読書日記

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今野敏「疑心 隠蔽捜査3」 2009年08月15日

疑心―隠蔽捜査〈3〉

 著:今野 敏
新潮社 単行本
2009/03

 シリーズ第三弾。家族のことなど私的な出来事と、警察官として関わる事件のふたつをストーリーの二本柱とするのはこれまでどおりのパターン。「小説新潮」で連載されていた時の題名は『乱雲 隠蔽捜査3』。
 
 今は大森署の署長を務める竜崎が、所轄の署長としては異例な、米大統領訪日のための方面警備本部長に任命される。この異例の人事には何か裏があるのか?そして警備本部には、若いキャリア女性が竜崎直属の秘書官としてやってくる。美人で聡明かつ有能な彼女に竜崎はなんと恋をする!そんな中でテロ計画の情報が流れてきて…
 
 唐変木の変人で、恋愛などは人生の上で二の次三の次と考えていた竜崎が、突然、理性による感情のコントロールも、合理的な振る舞いもできなくなる。つまりは普通の人のかかる恋の病に、あの竜崎もかかってしまったのだ。ただ、その描き方はやや安易ではある。
 
 前作までに比べて、物語作りが全般に安直な印象を受けた。例えば今回登場する、べらんめえ口調の警察幹部など、キャラが漫画的かつ表層的でリアリティがない。アメリカから乗り込んできた大統領警護のシークレットサービスの一人が、強行に空港閉鎖を主張するというのも現実的ではない。これは日本だから対応が鈍いとかいう話ではないだろう。アメリカでもどこでも、あの程度のことで空港閉鎖などできるわけがない。
 
 ということで、物語世界の緻密さ、リアリティという観点からはシリーズ前作までと比べても数段劣る。細かなところは気にせず、竜崎の恋を中心に、ラノベでも読む気分で読むのがよいかも。(ラノベがみな安易というわけではないが。)ストーリー運びも前半はもたつく。異例の本部長任命の背景があまり掘り下げられぬまま終わってしまうのも残念。ただ、クライマックスに差し掛かって以降の展開はスピード感があって良かった。7点。
 

宮部みゆき「誰か」 2009年08月07日

誰か ----Somebody

 著:宮部 みゆき
実業之日本社 単行本
2003/11/13

 先月読んだ「名もなき毒」の話の前の物語だ。「名もなき毒」がシリーズ二作目だとは知らずに読んでしまったので、あわてて一作目を図書館で借りてきた。
 
 義父の個人運転手を務めていた梶山が、自転車によるひき逃げ事故に遭って死亡した。犯人も不明のままで、警察の捜査も当てにならないと、梶山の次女が父親の人生を綴った本を出版して世間に訴えたいと申し出てきた。杉村自身も梶山と面識があり、好感を抱いていた人物であったことから、義父の依頼に応じて出版を手伝うこととなる。一方、長女は、父親の過去を調べて明らかにすることを嫌がっていた。父親の過去に、次女は知らないきな臭いにおいを感じていたためだ。
 
 作者らしい人間模様を織り込みながら、事故の真相や梶山氏の過去などが次第に明らかになってくる。そつなくまとめてあるのはさすが作者の力量を感じるが、若干、物語作りのために、むりやり事件を起こしているような感じを受けた。とくに最後の展開はあまり後味も良くないし必要なかったのではないだろうか。7点。
 

東野圭吾「パラドックス13」 2009年07月26日

パラドックス13

 著:東野 圭吾
毎日新聞社 単行本
2009/04/15

 P-13現象。まだ読んでいない人のこれから読む楽しみがあるので詳しくは書かないし、そもそも何だかよく分からないのだが、時間が不連続になって、ある条件でパラドックスが生じるという現象である。この現象の発生により、老若男女13人の人々が、人類を含めて一切の動物が存在しないパラレルワールドへ送り込まれてしまう。その世界は、動物が存在しないのみならず、様々な天変地異が次々と襲い来る苛酷な世界だった。
 
