読書日記

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松岡圭祐「千里眼/ミドリの猿」 2000年09月19日

 うわーっっ、「催眠」「千里眼」と来て本書でまたまた事件の規模がどどーんとスケールアップしてるぞ!とうとう裏から世界を意のままに操っているという組織が相手になってしまった(-_-;) 「催眠」のときは巷の"催眠(術)"に対する誤解を解きつつ一応は科学的な設定だったのに、もう本書では科学的? 現実性? なにそれ?ってかんじでひたすらエンターテイメント路線を突っ走っている。実際、文章や物語の展開の仕方に関しては「催眠」のときよりもはるかに上手くなっていて楽しませてくれる。

 本書では「千里眼」の岬美由紀が再び活躍するとともに「催眠」の嵯峨敏也が満を持して登場する(でも本書では嵯峨はほとんど活躍できないのだが)。しかしこの嵯峨敏也は実は小説「催眠」の嵯峨敏也とは微妙に違う。年齢も若返っているし風体も異なっているのだ(‥;) 実はこの嵯峨は映画「催眠」の嵯峨敏也らしい。本書で少しだけ触れられた嵯峨が関わった過去の恐ろしい事件とはどうやらすなわち映画「催眠」のストーリーのようだ。映画を観ていれば2倍楽しめるという仕掛けなわけだが私はあいにくと観ていない。

 千里眼は3部作を予定しているらしく、もう一冊(おそらくまた映画やTVの映像版とクロスオーバーしながら)出るはずだ。そもそも本書「千里眼/ミドリの猿」は主人公が危機にさらされたまま終わってしまっている(T_T) ぅおーいっ、あの後どうなるんだああああ。とっても気になるぞお。

 それにしても"ミドリの猿"というキーワードが何の意味を持っていたのかぜんぜん分かんなかったんだけど?

 うーん。映画やTVをわざわざ観ようとまでは思わないのだけど、小説の続編が出たらやっぱり読んでしまうかなあ。7点。
 
追記: 最近になって、映画や近々始まるTVドラマ、そして小説「千里眼」シリーズと整合性を持つようにリライトされた、小説「催眠 特別編」が刊行されていた。本屋でぱらぱらめくってみただけなので詳しくは分からないが設定を少々変更するとともに、シリーズのそれぞれとリンクするような記述が増えている。
 ところで"ミドリの猿"というのはどうやら映画「催眠」の中で使われた連続変死事件の謎のキーワードだったのね(もちろん小説「催眠」に出てきたのが最初だが特別な意味は持っていなかった)。で、小説「千里眼/ミドリの猿」は謎を残したまま終わった映画の解決編の意味もあって、わざわざ副題に"ミドリの猿"が付いているようだ。しかし解決ってたぶんアレなんだよなあ? ぜんぜん面白くない解決だぞぉ(~_~;) 映画を観てから下手に「謎の解決が付く!」と期待して読むとがっかりするんじゃないかしら。"ミドリの猿"も結局あまり意味がないし。。少なくとも小説にわざわざ副題として付けるのは止めて欲しかったなあ。思わせぶりな題名に肩すかしを食った気分だ。
 

松岡圭祐「千里眼」 2000年09月15日

 「催眠」の続編と裏表紙に書いてあったからわざわざ先に「催眠」を買ったのだけど、物語的にはぜんぜん関係ない話だったのね、実は。ただちょっとだけ「催眠」の登場人物を示唆する文章があったり思わせぶりなところもあったりして、どうやらさらに続編でそれらの伏線を生かした新たな展開があるらしい。あと、もうひとつには映画版「催眠」の後日談として両者がクロスオーバーする仕掛けになっているらしい。なかなかうまい仕掛けである。でも映画を観ていなくてもちゃんと楽しめた。

 今回の話は「催眠」で個人的な犯罪を相手にしていたのに対していきなりどーんとスケールアップして、国家転覆を謀る宗教テロリストが相手になる。主人公は若き女性カウンセラー岬美由紀だが、ただのカウンセラーではなく自衛隊の戦闘機パイロットだった過去も持っている。なんとなく子供向けTV番組の正義の味方と悪の組織みたいで、描かれている国家像も政府の対応の仕方もそして敵もあまりリアリスティックではない。しかしそこには目をつむり純粋にフィクションのエンターテイメントだと割り切ってしまえばなかなかよくできた話だと思う。とくに最後の息を付かせぬ展開は素晴らしく、前作「催眠」で感じたもたつきは全くなかった。

