読書日記

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東野圭吾「予知夢」 2003年04月8日

 不可解な事件を、物理学者・湯川学が科学の視点から謎解きする「探偵ガリレオ」の続編。一見オカルトな超常現象を思わせる不可思議な事件に、湯川が合理的な説明を付けて解決に導く。トリックにも理科的発想が使われている話が多い。ところでどーでも良いことだが、大学の助教授という設定のせいか、なんか湯川が有栖川有栖のキャラ・火村と重なってしまう。でも、(私の印象では)同じ助教授でも森博嗣(あるいは犀川)とは重ならない(^^;) なぜだろう、同じ理系なのに。
 
「夢想る(ゆめみる)」二人は結ばれる運命にあると17年前から信じ込んできた男が起こしたストーカー事件。男は17年も前から彼女を知っていたのか?6.5点。
「霊視る(みえる)」清美の姿を目撃した頃、彼女は殺されていた。メイントリックも細かい伏線もきれいにまとまっている。7.5点。
「騒霊ぐ(さわぐ)」失踪事件と、ポルターガイスト現象。ポルターガイストは如何にして起きたか。7点。
「紋殺る(しめる)」ホテルの一室で首を絞められて殺害された男性。妻の怪しいアリバイ主張。死の真相とトリックを湯川が見破る。7点。
「予知る(しる)」向かいのマンションで起こった自殺事件を少女が目撃したのは、実際の二日前のことだった。ラストに他とちょっと違う味付けがしてある。7点。
 

東野圭吾「ブルータスの心臓」 2003年04月05日

 1989年の作品だから、かなり昔の作品だ。これで文庫になっている東野作品はぜんぶ読んだことになる、かな?たぶん。
 
 工業用ロボットを開発しているエリートエンジニアの末永拓也は上司から、もうひとりの同僚とともにある殺人計画に誘われる。利害が一致する三人は、互いのアリバイを確保しながら死体を大阪から東京まで運ぶという、前代未聞の殺人リレーに取りかかった。しかしバトンを受け取ってみると。。。
 
 意外な展開と、謎が謎を呼ぶ緻密な構成が光っている。犯人と刑事の両者の視点が取り入れられているが、さらに謎の人物の存在が示唆されて、どう決着するのか最後まで読者の興味を引きつける。物語の展開上、たとえば刑事の目の付けどころが良すぎる!とか、そういう不自然さがわずかばかり無いでもなかったが、それもあり得ないと言うほどではなく、物語の質を損なうような欠点ではない。サスペンスとしてもミステリとしても傑作といって良いだろう。ただ残念なのが物語の締めくくり方だ。破滅型のラストシーンなのであるが、あっけないというか、なんというか。すべての謎には決着が付いているのにもかかわらず、尻切れトンボになったような感じを受けてしまった。ここでもうひと展開があれば大傑作になったと思うのだが。7点。
 

高千穂遙「ダーティペアFLASH(1) 天使の憂鬱」 2003年03月31日

 もともとの「ダーティペア」シリーズの基本設定は引き継ぎつつも、様々な設定を一新して全く別の話として始まったFLASHシリーズの一作目。それにしても文庫本の表紙がむちゃくちゃマンガチックである。女子中学生ならば自然に買えるだろうが、成年男子には相当ハードルが高い。。。ということもあって手が出なかったFLASHシリーズであるが、古本で購入してみた。しかしやはりこの絵は恥ずかしい。時々出てくるイラストページは電車の中で読んでいるとき、つい隣の目が気になってしまう。ちなみに表紙はカバーを掛けて読んでいた
 
 オリジナルシリーズとはだいぶ趣が変わっている。表紙の絵に合わせたのか、文章がこうだから絵もああいうのを採用したのか分からないが、良くも悪くも文と絵はマッチしていると言えるだろう。地の文には時折作者の自己つっこみが入ったりしてノリが軽い。最後の章に至っては作者が出突っ張りで、ほとんどメタ小説である。オリジナルシリーズは言うまでもなくSF作品であった。しかしこの新シリーズは、いや一応はSFであるのだが、どちらかと言えばSFと言うより何でもありという感じである。うーむ。お話としてもとにかく、なんだか分からない妖魔と戦って終わりで、これといって印象に残らない。本書は新シリーズのプロローグみたいな位置付けらしいが、そのためなのか。6点。
 

小峰元「ソクラテス最期の弁明」 2003年03月27日

 小峰元というと青春小説のイメージがある。さらにユーモアミステリのイメージが強い。本書は主要登場人物こそ高校生だが、単純に青春小説と言うにはいささか趣を異にし(裏表紙には青春推理と書いてあるけど・・)、ユーモアに至ってはほとんど影を潜めている。これまで読んだ他の作品の中にも結構シリアスなものがあったりしたので(例えば「ソロンの鬼っ子たち」とか)、作者がユーモア小説一辺倒でないことは知っていた。けど、それらは後期の作風かと思っていたら、本書は「アルキメデス」「ピタゴラス」に続くデビュー三作目である。
 
