読書日記

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誉田哲也「アクセス」 2004年09月01日

 第4回ホラーサスペンス大賞(2003年)・特別賞受賞作
 
 友達をひとり紹介すれば自分のケータイ料金もすべて無料になるという無料プロバイダに契約した可奈子。しかし可奈子に紹介した尚子は自殺し、可奈子には得体の知れない電話が掛かるようになる。さらに可奈子が紹介した従姉妹の雪乃にも奇妙なことが…。次々と連鎖的に広がる恐怖と不幸の源は何なのか?
 
 ケータイやネットという今どきありふれた存在が恐怖の小道具に使われている。ありがちではあるが、身近な存在を使うことには意味もあるだろう。しかし、なぜケータイなのかという理由付けがちゃんとされていないと、やはり興ざめする。この作品では、邪悪な存在がネット内のいわば「マトリックス」の仮想空間みたいなところに巣くっているという設定がなされており、その辺は一応筋が通っている。だが餌食となる者を無料プロバイダに契約させたりケータイを使ったりする必然性は無く、作者に都合の良い小道具をあまり考えずに配置しただけという感が拭えなかった。
 
 雪乃や翔矢といったキャラは、漫画チックでリアリティがないが、それはそれで貫けば面白くなると思う。しかしそこも中途半端に終わってしまった気がした。しかし代わりに、前半では格別の印象がなかった可奈子や尚子、そして可奈子の母・和泉らが後半で存在感を出していた。囚われた可奈子の脱出劇で幕を閉じるかと思ったら、終章でちょっと意外な展開とひとつの勝利が描かれており、これが小説的には、読後感を多少なりとも印象的にすることに成功していた。7点。
 

西澤保彦「黒の貴婦人」 2004年08月28日

 匠千暁(タック)シリーズ(あとがきによるとシリーズの呼び方は色々あるのだが、ここではそう呼ぶことにする)の短編集。シリーズ8冊目、短編集としては3冊目になる。シリーズ内の時系列的には、各収録作品は最初の2作品がタックたちがまだ学生の頃の「依存」につながるお話、後ろの3作品は卒業後のお話である。
 
「招かれざる死者」
名探偵で行こう」にて既読。
「黒の貴婦人」本格ミステリ01」にて既読。
「スプリット・イメージ または避暑地の出来心」安槻大の女の子だけの合宿のはずが、なぜか料理番として卒業した先輩のタックが参加することに。その合宿先で殺人事件が起こる。ラストに裏エピソードとしてボアン先輩の就職のいきさつが出てくる。7点。
「ジャケットの地図」精神的に孤独だったある資産家がジャケットに遺したメッセージとは…。タックが匿名で登場。タックてば卒業後にこんな事してたのか。ジャケットの謎解きはあまりスッキリしない。6.5点。
「夜空の向こう側」ボアン先輩が就職してひと月のある日、珍しくウサコとボアン先輩ふたりで飲みながらの四方山話。そこでウサコが小耳に挟んだある結婚式での事件の謎を解く。しかし興味はむしろタックとタカチの行く末だ。6.5点。
 
 時系列的にはいろいろな時代の、各長編の物語ともリンクした短編の数々である。ちょっと気になるのはシリーズとしてのサイドストーリーや裏エピソードに重点が置かれていて、それぞれの話の中心になるべき謎解きやメインストーリーの完成度があまり高くないことだ。まあこれらは外伝と割り切って、シリーズ全体のおまけみたいなものだと思って読んでおくのがよいのかも。そうそう、未読の2冊目の短編集「謎亭論処」がまだ未読だ。読まねば。
 

不知火京介「マッチメイク」 2004年08月24日

 第49回江戸川乱歩賞(2003年)受賞作
 
 プロレスというと格闘技ショーというイメージがあるくらいで、どんなものかあまり知らない。格闘技としてのプロレスに熱心なファンも多いようだが、なんか茶番で真剣勝負じゃないよなあ、というマイナスのイメージもある。まあ真剣勝負の格闘技にもそれほど興味があるわけではないが。だがこの作品を読んで、プロレスショーも見方によってはそれなりに愉しめそうな気がした。もちろん安っぽいショーではなく質の高いエンターテインメントとしてよく練られていることが前提だが。
 
