読書日記

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東直己「探偵は吹雪の果てに」 2002年09月10日

 ススキノ便利屋探偵シリーズ。うーん、相変わらずシリーズが順番どおりに読めない。何故と言って、図書館にも古本屋にも全巻が揃っていないのだもの。2001年12月刊行の本作品はシリーズの最新作(たぶん)。シリーズの何作目になるのかな。便利屋の<俺>はもう45歳になっている。
 
 怪我をして入院した先の病院で昔の恋人・純子に再会した<俺>は、ある人物に封筒を一通届けるよう頼まれる。しかし目的は簡単には果たせず、赴いた田舎町で右往左往することになる。中盤まではとくに大事件が起きるわけでもなく、田舎町の日常と戸惑う<俺>の様子が書かれている。しかし不思議と退屈でもなく冗漫にも感じない。後半に入るといよいよ封筒をめぐって町がうごめき出す。わけが分からないまま<俺>は、純子のため、そしてへそ曲がりな自分のために満身創痍で奮闘することになるのだった。
 
 <俺>は45歳のデブな中年になっているが、まだまだ腕っぷしも強い。これからも作者によって容赦なく歳をとらされることになるのだろうが、さてどのような物語が待っているのだろう。7.5点。
 

本格ミステリ作家クラブ・編「本格ミステリ01」 2002年09月06日

 2000年11月に100名を超える作家が集まって発足したという「本格ミステリ作家クラブ」が編んだ、2000年度の本格ミステリベスト短編アンソロジー。短篇小説が13編ミステリ評論が3編収録されている。ちなみに「本格ミステリ作家クラブ」の会長は有栖川有栖。クラブ活動(こう書くとなんか中学校みたい)の目玉である本格ミステリ大賞の第一回の小説部門は倉知淳「壺中の天国」が受賞している。
 
【短篇小説】
有栖川有栖「紅雨荘殺人事件」奇跡を希う切ない想いを描いた美しい恋愛映画。その舞台に使われた屋敷で事件が起こる。火村によって崩されたアリバイの影から現れたのは映画と重なる一途な想いだった。7点。
泡坂妻夫「鳥居の赤兵衛」時代物である。貸本の盗賊小説の作者の謎と、その本を不正に入手しようとする男の謎。両者がリンクすれば面白かったのだが。6.5点。
太田忠司「四角い悪夢」少女時代の断片的な記憶が現在の事件につながる。筋立てに必然性がないのが難点。6点。
加納朋子「子供部屋のアリス」探偵に依頼された仕事はなんと子守り。「螺旋階段のアリス」にて既読。
北森鴻「邪宗仏」腕を切断した理由はちょっと説得力がない。しかし歴史の謎解きは興味深い。7点。
鯨統一郎「人を知らざることを患う」実在小説を匂わせたりのくすぐりが冴えたユーモア小説。単行本にまとまったら読んでみたい。6.5点。
柴田よしき「正太郎と井戸端会議の冒険」ミステリ作家の飼い犬が探偵役で、そのほか近所の犬猫たちの視点で物語が進む。途中が冗長に感じたが、ラストできっちりまとまっている。7点。
柄刀一「エッシャー世界」絵に仕掛けられたトリックは秀逸。ただ途中の長い幻想譚の必要性が分からない(題名からすればこちらが本筋?)。でも実際のエッシャーの不思議絵を頭に描いて読むとこの幻想譚もわりと楽しめるかも。6.5点。
西澤保彦「黒の貴婦人」冒頭の作者の言葉によれば、この話は「依存」(未読)の裏エピソードであるが単体パズラーとして読める。…はずなのだけど。これで貴婦人の謎は解けたのかな?ちょっと納得できない。それにどうやら主題は別にある。。うーん、やはり匠千暁シリーズを知らない人には楽しめないのではないか(知っている人にはOK)。6点。
法月綸太郎「中国蝸牛の謎」なるほど、鏡像やらカタツムリの蘊蓄に興味をひかれる。トリックもなかなか派手で、いかにも小説(フィクション)ではあるけど面白かった。7点。
はやみねかおる「透明人間」商店街に現れた足跡しか見えない透明人間の謎。話はテンポも良く面白かったが、透明人間の足跡は光の回折があって無理だと思う。6.5点。
松尾由美「オリエント急行十五時四十分の謎」近未来、人工子宮が当たり前の社会で自分で子供を産みたい女性が集まる妊婦の町で起こったささやかな事件。小説と言うよりは純粋にパズル。5.5点。
三雲岳斗「龍の遺跡と黄金の夏」温暖化が進んだ未来。爬虫類が驚異的な進化を遂げ、7メートルにもなる肉食性のオオトカゲはドラゴンと呼ばれていた。そんな世界で起こった殺人事件。遺跡の堀がキーで二つの謎が解ける。そのうち一つ、最後に明かされる方が予測できてしまったのが残念。最後まで気付かず読めればもっと驚けたのに。6.5点。
 
