読書日記

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黒田研二・二階堂黎人「千年岳の殺人鬼」 2003年02月25日

 二階堂黎人さんのHPによると本作品は『白銀荘の殺人鬼』(彩胡ジュン名義、愛川晶、二階堂黎人共著)、『Killer X(キラー・エックス)』(クイーン兄弟名義、黒田研二、二階堂黎人共著)と続いてきた《スキー・サイコ》シリーズの第三弾である。黒田・二階堂共著と言うことでは『キラー・エックス』に続くもので、当初は『キラー・エックス2』という仮題で執筆されていた由。前作は読んでいないのだが、たぶん独立の物語だろう。
 
 オーストラリアの日本語学校の仲間たちが日本へスキーを楽しみにやってくる。そこは時空を超えて移動できるワームホールがあると噂されている場所だった。メンバーのひとりの計略から雪山で孤立してしまった彼らは、そこで不可思議な現象と連続殺人事件に遭遇する。
 
 吹雪の山荘で起こる連続殺人という本格の典型をベースにした、本格テイストあふれるミステリだ。ただ気になるのはリアリティの希薄さ。登場人物の造形も、肝心のトリックも、どうにも現実味に欠ける。パズルを組み立てる道具だと割り切って読めばそれなりには楽しめるのだが。あと、謎の収束という意味でも不満が残る。読み落としている所があるのかもしれないが、謎が謎のまま残ってしまう部分も多いし、矛盾に感じる場所もある。と改めて考えると不満は多いのだが、それでも読んでいる間、実はけっこう楽しめた。6.5点。
 

貫井徳郎「殺人症候群」 2003年02月21日

 「失踪症候群」「誘拐症候群」に続く症候群三部作の最終作。やはり本作でも貫井徳郎特有の(?)シリアスで重苦しい雰囲気が漂う。
 
 環敬吾をリーダとするグループは警視庁の意向を受けて犯罪の捜査や摘発を行っている。しかしその存在は公表されず、活動自体が適法とは言えない秘密組織である。法の網目からすり抜けようとする犯罪を、やはり法の枠組みを超えて摘発することがその使命だ。
 
 本作品で環グループが追求するのは、犯した罪に相応しい罰を受けず更生もしていない犯罪者に対して、被害者に成り代わって復讐殺人を繰り返している人物たちである。しかし環グループがそもそも、現代の必殺仕事人的な組織であり、彼らが追おうとしている犯人たちと同じ種類の存在といえる。
 
 環グループの存在も、彼らが追う殺人者も、あるいは必要悪と言えるのかもしれない。しかしそれらは常に矛盾を抱えた存在であり、決して正義とはなり得ない。法治社会は法律を守ることで成り立っている。しかし法律にはたしかに限界がある。欠陥法は別にしても、法律は時に納得のいかない結論に導く。そんなとき人はどのように対処すべきか。己の理性と良心を、法律と天秤にかけて、自分に責任をもって行動するしかないのだが、簡単にはとるべき道が分からない。本作品はそんなことを問いかけてくる。
 
 結局訪れるラストは破滅的なものだ(これも貫井作品の特徴かな?)。法と正義の関係も結論は出ない。まあそれは仕方がないとしても、倉持がどうなったかも宙ぶらりんなのは気持ちよくない。7点。
 

東直己「バーにかかってきた電話」 2003年02月16日

 ススキノ便利屋探偵<俺>シリーズ。順番に読んでいないのでこのシリーズ作品を読むのは5冊目くらいになるのだが、これが第二作目にあたる作品だ。シリーズ第一作「探偵はバーにいる」の感想には、文章がちょっと上滑り気味というようなことを書いた。一方、その後に読んだ作品では文章も物語も大満足で、いまや東直己はお気に入りの作家の一人である。この二作目は前半でこそわずかに未熟さを感じる部分があったが、後半に読み進んでからはほとんど文句もなく、東直己が二作目にして早くも大成していたことを感じさせた。
 
