読書日記

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コニー・ウィリス(大森望・訳)「犬は勘定に入れません−あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎−」 2005年08月11日

 うーーん。久しぶりに、やっぱり自分は翻訳物が苦手だという事を再認識してしまった…。ヒューゴー賞やらローカス賞やらネビュラ賞やらを受賞している傑作、のはずなのだが、どうにも文章を読み進むことができない。翻訳のためなのか、原文がもともとこうなのか。。盛んに古典を引用していたり、きっと翻訳は原文の雰囲気を正しく受け継いでいるのだろうな。で、きっとこういうのが好きな人も世の中には多いに違いない。でも私はどうも…、苦手だ。というわけで1/4くらいまで読んだところで挫折。もっと腰を据えて時間のある時に読むべき本かな。未読了のため点数なし。
 

高野和明「グレイヴディッガー」 2005年08月06日

 「13階段」で乱歩賞を受賞した作者の受賞第一作。図書館で借りた単行本を読んだが、本作はもうすでに文庫に入ったようで、最近、書店で平積みになっているのを見かけた。
 
 受賞作もハイレベルの秀作であったが、一方で幾分の新人らしさも感じられないではなかった。あるいはそれは、至るところで乱歩賞を意識して書き上げたせいかもしれない。それに対してこの第二作目は作者の自由に書けたのではないだろうか。疾走感あふれる筆致でスッキリとまとめ上げた上に、濃密なストーリー展開で魅せる。第二作目にしてすでにベテラン作家の風格を感じる
 
 八神俊彦は悪人顔のワル。ただ、ワルはワルだが、ケチな詐欺はやっても凶悪犯罪とは縁遠い、人間味を失っていないワルである。過去に、いたいけな子供まで騙したことに罪悪感を持つ彼は、足を洗って生まれ変わるために骨髄移植のドナーとなった。しかし移植手術のために入院という前夜、殺人事件に巻き込まれて犯人として追われる羽目に。しかも事件は猟奇的な連続殺人に発展し、犠牲者には奇妙な共通点が浮かび上がってきた…。
 
 たった一晩の間の息をも付かせぬ展開が見事である。絶体絶命のピンチをしぶとくくぐり抜けていくハラハラドキドキ感とスピード感。刺激的で謎の多い事件。ハードボイルドであり、サスペンスであり、スリラーでもあるという贅沢さ。素晴らしい!厳密に考えればリアリティに欠ける部分はあるのだが、欠点と感じさせない。ただちょっと、最後のアレだけは説明が付かないまま、なのかな。7.5点。
 

殊能将之「キマイラの新しい城」 2005年08月02日

 自称名探偵・石動戯作と助手アントニオのシリーズ。毎回どこへ向かうのか見当が付かないシリーズである。
 
 中世ヨーロッパの城を移築してテーマパークを作った社長に、その城で殺害されたという中世騎士の亡霊が取り憑いたという。この中世の密室殺人事件の真相を明らかにするために「名探偵」である石動戯作に依頼が舞い込むが、事件当時の様子の再現劇が終わった直後にもうひとつの密室殺人事件が起こる。
 
 亡霊が取り憑くという設定以外は案外ふつうの(このシリーズとしては大人しい?)ミステリだった。なんだかだんだんパワーダウンしてきている気がしないでもない。事件のトリックよりも、中盤の、亡霊が取り憑いた社長が都心に向かう途中で、中世では想像もできなかった現代社会の様子に驚き、かつ勝手な解釈をするドタバタが面白かった。もっとも、バイクを馬と勘違いするなど、反応にリアリティは無い。いくら何でも金属の固まりを生き物とは思わないだろう。まあその辺はツッコミどころ満載なのだが、目に入ってくるものに次から次へと様々な想像をめぐらす様子が楽しかった。6.5点。
 

北村薫「ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件」 2005年07月29日

 エラリー・クイーン生誕100年にあたり、巨匠クイーンの遺稿を翻訳したという体裁で描かれたパスティーシュ。同時に、あの『五十円玉二十枚の謎』の解答ともなっている。マニアックと言えばこれ以上はないマニアックな作品だろう。
 
 現実と虚構を織り交ぜながら、来日した、作家であり名探偵でもあるクイーンが幼児連続殺害事件を解決するというミステリである。助手を務めるのは若竹七海氏をモデルにした小町奈々子。彼女がアルバイト先の書店で遭遇した五十円玉両替の謎の真相がまさか連続殺人事件に結びつくとは!
 
