家のひとりと言って良いだろう。ほかにも話題作を連発していることだし、これからも少しずつ読んで行きたい。7.5点。
 

ダン・ブラウン(越前敏弥、熊谷千寿・訳)「パズル・パレス」 2008年06月21日

パズル・パレス (上)

 翻訳:越前 敏弥 , 他
角川書店 単行本
2006/04/04

パズル・パレス (下)

 翻訳:越前 敏弥 , 他
角川書店 単行本
2006/04/04

 「ダ・ヴィンチ・コード」で世界的ベストセラー作家となった作者のデビュー作が本書である。例によって日本での刊行は「ダ・ヴィンチ」より後だが、本作品が書かれたのは「ダ・ヴィンチ」の5年前(1998年刊)だ。しかしデビュー作とは思えない程よくできたエンターテインメントであり、「ダ・ヴィンチ」に勝るとも劣らない。作風やプロットの構成手法は基本的に「ダ・ヴィンチ・コード」とよく似ており、デビュー作から確固とした創作スタイルを確立していたことが伺える。
 
 本書で描かれるのは一種の IT 戦争である。米国の政府組織であり各種情報の収集分析を行う諜報機関 NSA では、電子メールなど世界中に流通するあらゆる情報を傍受していた。傍受した情報がたとえ暗号化されていても、これを解読する技術とそれを行うスーパーコンピュータが備えられ、監視の目は秘密のうちに一般市民にも及んでいた。個人のプライバシーを犯す NSA の活動は常に外部から批判を受けていたが、かつて NSA に籍を置いていた日本人技術者が解読不可能な新しい暗号アルゴリズムを武器に NSA に情報公開を迫ってくる。
 
 正直に言えば詳細の設定には粗も目立つ。いかにもそれっぽいのだが、多少なりとも知識を持つ人にとってはおかしな点が多数指摘できるだろう。マンガの「ゴルゴ13」のような設定といえば分かる人には分かるだろうか。あるいは、本書には幾人かの日本人が登場するのだが、その名前が日本人にとってはかなりおかしな名前だったりする。しかし、いかにも日本ぽい響きを持っているので、外国の人には日本人名として受け取れるような名前なのだ。細かい設定について言えば、総じてこんな感じである(「ダ・ヴィンチ・コード」等、作者の他の作品でも同様だが)。
 
 とは言え、10年前の作品であることを考えても、細かい粗さえ気にしなければ、大変よく考えられた設定だと言えるだろう。さらに、その上に構築されたジェットコースターストーリーが素晴らしい。行き着く先を予想させず、進むべき道は常に先の一歩分のみが照らし出されている。そして一歩進んだところでまた次の一歩が照らされるのだ。十分に練り込まれた謎解きのカタルシスも十分で、エピローグまで手抜きが無かった。7.5点。
 

北村薫「紙魚家崩壊−九つの謎−」 2008年06月14日

紙魚家崩壊 九つの謎

 著:北村 薫
講談社 単行本
2006/03

 計9編を収録したミステリを中心とした短編集。以下、各話ごとの感想。
 
「溶けていく」溶ける、と言うより、だんだん自分と世界が壊れていく、という感じだった。ホラーな一編。6.5点。
「紙魚家崩壊」「両手が恋をしている女と探偵」による「本格推理」あるいは「本格推理のパロディ」。最後にもう一工夫が欲しかった。6.5点。
「死と密室」「紙魚家」の続編。「本格推理のパロディ」からさらに進んで「メタミステリ」度が高くなっていた。6点。
「白い朝」日常の謎を爽やかなタッチで描いた作品。この少年、もしかして「円紫シリーズ」と関係ある?7点。
「サイコロ、コロコロ」わずか5ページの短編。些細な日常の謎のお話。6点。
「おにぎり、ぎりぎり」「サイコロ」の続編。日常の謎かと思いきや、世の中そんな小説みたいに理屈通りではないぞというお話。7点。
「蝶」これはとくにミステリというわけでもなく、単なる会話。この会話からどんな味を引き出すかは読者次第。6.5点。
「俺の席」ホラーな話かと思ったら、最後はブラックユーモア的なオチが付いた。7点。
「新釈おとぎばなし」エッセイ風に地の文を混ぜながら、おもに「かちかち山」を取り上げて現代ミステリ風にアレンジしていた。7点。
 

E. ケストナー(池内紀、泉千穂子・訳)「ケストナーの「ほらふき男爵」」 2008年06月08日

ケストナーの「ほらふき男爵」 (ちくま文庫)

 原著:Erich K¨astner
筑摩書房 文庫
2000/01

 ちくま文庫から出版されているケストナーによる「ほらふき男爵」。ほかに収録されているのは「ドン・キホーテ」「シルダの町の人びと」「オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「ガリバー旅行記」「長靴をはいた猫」。本書は広く知られている物語をエーリヒ・ケストナーが再話したものだ。文体は全般に簡潔で星新一のような感じだ(余談だが、星新一には「ほら男爵現代の冒険」という著書がある)。もちろん日本語訳の方の文体のはなしだが、もとのドイツ語もこういう雰囲気なのだろうか。
 
