- 伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」 2013年11月10日
| 屍者の帝国
著:伊藤計劃 , 他 河出書房新社 Kindle版 2013/02/15
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2007年にデビューして、高い評価を得ながら、2009年に34歳という若さで肺ガンのため夭逝した伊藤計劃。彼が、自身の第4長編として書き始めて、そのまま未完の絶筆として遺した原稿こそ、本書のプロローグ部分だ。しかし、遺されたの冒頭の30枚と、あとは簡単なプロットのみ。それを盟友・円城塔が引き継いで完成させたのが本作品である。「SFが読みたい!2013年版」で国内篇第1位。 19世紀末の世界が舞台だが、独自の科学文明が進化を遂げた、現実とは異なるパラレルワールドである。その世界観の中核となるのが屍者、すなわち、ゾンビあるいはフランケンシュタインの怪物の存在である。ヴィクター・フランケンシュタインが発明した死体操作技術は100年ほどの間に世界中で普及しており、屍者はインストールされた「ネクロウェア」に従って動き、死者が労働力として広く活用されている。屍者というと異様だが、位置付けは未来SFのロボットに近い。 本書の語り手となるのはジョン・H・ワトソン。言わずと知れたホームズ譚の語り部である。ほかにも、実在と架空の有名人が混在しつつ多数登場して、現実の歴史と改変された歴史が織り成す世界で活躍する。こうして、緻密に構築された作品世界で物語は進んでいくのだが、自分にはやや重たかった。SFは好きだが、あまり重厚な本格SFだと、これまでもときどき消化不良を起こしてきたのだが、本書もいささかその傾向で、ストーリーとは必ずしも直接に結びつかない部分などが素直に入ってこなかった。しかしこういった仮想世界を描き出す厳密かつ精緻な記述は、きっと本格SF者にとっては高く評価するポイントになるのだろう。6.5点。
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