 というわけで、ユーモアは無くシリアス、いやそれを通り越して虚無的な雰囲気さえ漂う作品だった。高校・受験・大学、それに加えて芸能界。どの社会も息が詰まりそうな灰色の現実を強調している。この作品が書かれた時代である昭和40年から50年あたりの世相を反映しつつも、それをさらに斜めから見てデフォルメしているような感じだ。
 
 物語は、海水浴場のボートが転覆してバーのママが溺死した事件から始まる。ボートに同乗していた高校生が主人公かと思いきや、個性的というよりはアクが強い友人達や塾の先生などが次々に登場し、とくに誰が主人公というわけではないようだ。そしてボートの事件から始まった一連の事件の真相が分かったところで、さらにもうひと展開が用意されている。ただ、意外性はあるのだが、それまでの話に付け加わる必然性は薄いし、ちょっと荒唐無稽な気味があるのが残念だ。6.5点。
 

黒田研二「ペルソナ探偵」 2003年03月21日

 作家志望者が集まって同人誌活動を続けるグループ。しかしグループ内のコミュニケーションはすべてインターネット上のチャットルーム内で行われ、メンバー同士は互いに本名も連絡先も知らない。
 
 各章が同人誌メンバーの作品という作中作の構成になっている。ただしそれらの作品は完全なフィクションではなく、かつてチャットルームで話題として取り上げられ、そこで謎が解決されたりした実体験をドキュメンタリー風に仕上げた小説だった。そして最終章ではそれまでの物語を下敷きにして、初めて顔を合わせたメンバーに衝撃的な事実が待ち受けていた。
 
 ミステリ、とりわけトリックにこだわりを持つ作者らしく、トリックがふんだんに使われた作品である。しかし正直に言えば、思わず膝を打つような鮮やかさには欠けていた。しかしそれより気になったのは人物造形の不自然さだ。そこでそんな表情はしないだろう、とか、その場面でふつうそんな行動は取らないだろう、といった不自然さが所々に見られた。まあ本書が黒田研二氏のデビュー2作目であることを考慮すれば、こんなものかとも思う。私はこれで読むのは3作目なのだが、作者はデビュー以来結構なペースで新作を上梓している。そのバイタリティに加え、人間観察を徹底すれば、大いに化ける可能性があると思う。今後の活動にも期待したい。6.5点。
 

岡嶋二人「殺人!ザ・東京ドーム」 2003年03月18日

 巨人・阪神戦で満員の東京ドーム。5万6千人もの人がひしめく中、先端に毒物を付着した矢を使った無差別連続殺人事件が発生する。岡嶋二人の1988年発表の作品。
 
 物語は、登場人物の間で視点を次々に変えながら進む。中心になるのは連続殺人犯人の久松敏彦。ちょっと危ない雰囲気でぱっとしない27歳の男性である。これに加えて、もともと毒物を日本に持ち込んで事件のきっかけを作った中年男性とその仕事仲間、連続殺人事件に便乗して一儲けをたくらむカップルなどの思惑が絡み合って物語は進む。
 
 犯人は最初から割れており、犯人にしてもほかの人物達にしても、何を考えて行動しているのか最初からはっきりと書かれている。従って本書は、謎を秘めながら進んで最後にそれが解き明かされるというようなミステリではない。しかし当然ながらそれぞれの人物達の思い通りには事が運ばず、読者にも先の展開が読めないため、ページをめくる手が止まらないという上質のサスペンスに仕上がっていた。7.5点。
 

菅浩江「アイ・アム I am.」 2003年03月15日

 病院で覚醒した「ミキ」は医療看護ロボット。しかしこの世に誕生したばかりのはずのミキにふと蘇る古い記憶。日常の医療活動、そして患者との触れ合いの中で、ミキの心は揺れ、「自分探し」が始まる。
 
 近未来が舞台のSFということで、「永遠の森 博物館惑星」に通じるものがある。SF作品であることが作品の枠組みを作っているのだが、作品で表現しようとしているのは時代もSFも関係ない人間の真理である。大げさかな。いや、でも確かにそんなメッセージを受け取った気がした。
 
