- 歌野晶午「女王様と私」 2005年11月05日
- 『野生時代』に連載された作品。
えーと、これはネタばれになるだろうか。でも、ページの下に書いてあって一目瞭然なので問題ないか…。まず目に付くのが、なにやら怪しげな章立てだ。最初と最後の章はごく短い「現実」と題する章。短さから言ってプロローグとエピローグ的な位置づけとも取れる。で、作品のほとんどを占めているのが「妄想」の章。後から「これは妄想でしたー」とばらす叙述トリックではなく、最初から妄想ときっぱりはっきり書いているわけだ。歌野晶午のことであるから格別に意外でもないが、いったいどんな小説になるのか。 はじめの方の理不尽で不条理な展開や、「妹」や来未という少女のギャルチックな言葉遣いには、ちょっと閉口。すこし舞城王太郎チック?(舞城王太郎の作風をそんなによく知っているわけでもないが…) 途中、殺人事件が起こってからは雰囲気が変わって、わりと普通の推理小説っぽくなる。しかし!これは「妄想」なのである。終盤の謎解きに至る道程は、前半部ほどの理不尽さはないが、「妄想」であるが故の展開となる。 「本格推理小説」として読めば不満があるが、逆に考えるとこの破天荒な設定は、ミステリとしての欠点をカバーするための工夫にもなっている。これは大成功とは言わないまでも、そこそこの成功を収めていると言えるだろう。こういうトリッキーな物語は理屈抜きでけっこう楽しめる。もちろん作者の筆力がものを言っているのだが。7点。
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