- 伊坂幸太郎「あるキング」 2011年04月30日
| あるキング
著:伊坂 幸太郎 徳間書店 単行本 2009/08/26
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寓話のような神話のような、ファンタジーのようなサスペンスのような、シェークスピアのような、でもやはり伊坂幸太郎のような、独特な雰囲気を持つちょっと変わった小説だ。 キング、王様と言っても、野球の王である。超越した野球の能力を授かった人間が歩む波乱の道程が語られていく。熱心な野球ファン、正確に言えば万年最下位の地元プロ野球チーム・ 仙醍キングスの信仰的ファンである両親のもとに生まれ、“王が求め、王に求められる”ようにと、王求と名付けられた子。彼がたどる数奇な運命的人生の物語である。 主人公をすこし離れたところから見つめる非現実世界の存在だとか、謎の語り主。シェークスピア劇を意識した演出は変わっているが、これらが独特の雰囲気を醸し出している。そして、人の能力を超えるほどの野球の才能を具えた王求という存在自体がまた特殊な味わいを出している。彼はいわば野球のスーパーマンだ。スーパーマンの話とかだと、相応の力を持った強力な対抗馬(敵)が現れるのが典型的なパターンだが、この物語にはそんなものは出てこない。王求はあくまで一般人の中に混ざった唯一無二の異物的存在であり、そのことが様々な波紋を投げかけることになる。 この異色劇の幕切れは、ややあっけなさを感じた。とくに伏線をいかしてどうこうすると言うこともなく、あっさりと幕が落とされてしまった。ただ、全体の魅力というか読ませる力はさすが。淡々とした語り口なのに、そこから放たれる奇妙な魅力に引き込まれた。7点。
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