- 馳星周「不夜城」 2004年06月07日
- 第18回吉川英治文学新人賞(1997年)を受賞している作者のデビュー作。「このミス」でも1位に輝いた話題作である。この作者の作品はアンソロジーで短編を読んだことがあったが、長編は今回が初めてだ。
新宿歌舞伎町の裏社会を舞台に台湾・香港・北京・上海の中国系マフィアが入り乱れて繰り広げる勢力争い、そして台湾と日本の混血として微妙な立場に立たされながらも、その闇をもがくように生き抜く健一の姿を軸に描いている。昨今、歌舞伎町とか中国系マフィアとかは実際にもしばしば話題になるところだが、まあフィクションである本書の世界とは一線を画して考えるべきだろう。作品にはかなりの誇張とデフォルメが入っているはずだ。アナザーワールドの歌舞伎町が舞台だと考えておけば良いか。 不足も余分もなく、これ以上にもこれ以下にもならないという芸術的な完成度を持つ作品ではない。しかし小ネタ満載で落としどころに困らない落語ネタのような、別の意味での完成度は高い。本書もやはり、その気になれば短くもできるし長くもできるだろう。しかし決して単調にならず飽きさせない。読後の印象に残るこれぞといった芯があるわけではないが、読み所の連続であった。デビュー作であることにも敬意を表して7.5点。
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