読書日記

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折原一「黄色館の秘密」 2000年11月30日

 黒星警部シリーズの長編。このシリーズは本格推理のパロディとして認識されているが、厳密にはパロディとしてよりも本格推理小説としての構成に軸足が置かれている気がする。パロディ的視点と笑いを取り入れた本格推理と言えば良いか。しかしながら本作品に対する本格推理小説としての私の評価は高くない。雪に閉じこめられた「黄色館」で起こる連続密室殺人事件がメインの話だが、黒星警部の迷推理で二転三転する展開は退屈気味だし、最後になって明らかになる事件の全貌も特別な面白味はない。謎が盛り沢山だったわりには解決で感心できるのはわずかだった。

 むしろ本作品の一番の目玉は、(おそらく作者の意図するところではなかっただろうが)残り三分の一くらいのところで早々に明かされる或る仕掛けだったと思う。折原一らしい趣向で見事に騙されたのだが、メインとはまったく関係がないのが残念である。やはりこういう作品はもっと徹底的にパロディとして作り上げた方が良くなるように感じた。6点。
 

真保裕一「ストロボ」 2000年11月28日

 そこそこに成功したカメラマンの人生を振り返り、時代を遡りながら描いている。読む前は、章を追うごとに時間を遡る構成というのはどうかな?と疑問だったのだが、読んでみて納得。例えば知り合いの五十男の過去を、会うたびに酒を酌み交わしながら聞いたりすればこんな感じになるかもしれない。現在の人となりは知っているが、そんな現在の彼を築き上げてきた過去は知らない、そんなことは現実にもあるだろう。

 人生の各ステージで主人公は自分の在り方や仕事のことについて悩み続けている。40歳の時に悩んで、最後にはハッピーエンドを迎えたとしても、50歳の時にはまた同じような悩みを抱えている。ふつうの物語ならば一度ハッピーエンドを迎えればその後のことは「そしてずっと幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」みたいにして終わってしまうのだが、この作品の主人公はずっと悩んでいるように見える。若いときの経験はどうしたんだ、と言いたい気もするが、むしろほとんどの人生はこんな風に同じことを悩み続けるものなのだろうか。

 それぞれの物語自身もよかった。どれもこれもしみじみと感じ入ってしまう。7.5点。
 

東野圭吾「白夜行」 2000年11月25日

 大著である。単行本の厚みはやや厚い程度だが、2段組になっていて相当に分量がある。通勤電車の中で少しずつ読み進めていたら随分と時間がかかってしまった。

 分量があるだけではなく中身も非常に濃い作品になっている。物語は石油ショックの時代から語り始められ最終的にはほぼ現代に至る。その間に描写される各時代の世相や事件が懐かしい(石油ショックはさすがに記憶の外だが)。

 登場時にはまだ子供である男女を軸にして、その周辺で起こる様々な事件が綴られる。読者には早い段階で、事件はすべてこの男女が裏で糸を引いていることが分かる。しかしふたりがなぜそんな行動を起こすのか分からないし、自分の野望を果たすためには手段を選ばない単純な悪人のようにも見えない。このふたりの背景は最後に明かされることになる。

 白夜行とはふたりの人生を表した言葉であることが読み進めるうちに分かるが、作品自身も白夜の中を進んでいるようだった。薄明かりの中でおおよそ何が起こっているのかは見通せるのだが、すべてが白日の下に照らし出されているわけではない。そんな物語である。その分盛り上がりには欠けるかもしれない。それもまた昼と夜のメリハリのない白夜を思わせる。作者がそこまで計算して作り上げたのだとすると(きっとそうだろう)まったく感心してしまう。地味ではあるがずっしりと読み応えのある一冊だった。ただラストだけはもう少し盛り上げて欲しかった気がする。8点。
 

若竹七海「依頼人は死んだ」 2000年11月18日

 若竹七海は好きな作家のひとりだ。このひとの人物に対する観察力はなかなかすごいと思うし、それを表現するのもうまい。また、小粒でもピリリと辛い山椒をちりばめたような文章も好きな要素である。

