読書日記

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井上尚登「ポーツマスの贋作」 2011年04月12日

ポーツマスの贋作

 著:井上 尚登
角川書店(角川グループパブリッシング) 単行本
2010/12/25

 1905年、日露戦争を終結させるための講和会議がアメリカのポーツマスで開かれ、ポーツマス条約と呼ばれる講和条約が締結された。その際の日本側の全権は小村寿太郎。とまあ、この辺は中学高校の歴史の時間に習った知識として残っている。しかし教科書にはささっと事実関係が記述されているだけだったと思うし、当然それ以上のことはほとんど知らない。本作品はそのポーツマス講和会議を題材にして、その背後でのかけひきや諜報戦を描いた小説である。
 
 物語はプロローグとして第二次世界大戦直後の1950年から幕を開ける。そこに集まった人物たちは、1905年に世界各地において、自分たちの意図とは別に、条約締結に影響を及ぼすことになった人たちだった。そこで彼らがかつての経験を語り、事実を互いに突き合わせることによって、当時何が起こっていたのかの全貌が明らかになる。
 
 登場人物も多いし、文章が若干分かりづらかった。もちろんまったくダメということは無いのだが、スッと頭の中に入ってこない感じだ。この作者の文章ってこんな感じだったっけ。物語の方も、複雑に事象が絡み合うのは良いのだが、その分、理解が難しくなり、カタルシスを得るような大仕掛けもなかった。デビュー作「T.R.Y.」や「C.H.E.」系統の近代歴史物だが、残念ながらそれらほどの完成度はない。とは言え、時間や空間に大河ドラマ的な広がりを演出して歴史の裏側を描いたストーリーはそれなりに面白かった。7点。
 

倉知淳「こめぐら−倉知淳作品集−」 2011年03月31日

こめぐら (倉知淳作品集)

 著:倉知 淳
東京創元社 単行本
2010/09/29

 倉知淳デビュー以来の16年間に発表されてきたノンシリーズ短編を収録した作品集で、二冊同時刊行された片割れ(順番は関係ないと思うが、こちらが「その2」となっている)。もう一冊は「なぎなた」というタイトル。あとがきによると、どちらも意味は特にないらしい。2011年の「本格ミステリ・ベスト10」で第10位(ちなみに「なぎなた」が次点)。
 
「Aカップの男たち」タイトルからよもやと思ったが、やっぱり、ブラジャー愛好家の男たちの話。この設定のせいもあってか、展開の仕方だとか謎解きのプロセスも西澤保彦っぽい感じがした。6.5点。
「「真犯人を探せ(仮題)」」タイトルのラジオドラマが作中作として出てくるメタ構造。そこまでは、まあよくありそうな話、と思ったら、最後にさらにもうひとつの仕掛けが効いた。7点。
「さむらい探偵血風録」結局、ミステリにはならないのか。最初、時代劇!?と思ったら、時代劇のテレビドラマで、それを見ている視聴者目線から書いて、時代劇のお約束ごとを茶化すという文章芸だった。7点。
「遍在」ぱっとしない若者が、不死の呪術が記された古文書を偶然発見して、さてどんな顛末になるのか。おおっ、最後に大仕掛けが判明する。こう来たか。7点。
「どうぶつの森殺人(獣?)事件」森の動物(必ずしも本来は森に住んでいる動物ばかりではないが)たちを登場人物にして、ときどき神の視点(作者の言葉)を入れながら書かれた犯人当てミステリ。7点。
「毒と饗宴の殺人」本編はボーナス・トラックで、シリーズキャラである猫丸先輩が登場。こんな話が未収録で残ってたのか。7点。
 
 猫丸先輩の話がわりとオーソドックスだが、ほかはそれぞれに何らかの趣向を凝らした変化球的な感じの話が多かった。あいにく推理小説的な完成度は総じて高いとは言えなかったが、文体とか特色ある仕掛けの良さもあって十分に楽しめた。
 

米澤穂信「春期限定いちごタルト事件」 2011年03月25日

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 著:米澤 穂信
東京創元社 文庫
2004/12/18

