読書日記

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剣持鷹士「あきらめのよい相談者」 2005年09月22日

 あの「競作 五十円玉二十枚の謎」の公募企画で見事、最優秀賞を獲得した作者の短編集。表題作が第1回(1994年度)創元推理短編賞を受賞している。いかにも創元推理好みの、日常の謎(とも言い切れないが…)&安楽椅子探偵路線だ。作者は福岡県で弁護士を務めており、作者の分身である主人公・剣持鷹士は藤堂法律事務所でイソ弁をやっている。彼が遭遇した謎の真相を、親友である女王光輝(めのうみつてる)、通称コーキが推理する。ちなみに会話は博多弁。本書は先月文庫化されたが、読んだ単行本は10年前の発行。本書以降は書いていないのかな?
 
「あきらめのよい相談者」無理な相談を持ってきた初老の依頼人は、意外にもあっさりと引き上げた。しかし後日、ほかの多数の弁護士事務所にも同じ男が現れていたことが分かる。男の真の目的は?6.5点。
「規則正しいエレベーター」鷹士の友人が住むマンションのエレベーターは、彼の出勤時、確率に反して二階に止まっていることが多かった。その理由は?6.5点。
「詳し過ぎる陳述書」とある離婚裁判。宗教にのめり込んだ夫の話の矛盾を見破る。本編は、作中で法律や法廷の知識がいろいろ説明されている。6.5点。
「あきらめの悪い相談者」 書き下ろし。鷹士のもとにつまらない相談を持ちかけては食い下がっていた男が殺人を犯した。いったい彼はだれを何のために殺したのか。伏線もうまくまとまり、本書の中では一番エレガント。7点。
 

水原秀策「サウスポー・キラー」 2005年09月16日

 第三回「このミス」大賞(2004年)受賞作。大賞受賞時のタイトルは「スロウ・カーブ」。この回は「果てしなき渇き」(深町秋生)とのダブル受賞となっていた。
 
 乱歩賞受賞作と言われても素直に納得しそうな、ミステリ・サスペンスとしてたいへんオーソドックスな骨格を持つ秀作だ。選評にも、万人受けするエンターテインメントとあるが、まさにその通りの作品。ちなみに同時受賞の「果てしなき渇き」は読者を選ぶタイプのダークな小説らしい。未読ではあるが、たぶん私はそちらより本作の方が好みだな。型破りな斬新さは無くとも、レベルは高く安心して楽しめる。変に型破りな小説より、こういうカーブならぬ直球で勝負できる作家の方が将来的にも期待できる確率が高いと思うのは偏見だろうか。
 
 主人公・沢村はちょっと孤高の匂いがするプロ野球のピッチャー。人気チームの一員ながら、チームにもあまり馴染まず、我が道を行くクールな性格だ。この主人公が八百長疑惑と密告という不可解な事件に巻き込まれる。これは彼を陥れる罠なのか?犯人の狙いはいったい何なのか?沢村は事件の真相を自ら探りはじめる。
 
 とにかく文章力もあるし、主人公から脇役まで人物造形もしっかりしている。プロットの組み立ても上手で、ハードボイルド的な展開も魅力的だ。納得の受賞で、次作が待ち遠しい新人である。7.5点。
 

伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」 2005年09月12日

 注目の新世代作家が描く、愉快なキャラたちが活躍する痛快なコン・ゲーム。映画化されて来春公開予定だとか。第13回サントリーミステリー大賞(1996年)で佳作となった「悪党たちが目にしみる」を全面改稿した作品。
 
 それぞれがちょっとした特殊能力の持ち主というギャング4人の設定がまず面白い。嘘は必ず見破る人間嘘発見器。正確な体内時計を持つ女。スリの名人。口がよくまわる男(これは特殊能力ではない?)。剣の達人や銃の名手が脇を固めるルパン三世みたいな興趣がある。このコミカルで楽しい設定に加えて、軽妙洒脱な文章とセリフ回しの数々で、大変ユニークで肩の凝らないエンターテインメントに仕上がっている。
 
