読書日記

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宮部みゆき「人質カノン」 2002年02月27日

 あれ、やっぱり前に読んだことあった。そんな気がしたんだよなあ。でもまた読む。いや、ホントに読んだことあったんだっけ。最初の話「人質カノン」は結構よく覚えていたけど、後の話はあまり記憶にない。もしかして「人質カノン」だけどこか他に収録されているのを読んだのかしらん。むー、でもたぶん忘れているだけなんだろうなあ。山あり谷ありの人生を描く短編集
 
「人質カノン」ガラガラを持ったコンビニ強盗の正体は?真相は切ない。でもいつもフルフェイスのヘルメットというのはやっぱり怪しいぞ。本書では唯一ミステリっぽい話。7.5点。
「十年計画」男に裏切られた女の遠大な殺人計画の結末は?人生色々、山もあれば谷もあり、日はまた昇る。7.5点。
「過去のない手帳」たったひとりの名前だけが書き込まれた手帳の忘れ物。それを拾った五月病で悩む大学生は・・。6.5点。
「八月の雪」いじめで事故に遭い生きる意味を疑う中学生が、亡くなった祖父の過去を通して自分を見つめ直す。7点。
「過ぎたこと」探偵が電車で偶然見かけたのは5年前の依頼者候補。当時いじめ(また!)を受けていた彼だった。6.5点。
「生者の特権」いじめ(またまた!)を受ける小学生と夜中に偶然行き会ったのは、自殺場所を探していた女。ふたりのちょっとした冒険で生きる意欲を取り戻す。7.5点。
「漏れる心」思わず嫉妬してしまう程の恵まれた人生を送るお金持ちの奥様。ところがその影には・・。7点。
 

西澤保彦「異邦人 fusion」 2002年02月23日

 読み始めてまず感じたのは、西澤作品としては随分と静かな幕開きだということだった。主人公の心情が前面に出されながら、一人称でたんたんと語られる。そして里帰りの途中、主人公は二十数年前の世界へ滑り落ちる。父親が殺されるという事件が起こる直前の世界へ。
 
 タイムスリップと言うことで、今回も西澤保彦の十八番であるSF設定と言えなくもないが、これまでとはちょっと違う。今までのSF設定では大概、超常現象は登場人物にとっては既に馴染みのあるものだった。ところが今回それは主人公の身に突然起こる。それにタイムスリップという現象も西澤オリジナルの奇抜なものではなく、小説では結構ありふれている。というわけで本作品は特殊な設定下でハラハラワクワクな謎解き物語を楽しむと言う趣向ではない。実にしっとりとした味わいの物語に仕上げられていた。
 
 オープニングで感じた印象は結局読み通しても変わらず、この雰囲気は彼の作品の中では異色と言えるだろう。タイムスリップ現象は一応謎解きにも関わるのだが、物語にあまり大きな比重を占めるものではない(真相は途中で予想できた)。本作品のテーマは性と人間性そして家族愛だろう。ラストはハッピーエンドで気持ちよい。7点。
 

若竹七海「八月の降霊会」 2002年02月19日

 とある屋敷に人を集めて開かれた降霊会。集まった人たちも最初どういうメンバーなのか定かではない(もっと気にする登場人物がいても良さそうなものだが)。しかし、最初の降霊会で霊媒師の口を通して語られた話からは、どうやらいくつかの古い事件に関わる人が集められているらしいのだが。。
 
 巻末の解説氏は絶賛しているが、どうも構成といい人物設定といい不満点が多い。また最初から最後まで作り物めいた印象が強かった(そりゃ小説=作り物なんだけど)。現実的なミステリと神秘的なオカルトを行ったり来たりで、最終的に話がどちらに落ち着くのかも読んでいて気になったが、さてこの結末はどうか。人によって好みが分かれそうだが私はやはり不満。もっと良い作品をものしている作者だけに、若竹作品としてはあまり評価できない。6点。
 

大沢在昌「灰夜 新宿鮫VII」 2002年02月14日

 新宿鮫シリーズの八作目に当たる作品だが、通し番号はVIIである。どうやら本作品と同じ時期(多分ちょっと前)に刊行されたハードカバーの「風化水脈」は番外編という扱いになるようだ。
 
 いきなり鮫島が拉致監禁されている場面から始まる。今回の舞台は最初から最後まで新宿ではない。鮫島が現在の境遇に至った理由の一つは、かつて自殺したキャリアの同僚・宮本から預かった文書にあることはシリーズの最初から書かれている。その宮本の7回忌で福岡の片田舎を訪ねた鮫島がトラブルに巻き込まれる。その文書をめぐって公安警察の監視を受ける鮫島だが、さらに地元のやくざや国家的な謀略までもが絡み合って思わぬハードな旅行になってしまったのだった。
 