 これも前回読んだ本に続いて、祥伝社文庫の書き下ろし中編シリーズ、いわゆる400円文庫シリーズの一作である。400円文庫を読むたびごとに書いていた気がするが(←しつこい)、字も大きく余白も大きいこの文庫は、昨今の文庫としては安い400円とは言え、内容量と比べてどうも割高感がある。しかしこの作品はアタリだ。400円の価値は十分にある。菅浩江の代表作に数えても良いのではないだろうか(って自分はそれほど菅作品を読んでいないのだけど)。7.5点。
 

鯨統一郎「CANDY」 2003年03月13日

 ふと目覚めると、そこが何処で、なぜ自分がそこにいるのか分からない。それどころか自分が何者なのかさえも分からない。そんな不可思議な状況から始まる物語。祥伝社文庫の書き下ろし中編シリーズ、いわゆる400円文庫シリーズの一作で、軽く読むのにぴったりの作品だ。
 
 推理小説とすればそれほど特異な始まりではない。しかし。そんな不思議な謎を解き明かしていく推理小説かと思いきや、まったくぜんぜん予想も付かない展開が待っていた。珍しい二人称で書かれているこの作品の「あなた」が迷い込んだ世界は、駄洒落と不条理に満ちた世界だった。「あなた」がそのひとつを持っている、願いを何でも叶える力を持ったCANDY(キャンディ)を巡り、日ペンの巫女ちゃんを頂点とする牙民族と、ダイオ鬼神の一派が争っている世界である。この非論理の世界で、ノンストップの抱腹絶倒ストーリーが展開される。
 
 はっきり言ってストーリーはあって無いようなお話だ。ただただ笑いを誘うのみである。そしてはっきり言ってその種の作品は私の好みではない。そう、それにもかかわらず、結構楽しめてしまったのだった。おそらく独りよがりのナンセンスなお笑いではなかったところが、うまくツボにはまってしまったのだろうな。7点。
 

加納朋子「虹の家のアリス」 2003年03月11日

 脱サラ私立探偵・仁木順平と、押し掛け探偵助手・市村安梨沙が巡り会う身近な事件と謎を描いた短編集。本書は「螺旋階段のアリス」に続く2冊目の作品集になる。
 
「虹の家のアリス」実際には起こりそうもないけど、ほのぼのとさせる結末が良い。また数々の伏線など細かい仕掛けが上手い。7点。
「牢の家のアリス」赤ちゃん誘拐事件。仁木の探偵事務所には珍しい大事件だったが。その真相は。7点。
「猫の家のアリス」飼い猫「ABC殺人事件」。ラストの謎解きは心にトゲを残すが、もう一つのラストで救われる。6.5点。
「幻の家のアリス」幼少時の安梨沙の謎に迫る一編。6.5点。
「鏡の家のアリス」しっくりこない部分は残るが、どんでん返しにはやられた。この本のテーマであるらしい「家族」がもっとも強調された物語。7点。
「夢の家のアリス」花泥棒の事件は脇役で、本書の総まとめとして位置付けられるお話。6.5点。
 

真保裕一「ダイスをころがせ!」 2003年03月05日

 2000年1月16日号から2001年10月7日号まで「サンデー毎日」に連載されていた作品である。失職中の元商社マン駒井健一郎が、高校時代の友人で新聞記者を辞めて衆議院選挙に立候補を目指そうという天知達彦の参謀役として奮闘する。フィクションではあるが、小渕首相の死去など連載開始後の事件も含めた実際の政治の流れに沿って現実社会を舞台にしている。同時に、現在の政治状況に見られる問題点やおかしな点を、登場人物らの口から分かりやすく語らせている。これは作者自身の言葉でもあるのだろう。
 
 例えばこんなセリフがある。「リクルート事件を契機に、政治改革が叫ばれ出したけど、いつの間にか選挙制度改革にすり替わって、政党交付金なんてものを勝手に税金から受けられるシステムを作ってしまうんだから、政治家っていうのは強かだよ」そうなのだ。あのときの政治改革も、新党ブームも、今の小泉改革も、最初の期待とはどんどん形が異なってきて、実質的には改革にならずに終わってしまう。そればかりか改悪したことが改革しましたってことになってしまう事さえある。そんな状況を打破するために、「有権者が握っているダイスをころがせ」と作者は主張する。一票が大事なのだと。「選挙は、政治家の姿勢が試される時なんかじゃない。有権者である国民の姿勢が試される時なんだ」
 
 もちろん、政治の世界の問題を語るだけではなく、小説としても読み応えがある。いや、正直に言えば、前半は小説らしい面白みにわずかながら物足りなさも感じたし、連載小説だったせいか、物語全体がカッチリまとまったと言える程の完成度の高さは無い。しかし終盤には、前半で蒔かれていた伏線がようやく芽を出し一気に花を咲かせ、スリリングな展開を楽しませてくれた。7.5点。
 

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