ダン・ブラウン(越前敏弥、熊谷千寿・訳)「パズル・パレス」 2008年06月21日
「ダ・ヴィンチ・コード」で世界的ベストセラー作家となった作者のデビュー作が本書である。例によって日本での刊行は「ダ・ヴィンチ」より後だが、本作品が書かれたのは「ダ・ヴィンチ」の5年前(1998年刊)だ。しかしデビュー作とは思えない程よくできたエンターテインメントであり、「ダ・ヴィンチ」に勝るとも劣らない。作風やプロットの構成手法は基本的に「ダ・ヴィンチ・コード」とよく似ており、デビュー作から確固とした創作スタイルを確立していたことが伺える。 本書で描かれるのは一種の IT 戦争である。米国の政府組織であり各種情報の収集分析を行う諜報機関 NSA では、電子メールなど世界中に流通するあらゆる情報を傍受していた。傍受した情報がたとえ暗号化されていても、これを解読する技術とそれを行うスーパーコンピュータが備えられ、監視の目は秘密のうちに一般市民にも及んでいた。個人のプライバシーを犯す NSA の活動は常に外部から批判を受けていたが、かつて NSA に籍を置いていた日本人技術者が解読不可能な新しい暗号アルゴリズムを武器に NSA に情報公開を迫ってくる。 正直に言えば詳細の設定には粗も目立つ。いかにもそれっぽいのだが、多少なりとも知識を持つ人にとってはおかしな点が多数指摘できるだろう。マンガの「ゴルゴ13」のような設定といえば分かる人には分かるだろうか。あるいは、本書には幾人かの日本人が登場するのだが、その名前が日本人にとってはかなりおかしな名前だったりする。しかし、いかにも日本ぽい響きを持っているので、外国の人には日本人名として受け取れるような名前なのだ。細かい設定について言えば、総じてこんな感じである(「ダ・ヴィンチ・コード」等、作者の他の作品でも同様だが)。 とは言え、10年前の作品であることを考えても、細かい粗さえ気にしなければ、大変よく考えられた設定だと言えるだろう。さらに、その上に構築されたジェットコースターストーリーが素晴らしい。行き着く先を予想させず、進むべき道は常に先の一歩分のみが照らし出されている。そして一歩進んだところでまた次の一歩が照らされるのだ。十分に練り込まれた謎解きのカタルシスも十分で、エピローグまで手抜きが無かった。7.5点。
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