この他、以下の評論三編が収録されている。小森健太朗「新・現代本格ミステリマップ」円堂都司昭「POSシステム上に出現した『J』」鷹城宏「作者を探す十二人の登場人物――ミステリのアンダーグラウンド3『木製の王子』論」
 

森博嗣「スカイ・クロラ」 2002年08月28日

 装丁が美しい。空の青を基調として、そこに真っ白な雲海が広がっている。パイロットにとっては見飽きた風景なのだろうか。それともいつ見てもやはり美しいと感じられるのだろうか。
 
 作品の舞台はどこだろう。異世界なのか、未来社会なのか。登場人物は名前からすると日本人のようである。しかしなぜか戦争状態にある。とは言え現代の戦争と言うよりは、第一次大戦中のヨーロッパのような雰囲気(って知らないけど)が漂っていて、どことなくのんびりしている。戦争の社会的背景などは説明されていないし、描かれるのはもっぱら主人公であるパイロット・カンナミが所属する基地とその周辺の大変狭い範囲に限られている。いろいろ複雑な背景を感じさせながら、結局具体的なことはほとんど分からないまま終わる(最後の方で断片を少しだけ垣間見せてくれるのだが)。
 
 森博嗣の理系的論理と叙情味が混沌と溢れ出す文体は、好きな人も多いだろう。デビュー作の「すべてがFになる」などを読むと、論理こそが森博嗣の最大の持ち味であって、現実とは微妙に解離した独特の人物像や世界観は作者が小説書きに慣れていないためであるように思えたのだが、実のところ、この独自の森ワールドこそが森博嗣を森博嗣たらしめている。森ファンには今さらだろうけど。正直に言えば私は森ワールドは苦手である。けど熱心なファンがつくのは理解できる。本作品も森博嗣ファンにとっては極上の作品に違いない。6.5点。
 

有栖川有栖「幽霊刑事」 2002年08月23日

 小説や映画に幽霊ものは数有るが、こういうパターンは他にもあるのだろうか。刑事だった神崎は、上司の刑事に殺されてしまう。被害者自身の目撃によって殺害犯人は明白なのだが、なぜ神崎が殺されたのか、なぜこの上司が殺したのか、「なぜ」の部分が皆目分からない。幽霊としてこの世に留まった神崎は、唯一彼とコミュニケーションが取れる同僚刑事の早川と真相解明の捜査に乗り出す。
 
 有栖川有栖としては異色と言えるタイプの物語である。しかしいろいろな面で確かに有栖川有栖っぽい。幽霊になってしまった悲哀や恋人への想いなどの切ない気持ちも有栖川有栖らしく表現している。
 
 ただ細かいところに不満点も多い。登場人物たちの行動や発言がいくぶん安易で思慮に欠けているように思う。神崎は、早川以外の誰にも聞こえないのに、常に誰彼構わずしゃべりかけたり、果てには触れないことが分かっていながら空手チョップを繰り返したり。まあ現実の世界にも独り言の癖が激しいひととかいるからこんな幽霊がいてもよいのかも知れないが、おかげであまり賢くは見えない。本作品が初めはお芝居用に作られたためという事情はあるのだろうけど。早川にしてももうちょっと上手く対応できればあんなに怪しまれないですむのに、普通以上に対応が悪い。あともうひとつ。犯人の動機のひとつは神崎がそれと知らずにあることを目撃したためなのだが、これって神崎が東署へ移る前の話と書いてあった気がするが、それでは辻褄が合わなくならないか?
 