 「小市民シリーズ」と言うらしい。全四冊を予定していて、「春期」「夏期」「秋期」までが季刊、ちがう、既刊で、完結編となる「冬期」だけがまだ未発表なのかな。東京創元社だが、表紙の絵柄からも推測できるようにライトノベル的で、気軽に読める感じのミステリ連作となっている。本書は「羊の着ぐるみ」「Your eyes only」「おいしいココアの溶き方」「はらふくるるわざ」「狐狼の心」の5編から構成される。
 
 「恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある」高校一年生の小鳩君と小佐内さんは、互いに協力しながら、目立たずささやかな生活を送る小市民たることを目指している。どうやら過去に大きな転機があってそうなったようなのだが、その辺の事情はまだ本書ではつまびらかにされない。しかし、知恵働きが過ぎて小賢しかった過去に痛い目にあって、もう推理はしないと決めた小鳩君の目の前には、しばしば解かざるを得ない謎が現れる。
 
 日常の謎的な路線で、個々の謎解き自体はさほどは感心しない。物語の肉付けとなる周辺エピソードはと言うと、これが何かの伏線になるのだろうか、これは結末にどうつながるのだろう、と考えながら読んだ事柄が、各話ごとには必ずしも収束せず、そのまま話が終わってしまう。どうやら短編集としてではなく、全部でひとつの物語として読むべき作品だ。最後の方では、小鳩君と小佐内さんの過去にもすこしだけ話が及んで興味を引かれる。キャラクタ設定や雰囲気が個性的で魅力的であり、異色の青春物語でもあり、続刊でどう展開して、どのようなフィナーレを迎えることになるのか楽しみだ。7点。
 

岡嶋二人「ダブル・プロット」 2011年03月10日

ダブル・プロット (講談社文庫)

 著:岡嶋 二人
講談社 文庫
2011/02/15

 既刊の『記録された殺人』(1989年 講談社文庫)に、表題作を含めた3編(「こっちむいてエンジェル」「眠ってサヨナラ」「ダブル・プロット」)の未収録作品を加えて再編成された短編集だ。再編成版とは言え、岡嶋二人の新刊が読めるとは嬉しい。未収録作品も入っているわけだし。もっとも、旧版の作品集は読んだかどうか覚えていない。読んでたような気はするが。。
 
「記録された殺人」(週刊小説 1984年6月1日号) フィルムに撮影されていた事件現場。警察の聞き込み捜査に沿う形で、関係者の証言をたどりながら真相に迫って行く。7点。
「こっちむいてエンジェル」(月刊カドカワ 1983年8月号) 雑誌編集者の入江伸子が担当作家のところで出会った若い未婚の母親が変死。犯人と目された男にはアリバイがあり…。オーソドックスなミステリ。6.5点。
「眠ってサヨナラ」(月刊カドカワ 1983年12月号) 前作に続いて入江伸子が主人公。編集部の同僚がバイクで事故死する。最初は居眠り運転と思われたが…。これもオーソドックスなミステリに仕上がっている。7点。
「バッド・チューニング」(オール讀物 1983年10月号) 芸能プロダクションの男の身に降り掛かった災難の真相は。銀行強盗や車の事故など様々な要素が複雑に絡み合う。7.5点。
「遅れてきた年賀状」(小説宝石 1984年1月号) 最初から警察に相談すべきでは、と思ったのは置いといて、トリックが素朴な感じがするのは、時代のせいだろうか。いや、でも読む分からなかったのだけど。7点。
「迷い道」(週刊小説 1984年2月24日号) 最初のあれはふつう気付くだろうと思うのは、スレているからか。世間の知識も、80年代あたりだとこんな感じだったのか。7点。
「密室の抜け穴」(問題小説 1984年5月号) タイトル通り密室となったビルで発生した殺人事件。密室の謎を解いていくのだが、最後にはうまくひねられた真相が明らかになる。7点。
「アウト・フォーカス」(オール讀物 1984年7月号) 映像製作会社の中で不審な動きがあって、ある不正が見つかる。そしてやがて殺人事件が発生する。7点。
「ダブル・プロット」(小説現代 1983年7月号) 表題作は新装再刊のボーナストラックとしてぴったりの異色作。メタ小説風に、雑誌の競作小説企画をめぐる顛末が描かれる。7.5点。
 
