- スティーグ・ラーソン(ヘレンハルメ美穂, 岩澤雅利・訳)「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上・下」 2013年08月12日
世界的な大ベストセラー三部作の第一部。映画(スウェーデン版2009年、ハリウッド版2011年)も話題になった。国内では「このミステリーがすごい!(2010年版)」海外部門で第2位、「週刊文春ミステリーベスト10」(2009年)では三部作まとめて第1位に輝いている。 ジャーナリストでもあるスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンのデビュー作である。しかし、この第1部が2005年に発売されるよりも前の、出版契約した2004年にラーソンは心筋梗塞で急逝しており、シリーズの大成功を自分で目にしていないのだそうだ。実は第5部までの構想があったと言われており、書きかけの第4部も存在するらしい。 経済ジャーナリズム等を扱う硬派の雑誌『ミレニアム』の発行責任者であるミカエル・ブルムクヴィストは、財界の大物ヴェンネルストレムの不正を暴くスクープをものにしたはずだったが、策略にはまって、逆に名誉毀損の有罪判決を受けてしまう。そんな苦境のさなかのミカエルが、大富豪のヘンリック・ヴァンゲルから、一族が住む島から36年前にひとりの少女が忽然と姿を消した事件の真相解明を依頼される。初めは断ろうとするものの、報酬のひとつとしてブルムクヴィストの不正の証拠を与えるという条件を提示されて、調査を引き受ける。 もうひとりの主人公は、セキュリティ会社の依頼で様々な調査を請け負う、背中にドラゴンのタトゥーを入れたリスベット・サランデルだ。読む前に断片的な知識からなんとなく想像していた彼女に対するイメージは、アクションもこなして頭脳明晰という、したたかでタフな女性像だった。ところが読んでみると実際には、ポテンシャル能力は高いものの、一般社会に対する適応能力が今ひとつで、危なっかしい感じさえ受ける女性として登場してきたのが意外であった。とは言え、物語も後半になると、天才的な記憶力やずば抜けたハッキング技能による調査力を存分に発揮して、クールなところを見せつけてくれる。 上巻の間は、進展もゆっくりだし、話の向かうところが分からず、いささか退屈でもあったが、下巻に入ってミカエルとリスベットがともに協力し合って調査を進めるようになってからは、事態は急激に動き始め、物語的にも俄然面白くなった。やがて、命がけのピンチを乗り越えた末に、ハリエット失踪事件の裏に隠されていた驚愕の真実が明らかにされる。そしてストーリーはさらに、ミカエルと雑誌『ミレニアム』を窮地に立たせていたヴェンネルストレム追求に立ち戻る。 ハリエットの事件とヴェンネルストレムの件のストーリー上の繋がりや、その他のエピソードの絡ませ方など、必然的に結びつけられているわけではなく、その辺りから見ると、作品の完成度が高いとは言えない。しかし、ヴァンゲル一族が暮らす島という大規模な密室の中で起こった不可思議な消失事件であるとか、暗号の謎解きなど盛りだくさんのミステリ的趣向に加え、ハラハラドキドキのサスペンスもあり、不当な差別や抑圧に対する憤りと言った社会的な視点もあり、なるほど確かに優れた作品だった。第二部以降も楽しみだ。7.5点。
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