- アガサ・クリスティー(中村能三・訳)「オリエント急行の殺人」 2003年12月27日
- これまで読んだことがあるクリスティーは、「そして誰もいなくなった」と…、それと……、…それだけかも。というわけで世に名高い名探偵ポアロの活躍を読むのも初めてのことである。そんことで良いのか、という話はさておき、今回唐突に「オリエント急行の殺人」を読んでみたのは、最近早川書房からクリスティー文庫という名で続々新刊が発行されていることに触発されたからだ。訳も新しくなっているとどこかに書いてあったが、実際はほとんどの作品では旧訳の見直しをした程度で、ゼロから訳し直されたわけではないようだ(まったく新訳の作品もあるらしい)。ちなみに文庫サイズは通常のものより僅かに大きくなっていて、普段使っているブックカバーに入らなかった。
さて、小説の作りはもちろん純然たる本格推理である。雪で立ち往生するオリエント急行の内部で殺人事件が発生する。車内には国際色豊かな人々が乗っており、たまたま乗り合わせたエルキュール・ポアロが事件の解決を依頼される。寝台車両の見取り図が示され、乗客ひとりひとりの証言を取って行き、そして謎の解決の前にはそこまでに判明した事実の一覧が提示される。ラストは乗客全員を集めてポアロの謎解きの場面となるわけだが、到達した真相と犯人の意外性は文句なく、幕の引き方も素晴らしかった。現代小説に慣れた目から見ると、途中の経過は小説としては味気なく物足りなくも感じるが、書かれたのが1933年だと言うことを考えると、逆に今でも通用する小説の完成度の高さに驚嘆すべきだろうな。7点。
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