 今回も前作同様に催眠や心理学については基本的には科学的なアプローチをしているが、それじゃ面白くないと思ったのか思わず首をひねってしまう非科学的な描写も混じっていた。この辺も子供向けTV番組とかを思わせた原因だ。電波を感じちゃったりするんだもんなあ。こういうところを丁寧に現実的に書ければもっとよくなると思うのだが。7.5点。
 

松岡圭祐「催眠」 2000年09月12日

 稲垣吾郎と管野美穂の主演で映画化されて話題になったサスペンス(かな?)。小説と映画とは幾分内容が異なるらしいのだが映画は観ていないので分からない。続編となる「千里眼」「千里眼 ミドリの猿」を図書館で見つけたので、さっそく本書「催眠」をBookOffで100円で手に入れた。さすがによく売れた本だけあってすぐに見つかった。100円コーナーにあったのは1冊だけだったけど普通の半額で売っている棚にはずらっと並んでいた。

 宇宙人の人格を含む多重人格者の女性が周囲の人間に利用され事件に巻き込まれるところを臨床心理士の主人公が救い出すという物語である。多少展開にもたつく感もあるが、読みにくいというわけではなく話はなかなか面白い。作者は実際に臨床心理士の資格を持っており、作中では催眠や心理学の専門的なことにも詳しく触れられている。最後で随分丁寧にフィクションであることを強調しているので多重人格者の存在や、作中で見せた読心術めいた技術はどこまでが本当なのか分からないが、少なくともTVで行われる催眠術ショーなんかは大嘘だということが分かる。本作にも準主役級でTVの催眠術ショーに出演するニセ催眠術師を登場させているが、その一方で登場する臨床心理士たちの口を借りながら本来の催眠とは何かを科学的にそして熱心に解説している。しかしそれでも人の心理の世界って不思議なんだよねえ。だからこそこうして小説の題材として取り上げられるわけだけど。多重人格者なんて小説の世界ではぜんぜん珍しくないものね。7点。
 

東野圭吾「秘密」 2000年09月09日

 最近東野作品を読む機会が少ない。もちろん彼が新作を出していないわけではなく、むしろ精力的に次々と新しい本を出版している(しかもどれもが話題作!!)。しかしハードカバーは買うのはハードルが高いので結局文庫に落ちるのを待つか、図書館で見つけるしかない。ところが最近の彼の活躍によって知名度も上がり図書館の本も品切れ状態。数年前は本棚に10冊くらい並んでいたのに最近では1,2冊くらいだったりする。たぶん全部貸し出し中なのだ(一応近所の図書館の古い蔵書はぜんぶ読んていると思うから良いのだけど)。その東野氏の名前を一気に広めたのがたぶん本作品だったのではなかろうか。広末涼子主演で映画にもなり(観ていないけど)、直木賞候補にもなり(このときの受賞作は宮部みゆきの「理由」)、第52回日本推理作家協会賞を受賞した「秘密」は長らく図書館の予約数上位ランキングに名を連ねていた。予約なんてめんどくさいことをしない私が読めるのは当分先のことだなあと思っていたのだが、ようやく一般書架に置いてあった(というかまだ書架に戻されていない返却本のところにあった)のをGetした。

 母親と娘バス事故に巻き込まれ、目覚めた娘の意識は死んだはずの母親のものだった、というストーリー。そんな不可思議な現象を最初は案外あっさりと受け止めてしまうのだが、娘(中身は妻)の成長につれて夫であり父親である主人公はだんだん様々な葛藤に苦しむことになる。実は自分的には、この辺の彼の心情は分からなくもないがちょっと行き過ぎじゃない?という感じであまり感心しなかった。このままずるずると結末を迎えてしまうのかと心配したのだが、そこはさすが東野圭吾。ラストに差し掛かったところから急展開し、最後は一気に読み進んだ。不覚にもちょっとウルウル来たし(電車の中だったのに)、結局読後感も非常に良いものになった。贅沢を言えばただの人情ものにするのではなく、もっと設定を生かした事件というか物語が構築してあるとよかったのだが(東野圭吾ならそれができる!と思う)。8点。
 

アーサー・C・クラーク「失われた宇宙の旅2001」 2000年09月07日

 今年(2000年)の春に早川から翻訳出版された本だが、実はクラークがこれを書いたのは1972年だ。映画「2001年宇宙の旅」の公開が1968年だからそれからまだあまり時間が経っていない頃に書かれたことになる。私は数ヶ月前に小説「2001年宇宙の旅」を読んで、さらに先月たまたま再び(中学の時以来)映画を鑑賞する機会があった。で、映像のすばらしさと映画の結末の難解さに改めて感心し、ついつい本書に惹きつけられてしまった。