 本作は女探偵の葉村晶が主人公の連作短編集だ。葉村晶って以前「プレゼント」に登場している。。が、読んでるはずだがほとんど覚えていない(^^ゞ

 さて、待望の若竹七海の新作でわくわくしながら読み始めた。どの話もなかなか魅力的な謎(あるいは謎に発展しそうな事件)が提示され、いやが上にもどんな真相が隠されているのか期待が高まるのだが。。うーん。なんだろうこれは。最初の話「濃紺の悪魔」はいかにも現実離れしていて納得いかない。そのまま読み進めると2話目から4話目までどれもこれも結末がつまらない。謎解き主体の話として読むのが間違いなのだろうか? でもそれ以外に読みようがないよなあ、、などとぶつぶつ心の中で文句を言いながら読んだ。
このまま終わったら本を壁に投げつけてやろうかと思っていたのだが(って図書館の本だからそんなこと出来ないんだけど)、後半はちゃんとした推理小説になっていた。とくに5話目の「アヴェ・マリア」が本書の中では一番良い。各話はバラバラな雑誌で発表されていて、本書ではそれが発表順に並んでいるわけでもないところを見ると作者も分かっていてこんな順序にしたのだろうか。

 発表済みの8話が終わったあとには書き下ろしの1話が加えられている。「ぼくのミステリな日常」の様に新たな真相が浮かび上がる仕掛けはないが、一応それまでの各話をふまえた後日譚(おや、「譚」の字はATOKでふつうに出てこないんだねえ)になっている。とくに1話目で謎のまま終わってしまった人物="濃紺の悪魔"が登場して、本編で明らかにならなかった全貌がここでようやく明らかになるのかと思ったら、あらら。ますます謎めいてとうとうSFかオカルトじみて来ちゃったよ(+_+;;) 付け加えた意味、あんまり意味がなかったのでは? というわけで、前半が6点(甘め)、後半が7点。
 

北村薫「盤上の敵」 2000年11月15日

 殺人を犯した凶悪犯が我が家に立てこもり妻が人質になった男がとった行動とは?

 はじめに出てくる花屋の主人の話はいっそバッサリと切っても良かったのではないかな。後の方で絡むのかと思ったらそんなことは無し。中途半端なエピソードになってしまっている。

 本筋の方はというと、前半はあまり面白くない。主人公の取る行動があまりにも唐突に感じるし、妻である白のクイーンの回想も無駄に思えた。ところが、おおおっ、ラストも近づいてきたところで意表をつく展開になる。しかも二度びっくり!!ここまで読むと主人公がなぜあんな行動を取ったかも白のクイーンの回想も大いに納得がいくようになる。さすがである。

 惜しいのは意外な真相でびっくりした後、結末に至るまでがやや冗長に感じる。はらはらさせるサスペンスになってはいるがちょっと弱い。もう一捻りがあったら文句無かったのだけど。結末も一応はハッピーエンドだが後味が良いわけでもない。傑作ではないが読んで損はない一冊。7点。
 

西澤保彦「実況中死」 2000年11月13日

 神麻嗣子シリーズの長編2作目。短編を入れると時系列的には5番目の話になるらしい。その筋(ってどの筋?)ではけっこう有名らしいこのシリーズだが、私は初めて読んだ(長編第一弾の「幻惑密室」も、「実況中死」の後に出た短編集「念力密室!」も未読である)。今回たまたま隣町の図書館の蔵書が近所の図書館に紛れ込んでいたおかげで借り出すことができた次第(区立図書館の本は区内のどの図書館でも返却できるが、普通そのまま、もとの図書館へ戻される)。

 さて内容は例によってSF設定(この場合は超能力)の下での本格パズラーである。超能力現象に対応するために颯爽と(?)登場するのが超能力者問題秘密対策委員会、略して<チョーモンイン>の出張相談員(見習)で、一風変わった美少女、神麻嗣子だ。もろに少女マンガか同人誌好みのキャラクター。はっきり言ってキャラクターにばかり重点を置いた小説(マンガもだけど)は好きではないが、本作品はキャラに寄り掛かることなくちゃんと謎解き小説になっているのでまったくOK。で、謎解きに対する評価はというと、、見事に騙されました、はい。でもひとつのピースだと思っていたものが実はバラバラにして別の場所に当てはめるべきピースだった、って感じなのだから無理もない。こんな複雑なパズルは普通解ける方がどうかしてるでしょう(まあ負け惜しみだが(++)/)。 それに振り返ると多分にご都合主義的なところも。。というわけで複雑なパズルも登場キャラも含めてなかなか楽しめた作品だった。このシリーズ、次はいつ読めるだろうか(<買いなさいって) 7.5点。
 