 さて、本書は入門したての若いプロレスラーが主人公で、プロレスの世界を題材にしたという珍しいミステリである。プロレスという、ポピュラーといえばポピュラーだが、実のところは世間にあまり知られていない世界をうまく取り込んでいる。試合のさなかに大物レスラーが毒物で殺されるという謎や、引き続いて起こる事件というミステリとしての骨格はありふれていると言える。しかしプロレス世界の舞台裏その中の人間模様といった肉付けが上手く、文句なしの小説に仕上げられていた。
 
 本書でなにより存在感を感じるのが「門番」の丹下である。「門番」なる存在が実際のプロレス社会に実在するものなのか分からないが、丹下の存在が本書の要と言ってよいだろう。ミステリとしてではなく人間物語の要としてだ。最初、純朴というより単純で世間知らずな主人公がこの人物の存在を通して、様々なことを考え成長していく。題材のユニークさが魅力の一つであった本作だが、作者の次回作がどういう作品になるのか楽しみだ。7.5点。
 

ハセベバクシンオー「ビッグボーナス」 2004年08月19日

 第2回「このミステリーがすごい!」大賞(2003年)の優秀賞受賞作。妙なペンネームであるが、さて内容はいかに。
 
 パチンコとかパチスロにはほとんど縁がない。まあそれでも大学時代にはパチンコ屋に入り浸りの友人がいたりしたので雰囲気くらいは分かる。しかし、パチンコもパチスロも単純に玉を弾いたりスロットのボタンを押せば良いというわけではなく、それなりにルールというか決まり事があるようなのだが、その辺の具体的な事はぜんぜん分からない。というパチスロ素人であるが、もちろん本書は楽しく読めた。というか、その程度の素人が一番楽しめるのではないだろうか。
 
 ほとんどがガセネタのパチスロ攻略法を数十万円とかで売りつける小さな情報会社を運営する東。詐欺的な商売、いや詐欺そのものである。だが嫌な感じがあまりしないのは、パチスロで一儲けを考えて攻略法なんかに手を出す輩は、騙される方も騙される方という気がするからか。それよりパチスロ業界の裏事情だったり、東らの軽妙なセールストークが面白い。一歩退いて眺めるとデタラメなのだが、ひとつひとつを聞くとなぜか説得力があったりする。なるほど詐欺ってこうやるのか、という感じである。そんな悪徳商売で大金を稼ぐ東らだったが、やがて不穏な空気が流れ始める。同僚が拉致され、そして金の要求。どうやらライバル会社のバックにいるヤクザが動いているらしい。さらに周囲では不可解な動きが……。
 
 後半はわりと良くあるタイプのストーリーである。出来は決して悪くないのだが、前半にあったユニークさは感じない。主人公の東がもう少しタフで頭がキレるキャラとして描かれていれば、前半の痛快さが持続して良かったのだが…。ラストも、大逆転のカタルシスなどを期待していたのだが、命からがら生き延びただけという感じで不満が残った。と、最後は不満点を書いたが、全体として見て優秀賞の価値は間違いなくある。次作が楽しみである。7点。
 

伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」 2004年08月17日

 「アヒルと鴨のコインロッカー」で第25回吉川英治文学新人賞、「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞し、直木賞候補にもなるなど、作者は最近新人でもっとも注目株の作家だろう。本作品は新潮ミステリー倶楽部賞受賞(2000年)作品。本作の4年前にはサントリーミステリー大賞で佳作を受賞しているが、本書が作者のデビュー作である。
 