 本書は完成した映画や小説とは別の、制作過程で生まれていたもうひとつの「2001年宇宙の旅」である。ところどころにクラーク自身が制作の裏話や解説を入れながら、完成品のパラレルワールド的な世界を見ることができる。例えば原始時代の場面は人類の祖先を教え導く異星人の視点から描かれるし、結末のスターゲートを抜けた後の場面でも異星人世界が具体的に描写してある(完成品には明確な形では異星人はまったく登場しない)。映画の難解さにスッキリしないものを感じていた人には完成品の小説とともに本書も一読することをお薦めする。とは言え映画の分かりやすい解説になっているというわけではぜんぜん無い。まったく別の作品だと思って接するのが正解だろう。私自身について言えば難解なところも含めて映画は映画で非常に印象深かったし、完成した小説版や本書に描かれた世界もSF小説として映画とは別に楽しむことができた。8点。
 

倉知淳「占い師はお昼寝中」 2000年08月29日

 先日読んだ「日曜日は出たくない」に続いて創元推理文庫に入った倉知淳の2冊目。体裁は同じく安楽椅子探偵の連作短編集だ。しかし登場人物の雰囲気はガラリと変わっている。探偵役は好奇心旺盛で傍若無人な"猫丸先輩"に代わり、動くのも面倒な怠け者"辰寅叔父"だ。語り手は姪の美衣子。この二人はなかなか良いコンビでキャラクター的には猫丸先輩シリーズよりも魅力的である。辰寅叔父の仕事が探偵なんかじゃなくて霊感占いであるのも面白い。こんな仕事をしているくせに霊的なものや超常現象なんてぜんぜん信じていない辰寅叔父が、占い所に持ち込まれた不思議な怪奇現象の真相を鮮やかに見破ってしまう

 んー、でもホントは正直に言っちゃうと、鮮やかというよりはどこかこじつけっぽいんだよなあ。これは「日曜日は出たくない」でも同じだったけど、ハタと膝を打って感心するような名推理はほとんど無い。中に一話「占い師は外出中」で美衣子が推理した事件を辰寅叔父に覆される話が出てくるけど、全編でこれが出来そう。ま、それをやったのが井上夢人の「風が吹いたら桶屋がもうかる」ですでに前例があるわけだけど。7点。
 

黒川博行「アニーの冷たい朝」 2000年08月25日

 はじめは連続殺人事件を追う刑事たちを中心にした流れと高校の若い女性教師・足立由実の視点に立った流れの二つの流れに沿って物語は進行する。黒川作品であるからもちろん刑事たちは大阪府警の刑事である。いつもの彼の作品のように大阪弁で会話しながら地味だが着実な捜査によって犯人に迫って行く。当然最後には二つの流れはひとつになって、クライマックスを迎えるのだが。。。

 うううううう。せっかく途中は面白かったのに。クライマックスに向かってどんどん盛り上がっていたのにいぃ(T.T) なんでなんであんな中途半端で宙ぶらりんな終わり方をするんだ!もちろん謎も残されていないし、筋書き上の結末は付いているのだけど。けど、けどちょっとあれはあっけなさ過ぎるんじゃあないかあ?なんかトラブルでフィルムの最後がちぎれてプツン、とか言って終わってしまった映画のようだ(そんなん見たこと無いけど)。もう少しラストを頑張って書いて欲しかったなあ。6点。
 

倉知淳「日曜の夜は出たくない」 2000年08月23日

 猫丸先輩シリーズの第1作目(かつ作者の実質的なデビュー作のようだ)。倉知淳は読みたいと思っていながらまだ読んだことの無かった作家で今回初めて読んだ。

 内容は"猫丸先輩"がたまたま遭遇したかあるいは勝手に首を突っ込んだいろいろな事件を、話を聞いただけで真相を解き明かしてしまうという"安楽椅子探偵もの"の連作短編集だ。最後に各話をつなぐミッシングリンクが明らかになる、という(創元推理文庫の好きな?)連作短編集によく盛り込まれる手法がここでも使われる。しかも2段構えで! 明かされる内容は、丹念に文章を追って自分で謎を解き明かしたい本格的な本格推理小説ファンにはフェアじゃあないということで受けが良くないかも知れないけど、いいかげんなミステリファンの私としてはかなり満足。作者も気兼ねしてか最後の話には「蛇足」という題を付けているけど、こういう蛇足はわたし的にはまったくOK。やはりこの手の「蛇足」があることで連作ものは引き締まると思うのだ。