 クイーンファンにとっては本書はきっと格別だろう。残念ながら私自身はクイーン作品はほとんど読んでいない似非ミステリファンなので、ちゃんと楽しめるかどうか一抹の不安があった。「六の宮の姫君」みたいに、小説だか評論だか分からない「クイーン論」ばかり展開されてたら面白くないなあ、と思っていたのだが、たしかに「クイーン論」はあったものの心配するほど詰まらないものではなかった。いや、もちろん私にとっては蛇足でも、クイーンマニアにはこの部分こそもっとも読み応えがあるところかもしれない。なんにせよ、マニアにはマニアなりの、そうでない人にもそれなりに楽しめる作品になっていた。もしかしてクイーン入門的にも使える? 7点。
 

浅倉卓弥「君の名残を」 2005年07月26日

 「四日間の奇蹟」で第1回「このミス」大賞を受賞した作者の待望の第2作である。上下二段組みの構成になっており、本の見かけのわりに意外な大作で、もちろん内容的にも大作であった。
 
 幼い頃から剣道道場に通い、高校では剣道部の主将を務める白石友恵。剣道道場の息子で幼なじみの原口武蔵。友恵の親友である由紀の弟・志郎。この三人が、ある日強烈な落雷とともに800年の時を超えて戦乱の世へと運ばれる。そこで三人をそれぞれ待ち受けていたのは劇的で過酷な運命だった。
 
 たいへんハイレベルな傑作でデビューしただけに、もしかして作者は受賞作で力を出し切っているのではないかという不安もあったが、恐るべき第二作を世に出してきた。よくあるように、作者にとって書き易い、受賞作と毛色の似た作品でレベルを維持するのではなく、大胆で挑戦的な作品で再び高いレベルを見せつけてきた。逆に今度こそ力を出し切ってしまったのではないかという不安も覚えるが、きっと凡人離れした底知れぬ力の持ち主というのが正解なのだろう。
 
 雰囲気が前作とまったく異なるとは言え、SF的な設定が根底にあり、しかし描くのは人間そのものであるというところは共通している。また本作で際立っていたのは諸行無常的な世界観である。壮大な大河ドラマ的であり、重要人物であっても死ぬ時はあっけなく死ぬ所などが、「火の鳥」や「ブッダ」などの手塚治虫作品を想起させたのだが、あに図らんや、作者自身が巻末で死生観に手塚作品の影響を受けていることを明記していた。
 
 あえて不満点を挙げると、超越的な存在として「時の意志」が登場する一方、それだけ偉大な力がなにもそんな個人を狙い打ちして虐めるような真似をしなくても良いのにという印象が残った。説明はあえて無かったのだろうが、ここは少し説明を加えて「時の意志」をもっと具体的な存在として描いても良かったかもしれない。あと、歴史物としては致し方ないのかもしれないが、ところどころ「歴史の説明」に傾き「小説」が弱くなってしまう嫌いがあった。しかし手塚の「ブッダ」でもそうであったが、史実に忠実な部分よりも作者オリジナルの物語の方が数倍ドラマティックで心に訴えかける力を備えていた。さて、すでに次作も出ているようである。楽しみだ。7.5点。
 

東野圭吾「黒笑小説」 2005年07月16日

 題名から分かるとおり「怪笑小説」「毒笑小説」の系譜に連なる異色のユーモア短編集だ。「小説すばる」で1999年から2005年までの間に発表された作品を収めてある。本屋に垂れ下がっていた宣伝ポスターの惹句を見てのけぞった。「偉そうな顔をしていても、作家だって俗物根性丸出し!俗物作家東野がヤケクソで描く、文壇事情など13の黒い笑い。」
 
 東野圭吾は乱歩賞でデビューし、推理作家協会賞も受賞した。賞に縁がない作家というわけではない。しかし何度もノミネートされ、いつ受賞してもおかしくないと周りも思っているのに、いまだに直木賞は獲れずにいる。(こういうことは直木賞にはよくあることだが。)そしてどうやら本人もかなり獲りたいと思っているらしい…。ということで、客観的に皮肉ったというよりは作者の複雑な思いがにじみ出ているような気がする文壇系作品が本書の読み所である。「もうひとつの助走」「線香花火」「過去の人」「選考会」の4編がそれで、登場人物も重なっている。ちなみにカバーが“某文学賞の選考結果を編集者と待つ著者”の写真になっている。いやもちろん本物ではなく本書のためにわざわざ撮影したものだ。よくよく見ると作中に出てくる架空の書物まで写っていて芸が細かい。
 
 文壇系以外にもにSFっぽかったり、不条理だったり、珍妙なお話ばかりである。基本的にワンアイデアから起こされたストーリーで、オチではなく設定のところにアイデアがある作品では、オチらしいオチもなく、プッツリと終わってしまっている話も多い。と言うわけで個々の作品の質は高いとは言えず東野圭吾初心者には決してお薦めできないが、東野圭吾ファンなら読んで損はないだろう。6.5点。
 

歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」 2005年07月16日

 以前にも書いたが、歌野晶午という作家は綾辻や有栖川らと同時期にデビューして、優れた作品もたくさん書いてきている割には地味で目立たない存在に甘んじてきたように思う。それがこの作品で一気に知名度・人気が急上昇した感がある。そんな記念碑的作品だ。「このミステリーがすごい!」2004年度第一位になったのをはじめ、「本格ミステリ・ベスト10」第1位「週間文春ミステリーベスト10」第2位など、この年のミステリー・ランキングで軒並み上位をかっさらった超話題作である。第57回(2004年)日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)も獲った。
 