 なぜこのような本を出版したかといういきさつも、一つの物語になりそうなお話である。ナチスによってその著書が焚書の対象となり、執筆・出版を禁止されたケストナーが、既存物語の再話という形で執筆禁止に対抗して出したのがこの本なのだ。内容にはナチスに対する当てつけ的な意味も含まれているようで、彼はますます睨まれてしまったそうだが、知らずに読めばとくにどの部分が当てつけになっているのかよく分からず、原話をむやみに改変したりということはないようだ。
 
 ところでこの本を読んだそもそもの目当ては、表題作の「ほらふき男爵」だった。というのも、コンピュータを起動することを「ブート」と言うが、その語源が「ほらふき男爵」の中に出てくる話だと聞いたからである。なんでも、男爵が底なし沼にはまったときに、自分の靴のかかとに付いている紐=ブートストラップ(bootstrap)をつかんで自分自身(と乗っていた馬)を引っ張り上げた、という話がもとなのだとか。読んでみると本書では、つかんだのはブートストラップではなく自分の後ろ髪だった。別バージョンがあるのだろうか。ところで、「ほらふき男爵」の中の話は、似た話が落語にも見られる。同じくほら吹き話の「弥次郎」とか、「首提灯」とか。あるいは「弥次郎」に出てくる小話は、実は「ほらふき男爵」から拝借したとかいうこともあり得るな。さて?7点。
 

三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」 2008年06月08日

まほろ駅前多田便利軒

 著:三浦 しをん
文藝春秋 単行本
2006/03

 舞台である「まほろ市」のモデルは、馴染みのある町田市だということで興味を持った。第135回(2006年)直木賞受賞作
 
 たしかに町田がモデルになっているようだ。固有名詞はそのまま使っているものと、微妙に変えているものが混在している。近くを通る「国道16号線」はそのままだが、「横浜線」は「八王子線」に、「小田急」は「箱根急行(ハコキュー)」になっている。ただ、それ以外にも実際の町田と一致しない描写・設定も多い。そのため町田駅の周辺を思い描きながら読もうとすると、結構とまどうところが多かった。
 
 直木賞の受賞作という看板のわりには、正直いまいちパッとしない。ありがちなキャラを使ったありがちなストーリーという感じで、いかにも作りものめいた感覚がぬぐえなかった。本文ではないが、各章の扉絵のイラストも、本文のイメージとの乖離が激しくて馴染めなかった。もっとも、本作をキャラ萌え小説として読むなら(どうやらそういう読み方もあるらしい)これが正解なのかもしれないが。。しかし、いささか作りものっぽいところに目をつぶれば、キャラの設定は悪くない。一匹狼的だが一応の常識人でもある便利屋の多田と、そこに転がり込んできた極端な我が道を行く変人・行天のコンビはなかなか魅力的だった。物語としては中盤の、すでに終わった事件があとから振り返る形で語られる章が良かった。7点。
 

水森サトリ「でかい月だな」 2008年05月29日

でかい月だな

 著:水森 サトリ
集英社 単行本
2007/01/06

 第19回小説すばる新人賞の受賞作だ。「文学賞メッタ斬り! 2007年版 受賞作はありません編」の中で、2006年における新人賞のベストであるとして取り上げられていたのを見て、さっそく読んでみることに。
 
 冒頭で、主人公の少年が、いきなり人生を変えるような大けがをする。親友に突然崖下へ蹴落とされたのだ。唐突でショッキングなエピソードで幕を開ける本作品のストーリーは青春もの?SF?オカルト?それともファンタジー?ちょっと独特で不思議な感覚を持った作品だ。感覚的には伊坂幸太郎とかの雰囲気が近いかな。いやでもちょっと違うか。
 
 登場人物の中で二人の脇役が秀逸である。天才で変人、常に超然としている中川。超然と構えていることでは負けない不思議系少女の横山かごめ。どちらも決して現実的な存在ではなく、マンガチックな個性派キャラなのだが、こういう存在になってみたいというような一種あこがれを抱かせる、ひどく魅力的なキャラである。
 
 お約束的なハッピーエンドを迎えるのかと思っていたら、ちょっと違った。と言っても、予想とは違うがまあハッピーエンドには違いない。予定調和的な結末というのも必ずしも悪くはないが、このようにちょっと外してくるのもまた良い。読み終わってみると、結局このラストでは途中のあれこれの多くは、結末に繋がる本筋には別に必要ないのだが、やはりこの充実した読後感はそのあれこれが有ったればこそであり、上手いなあと思った。8点。
 

大森望、豊崎由美「文学賞メッタ斬り! 2007年版 受賞作はありません編」 2008年05月25日

文学賞メッタ斬り! 2007年版 受賞作はありません編 (2007)