 少しだけ気になるのはこのラストによって語り手であった猫丸先輩の後輩である"僕"が今後どうなってしまうのかということ。これじゃ猫丸先輩シリーズが続かなくなっちゃうのではないかと心配してしまう。実際にはすでに続編が出ているようなので全くの余計な心配なのだろうけど。7点。
 

篠田真由美「美貌の帳-建築探偵桜井京介の事件簿」 2000年08月17日

 本作は建築探偵シリーズ第6作にしてシリーズ第2部の開幕作になるのだそうだが、篠田真由美作品はこれが初めてである。

 えー、悪くはないのだけどけどちょっと肌に合わないところもある。シリーズものをいきなり読んだせいもあるかもしれない。登場人物についてぜんぜん予備知識がないからね。もちろん知らなくてもとくに困るわけではないけど。どうやら彼らにはこれまでいろいろあったようなのだが、それらを読めば愛着も出てくるだろうか。でもあまりキャラが濃いのは好きではないし。。

 ちょっと京極夏彦の雰囲気に似てるかな? 雰囲気とか。あと私の肌に合わないという意味では文章も似ているかも。どうもあまり意味のない描写が長すぎて疲れてしまうのだよね。でも京極夏彦よりは篠田真由美の方が読みやすかった。そんなわけで前半がちょっと退屈したけど後半ラストに至る部分では推理小説らしいカタルシスも感じたしけっこう引き込まれてしまった。7点。
 

我孫子武丸「ディプロトドンティア・マクロプス」 2000年08月10日

 読み始めると我孫子武丸には珍しいハードボイルドタッチである。珍しい、と書いたがよくよく考えるといつも新しい作風で驚かしてくれる我孫子武丸であるからやはり珍しくない。また新たな境地を切り開いたのか、と感心しながら読んでいたのだが、まさか後半があんな展開になるとは思わなかった。いくら我孫子武丸でもこれは珍しい展開だろう。

 主人公の私立探偵は行方不明の大学教授の捜索をその娘から依頼される。意外なところから教授の居所が知れ、なんとか連れ戻すことには成功するのだが、問題は遺伝子治療が専門の教授から奪われたものだった。ここまではまったく正統派のハードボイルドである。しかし教授の発明品(って言うのかな?)の内容がまず現実離れしていた。少年向けSF小説かマンガに登場しそうな代物である。さらにさらに、その発明品を使用した結果起こった事件はもう笑うか呆れるしかないシュールなもので、いつの間にか円谷プロ制作作品のノベライズ?って感じになっていた(^_^;;) 気付くともはやハードボイルの陰は完全に消え失せてしまっていた。いや面白くなかったわけではない。面白かったけどね。予想もしなかった展開だったのでちょっと驚いた。7.5点。
 

井上夢人「風が吹いたら桶屋がもうかる」 2000年08月09日

 つまりなんだ。これは本格ミステリのメタ小説というかパロディというか、そんな小説なんですね。美しいまでに理路整然とした論理を駆使して真実を暴き出すのが本格推理小説だが、実はそれは"風が吹いたら桶屋がもうかる"式論理でしかなく現実の世界に通用するものではない。井上夢人はそんな推理小説的論理をひねた推理小説ファンのイッカクに語らせながらメタ小説に仕上げている。もちろん小説として純粋に楽しめるように、ほとんど役に立たない超能力者ヨーノスケを登場させたりしてうまく味付けをしている。

 ただ各話が型にはめたように同じ展開なのは後半すこし飽きがきた。もうちょっと変化を付けた方が連作短編として生きると思うが、そこまで手が回らなかったのか。あと"風が吹いたらほこりが舞って"で始まり"とどのつまりは桶屋がもうかる"で終わるフレーズが各編の題名になっているのだけど、これが全然内容に関係しないのもちょっとがっかり(なぜか巻末の解説では誉めてあるのだけど)。とは言え、本格ミステリのパロディとしては十分に成功しているし、面白かった。

 ところで文庫カバーの後ろ側の紹介文には「ミステリ小説ファンのイッカクの論理的な推理をしり目に、ヨーノスケの能力は、鮮やかにしかも意外な真相を導き出す。」と書いてあるが、これ書いたひとちゃんと読んでないんじゃないの? ヨーノスケは鮮やかに真相を導いたりなどぜんぜんしてないぞ。7.5点。
 

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