小峰元「プラトンは赤いガウンがお好き」 2000年11月10日

 私の推理小説コトハジメの作家のひとりが小峰元だったことは以前にも書いた。本書も十数年ぶりの再読になる。その推理小説読書歴の中で今でもよく覚えている最初のトリックが本書に使われていたトリックだった。

 もっともそんな大したトリックではない。犯人が意図したものでもない、ただの錯覚なのである。なぜそんなトリックをずっとよく覚えていたかと言えば、おそらくは推理小説のトリックと言うよりは理科的な知識として印象に残ったからである。その後の生活の中で実際に体験したからでもある。例えば高校のクラブ合宿で夜、薄暗闇の中UNOやトランプのカードゲームに興じたときに「ああ、なるほど」とそのトリックを思い出して感心したものだ。

 そんなわけで題名にも使われているメイントリックに関してはよく印象に残っていたのだが、内容の方はサッパリ忘れていた。おなじみのユーモア青春推理小説で、主人公ほか主要な登場人物が奔放な高校生であるのもいつも通りだが、珍しいことに主人公は女の子だった。これも記憶に残っていても良さそうなものなのにまったく忘れてた``r(^^;) でも雰囲気は変わらず、いつもの知的で軽妙な会話が堪能できた。こういう知識とユーモアを自分のものにできると楽しいだろう。今度使ってみようかな、「キミは早乙女花みたいな可憐な感じだね」「シクラメンのごとく優婉だ」なんてセリフ(意外な意味は本書を読んで下さい)。7点。
 

東野圭吾「ウインクで乾杯」 2000年11月07日

 まるで三流作家か三流漫画家が本人は洒落たつもりで付けました、という感じで実に陳腐な題名だ(^^;) 最初は「香子の夢」という題で出版されたものを改題したようだが(香子は主人公の名)、どちらにしても題名としてはイマイチ。

 でも東野圭吾である。初期の作品とは言え内容的にそこらの三流作家と同列ということではない。正直なところ東野作品としては決してレベルが高いものではないのだが、一般的に言えば推理小説として無難なレベルには仕上がっている。満足できない点を挙げるとすると、ストーリーがわりと素直で捻りが効いていないこと(とは言ってももちろん単調すぎてつまらんということはない)や、使われているトリックの完成度が低いことだ。破綻があるわけではないのだけど、いかにもトリックのためのトリックという印象を受けた。まあ本書はBookOffでたったの100円で手に入れたのだから、コストパフォーマンス的にはまったく問題ないv(^^)。6.5点。
 

岡嶋二人「どんなに上手に隠れても」 2000年11月05日

 岡嶋二人の誘拐ものだ。もうそれだけで面白そうV(^0^)

 書かれたのが1984年と古いため、赤電話に10円入れたりする場面が何となく懐かしい。身代金の一億円ってなんだ大したこと無いじゃんとか思ったりもするが、このころは宝くじでもまだ一億円は無かったっけ?

 誘拐は小説ならでは(?)の鮮やかな手口で遂行される。もちろんよくよく考えればこの通りに実行するのは非常に困難であることが分かるし、警察だってもっと賢いだろう。でも真似したらうまくいくんじゃないかと思わず考えてしまわせる上手さがある(ホントに真似する人が出ないのか?)。そして最後に明かされる真相。やはり岡嶋二人はトリックだけではなく小説の作り方が本当に上手い。7点。
 

スティーヴン・キング「ミザリー」 2000年11月03日

 有名な作品だし、作家も超有名であるがS・キングを読んだのはこれが初めてだ。翻訳ものの常として若干の読みづらさを感じた(作者のせいではないだろう……たぶん)。物語は事故に遭った売れっ子作家がファンを名乗る女性に監禁・脅迫され、彼女ひとりのための小説を書かされると言うものだ。

 
 異常なファン心理などというのは耳にすることはあっても普通の人にとってはあまり縁がない世界であるが、作者にとってはわりと身近な世界なのだろうか。作中の売れっ子作家の心理についてもなかなか理解しがたい場面もあったが、これもデフォルメしてはいるだろうが、自身が売れっ子作家の作者にとって共感できる世界なのだろう。そう思って読むと普段接することのない世界をかいま見た気がして興味深い。ホラーとしては盛り上がりに欠けてもうひとつ。6.5点。
 

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