 4人は軽いノリながらも完璧な計画だった銀行強盗を遂行する。しかし車で逃走途中に別の現金輸送車襲撃犯の車と接触し、せっかく手に入れた4千万円を奪われる。相手のひとりからスリ取った免許証を手がかりに反撃に出るが…。
 
 ストーリー展開は、とくに後半などで、いささか予測が付きやすい。しかし、サイドストーリーが上手く絡み合い、数々の伏線も見事に効果を上げて、読後感は爽快だ。一歩間違うとただ馬鹿らしいだけのお話になりそうなこういう物語を最上級の娯楽作品に仕立てる作者は、これからも大いに楽しませてくれそうだ。7.5点。
 

宮部みゆき「ドリームバスター2」 2005年09月08日

 「ドリームバスター」の続編。テーラという異次元の世界で起こった新技術の暴走事故によって死刑囚の意識体が地球人の夢の中に逃げ込んだ。そのまま地球人の身体を乗っ取る危険があるため、テーラではドリームバスター(DB)を組織し、逃亡する死刑囚の回収に乗り出した。というのを基本背景に据えたSFファンタジーである。
 
 どちらかというと逃亡先の地球人の物語に焦点を当てていた前作と異なり、本書ではDBらの世界に比重が置かれている。また、本書でふたり登場する逃亡犯はどちらも凶悪犯のイメージにそぐわず、彼らとの「善と悪の闘い」というシーンも無くなっている。エピソード的には二つの物語が収録されているのだが、どちらのエピソードも収まりは悪い。最初の話では一応ひとつの案件が結末を見るのだが、次の事件を予感させる終わり方だし、シェンの友人の失踪などのサイドストーリーに関してはまったくの謎のままだ。二つ目の話に至っては完全に事件の途中である。ということで、それぞれで閉じた物語ではなく、本書は大きなストーリーの一部に過ぎないらしい。はたしてこの物語はどんなエンディングを迎えるのか。願わくば、たくさんの伏線を忘れないうちに読みたいものだ。7点。
 
追記:検索したら、この物語はなんと全6巻の予定で「完結まで10年ぐらいかかりそう」ということだ。なかなか壮大な物語に育ちそうだ。
 

横山秀夫「クライマーズ・ハイ」 2005年09月02日

 御巣鷹山の日航機墜落事故から今年の夏で20年が経過した。作者がかつて、墜落現場となった群馬県の地方新聞社に勤めていたことはよく知られているが、本作はそのときの体験が下敷きにあるのだろう。
 
 主人公の悠木は群馬県の地方紙、「北関東新聞」の記者である。登山愛好会のメンバーで同僚の安西と、超難所である衝立岩に挑むことになっていた前夜、その空前絶後の惨事は起こった。悠木は日航関連記事の全権デスクに指名され、怒濤の日々に突入する。そのころ安西は深夜の街で倒れ、意識のないまま入院していた。
 
 作者の実体験を生かし、記者をはじめとした新聞社で働く面々と、その世界の内実が生き生きと、あるいはドロドロと、ともかく圧倒的な筆致で描かれている。普段とくに意識することもなく何とはなしに読んでいる新聞だが、こうやって全身全霊を傾けて作っている人たちがいるのか。
 
 さて、悠木は主人公とは言えヒーロー的な存在からはほど遠い。悩みを抱えつつも情熱と気骨を持ち、それなりにしたたかでタフさも備えた新聞記者ではあるのだが、ぶれない信念と行動力でピンチを次々と乗り越えていくヒーロー像は当てはまらない。端から見ていると、そこはそうじゃないだろう、と言いたくなる場面が多々でてくる。しかしそれでもなお、多くの読者が胸に熱い思いをこの主人公と共有することになるだろう。事故を巡るストーリーのみならず、新聞記者の正義、組織と個人、部下と上司、父親と息子、実に多くのサイドストーリーが盛り込まれているのもさすがである。作者の作品に対する実直な姿勢が伝わってくる力作だ。7.5点。
 