 岡嶋二人が活躍したのは1980年代。本書に収められた作品は作者のデビューから1,2年目の80年代前半のものばかりである。携帯電話も無いしデジカメも無い。CDではなくLPレコードやカセットである。舞台立てばかりでなく、人物造形や小説の雰囲気が時代を感じさせるが、今となってはそれもまたちょっと魅力になっている。巻末には岡嶋二人の片割れである井上夢人氏と、ミステリ評論家評論家の新保博久氏による解説が収録されている。
 

桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」 2011年03月04日

赤朽葉家の伝説

 著:桜庭 一樹
東京創元社 単行本
2006/12/28

 地方の旧家である赤朽葉家の女三代の物語という小説。2007年の「このミステリーがすごい!」第2位「文春ミステリーベスト10」第4位「ミステリが読みたい!(早川書房)」第2位。そして第60回日本推理作家協会賞(2007年)を受賞した作品である。
 
 第一部は祖母、赤朽葉万葉の物語。幻視で未来を見通す不思議な力を持つ千里眼奥様の生い立ちから、赤朽葉家に入って子供を生み育てるまでの物語である。舞台になっているのは、戦後から高度成長期までの日本の一地方なのだが、濃密な気配に満ちあふれた世界の雰囲気はとても現実社会のものとは思えない。「神話時代」とサブタイトルに付けられているのはまさしくぴったりだ。全然違うと言えば違うのだけど、この立ちこめる雰囲気からは手塚治虫の「火の鳥」なんかも思い出した。いやまったく違うのだけども。
 
 第二部は万葉の長女、赤朽葉毛毬の物語。豊かになりバブルに向かって浮つき始めた80年代が中心で、不良少女となってレディースの頭を張るじゃじゃ馬な毛毬の中学生時代から描かれる。そして、族を引退後はなんと人気漫画家へ転身という波瀾万丈。雲の上の世界のようで現実感が希薄だった第一部の神話の世界から、いきなり身近で世俗的になって、漫画家になるあたりのストーリーはドタバタ喜劇風でもある。シリアスながらコメディ的な要素もあるあたりや、80年代不良少女の雰囲気からは少女漫画「花のあすか組!」を想起した。いや、ますますまったく違うのだけども。
 
 第三部は、毛毬の一人娘である瞳子の物語。ここまでの物語も基本的に、瞳子が祖母と母から聞いた話として語られていた。いよいよ舞台は現代に移り、物語も現代推理小説っぽくなる。第三部のタイトルは「殺人者」だ。万葉が亡くなる間際に遺した「わしはむかし、人を一人、殺したんよ」という言葉に衝撃を受けた瞳子が、その真実に迫る。
 
 異色の大河小説である。細かいエピソードがぎっしりと詰め込まれていて、また、各章ごとに雰囲気が異なっているのだが、それらがひとつの奔流となり、まさに伝説と言うべき物語を形成していた。かなりお腹いっぱいになる作品だ。7.5点。
 

大倉崇裕「生還 山岳捜査官・釜谷亮二」 2011年02月22日

生還 山岳捜査官・釜谷亮二

 著:大倉 崇裕
山と溪谷社 単行本
2008/08/29

 以前読んだ「聖域」に続く山岳ミステリ。登山者向けの月刊誌『山と溪谷』に連載された3作品に、書き下ろし一編を追加した全四話の短編集だ。漢字二文字の題名の付け方と言い、初期の真保裕一の、いわゆる「小役人シリーズ」を思い出させる。
 
 釜谷亮二は長野県警の山岳捜査官(山岳遭難救助隊特別捜査係)である。山岳捜査官とは、いわば「山の鑑識係」で、山で発見された遺体に不審な点があるときに呼ばれるのだそうだ。山岳救助隊は聞いたことあるが、こういう捜査官も実在するのだろうか。彼の下に付いた新人捜査官の原田昌幸の視点から物語は描かれる。
 