 不思議の国のアリス。本書の印象を喩えるとこうなる。船でさほど時間も掛からぬ仙台沖にありながら誰にも知られず、150年もの間、外部との交流を持たない「萩島」。住人には不思議な人が多く、いつも本当の反対のことしか言わない嘘つきの画家、太りすぎて今いる場所から動けない「ウサギ」さんと呼ばれる女性、独自の判断で悪人を射殺することが許されている男「桜」。そして極めつけが言葉を話し、未来を予知できるカカシの「優午」。まさにアリスのファンタジーワールドなのである。しかし本書は実はのどかなファンタジー一辺倒ではなく、ひとかけらの共感もできない芯からの悪人「城山」を登場させたり、ところどころにシビアな現実世界を割り込ませてあって緊張感を作り出している。
 
 デビュー作であることを考えれば文句はないが、気負いすぎの描写や余計なセリフ回しなど、作品には必要のない贅肉が感じられた。読者を引き込む筆力はまだこれからであろう。しかし読み終えた時の満足感は、そんな欠点を補うに十分である。ラストでは、島で起きた「優午」殺しとその周辺の謎の数々を、鮮やかにつなぎ合わせ、そして解き明かす。ハラハラさせた「城山」の件も「萩島」独特の結末を迎える。そして今は亡き「優午」に思いを馳せて幕を閉じるのである。今後の作品へ期待を膨らませつつ、ちょっと厳しめで7点。
 

北山猛邦「『クロック城』殺人事件」 2004年08月09日

 題名から綾辻行人の「時計館の殺人」を思い出す。作者がそれを意識していたかどうかは分からないけど。内容はもちろんまったく異なる。終末を迎えた世界で、クロック城は道もついていない森の中に立っている。城の外壁には、それぞれ10分ずつ異なった時刻を指し示す、現在・過去・未来の三つの大時計が設置されており、城内の部屋の壁には人面が浮かび上がる。そして連続殺人と首無し死体。。
 
 メフィスト賞第24回受賞作品だ。うーん。これまでもメフィスト賞とは相性が悪くて当たり外れが大きいのだが、これは正直言ってハズレだった。基本プロットはもたつく感じで、事件(殺人)が起こるのはようやく話の真ん中当たりである。結末の謎解きも、どんでん返しのどんでん返しまであるが、理に落ちてカタルシスを味わえるようなものではなかった。壁に浮き出た人面の謎も説明されているが納得できるようなものではなく、むしろ序盤の人面樹の謎解きだけが唯一腑に落ちる謎解きだった。結末部分が袋とじになっているのだが必然性を感じられない。あの絵を隠すためだろうか?でもそれとて大したものではない。
 
 自分にとっては肌に合わないが、SFとファンタジーを組み合わせたような世界観が好きな人には良いかもしれない。5.5点。
 

横山秀夫「顔 FACE」 2004年08月04日

 D県警シリーズの短編集「陰の季節」に収められた「黒い線」に登場した似顔絵婦警・平野瑞穂を主役に据えた短編集。厳しい現実が描かれる中で、瑞穂が真面目かつ純粋すぎて、共感を通り越していらいらすることもあるが、きっとそれも作者の狙い通りなのだろう。そして瑞穂は似顔絵の特技ばかりでなく、観察眼、閃き、推理力を備えた優れた警察官である。瑞穂が関わった事件に加え、警察組織や人間関係という要素までを深く描いた短編集。
 
「魔女狩り」名探偵で行こう」にて既読。
「決別の春」相談テレホン係に異動した瑞穂が最初に受けた電話は、最近発生している連続放火に怯える若い女性からの相談だった。瑞穂の推理は彼女を怯えさせていた本当の理由にたどり着く。7.5点。
「疑惑のデッサン」瑞穂の想い、後輩婦警の想い、警察組織の歪み、同僚警官の思惑、いろいろな要素が複雑に絡み合ながら、見事に一つの物語を作っている。最後の数行が物語を爽やかに昇華させている。7.5点。
「共犯者」本物さながらの銀行強盗。こういう訓練って本当にやっているのかなあ。知らなかった。本書に描かれている以外にも、いろいろ問題が発生しそうな気がするけど。。意外な動機が強烈な印象を残す。7点。
「心の銃口」警察マニアの犯人が婦警を襲って拳銃を奪う。組織に都合良く振り回されてきた女性警察官の存在や警察組織の病理をからめ、最後まで油断できない、通り一遍ではないストーリーが見事な作品。7.5点。
 