倉知淳「幻獣遁走曲―猫丸先輩のアルバイト探偵ノート」 2005年08月30日

 面白いことには何でも手を出す猫丸先輩シリーズの短編集。猫丸先輩は相も変わらず気の向くままのライフスタイルで、面白そうなバイトを転々としながら、出くわす珍妙な事件の謎を次々に解き明かしていく。5編を収録。
 
「猫の日の事件」猫コンテスト会場で発生した指輪盗難事件。アルバイトで来ていた猫丸は奇妙な方法で犯人を見つけ出す。7点。
「寝ていてください」新薬のモニタ(人体実験?)という怪しいバイトに応募した木渡誠はそこで恐怖の目にあう羽目に。同じくバイトで来ていた猫丸の反応は?6.5点。
「幻獣遁走曲」幻の珍獣捕獲作戦中に起こった証拠文書の焼失騒ぎ。誰が何のために?幻の生物は存在するのか?7点。
「たたかえ、よりきり仮面」スーパー屋上の戦隊ショーのバイトで、酷暑の中、怪人の着ぐるみに身を包む猫丸。ささやかな事件の犯人と動機は?7点。
「トレジャーハント・トラップ・トリップ」松茸狩りの案内人というまたしても妙なバイトをしている猫丸。高価な松茸消失の盲点を付く理由とは?7.5点。
 

高野和明「K・Nの悲劇」 2005年08月28日

 フリーライターの修平は念願かなって著書がベストセラーとなり、マンションを購入。希望に満ちて、愛する妻・果波とともに新居での生活をスタートさせた。ところがまもなく果波の妊娠がわかったところから状況は一変する。本来喜ぶべき妊娠だったが、マンションのローンに追われ、次の仕事と収入も不確かな修平には子供を持つ余裕が無かった。新居と子供を天秤にかけた修平は妊娠中絶を決め、果波も承諾したのだが、やがて果波に異変が起こる。
 
 別人格を示す果波の憑依現象は、子供を守りたい果波の精神状態が生み出したものなのか、それとも死霊が乗り移ったのか。ひとりの患者を救えなかったことを気に病み休職中の精神科医・磯貝は懸命の治療を行うが、修平にとって「精神疾患」と「心霊現象」どちらとも判断が付かないまま、果波の状態は悪化し、お腹の中の子供は成長を続けていた。
 
 ホラー的要素はあったがあくまでミステリ・サスペンスの範疇だった前作までに対して、本作品は完全なホラーである。ただしオカルトと科学的解釈の両面からアプローチしているところが特徴的だ。また妊娠中絶を巡る倫理的な葛藤と、人間の精神の奥深さをかいま見たことによる戸惑いがテーマのひとつとして描かれている。7点。
 

五十嵐貴久「2005年のロケットボーイズ」 2005年08月24日

 「1985年の奇跡」に続く青春小説。プロローグは30年後、いよいよ日本独自の有人月探査ロケットが打ち上がろうという場面から始まる。プロジェクトの担当者の一人である梶屋信介は自分の人生を決定づけた昔の出来事を思い出していた。そして場面は高校時代へと飛ぶ。
 
 理系は苦手なのに事故のせいで不本意な工業高校に入学してしまった梶屋信介は退屈で無意味な高校生活を過ごしていた。そんなある日、教師からキューブサット(超小型人工衛星)の設計コンテスト出場を押しつけられてしまう。さて、こうなるとここからの展開は予想がつくというものだ。最初は嫌々だったのがやっているうちに夢中になって、数々の困難を乗り越えた末にコンテスト優勝とかしてしまうのだろう、きっと。…と考えたわけなのだが、そこは手練れの作者、予想はまったくのハズレではないものの、予想を超えた一筋縄ではいかないストーリー展開が待っていた。
 