 著:大森 望 , 他
PARCO出版 単行本
2007/05/10

 「メッタ斬り!」シリーズも三冊目である。ああ、もう次の2008年版も出てるのか。完全に年一冊の刊行体制が出来上がってきたな。もちろん年二回の芥川賞・直木賞の度に Web 上に掲載されるふたりの予想と感想も定番化して続いており、欠かさず読んでいる。本書はその Web 掲載分に加えて、トークショーでの中原昌也との鼎談(「中原昌也、大いに怒る―第135回芥川賞、事故の顛末」)や「メッタ斬り!が指南! 07年版・公募新人賞の傾向と対策」、「毎度おなじみ、選評、選考委員メッタ斬り!」など、またまた盛りだくさんの内容になっている。
 
 今回、「メッタ斬り!」的に最大のニュースは、長年「メッタ斬り」最大の殊勲者であった津本陽氏の直木賞選考委員退任である。ということで退任を惜しんで企画された「津本先生、さようなら―直木賞と津本陽―」が掲載されている。うーむ、直木賞的にはともかく、メッタ斬り読者的にはたしかに惜しい人をなくした。もっとも氏は、直木賞のほかの文学賞の選考委員はまだ続けておられるそうだ。また俎上にのせられることもあるかもしれない。それに他にもメッタ斬りされる選考委員の先生方には事欠かないことだし…。7.5点。
 

若竹七海「バベル島 」 2008年05月25日

バベル島 (光文社文庫)

 著:若竹 七海
光文社 文庫
2008/01/10

 これまで単行本未収録な11編をお蔵出しホラーあるいはホラー風味な作品を中心とした短編集だ。それぞれの初出は1993年から2000年でかなり古い。発表媒体の出版社もばらばらで、それが単行本として発表が遅れた理由だろうが、こうやって日の目を見たことはめでたい。
 
「のぞき梅」呪われた一族の物語。結末は予想されたとおりで弱い。もう一つ何かが欲しかった。6.5点。
「影」曰く因縁のあるお向かいの家で起こった出来事。ラストも含めパッとしない。6点。
「樹の海」ホラーではなくホラーテイストのミステリ。調子が良く軽薄な推理作家のキャラがよい。7点。
「白い顔」女は怖い、というお話。6.5点。
「人柱」遺された日記に隠された謎。本筋には関係ないが喫茶店の名前がもう一つのささやかな謎になっている。6.5点。
「上下する地獄」エレベーターにまつわる怪談。トリックがすっきりせず読み終わってもちょっと分かりにくい。6.5点。
「ステイ」前半はむしろユーモアミステリ風な文章。これも結末がちょっと分かりにくい。7点。
「回来」ホラーの部分より、ミステリ的な部分をもっと前面に出した方が良かったのではないかな。7点。
「追いかけっこ」トリッキーな仕掛けで読ませる。最後はやり過ぎで分かりにくくしたきらいがあるが面白かった。7.5点。
「招き猫対密室」骨董屋で目にとまったいわくつきという招き猫。肝のトリック(?)が説得力に欠ける。7点。
「バベル島」60年前の曾祖父の日記と現代の日記をシンクロさせた構成で、現代に現れた異様な建築物の真実に迫る。7.5点。
 

J.K.ローリング(松岡佑子・訳)「ハリー・ポッターと謎のプリンス」 2008年05月18日

ハリー・ポッターと謎のプリンス ハリー・ポッターシリーズ第六巻 上下巻2冊セット (6)

 翻訳:松岡 佑子
静山社 単行本
2006/05/17

 シリーズ第6巻。いよいよシリーズも次巻のクライマックスに向けて加速していく。最終となる第7巻の日本語版はまもなく7月に発売される予定だ。第5巻の「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」を2ヶ月ほど前に読んで、次はなかなか読めないだろうなと思っていたのだが、思いの外すぐに続きを読むことが出来た。
 
 前作まではお約束のパターンとして、ハリーが叔父さんの家で不愉快な夏休みを過ごすところから幕を開けた。しかし今回はイギリス首相と魔法大臣の会見から物語が始まる。次の章でもまだハリーは登場せず、スネイプの意味深で不穏なシーンが描かれている。改めて考えてみると、スネイプという人物は、本シリーズで一番謎の人である。敵なのか味方なのか。このシーンからストーリーが動き出す本書で、読者はさらにスネイプの動向から目を離せなくなる。
 
 ヴォルデモートの復活により恐ろしい事件が頻発し、戦々恐々とする魔法界では、魔法大臣が新しくなる。ホグワーツでは、スネイプが「魔法薬学」の担当から、かねてから希望していた「闇の魔術に対する防衛術」の担当に。一方、ハリーは来るべきヴォルデモートとの対決に向けて戦う相手を知るために、ダンブルドアから個人授業を受けることになる。「憂いの篩」を使って様々な人の過去の記憶をたどり、ヴォルデモートの出生の秘密を目撃していく。そして、ハリーが偶然手にした魔法薬学の古い教科書に書き込みをした「半純血のプリンス」の正体は?
 
 前にも書いたが物語はどんどんシリアス度合いを増していく。ここまでに様々な謎が明かされるとともに新たな謎も出てきた。最終巻でどのように決着するのか楽しみだ。7.5点。
 

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