- 道尾秀介「球体の蛇」 2010年12月13日
| 球体の蛇
著:道尾 秀介 角川書店(角川グループパブリッシング) 単行本 2009/11/19
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まずタイトルに興味を引かれる。冒頭にサン・テグジュペリ「星の王子さま」から引用したエピグラフがあり、ああ"球体の蛇"とはこのことかと思う。物語の中でこれがどのような意味を持ってくるのか。 読む前には、このちょっと奇抜で印象的なタイトルから、斬新なトリックでも駆使したミステリなのだろうかと勝手に想像していた。しかし、時を隔てた過去の中や、人の心の奥底に潜んでいた真相が、最後の方で明らかになっていくところなどはミステリ的とも言えるが、ミステリと言うよりはむしろ純文学寄りな小説であった。 不幸と秘密にいろどられた過去を回想していく形でストーリーは進む。物語の全体が、物悲しく寂しげで陰鬱な雰囲気に覆われている。いま映画が公開されている村上春樹の「ノルウェイの森」もこんな感じだったっけ。いや、全然違ったかな。なにせ読んだのが最初に文庫化されたはるか昔なのでほとんど忘れているのだが、なんとなく雰囲気から連想した。寂寥感とか喪失感とか。たとえ凶悪犯罪でもドライなタッチで描かれている分には気にならないのだが、じめっとした雰囲気の物語はどちらかと言われれば自分はあまり好みではない。でもきっとこういうのが好きな人もいるだろう。6.5点。
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