「生還」遭難者がナイフを突き立てて雪面に遺した黄色いジャケットの意味するところは。ミステリとしては肩すかしだった。でも山岳小説としてはOKだろう。6.5点。
「誤解」山小屋の主人が意識不明の重体に。はじめは落石事故かと思われたが…。フーダニット、ハウダニット、そしてホワイダニットもある。7.5点。
「捜索」山へ行くと言って消息を絶った男。しかしどこへ向かったのかさえ分からない状態だった…。釜谷が山岳救助隊の意地と執念をみせる。伏線の回収がいまひとつ?7点。
「英雄」書き下ろし作品。雪崩の現場から発見された不審な遺体。発端の事件の動機が弱いとか、ラストがちょっとスッキリとしないとかあるが、骨太の謎解き物語になっている。7点。
 
 「山岳捜査官」というタイトルから読む前に予想していたのと比べると、話にもよるが、必ずしもミステリ色はあまり濃くない。だが、山をテーマにしたドラマとしてなかなか良かった。
 

石持浅海「Rのつく月には気をつけよう」 2011年02月13日

Rのつく月には気をつけよう (祥伝社文庫)

 著:石持 浅海
祥伝社 文庫
2010/08/31

 学生時代からの友人で飲み友達の3人、長江高明、熊井渚、そして湯浅夏美が、長江のワンルームマンションでゲストを一人呼んで行うパーティ(飲み会)。毎回、趣向を変えた料理と酒の組み合わせを楽しみながら、雑談に興じる中で、ゲストの話に出てくる謎(最初は謎と認識されていないこともある)が解き明かされるという安楽椅子探偵ものの連作短編集だ。
 
 収録作は「Rのつく月には気をつけよう」「夢のかけら 麺のかけら」「火傷をしないように」「のんびりと時間をかけて」「身体によくても、ほどほどに」「悪魔のキス」「煙は美人の方へ」の7編。
 
 いずれの話でも、登場する食べ物と酒がずいぶん魅力的だ。どれも一度試してみたいと思ってしまう。ミステリとしては、安楽椅子探偵ものらしく(?)、いろいろな可能性が考えられる中でなぜその答えなのかという裏付けが弱いのは仕方がないか。とは言え、ロジックには無理もあるが、一応破綻はない。残念なのは詳細にリアリティを感じないところだ。人のもののとらえ方や感じ方、その時に取る行動、そういったものがあまりナチュラルに思えない。この作者はもともと、この辺のリアリティに無頓着な作風ではあるのだが、今回はそれをカバーする面白味というのも、もうひとつ足りなかった。ということで各話とも点を付けると、おおよそどれも6.5点というところ。
 
 しかし、最後の話にはやられた。まさかそんな壮大なトリックが仕掛けられていたとは。それと設定の良さで、付けた点数以上に読後の印象は良かった。
 

若竹七海「プラスマイナスゼロ」 2011年02月09日

プラスマイナスゼロ

 イラスト:杉田比呂美
ジャイブ 単行本
2008/12/03

 おっと、いつのまにかこんな作品が出ていたのか。作品ごとに登場人物は変わるが舞台は共通で、神奈川県にある辺鄙な海辺の町・葉崎市で事件が起こるシリーズ、2008年刊行の作品である。
 
 こんな作風だったっけ。いや、基本はたしかにこれまでもこんな感じだった。けどこれまでにも増してユーモア色が強くなっている。ほとんどギャグみたいなノリとかもあって、東川篤哉の作品かと思ってしまうくらいだ。市立の葉崎山高校に通う女子高生トリオ、世間離れしたお嬢様テンコと元気ありあまる不良娘ユーリ、そして歩く全国平均値ミサキが巻き込まれる(引き起こす?)騒動を描いた、全6編からなる連作短編集である。2番目から4番目の話は書き下ろし。
 