 この種の設定は案外よくある気がする。北村薫の「ターン」なんかも思い出したが、真っ先に思い出したのは、藤子・F・不二雄のSF短編だ。「緑の守り神」とか「宇宙船製造法」とか。後者は、宇宙船の故障のため辺境の星に緊急着陸した8人の男女が、船の修復は不可能と判断して地球に帰ることをあきらめ、その星で共同生活を始めるというストーリーだ。リーダー格の人間がいて、限られた人数によって生き残ることを最大の命題にした生活。頭脳明晰で冷静なリーダーだが、やがて合理性を優先するあまり周囲の人々の反発を招くという展開も共通する。
 
 東野圭吾のことなので、もしかして吹雪の山荘嵐の孤島といった孤立状態の本格ミステリになるパターンかとも思ったけどそうではなかった。まあもしそうなったら、主題にすべき事柄や謎が多くなりすぎるところだから、これで正解だろう。もっとも、続編で別途そういうのを書いたりしないかとちょっと期待したり。
 
 SF仕立ての設定が根本にあるが、主題はそんな苛酷な状況に放り込まれサバイバル生活を余儀なくされた人たちの人間ドラマである。こういう部分をしっかりと書いているのが、さすが東野圭吾である。自然現象の脅威に翻弄され、東京の街が破壊されていく様子は、ハリウッド的な特撮を駆使した映画にもなりそうだ。一方、登場人物が限られており、それぞれにはっきりとした個性が与えられているところはむしろ舞台劇に向いているかもしれない。
 
 ラストは予想の範囲内で、あっさりといえばあっさり。登場人物本人達は認識できず、読者だけが真相を知るという終わり方だった。最後にもうひとつドカンと何か仕掛けがあればさらに良かったのだが、それを言うのは贅沢だろうな。7.5点。
 

今野敏「果断 隠蔽捜査2」 2009年07月18日

果断―隠蔽捜査〈2〉

 著:今野 敏
新潮社 単行本
2007/04

 前作で、はじめのうちは鼻持ちならないエリート意識に凝り固まった、いけ好かない人物のように感じた主人公も、後半ではそれなりに理解可能なキャラに成長(?)した。本作では最初から、変人は変人ながら、合理的思考を何より優先する、ある面においては共感できるタイプのエリートになっている。旧態依然とした考え方を持ち頑固な性格という部分は、尊敬できるタイプなどではないのだが、人を裏切ったりはしない一本気でまっすぐな性格は、信頼はできるタイプだ。この性格で、たとえば初めの方の、メンツをつぶされたという下らない理由で管理官が怒鳴り込んでくる場面では、水戸黄門の印籠よろしくキャリアの権威と人脈をもって退散させてしまう。現実にはエリートだの権威だのというものは理不尽に振りかざされることが多いものだが、フィクションならではのこういう水戸黄門的な単純さは、カタルシスがある。
 
 シリーズ2作目となる本作では、第21回山本周五郎賞と第61回日本推理協会賞長編部門を受賞した。余談ながら、前作が吉川英治文学新人賞だから、順調にいけば直木賞コース?まあそのへんは今後どうなるかまったく分からないが。
 
 前作同様に、警察官として関わる事件と、家庭内の私的な事件が同時に主人公の身に降りかかる。それをいかに乗り越えて行くかがこのシリーズの読みどころだ。そしてその過程で、とくに家庭内の出来事を通して、主人公の世間からずれた性格が、ちょっと親しみを持てる性格に成長する。アニメなど子供の見るものと考えていた主人公が「ナウシカ」に感動するあたり、単純すぎると言えば単純すぎるのではあるけど。
 
 立てこもり事件のどんでん返しが素晴らしい。事件の構図をひっくり返す真相にたどり着く終盤の展開は、なるほど、推理協会賞を獲ったのは、とくにこの辺りが評価されたのだろうか。7.5点。
 