 本筋とは関係ないが、宮本の遺した文書とはどの様な内容なのだろう。警察組織を根底からひっくり返すような情報が含まれていて、警察組織は機会さえあれば仮に犯罪を犯すことになっても闇に葬ってしまいたいらしい。しかしむやみに公表もできないものなのか、鮫島は長年自分だけで持ち続けている。うーん、ぜんぜん想像がつかないぞ。たぶん作者もまだ考えていないのでは無いかとおもうが。。その時が来るのかどうか分からないが、真相が明らかにされるのはシリーズが完結するときだろう。
 
 とりあえず、その大きな謎は置いておいて、本作もやはり大いに楽しめる作品だった。各々の思惑が絡み合い大きな事件に発展してしまうのは、読後によく考えてみるとけっこうご都合主義的な部分もあるのに気付くのだが、読んでいる最中はそんなことお構いなしに面白かった。8点。
 

太田忠司「新宿少年探偵団」 2002年02月09日

 太田忠司作品は初めてだ。本書は最初はノベルスで出たようだが、その表紙絵に恐れをなして買わなかったことがある。たしかマンガ調の絵があしらってあり、とうてい大人が買うようなデザインではなかったのだ。で、今回BOOKOFFで文庫版を見かけたら、なぜかこちらは表紙が渋く仕上がっていた。ということで早速購入した。
 
 内容はどうやら、都内の(ちょっと癖のある)中学生4人が「少年探偵団」となって、悪の組織(?)と戦っていくというお話になるようである。なるようである、というのはこの後もシリーズで続いていくらしいからだ。少年探偵団というのはかの有名な江戸川乱歩のそれを意識したものだ。というか本作品は乱歩へのオマージュ作品である。
 
 面白くないわけではないのだが、やはりその設定のリアリティの無さや単純な展開ゆえ作品にのめり込むことはできなかった。ノベルス版の表紙が表すとおり良くも悪くも小中学生向きだろう。もっとも書き方から見て小学生向けではなさそうだし、かと言って今時の中学生だと馬鹿にしそうである。乱歩の時代ならともかく現代で髑髏王っていうのもいかがなものか。ちなみにジャニーズアイドルらの出演で98年に映画化されているらしいが、そちらはますます見る気にならないなあやっぱり。でもこの手の話は小中学生向けのマンガに仕立て直せば違和感もなくなるかもしれない。もしかしてもうあったりするだろうか? 6点。
 

東直己「探偵はバーにいる」 2002年02月07日

 北海道は札幌、ススキノを舞台にしたハードボイルド(っぽい)作品。主人公は作者と同じく北大を中退した28歳の男、まだ若い。繁華街を根城に気ままに暮らす不良青年といった感じで、探偵というか、何でもトラブル処理係と呼んだ方が適切な印象だ。それでもどうやら人捜しの実績があるらしく、かつて所属していた大学の研究室の後輩から失踪した恋人の捜索を頼まれる。
 
 ハードボイルドっぽくちょっと洒落てみました、という文章は、上滑りしている部分もないではない。とは言え全般に文章は下手ではない。デビュー作であることを考えれば上出来だろう。気乗りしないまま失踪人を探し始めるうちに、背後にいろいろありそうなことが分かってきて、結局行き着くところまで行ってしまうという展開である。
 
 殺人とかは出てくるが、小説にしては身近でありふれた事件に終始して、盛り上がりには欠ける。主人公の魅力も今ひとつだった。しかし巻末にある解説がわりの対談を読むと、このシリーズは扱う事件は今後より社会的になり、主人公もグッと成長して行くようだ。そう言えば大沢在昌のアルバイト探偵シリーズがそんな感じだった。人によって好みは違うだろうがたぶん私はこの後の方の作品の方が好きになれそうな気がする。7点。
 

岡嶋二人「タイトルマッチ」 2002年02月01日

 ボクシングの元世界チャンピオン最上永吉の息子が誘拐された。犯人の要求は義弟でもあるジムの後輩・琴川三郎が次の世界タイトルマッチでノックアウト勝ちをすること。犯人は誰なのか。そして真の目的は。
 
 事件の発生は試合の二日前。しかも三郎は怪我を負ってしまう。タイムリミットまでわずかな時間で捜査陣の懸命の捜査が始まる。最上らも周囲に三郎の怪我を悟られず試合まで持って行かなくてはならない。緊迫感あふれる筆致で描かれるサスペンスはさすが「誘拐ものの岡嶋二人」と言われるだけのことはある。ノンストップストーリーから目が離せない。
 
 はっきり言えばメインになるストーリーは大したことはない。読み終えて事件のすべてが明らかになったとき、都合の良い偶然が多いし、真犯人の動機もここまで重犯罪を重ねるものとしては弱いと感じた。しかしそれでも本作を傑作ならしめる理由は、たとえメインの骨組みが貧弱でも肉付けが非常にうまいところにあると思う。岡嶋二人の職人技が冴えた一冊である。7.5点。
 

