読書日記

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有栖川有栖「モロッコ水晶の謎」 2005年04月12日

 臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖の国名シリーズもとうとう第8弾である。4編を収録。
 
「助教授の身代金」前半のいわば問題編はパズル構築が優先されて小説としての面白味に欠けているように思う。しかしラストの「どうやって真相を見破ったか」という部分が上手くてニヤリとさせられる。7点。
「ABCキラー」アルファベット順に殺されるというクリスティに本歌取りした作品。必然とは言えない要素も多くて、真相の説明はちょっと苦しいかな?6点。
「推理合戦」4ページあまりのショートショートで、息抜き的な作品。読者も推理可能なストーリーなら良かったのだが…。6点。
「モロッコ水晶の謎」不可能と思われる状況での毒殺事件の謎に挑む。真相はしかし特殊な心理に依存しており、うーん、スッキリはしないなあ。6.5点。
 

五十嵐貴久「交渉人」 2005年04月07日

 この作者の本を読むたびに毎回書いている気がするが、やはり今回も書いてしまう。なんて作風が広いのか!!本当に同一人物が書いているのだろうか。実は複数の作家によるプロジェクト名だったりして。本気でそんなことも考えてしまう。細かいところまで気にすれば新人作家にありがちな瑕疵も見つからないことはないが、ともかく魅力いっぱいの作品群は今後も大いに期待させてくれる
 
 本書は真保裕一が得意とするようなタイプのサスペンス仕立てである。「交渉人」とは、ハイジャックとか立てこもり事件などに際して、犯人とネゴシエーションを行うプロフェッショナルである。交渉人は高度な心理理論や話術を駆使して、事件解決に導く。「お前は完全に包囲されている」「お母さんが泣いているぞ」なんてのは古いのだ。現在の日本の警察にこういう人が実在するのかどうかは知らないが、最近けっこう知られるようになった存在だろう。大勢の患者と医者・看護婦を人質にして病院に立てこもったコンビニ強盗3人組みと「交渉人」のスリリングな駆け引きが本書の前半の読み所である。
 
 そして終盤、事件は思わぬ展開を見せる。逃亡を図った犯人の消失。彼らはどこへ消えたのか?そして事件の意外な真相が明らかになる。前半で仕掛けられた伏線がけっこう分かりやすかったので半ば気づいてしまったのは残念だが、それでもなお意外性のある真相だ。また、ここで作品のテーマがガラリと変わってしまうのには若干とまどってしまったが、それはそれで読み応えがあるテーマであった。結局、エンターテインメント性とテーマ性、どちらを取ってもたいへん優れた作品である。7.5点。
 

加納朋子「スペース」 2005年04月04日

 加納朋子ファンには待ちに待った作品だ。『ななつのこ』『魔法飛行』に続く、久しぶりの駒子シリーズの第三弾。ということで冒頭「はじめに」には作者から、できれば前の二作から順番に読んでもらいたい旨が書かれている。もちろん本書だけでも独立した物語なのだが、たしかに前作を知っていた方がより楽しめるだろう。しかしこう書いている自分は、前作は一応読んでいるのだが、いかんせん昔すぎてほとんど忘れてしまっていた。機会があったら再読しよう(できれば本書の内容を覚えているうちに…)。
 
 収められているのは中編作品がふたつ。まったく別の話というわけではなく、後半の作品は前半の作品を別の視点から描いている。題名も「スペース」と「バックスペース」。しかも思いがけないところでもつながっていたりして…。
 
 ぜんぶ読んだ感想としては、本作はミステリと言うよりは恋愛物語であり、個人のアイデンティティを確立して行く物語である。最初の話「スペース」はまあ謎解きが主体と言えるが、終盤まで何が謎になっているかも分からない。また、先に書いた「思いがけないつながり」や、あり得そうもない偶然の連続はちょっとできすぎの感がある。がしかし、それはともかくだ。秀逸なのが作者の優しい視線とそれを描写する優れた文章である。ふんわりとした暖かい気持ちにさせる、加納朋子の持ち味全開の作品だった。7点。
 

東野圭吾「殺人の門」 2005年04月01日

 歯科医の息子として生まれ、少なくとも外から見たら何不自由ない恵まれた少年時代を送っていた田島和幸だったが、やがて家庭は崩壊し、底辺の人生を歩み始める。小学生時代から青年時代までの和幸の半生記のような小説である。
 