 文章はコミカル路線で、頻繁に出てくる地の文での主人公によるツッコミなどが愉快である。キャラも立っており、衛星設計のために掻き集められたグループの面々は、主人公をはじめ社会や学校の落ちこぼれぞろいなのだが、それぞれ他人にはない個性を持ち合わせている。少々落ちこぼれで元気がよい高校生が主人公の青春小説ということで小峰元の青春ミステリ作品に似た雰囲気があった。もちろんこちらには殺人は出てこないけど。最初の方はあははと笑いながら軽く読み進めていたが、後半クライマックスに向かって(作者の思惑通り?)読んでいるこちらの気分もどんどん盛り上がって行くのが分かった。7.5点。
 

垣根涼介「ワイルド・ソウル」 2005年08月19日

 「午前三時のルースター」でサントリーミステリー大賞・読者賞(2000年)を受賞してデビューした作者の3作目にして最高傑作との呼び声も高い書き下ろし作品。第57回日本推理作家協会賞第6回大藪春彦賞第25回吉川英治文学新人賞(いずれも2004年)のトリプル受賞という偉業を達成している。
 
 最初の章で描かれるブラジル移民の惨状と悲劇が凄まじい。1961年、衛藤は妻と弟を連れてブラジルはアマゾンの奥地へ移住する。しかし、外務省が配った移民の募集要項の説明はまったくの嘘っぱちで、開墾済みの農地と整備された住環境が約束されていたはずが、ジャングルの密林の中へ裸同然で放り出されたのだった。戦前の朝鮮人や中国人に対する強制連行ではやはり、嘘っぱちの好条件を示して連れ出すという手口がしばしば使われていたが、戦後も同胞を相手に同じようなことをしていたとは知らなかった。
 
 妻も弟も亡くし、地獄をさまようような目にあわされた衛藤。その衛藤に拾われたケイ(野口・カルロス・啓一)。そして山本、松尾ら、辛酸をなめ尽くした移民とその二世が、事実上の棄民政策を行った外務省そして日本国家への復讐に乗り出す。緻密に練り上げられた計画を進め、外務省オフィスにマシンガンから銃弾の雨を降らせる中盤までの展開。後半の不測の事態の発生、そして警察による追跡と息詰まる攻防。事件が収束した後のさらなる波乱。骨太のテーマの上に描かれた重厚なストーリー展開と高度なエンターテインメント性が輝く大傑作である。8点。
 

黒田研二「幻影のペルセポネ」 2005年08月14日

 「ヴァーチャル・プラネット」なるネット上の仮想世界と現実世界でシンクロする連続殺人
 
 アニメやCGなどで表現された自分の分身を使って、架空の世界を歩き回り、他の参加者とコミュニケーションを取る。そういうネットゲームなどのシステムは現実にも存在する。ただ、本作品のそれは、物を触ったり掴んだりという動作からちょっとした仕草や表情まで、ものすごく細かく操作できるようだ。人を殺すことや自殺することさえできる。しかもあらゆる方法で。と言うか、現実で出来るほとんどの事が出来てしまうらしい。しかし未来設定で先端技術が取り入れられているわけではなく、全部キーボード操作だったりする。ありえない…。「声をひそめた」って……。文字チャットでどうやって声をひそめるのだろう。岡嶋二人「クラインの壺」くらいの設定にしないと、無理がありすぎる。ネット上の技術的な問題だけではなく、人物の反応や行動もしばしばチグハクでリアリティがない。あと、後半の展開がいかにも説明的な会話や場面のオンパレードになっているのもいただけない。
 
 文句ばかり書いてしまった。このように小説としてはかなり「難あり」なのだが、けっこうすらすら読めてしまうのは不思議だ。文章としては読みやすい。そして作者の真骨頂である「トリック」に関しては、少々複雑すぎると思うくらいだが、さすがに良くできていた。ストーリー重視の「小説」が読みたい人には薦められないが、「トリック」が好きな人には楽しめる作品。6.5点。
 

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