 物語としても面白いし、また特殊な設定も面白い。謎の解明も満足できる。有栖川有栖の代表作になりうるポテンシャルを持っていたと思うのだけど、つまらないところでいろいろ損をしている作品だった気がする。7点。
 

歌野晶午「放浪探偵と七つの殺人」 2002年08月20日

 ノベルズ版の本書は、7編の短編推理小説すべての解答編が巻末にまとめられており、ご丁寧にも袋綴じになっている。作者曰く、推理小説を普通の小説同様に読み終えてしまうのはもったいない。読者に自ら謎を解いてもらう趣向なのだそうである。うーん。しかし私はそういうのは苦手だ。もちろん考えないことはないのだが、読書を中断してまで考えようとはなかなか思わない。というわけで問題編を読み終わったら間髪いれずに解答編に読み進んでしまった。ごめんなさい>作者様。
 
「ドア←→ドア」ま、現実にもこんなので警察を上手くだませるはずはないのだが。6.5点。
「幽霊病棟」謎が解ければ「なんだ」って感じだが(実際これが一番謎を見破りやすいだろう)、イリュージョンな仕掛けは読む者の興味を引く。7点。
「烏勧請」大量のゴミ袋の理由はなるほどな、と。本当の死因については、そんなことがあるのだろうか。6.5点。
「有罪としての不在」問題編は読者への挑戦付き。そして解答編にも。。どんでん返しは良いが、一読で理解が難しいのが難点。それにしても信濃譲二は意地が悪い。6.5点。
「水難の夜」オーソドックスな謎解きとも言えるが、綺麗にまとまってミステリの王道とも言える作品。7.5点。
「W=mgh」物理の公式みたいな題だと思ったら物理の公式だった。物理の解説がスマートではないが、間違ってはいない。笑ってしまうような真相なのだが、実際にこれを見たら怖いだろうな。7点。
「阿闍梨天空死譚」不可思議さがひときわ目立った作品。7点。
 
 偶然だがちょうど今月、本作品集は講談社文庫から新たに刊行された。ノベルズ版時の構成が文庫化でどうなったか確認してみたら、袋綴じも無く、問題編と解答編にも分けられていない普通の短編集になっていた。私のようにすぐ解答編に進む読者が多いせいなのか、単に技術上の問題なのか分からないが、折角だから袋綴じにしないまでも解答編を分ける構成は残せばよいのに。全部に読者への挑戦状を挟むとか。
 

若竹七海ほか「競作 五十円玉二十枚の謎」 2002年08月14日

 若竹七海氏が学生時代、実際に体験した不思議な謎に、プロ作家、そして一般公募に応募してきた読者が挑む。
 
 日常の謎としてはなるほど出来すぎなくらい魅力的な謎だ。若竹七海がアルバイトしていた本屋(分かる人にはすぐ分かる池袋の大型書店)のレジに、毎週土曜日に決まって現れては五十円玉二十枚を千円札に両替していく中年男性。どう考えたって怪しい。どのような理由でこんなことをしているのか誰だって知りたくなるだろう。しかし答えは、このどこの誰とも分からない当の中年男性しか知らないのである。さてそれでは、謎に挑んだ諸氏は読者を納得させる見事な推理を披露することができたのか。
 
 以下、印象に残った作品の感想。法月綸太郎の作品は内輪ネタだが、登場する作家たちを知っていればけっこう楽しめる作品。有栖川有栖作品は久しぶりに学生アリスを読めて良かった。謎の解決は今ひとつだが小説としては面白かった(このオチ!)。一方、次の笠原卓の作品は謎の解決という点から見れば本書のベスト。一般公募作品の中ではやはりその後作家デビューした佐々木淳(倉知淳)-若竹賞-高橋謙一(剣持鷹士)-最優秀賞-のふたりが良かった。とくに、結局謎の解決にはなっていないため優秀賞を逃したが佐々木淳がやはり上手い。私ならこちらに最優秀賞なのだけど。
 
 ところで本書の巻末には再び「五十円玉二十枚の謎」の原稿募集のお知らせが載っている。締め切りが2001年5月なのでそろそろ発表されるかと思ったら、はたして「創元推理21(2002年夏号)」に「新・五十円玉二十枚の謎」の特集があるらしい。さて、より素晴らしい、読者が膝を打って納得するような推理は出てきたのか。7点。
 

若竹七海「死んでも治らない -大道寺圭の事件簿」 2002年08月07日

 カバー折り返しに書かれた次の言葉が本書を的確に表現していると思う。「ユーモアの中に、ブラックなテイストを織り込んだコージー・ハードボイルドの傑作」。。たしかに。全体にユーモラスな雰囲気が漂うのだがいきなり出てくるブラックな展開にとまどわされる。最初はそう見えなかったのにいきなりハードボイルドになる。ホントに油断できない筋書きなのである。ところで実はいまだに「コージーミステリ」の定義がよくのみ込めていないのだけど。。。
 