 主人公・和幸の不幸の源は、小学校時代からの付き合いであるひとりの人物にあるのだが、それにしても本人の対応もまずい。自業自得といったら言いすぎであるが、身から出たサビ的なところはある。決断力が無く、ようやく下した決断は必ず間違っているというような性格をしているのだ。また小学生の頃ならともかく大人になってからも分かりやすい嘘に簡単に騙されてしまう。不幸な人が不幸になる理由というのは、現実にはこんなものなのかも知れないが、それを小説で延々と読まされてもなあ、と感じてしまう。どうせならどんなに賢い人間でも欺かれてしまうような落とし穴を描いて欲しい。そうでないと主人公に共感もできないし同情心さえあまり湧かない。
 
 題名からは、殺人に対する強烈な感情などが描かれているのかと予想していたが、実際には主人公が中学生時代に見せたのが一番殺意を露わにした瞬間で、その後は曖昧で茫洋とした殺意を心の奥底に眠らせているだけであった。結果、ありがちな人物像の描写とありがちな展開にしかならず、これは本作品が連載小説だったことも関係するのかもしれないが、長いわりには物語全体としての起伏に欠けて単調な物語になってしまった。文章自体はさすがに十分こなれていて読みやすいのだが。。6.5点。
 

五十嵐貴久「1985年の奇跡」 2005年03月28日

 五十嵐貴久という作家はどれだけの引き出しを持っているのだろう。これで私が読むのは3冊目になるが、作品ごとにガラリと作風が変わり、同じ作者が書いたとは思えないくらいである。デビューして間もないというのになかなかのハイペースで作品を世に送り出し、作品ごとに様々なテイストを引き出し、しかもどれもが高水準の出来映えときたら、もうただ黙ってシャッポを脱ぐしかない。恐るべし。
 
 さて本作品の舞台は1985年。おニャン子クラブが一世を風靡しようとしている時代である。練習嫌いで「夕ニャン」を見るために早めに練習を切り上げてしまうダメダメ高校生が集まった野球部にひとりの転校生が入部したことで事情が変わる。これまで勝ったことさえ無かった弱小野球部が甲子園を狙える!? しかし受験一辺倒で運動部を敵視するワンマン校長など障害も多かった。極めつけの障害は…。
 
 お約束といわば言え、それが心地よい展開に、小ネタもふんだんに散りばめられたテンポの良い文章。一気読みである。登場人物のキャラがデフォルメされすぎている嫌いもあったが、おニャン子に夢中で勉強は出来ない彼らの青春ストーリーがすこぶる生き生きと描かれている。実に楽しい小説だった。楽しい小説は大好きである。7.5点。
 

鯨統一郎「タイムスリップ明治維新」 2005年03月26日

 「タイムスリップ森鴎外」の続編である。いつの間にか第三弾「タイムスリップ釈迦如来」まで出ているらしい。前作の女子高校生・麓うららが突然明治維新前夜の日本にタイムスリップしてしまう。
 
 ストーリーは単純である。うららがタイムスリップした先には25世紀からやって来た悪党がオリジナルの歴史を書き換えようとしていた。歴史が変わると元の時代に戻ることができなくなるうららは、歴史の改変を阻止しようと同じく25世紀からやって来た「森の石松」らと、史実通りの明治維新を起こすべく奔走する
 
 下敷きの一つは「邪馬台国はどこですか」で作者が披露した独自の歴史解釈なのだが、基本的には教科書通りの明治維新の流れに沿って物語は進む。また、その過程ではとにかくこの時代の大物達がばんばん登場するあたりが、この時代の歴史ファンには魅力的だろう。安易なストーリーではあるのだが、小ネタも多く、息抜きに楽しむには十分だ。歴史をなぞるだけではなく、オリジナルストーリー部分にもっと力を入れればさらに面白くなったと思うのだが。6.5点。
 

加納朋子「掌の中の小鳥」 2005年03月23日

 初出が1995年。加納朋子の古い作品はもう全部読んだつもりになって見落としていた。お洒落な連作ミステリ短編集だ。いわゆる「日常の謎」路線で殺人などは出てこないが、決して侮れない。結末こそ諸手をあげてすべて納得とは行かないが、登場する謎の数々はとっても不思議でたいへん魅力的である。
 
 物語の中心になるのは圭介、そして紗英のふたりだが、エッグ・スタンドのバーテンダー泉さんやそこの常連客らしい老紳士などキャラクターも揃っている。優しくも鋭い視線で書かれたお話は、しみじみとしたり、ときにはほのぼのともするが、意外とシリアスでシビアな面も持っている。そして、示唆に富んでいたり、あるいは直接心に響くような素敵な言葉たちが素晴らしい。作者の豊かな感性が溢れ出ている。
 