宮部みゆき「名もなき毒」 2009年07月15日

名もなき毒

 著:宮部 みゆき
幻冬舎 単行本
2006/08

 宮部みゆきの現代ミステリー。本作品は第41回吉川英治文学賞(2007年)を受賞している。もとは新聞連載されていたものに加筆修正されてまとめられた作品だ。
 
 主人公は財閥企業で社内報編集の仕事に就く杉村三郎。財閥のトップである会長の娘婿という立場でもある彼が巻き込まれる事件が描かれる。
 
 物語中で、しばしば言葉の端にのぼっていた「義父からの依頼で昨年関わりを持った事件」は、途中で詳しく語られるのかと思っていたのだが、結局そのまま終わってしまった。あれ?とおもったら、おっと、そうか。それは前作「誰か」の出来事だったのか。本書がシリーズ二作目にあたるとは知らないまま最後まで読んでしまった。でも登場人物の相関や今回の物語自体の理解にはまったく問題なかったと思う。…たぶん。新聞連載だったこともあるから、そこは支障ないようになっていたはずだ。
 
 連続無差別毒殺事件という社会的にも大きな事件と、自己中心的でまともな話が通じず、いつも周囲とトラブルを起こしていた元部下の女性を巡る身近な事件という、ふたつの出来事が、ストーリーの中心となっている。ただし、事件そのものというよりは、それらを通して見えてくる、周りの人々を傷つけるとともに自分自身もむしばむ、人間が持っている毒、というものについて焦点が合わせてられている。
 
 全体的に、とくに前半では、何かが起こるぞと身構えていたのに、案外と日常に毛が生えた程度のことしか起こらない。こういうストーリー構成の本を読むと「途中の展開が遅くて退屈した」という感想をしばしば書くが、本作品はそんな退屈とは無縁だった。それはおそらく登場人物達の魅力故でもあり、作者の語りの巧さ故でもあり、これぞという事件が無くとも読者を惹き付ける文章は、さすがというべきで、国民的作家の魅力を発揮した秀作であった。7.5点。
 

西澤保彦「マリオネット・エンジン」 2009年07月09日

マリオネット・エンジン (講談社ノベルス)

 著:西澤 保彦
講談社 新書
2009/02/06

 著者の言葉によると自身初の非ミステリ短編集だと言うことで、SFホラー短編集と銘打たれている。全部が全部SFというわけではなく、ホラーもたしかにホラーテイストはあるが、むしろこれまでの作者の異常人格ものとあまり変わりがない。結局ほとんどの作品は、あまりSFやホラーというジャンルを強調するほどでもない、いつもどおりの感じだ。あと、内容紹介に「ロジックに定評ある西澤保彦のすべてを凝縮した」とあるのだが、残念ながら最近の作風はあまりロジックが冴えないものが多い。ロジックに落とさず、混乱したカオス的イメージでまとめようとしたり。本書もロジックに感心できる作品はあまりなかった。以下、各話ごとの感想。
 
「シュガー・エンドレス」砂糖をテーマにしてホラー小説が書けるものか?で、実際に書いてみるとこうなる!ホラーというよりスラップスティック? 6.5点。
「テイク」仕事と称した人体実験に協力するきみは…。二人称を基本に書かれた理由は最後に分かる。6点。
「家の中」不幸で奇妙な人生を送った女性の一生にまつわる幽霊譚?本書の中では一番ホラーっぽい。6.5点。
「虫とり」お、これはわりとSFな舞台設定。でも中身はいつもの(?)酩酊推理がメイン?もっと明瞭な結末が欲しかった。6.5点。
「青い奈落」天地がひっくり返るという悪夢に悩まされている女性。著者得意のエロティック描写を混ぜながら。結末は混沌としたまま。6点。
「マリオネット・エンジン」本書随一の本格的なSFだ(ホラーではない)。無駄な要素もあるけど。大幅加筆修正されたという後半のミステリサスペンス的な展開は意外性もあってなかなか良かった。7点。
 

今野敏「隠蔽捜査」 2009年07月01日

隠蔽捜査

 著:今野 敏
新潮社 単行本
2005/09/21

 本作は、2006年に第27回吉川英治文学新人賞を受賞した作品である。作者のデビューは1978年。すでに著作が100冊を超える相当のベテラン作家が新人賞って、と思うところだが、良いものは良いし、これまではあまり注目されてこなかった作家さんだったと言うことだろう。実際自分も最近になるまで知らず、てっきり最近デビューの人だと思っていた。しかし本作でブレイクを果たし、続くシリーズ第2弾『果断』で第21回山本周五郎賞と第61回日本推協賞長編部門を受賞するに至って完全に人気作家の仲間入り。書店では過去の作品もずらりと並べて売られている。先日読んだ佐々木譲氏と似ているな。警察小説だし。
 