 さて、主人公の大道寺圭は元刑事という履歴を持つノンフィクション作家だ。刑事時代の体験をもとに「まぬけな犯罪者」のエピソードを書いた本が売れて、講演に呼ばれたりとけっこう忙しい。しかし売れてる故かまぬけな犯罪から縁が切れない。次から次へと巻き込まれる「まぬけな犯罪」の短編が5編と、大道寺が刑事として関わった最後の事件が交互に描かれる。
 
 各話に挟み込まれた「大道寺圭最後の事件1〜6」は書き下ろしで(他の短編は雑誌に掲載済み)、うまく各話とリンクするという凝った造りになっている。ちょっと出来すぎというか偶然がすぎるきらいはあるが、その話作りの手腕はたいしたものだ。7点。
 

東直己「消えた少年」 2002年08月01日

 ススキノ便利屋探偵<俺>シリーズの三作目。一作目「探偵はバーにいる」は読んだが、二作目の「バーにかかってきた電話」は未読。四作目以降も出ているがもちろん未読。
 
 <俺>が知り合いになった映画好きの中学生が行方不明になる。同時に彼が仲の良かった友達が変死体で見つかった。少年の安否を気遣う<俺>は少年の行方を追いかけることになるのだが、けっこうハードな展開に。そして最後には意外かつとんでもない事件の背景が明らかになる。
 
 一作目では細かいところに不満も多かったのだが、この作品でそれらはほとんど感じなかった。上滑り気味だった文章は自然体になってさりげなくも格好良い。主人公の性格もちぐはぐしていた部分が無くなり馴染みやすくなっている。もちろんこの作者の実力は最近読んだ「残光」や「悲鳴」でも証明済みだったのだけど改めて気に入ってしまった。7.5点。
 

首藤瓜於「事故係生稲昇太の多感」 2002年07月26日

 「脳男」にて第46回江戸川乱歩賞を受賞した作者の、受賞第一作
 
 交通課事故係の警察官・生稲昇太の日常の仕事ぶりを人間くさく描いている。昇太の性格は、熱血で生真面目。正義感にあふれているが融通が利かない不器用さもある。「脳男」と比べると作風がまったく感じが変わってしまっている。本作品は推理小説ではなく、どちらかと言えば純文学に近いかも(?)。はっきりとした筋立てや結末はなく、昇太が日常的に出会う事件・事故を通して、それに取り組む昇太の苦労や悩み、トラブルに困惑する様子などが描かれている。
 
 物足りなさも感じるが、味わいは深い作品だ。読者の嗜好によって評価が大きく分かれそうな作品である。7点。
 

黒田研二「笑殺魔 《ハーフリース保育園》推理日誌1」 2002年07月24日

 「ウェディング・ドレス」でメフィスト賞を受賞した作者の最新作。デビュー作以来、矢継ぎ早に次々と作品を上梓して大活躍の作者だが、私が読むのはこれで2冊目。くろけんさんのホームページ(の日記)はよく読んでいるのですが(^^;)
 
 初のシリーズ作品の第一作目と言うことで、なるほど、シリーズ向けの個性的なキャラが楽しい。保育園の園長さんは美形で頭も切れるし、同じく美形で言葉遣いに特徴がある瑞穂女史も存在感がある。主人公で幼児教材会社の営業マン・次郎丸の大学時代の後輩でハーフリース保育園の保母さんのドリちゃんこと緑のとぼけたキャラも良い。もっとも、まだまだ顔見せ的でキャラが描き切れていない印象を受けたが、きっとシリーズが進むにつれてさらに輝きを増すに違いない。
 
 ところどころ「ちょっと似ている」や「猫じゃ猫じゃ」など「なまもの!」色が出てきて笑えた。前半のコミカルな展開は読みやすいし、面白い。一方後半では本書のメインの事件となる怒濤の誘拐事件が発生する。本格トリックを身上とする作者だけに、派手ではないが小細工トリックがけっこう登場した。でも「モモ」とか「ボロ屋敷」とか、どうもなぞなぞレベルで現実味に乏しいのが残念。いっそ中途半端なトリックなしでも楽しめたと思う。そうそう、「笑殺魔」の題名が印象深い分、作品中の扱いは脇役エピソード的で肩すかしを食った気がした(最後に意外なつながりが明らかにはなるけど)。
 
 ともあれ作品世界はけっこう好みなので、シリーズ次回作にまた期待したい。7点。
 

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