- 綾辻行人「暗黒館の殺人」 2006年10月28日
- 久方ぶりの館シリーズで読者が首を長ーくして待っていた作品である。本格ミステリ・ベスト10で第2位をはじめ、この年(2004年)のミステリベストテンには軒並み顔を出していた。しかし…。
カバー裏には「上下巻、総原稿枚数二千五百枚という長大な作品ですが、どうぞご心配なく、決して無駄に長いわけではありません。」と作者の言葉が書かれているのだが、うーん、無駄とまでは言わないが、決して必然性のある長さではないと思う。回りくどくて長々しい文章が目立ち、ストーリー展開のテンポも悪い。これらの重厚でものものしい文章と、それによって醸し出される非日常的な雰囲気を好むという読者もいるだろうとは思うのだが・・。 ほかにも、たびたび登場する「視点」なる存在とか、その「視点」の意識なのか、深層心理の呟きとも幻聴とも、あるいは芝居のト書きとも取れる、かっこ書きでフォントを変えて文の間に挿入される短文も鬱陶しい。文章を断片化してしまって読書のテンポを崩してしまう。あと、このかっこ書きの文に典型的で、それ以外にも多用されるのが、述語無しで不完全な所で止める文。表現としてわざとやっているのだと思うが、どうにも据わりが悪く、読み心地も良くない。過去形で書かれているのにいきなり出てくる現在形なども然り。近年の綾辻はどんどん表現が独特になっている気がするが、このスッキリしない文体はどうにも好みではない。 パズルは一枚の絵として完成をみたものの、どことなく微妙に合わないピースを強引に嵌め込んだような不満感が残ってしまった。ただ、シリーズ全体の観点からはそれなりのインパクトを持つ真相が盛り込まれ、これまで館シリーズを読んできた人にとっては一読する価値はある。6点。
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