泡坂妻夫「亜愛一郎の逃亡」 2002年01月29日

 亜愛一郎シリーズの三冊目にして最後の作品集。第一冊目の「亜愛一郎の狼狽」は先日読んだが、二冊目は未読。このシリーズは全般にリアリティに欠けて無理のある話も多いのだが、無意味な記述がほとんど無くて一見さりげない記述が伏線になっている。そのためトリックには失望しても小説自体は結構楽しめてしまうというまことに妙な魅力を持っている。
 
「赤島砂上」先入観があるとものが見えないと言う話。しかしすごい島だ。6.5点。
「球形の楽園」>大がかりなトリックだが、痕跡がもっと残りそうなものである。6点。
「歯痛の思い出」上岡さんだけどうしてフルネームで呼ばれるのだろうか(←本筋に関係ない感想)。6点。
「双頭の蛸」その拳銃トリックはさすがに無理なのでは。警察もそう簡単に見過ごさないだろう。6点。
「飯鉢山山腹」飯鉢山は東京にあるのだろうか東京以外にあるのだろうか?(←また本筋に関係ない感想) 6点。
「赤の賛歌」赤色を愛する異能の大物画家は堕落したのか? 6.5点。
「火事酒屋」火事好きの男に掛かった放火の疑い。そして殺人。6.5点。
「亜愛一郎の逃亡」これにてシリーズ完結。ちょっとだけ謎もあるが、ほとんどシリーズ全体のエピローグと言える作品だ。これだけ読んでも面白くないだろうが、シリーズの最終回として読めば満足感がある。亜愛一郎の秘密が明らかになって、それは意外と言えば意外だし、ぴったりにも思えるのが不思議。7点。
 
 各話の点数は低空飛行が続いたが、シリーズ二冊目も手に入ればやはり読んでみたい。ちなみに一冊目はたしか創元推理文庫だったが今回のは角川文庫だった(いずれも古本で購入)。創元の方が最近の発刊なのかな。
 

西澤保彦「複製症候群」 2002年01月25日

 世界中に突如現れたストローと呼ばれる謎の巨大円柱。生物がその壁面に触れると、オリジナルと寸分違わぬ、記憶さえもそっくりそのままのコピーができてしまうのだ。そんな設定でさらにお約束の殺人事件まで起こる。ストローに閉じこめられた高校生たち+アルファの運命は。殺人事件の真相は。
 
 やっぱり西澤保彦はコレ(SF設定本格パズル)だよなあ、と改めて思う。細かいことを言わねば、理屈抜きで面白いのだ。この作者は「美しい論理」にとくにこだわりを持っているようだが、そっちの方では必ずしも感心しない。登場人物の人間描写も優れているとは言い難い。それは本書でも感じたことで、こういう場面でその対応は不自然じゃない?という個所がいくつもある。でもこの作品ではそれらはマイナーな問題にしかならない。次から次へとテンポ良く繰り出される事件にただとにかく引き込まれてしまう。小説は読後の印象が重要なのは当然だが、読んでいる途中のヒキの強さというのも重要だと思う。本書はその点、十分合格点である。比べてラストがちょっと弱い気もするが、総じてとても楽しめた一冊だった。ちょっと甘めの7.5点。
 

北村薫「リセット」 2002年01月23日

 「スキップ」「ターン」に続く"時と人の三部作"のラストを飾る作品。
 
 前半、第一部は戦中時代に生きるある少女の回想。物心付いた頃から女学校時代まで一人称で描かれている。これが本書の半分近くまで続く。戦時中の重苦しい雰囲気はよく伝わってくる一方、これといった事件があるわけでも無い。語り口は淡々として、ただ確実に時が刻まれていく。まだこの先どう展開するのかまったく分からない
 
 第二部の時代は現代、ある一家の父親の男性が病気で入院中、ふと思い立ち昔の日記をもとに子供の頃の思い出をカセットテープに吹き込んでいく。まだ戦後の面影が色濃く残る時代だ。これもまた平凡な日常で、特別なことが起こるわけでもない。ただ、大人になった第一部の少女と出会うことになる。この出会いが何を意味するのか。
 
 ここまでふたりの語り部によって語られてきた物語がどんな結末にたどり着くのか。物語はラスト近くになって漸く日常を離れて動き出す。それはおよそ予想できた展開だ。ここからさらにもうひと展開して不思議な、でも心にしみじみとした何かが広がるようなラストを迎える。
 
 正直に言って三部作の締めくくりとしては不満である。個人の日記や回想録として読むならば、人と時代を感じさせ、良くできている。しかし物語としてはどうか。読み方次第ではあるが、期待していたものとは違った。中編か長めの短編に仕上げた方が良かったのではないかという気もする。ただ、あまり短くなってもさらに印象を薄くするかもしれないが。6.5点。
 

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