 さて、この作品の主人公・竜崎伸也は警察庁に勤める東大卒でキャリアのエリート官僚だ。東大以外の大学など大学とは思っていないし、国はエリートが動かしていると思っている。エリート意識が強くて、その点では典型的な高級官僚タイプで、あまり付き合いたいタイプではない。さらに、融通の効かない一本気な性格は、家族はもとより同じキャリアの官僚からも変人扱いされている。
 
 世間一般の感覚とは大いに異なる感覚と価値観を持ち、人間的にはどうかと思う主人公は、最初のうちはまったく共感できるキャラクターではない。しかし揺るぎのない使命観や、一貫した道徳観を持っており、終盤にはそのプラス面がマイナス面の強さを逆転して、事件の影響で人間味のあるところも見えてきたりして、個性の強い面白キャラになってくる
 
 警察機構を揺さぶる現職警察官による連続殺人事件、予備校に通う息子が犯した罪。公私に渡って降りかかる難問に、この変人エリートはどう対処するのか。なかなか面白い作品だった。7.5点。
 

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」 2009年06月24日

ゴールデンスランバー

 著:伊坂 幸太郎
新潮社 ハードカバー
2007/11/29

 2008年の本屋大賞を受賞した大ベストセラー作品である。さらに第21回山本周五郎賞受賞「このミステリーがすごい!」国内編第1位など、「伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成」とうたうに相応しい評価を得た。直木賞にも本命視されていたが、こちらは「執筆に専念するため静かになりたい」との理由で選考対象となることをあらかじめ辞退していた。さもありなん。
 
 本書を手に取ったとき、案外厚さは無いのだなと思ったが、字は細かくびっしりで、実はなかなかの大作である。国家か何かの巨大な陰謀によって首相暗殺犯人の濡れ衣を着せられた主人公・青柳雅春の逃亡劇を描く。大枠はハリソン・フォードで映画になった「逃亡者」のようでもあるが、派手なアクションだとかスリリングな見せ場ではなく、人間劇をより中心に据えたストーリーになっている。
 
 タイトルの「Golden Slumbers」はアルバム「ABBEY ROAD」に収録されているビートルズの曲名から。"Once there was a way to get back homeward" (かつて故郷へとつづく道があった)という歌詞は、しばしば、逃亡を続ける主人公の心に浮かんで登場する。作中にはほかにも「Help!」や「Let It Be」など、ビートルズの曲やアルバムの名前、あるいはビートルズにまつわるエピソードが話題として登場していた。
 
 暗殺現場が教科書倉庫ビルの前で、車に乗ってパレード中に暗殺されるなど、未だ謎が多いとされるケネディ暗殺事件をモチーフのひとつにしている。久々に会った旧友の森田森吾に「オズワルドにされてしまうぞ」と警告されたとおり、理不尽な追跡を受ける青柳は、果たして逃げ延びられるのか。
 
 伊坂幸太郎のこれまでの作品には、味はあるが意味はあまりないようなアクの強さもあった気がする。もちろんその味は多くの人に受け入れられていた、作者の特徴でもあったわけだが、本作品では伊坂節の味わいは充分に残しながらもクセの少ない熟れた文章になっていたように感じた。そして伏線を随所に配置して、様々な要素をうまく絡めながら充分な計算の上に構成されたストーリーの完成度は非常に高い
 
 なぜ首相は暗殺されたのか、なぜ青柳雅春がその犯人に仕立て上げられたのか、そんな大がかりな陰謀を企てたのは誰なのか。そういったミステリ的要素は最後まで謎のまま残る。またラストはバッドエンドではないがハッピーエンドとも言い難い。ということで終盤、不満が残りそうだなと思ってたのだが、最終章のエピローグの処理がたいへん上手くて、読者をほっとさせてくれる。結局何の不満もなく、たいへん爽やかな気分で読み終えた。8点。
 

