- 西澤保彦「方舟は冬の国へ」 2005年01月02日
- 帯の「うん。とっても素敵。」という、とっても新井素子らしい推薦文が目を引く。ある偽りの家族をめぐるミステリ。
失業中の主人公・十(つなし)和人(←相変わらず登場人物はみんな珍名ばかり)は、ハローワーク帰りに見知らぬ男から奇妙な仕事の依頼を受ける。監視カメラと盗聴器によって24時間監視された家で、一ヶ月間ある人物として生活して欲しいというのだ。しかも妻と子もいて、仲の良い家族を演じなければならない。多額の報酬とひき替えに仕事を引き受けた和人だったが、その家では不思議な超常現象まで起き始める。 もともと不定期連載という形で発表された作品で、各回ごとに謎解きがあり、さらに最後には作品全体の謎が明かされる。あとがきによると、そういう構想で書き始められた物語だ。しかしサイドストーリー的なひとつひとつの話はちょっと弱く、一方で、ストーリーを軽く流しているわりには内容が重たい。西澤保彦っぽいと言えばぽいのだが。作品全体の謎についてはなかなか壮大な真相があるのだが、結局のところそれはあまり重要ではない。好みを言えば、疑似家族を演じた理由や不可思議現象をもっと突っ込んで面白く展開してもらいたい気もする。しかし本書のテーマはむしろ、演じていただけの家族に、いつの間にかかけがえのない愛情を感じるようになるところの心理の動きにある。そして悲劇的に終わるかと思ったところに用意されている爽やかなラストが素敵。という物語であった。7点。
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