「そして、彼女は言った」オカルト話だけど怖くない。笑える。ストーリーとオチは単純だけどとにかく笑える。7点。
「青ひげのクリームソーダ」あっさりスッと終わってしまって、もの足りない。もう少し肉付けされていると良かったかも。6.5点。
「悪い予感はよくあたる」うわ、なんと叙述トリックだったか。思わず読み返してしまった。7点。
「クリスマスの幽霊」どういうワケでこんな仕事を引き受けたのだろうか?というのは置いといて、事件の意外な顛末。7点。
「たぶん、天使は負けない」またもや死体を発見!?卒業生を送る会でやることになった出し物はインパクト芸で…。7点。
「なれそめは道の上」ミサキたち"プラスとマイナスとゼロ"の異色トリオのなれそめが描かれる。ストーリー的にも勢いがあって面白い。本書のベスト。7.5点
 
 葉崎市シリーズという中でも、このトリオの物語でシリーズ化されたりしないだろうか。このトリオキャラはけっこう気に入った。
 

西澤保彦「幻視時代」 2011年02月03日

幻視時代

 著:西澤 保彦
中央公論新社 単行本
2010/10

 偶然撮影されていた18年前の写真。そこには、その4年前に死んだはずの少女の姿が映っていた
 
 そんな不思議な謎の提示から物語は始まる。そして場面は一気に22年前、主人公・矢渡利悠人の高校生時代へと移る。悠人は高校で文芸部に入り、悠人の亡くなった母と一緒に大学時代に同人活動を行っていたという文芸部顧問教師・白州と出会う。そして文芸部の同級生には才能あふれる文学少女・風祭飛鳥がいた。彼女は応募した作品で、見事、新人賞を受賞して、一躍新進気鋭の美少女作家として時の人となる。しかしそこで事件が起こる…。
 
 作品の前半は、22年前と18年前を振り返る形でストーリーが進んで行き、すべての事件はその中で起こる。そして中盤を過ぎたところで現代へと立ち戻り、そこから以降は作者得意の、というかお馴染みの、飲んだくれながらの推理合戦となる。悠人の文芸部の後輩で、今は作家になっているオークラ、そして編集者の長廻とともに、過去の事件と謎の写真の真相をあーでもないこーでもないと言い合った末にたどり着いた真相とは?
 
 最後のエピローグがなかなか効いていた。これによって事件の見方にちょっとだけ新しい視点が加わって全体が引き締まっている。最近、西澤保彦はこの手の仕掛けが多いな。7点。
 

道尾秀介「月の恋人 〜Moon Lovers〜」 2011年01月30日

月の恋人―Moon Lovers

 著:道尾 秀介
新潮社 単行本
2010/05

 たまたまなのだが、最近、道尾秀介づいているというか、立て続けに読んでいる。道尾氏はつい先日、5回連続ノミネートという記録の末、直木賞を『月と蟹』(未読)で受賞した。いまもっとも勢いのある作家のひとりと言えよう。本作品は、昨年フジテレビ系で放映された木村拓哉主演のいわゆる月9ドラマの原作として書き下ろされたという作品だ。
 
 本作品の主な登場人物は3人。まず、平凡な派遣OLだった椋森弥生。性格は真面目で純粋。別の言い方をすれば単純。ちょっと間の抜けたところもある。そして冷徹な若き実業家、インテリアメーカー「レゴリス」の社長である葉月蓮介。最後が「レゴリス」の広告モデルを引き受けることになった中国人女性・リュウ・シュウメイ。
 
 作者の頭にある連ドラのイメージを具現化したらこうなった、という感じがよく出ている気がする。登場人物たちのキャラクター設定もベタなら、ストーリー展開もベタである。ということで、細かく場面が動いていくので退屈せずにそれなりに面白く読めるのだが、描かれる人物像もエピソードも、やや安易で表層的なところで終わってしまう傾向が強かったように思う。良くも悪くもテレビ向けである。もっとも、ドラマ版では、この小説でもっとも重要な登場人物である椋森弥生が出てこないなど、最終的にかなり異なる物語となっていたらしい。そちらの評判はどうだったのだろうか。6.5点。
 

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