 現在と過去を行き来しながら物語は進行する。主人公・成瀬将虎は自称「なんでもやってやろう屋」で、ノリが軽く、なんとなく東直己の便利屋探偵シリーズと雰囲気が似ている。もっと重厚な作品かと思っていたのでちょっと意外だ。自殺しようとしていたところを助けた麻宮さくらとの恋愛の行方と悪徳商法が絡んだ事件の謎。そして意味ありげに描かれる過去の事件。相互にどうつながり、どう結末を迎えるのか、否が応でも期待は高まる。ただ、ここまでは年間ベストワンになるほどの飛び抜けた要素は感じられない。未読の方に予断を与えてはいけないが(でも歌野晶午の読者なら予想は付いているだろう)、本作が喝采を博したのは何と言っても最後に明かされる作品全体に仕掛けられていた大仕掛けである。作品の中のそれまでの世界観を根底からひっくり返してしまう鮮やかな大技だ。予想はしていたし、騙されまいと身構えていたのだが、もちろん見事に騙されたのだった。7.5点。
 

横山秀夫「影踏み」 2005年07月12日

 「ノビカベ」の異名を持つ、腕の立つノビ師・真壁修一が2年の懲役を追えて出所するところから物語は始まる。ノビ師とは、深夜、家人が寝静まったところに忍び込んで仕事を行う泥棒のことだ。15年前、道を誤った双子の弟の啓二を道連れに母が自宅に火を放ち、両親と啓二を失った真壁は、その日から表社会から離れ、泥棒稼業となったのだった。
 
「消息」「刻印「抱擁」「業火」「使徒」「遺言」「行方」の七編からなる連作短編集。
 
 読み始めて最初は何がどうなっているのか掴めずに戸惑った。かなり異色の設定がなされている。リアルを追求する作者の作風からは変わり種と言える。しかしやはり物語自体はいつもの横山秀夫で、手抜きが無く作品ひとつひとつの完成度が高いのもいつも通りである。つかみどころが無く茫洋としていた謎が、ある時一気に収束するという作者得意のパターンが多い。謎が解けて見返すと、伏線もきちんと張られているし、読者にもちゃんと手がかりを与えている。また、本書はかなりハードボイルド色が強い。避けて通ろうと思えば避けて通れることに自ら首を突っ込んでいくところや、大ケガをしても動き回るタフさとか、いかにもハードボイルドだ。シビアなミステリとハードボイルドで、一見、設定の異色さとはマッチしないように思えるが、意外なことに違和感はなく、むしろ殺伐とした中に潤いを与えて読後感もしみじみとしたものにしていた。7.5点。
 

高野和明「13階段」 2005年07月08日

 第47回江戸川乱歩賞(2001年)受賞作
 
 保護観察期間に保護司夫妻を惨殺したとして死刑判決を受けた樹原亮は、いつ刑が執行されるかと日々恐怖の中を生きている。しかし彼には夫妻を殺したという記憶が無かった。彼は事件直後にバイク事故で意識不明だったところを発見され、事故直前の記憶を失っていたのだった。傷害致死で刑務所に入り仮釈放されたばかりの三上純一は、樹原が冤罪であると考える匿名の依頼人から無実の証明を依頼された刑務官・南郷正二に誘われ、事件の調査に取りかかった。
 
 うまい具合に事件の数時間分の記憶が抜け落ちているのはご都合主義の設定とも言えるが、「お約束」はここだけで、様々な要素が絡み合う複雑なプロットは実に見事である。乱歩賞は定番的で無難な作品が多くて面白味に欠ける、という話も聞く。実際、そういう作品もある。この作品も、二重三重の仕掛けと真相に加えて社会派的な要素まで盛り込むという正統派であるが、どれをとってもハイレベルな出来映えの傑作であった。こういうのが読めるなら定番も良いものだし、乱歩賞も捨てたものではないなあ。7.5点。
 

井谷昌喜「クライシスF」 2005年07月05日

 第1回(1997年)日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。作者は1941年生まれで本職は読売新聞記者らしい。どうやら本作以前にもいくつか作品を上梓しているようだ。
 
 作者が現役の新聞記者と言うことで、新人賞のセオリーにのっとり主人公の職業も新聞記者だ。彼、自見弥一はある事情から第一線から遠ざかっていた。しかしふとしたことから、世界で同時多発的に同じ原因・現象による事件や事故が多発していることを知る。数人の仲間とともに取材を開始するが、脅迫、さらには剣呑な実力行使で妨害を受ける。世界規模で進む現象の真相は?その背後に潜む正体不明のグループは一体何ものなのか?
 
 環境問題や食糧問題にも絡み、社会的でスケールの大きなテーマとなっている。しかし、リアリティーに欠けたり、チグハクな部分が目に付いた。また、話のスケールを意味もなく大きくしすぎている嫌いがある。新人賞作品にはありがちだが、文章や話の組み立て方にもやはり若干の不自然さを感じ、作者はもともと文章を書くことを本職にしているとは言え、やはり小説となると勝手が違うのだろう。6.5点。
 

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