法月綸太郎「しらみつぶしの時計」 2009年06月15日

しらみつぶしの時計

 著:法月 綸太郎
祥伝社 単行本
2008/07/23

 
 ノンシリーズの全10編が収録された、ミステリを中心とした短編作品集。
 
「使用中」密室をモチーフにして、しかし正面からではなく搦め手から攻めている。伏線を上手に配置してリドル・ストーリーを巧くまとめている。7.5点。
「ダブル・プレイ」倒叙形式の交換殺人もの。もちろんありふれた単純な交換殺人ではなく、ひねりを効かせている。7.5点。
「素人芸」喧嘩がエスカレートして妻を殺してしまった男の話。中盤にちょっとホラーテイストを入れたミステリ。7.5点。
「盗まれた手紙」外国小説のパスティーシュだ。元ネタを知らないのだが、秘密通信を題材にした佳作。7点。
「イン・メモリアム」ある作家に対する追悼文、という形式のショートショート。7点。
「猫の巡礼」ミステリではない。オチもない。一種のファンタジーというかパラレル世界を舞台にしたペット小説という異色作。7点。
「四色問題」都筑道夫「退職刑事」シリーズのパスティーシュでダイイング・メッセージもの。ありがちだが、残されたメッセージは死の間際とは思えないほど手が込んでいる。7点。
「幽霊をやとった女」エド・マクベインを都筑道夫がパスティーシュした作品のパスティーシュ。翻訳調ハードボイルドの文体はそうと知らないと、ただ読みにくいだけだな。7点。
「しらみつぶしの時計」二人称で綴られた純粋な論理ゲームパズル小説。リアリティなどははじめから無視だが、こういうのは案外好きだ。でも論理の繋がりは、やや無理矢理なところも。7点。
「トゥ・オブ・アス」探偵・法月綸太郎シリーズの自己パロディかと思ったら、京大ミステリ研時代の習作だとか。7.5点。
 

有栖川有栖「壁抜け男の謎」 2009年06月09日

壁抜け男の謎

 著:有栖川 有栖
角川グループパブリッシング 単行本
2008/05/01

 いろいろなところで発表されてきた小品を集めてきた短編集。短めの作品が多く、なかにはほとんどショートショートの作品もある。
 
 「ガラスの檻の殺人」「壁抜け男の謎」「下り「あさかぜ」」「キンダイチ先生の推理」「彼方にて」「ミタテサツジン」「天国と地獄」「ざっくらばん」「屈辱のかたち」「猛虎館の惨劇」「Cの妄想」「迷宮書房」「怪物画趣味」「ジージーとの日々」「震度四の秘密」「恋人」の全16作品。
 
 最初の二編は終盤で読者に犯人当てやトリックの謎解きをさせる「読者への挑戦」が挿入されるオーソドックスなミステリだ。この種のパズル作りは、もはや作者はお手のものだろう。オマージュやパスティーシュの作品もある。「彼方にて」はオマージュ作品のひとつだが、対象の中井英夫さんを知らないのでちょっと意味不明だった。「猛虎館の惨劇」はそう言えば「新本格猛虎会の冒険」で読んだことがあった。すっかり忘れていて、読み始めは既読であることに気付かなかったけど。。もしかしてほかにも既読があっただろうか?……あ、あった。「ガラスの檻の殺人」が「気分は名探偵 − 犯人当てアンソロジー」で既読だった。。いやなんか記憶を刺激するものはあったのだけど…。「ジージーとの日々」は近未来SFで星新一のような雰囲気を持った作品だ。「Cの妄想」も前半は星新一風で、後半はメタ小説に移行した。「怪物画趣味」もある種のSFというか奇想天外オチの小説。「恋人」は官能小説。と言っても、直接的な性描写があるわけではないが。どちらかというと純文学チック。
 
 それにしてもさすがプロの物書きである。注文に応じてこのようにバラエティに富んだ作品群を作り出す腕はやはり、素人にはまねできない職人の技と言って過言ではない。7点。
 

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