 本書の冒頭に倣ってこの作品集を色で表現すると(ナントカブルーというぴったりの名前は分からないけど)紫がかった濃いめの、しかし透明感のある青、かな。7点。
 

西澤保彦「猟死の果て」 2005年03月10日

 古本で購入してから長らく積ん読になっていた本書をようやく読了。1998年作品。
 
 西澤作品の特徴の一つであるが、本書でもやはり、漢字を見ただけでは読み方さえ分からない珍しい名前が多数登場する。どこかで誰かが書いていたことだが、脈絡のない連続殺人事件で被害者には一見何の接点もない。って珍名ばかりだという立派な共通項があるじゃないかあ、と叫びたくなる。もっとも珍名さんは被害者ばかりではない。主な登場人物のほとんどが珍名である。そのせいで作品世界のリアリティを損ねている感じを受けるのは私だけだろうか。まあ、珍名を使うのはある種の配慮の結果かもしれないし、お約束と割り切ればよい話なのではある。でもつい引っかかってしまうのである。
 
 さて本書に大量に登場するのは珍名さんばかりではない。性格が利己的だったり幼児的という人は世の中に多いが、それを究極にして、歪んだ人格がついに壊れてしまったというような人物がたくさん出てくる。この手の人がここまでひしめいているとやはり何というかリアリティに欠ける気がする。とは言え、そのおかげで複雑なパズラーを成立させているのだから、悪いばかりではない。実際、パズラー小説としては(少々のご都合主義的な部分に目をつぶれば)一癖も二癖もある展開と謎解きで、よく出来た作品と言えるだろう。7点。
 

雫井脩介「火の粉」 2005年02月25日

 底の知れない悪意に晒されて、わけが分からないうちに家庭が崩壊してしまったら悪夢である。そんなひたすらに一途で狡猾な悪意がある家族に向けられる。
 
 裁判官・梶間勲は一家皆殺しという凶悪な犯罪で世間の注目を集めた事件の審理を担当する。被疑者の男は自らも傷を負っていた。傷は真犯人に付けられたものであり自分で付けるのは不可能という主張の合理性を重視して、勲は無罪を言い渡す。典型的な冤罪事件と思われた。しかしその2年後、すでに退官して大学教授となっていた勲がその男と再開した時から、悲劇の歯車が回り始める
 
 プロローグでは裁判長としての勲の苦悩が描かれるが、序盤では勲の妻である尋恵の視点が中心となり、中盤から後半にかけては梶間家の嫁の雪見が物語の中心に据えられる。しかし最後には、途中ずっと影が薄かった勲が再び主役となる。この視点の移動がどうも読者が物語に集中するのを若干妨げているように思う。また、序盤に登場する、こちらは分かりやすいもうひとつの悪意(というか人間性の問題だが)に苦しめられる尋恵のストーリーも本筋と微妙に馴染んでいない。というような、どちらかというと技術的な点の問題は感じたのだが、作品全体としては凄みに溢れ、たいへん迫力がある。この作品はサイコホラー的な側面が強いが、実際、相当ハラハラさせられた。しかし一方でそれは、あまりの強烈な悪意の連続で、とくに前半、読むのを辛く感じた。これは完全に好みの問題なのだが、どちらかと言えば愉快で楽しい方が好きである。ということで、愉快なストーリーを好む人には必ずしもお薦めできないが、そうでない人には高い評価が得られるだろう。7点。
 

西澤保彦「いつか、ふたりは二匹」 2005年02月17日

 講談社が出版する“かつて子どもだったあなたと少年少女のための−ミステリーランド”シリーズから。
 
 子供も楽しめる推理小説ということで、主人公は小学六年生の男の子・智己。もっとも小六にしてはかなり大人びていて、あだ名はトモジイ。名前のトモにお爺さんのジイだ。そしてなぜかは知らねど、智己は近所の猫の体に乗り移るという特殊能力を持っている。どうしてかという部分にとくに説明は無く、お約束となっているのは、いつもの西澤保彦流である。人間の嫌な部分をシビアに登場させたりするのも、かなり子供向けにマイルドになってはいるが、これもいつも通り。あといつも通りなのは「このときはまだ知らなかった。それが分かるのはずっと後になってからのことだ。」的なフレーズの多用。いつも以上かも。毎回思うのだけど、どうして作者はこの言い回しがこんなに好きなのだろう。
 
 それはともかく本筋だが、智己が住む町で、動物虐待や子供の誘拐未遂など物騒な事件が起こっていた。気になって町を探索していた、猫になった智己も危うく殺されかける。智己(猫の時の名前はジェニイ)は近所で飼われているセントバーナード犬・ピーターとともに事件を追う。結末はすこし悲しい。子供向けでも、手放しのハッピーエンドにしないところも西澤保彦っぽい。7点。
 

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