貫井徳郎「被害者は誰?」 2004年08月02日

 各話の題名を眺めるだけで、ちょっとばかりマニアックかもしれないけどなんか面白そう、という感じがする。傍若無人だが頭脳明晰・容姿端麗でベストセラー作家でもある吉祥院慶彦先輩と、彼の安楽椅子探偵ぶりに頼りながらも振り回されて苦労が絶えない捜査一課の刑事・桂島の事件簿である。
 
「被害者は誰?」とある屋敷の庭から発見された白骨死体はだれ?犯人はすでに分かっていてその家の主である。さらに犯行動機を書いた手記まで発見されているのだが。。7.5点。
「目撃者は誰?」本格ミステリ03」にて既読。
「探偵は誰?」叙述トリックを駆使するにしても探偵が誰かを推理するなんてどうするのかと思ったら、吉祥院先輩が事実をもとにして書いた小説を桂島くんに読ませて探偵=吉祥院先輩を当てさせるという趣向。7点。
「名探偵は誰?」本編のみ書き下ろし。謎解きはともかく(?)吉祥院先輩と桂島くんのふたりのキャラがさらに際立つ面白さがあった。7.5点。
 

東野圭吾「おれは非情勤」 2004年07月31日

 非常勤教師として小学校を渡り歩く「おれ」が、赴任先で起こった事件の謎を解く物語の短編集。学研が出す小学生向けの学習雑誌に掲載されたものに加筆されたシリーズ作品6編が収められている。東野圭吾が書いた小学校の先生というと「しのぶセンセ」のシリーズを思い出すが、本作では主人公の性格もずいぶん異なる。どうやらハードボイルドを意識しているらしい。題名が「非情」勤と言うくらいだから、主人公はまあ熱血教師ではない。クールでドライなタイプの先生である。とはいえ本当に「非情」というわけでもなく、ドライなわりにはときどきすごくいいことを言ったりするのだ。ところで「おれ」はミステリー作家をめざしているらしいが、どんな話を書いているのか読んでみたい。
 
 6編のほかに、小学生の小林少年が主人公のジュブナイル「放火魔をさがせ」「幽霊からの電話」も収録されている。7点。
 

横山秀夫「動機」 2004年07月29日

 「このミス'01」では国内編2位を獲得し、表題作「動機」は第53回(2000年)日本推理作家協会賞短篇部門を受賞している。
 
「動機」紛失防止のために一括保管を導入した警察手帳が盗難にあった。反発していた刑事部の内部犯行か? 危機に立たされた一括保管の提案者の警官がたどり着いた犯人と動機は意外なものだった。7.5点。
「逆転の夏」殺人の前科を持ち、世間の厳しい目を恐れながらも社会復帰を目指す男に見知らぬ人物から殺人の依頼が舞い込む。けっこう主人公自身が墓穴を掘っているところがあるし、無理に感じるところもある。このまま破綻と破滅で終わるかと危惧したが、ちゃんと安心できるラストで良かった。7点。
「ネタ元」特ダネを追って日々熾烈な競争が繰り広げられている新聞記者の世界で奮闘する女性記者の葛藤を描いている。地方新聞記者出身の作者が書くこの世界は真実味がある。7点。
「密室の人」密室とは法廷のことである。裁判官の世界も大変だ。公判中に居眠りをした裁判官に何が起こったのか。一般人から見たら世間を超越した存在に思える裁判所の中もやはり人間の世界なのだなあ、ということがよく分かる。7点。
 

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