 物語は<俺>が入りびたるバー「ケラー・オオハタ」に女性の声で電話がかかってくる場面で始まる。それは奇妙な仕事を依頼する電話だった。その不可解だが簡単な仕事を終えた<俺>は帰りに命を狙われる。事件に興味を覚えた<俺>は事件の背景の調査を始める。その後も決まってバーへ電話をかけてくる女性は何者なのか。そして一体何が起こっているのか。
 
 シリーズを固める個性的な脇役たちに囲まれて奮闘する、主人公<俺>の姿は、端から見て決して格好良くない。従来のハードボイルドとはそこが大きく異なっている。しかし、その格好良くないところが格好良いという不思議な魅力にあふれているのだ。<俺>は作者自身を投影した姿ではないかという指摘があるが、おそらくその通りなのだろう。主人公の感性は作者の感性を大きく反映しているに違いない。7.5点。
 

西澤保彦「両性具有迷宮」 2003年02月12日

 「なつこ、孤島に囚われ。」で初登場の実在作家・森奈津子がヒロインで、ほかにも実在作家なぞがばんばん出てきて、特有の慇懃文章で綴られるシリーズである。題名からしてナンだが、内容もやはり官能小説だかギャグコメディだかお馬鹿SFだか、それともやはり推理小説なんだか、という代物なのであった。
 
 サングラスをかけたシロクマのぬいぐるみそっくりの宇宙人の手違いによる事故で、アンドロギュヌスと化してしまった奈津子。もっとも奈津子はまったく動じない。どころか、喜ぶ奈津子。おいおい。また、アンドロギュヌスとなったのは奈津子だけではなく、「事故」が発生したコンビニに居合わせた女性たち十数名もであった。そして起こる連続殺人事件。被害者はコンビニでアンドロギュヌスとなった件の女性たちだった。
 
 殺人事件も起こるしサスペンスフルなミステリの要素がありそうなものだが、実際のところその影は薄い。ラストでは意外な犯人が明かされるが、意外性をミステリ的カタルシスに昇華するべき動機や犯行の論理性が不足しており残念。まあやはりこのシリーズは、ミステリではなく、森奈津子をはじめとした特異なキャラたち、そして繰り広げられる相当に開放的な性愛のお話が面白く読めるかどうかがポイントだろう。あと、どこまで本気で受け止めるべきかよく分からないところもあるがジェンダー論みたいな話にもかなりの紙数が割かれており、ちょっと理屈っぽくなるのはいつもの西澤保彦。ところで本書って18禁指定はしなくて良いのかな、なんて言ってみたり。6.5点。
 

有栖川有栖「マレー鉄道の謎」 2003年02月06日

 マレー鉄道はタイの首都バンコクからマレーシアの首都クアラルンプールを通りシンガポールに至る、マレー半島を縦断する長大な鉄道路線だ。ただ本書の記述によると、通常の列車はタイからシンガポールまで直通ではないらしい。マレー鉄道は、実は一度だけ乗ったことがある。マラッカからシンガポールまでのごく一部の区間だけだったけど。高校生の頃に家族で旅行したときのことだ。細かいことはもう覚えていないが、なぜか車内でカードゲームのUNOで遊んだことを覚えている。
 
 それはともかく。今回の話では、お馴染み火村英生と有栖川有栖のコンビが大学時代の級友を訪ねてマレーシアへ旅行する。するといつものこととて恐ろしい偶然によって、彼らの身近で殺人事件(それも密室!)が発生する。冒頭ではアリスたちが訪ねる前に起こったマレー鉄道の衝突事故が意味ありげに描かれており、これらの事件がどう関連して収束して行くかが見所、いや読み所である。
 
 このコンビのシリーズとしては久しぶりの長編だった。内容的には前半はもっと切りつめて中編くらいで良かったかもしれない。でも最後の解決場面では結構盛り上がったし(密室トリックは、それでホントにうまくいくの?という疑問が残るけど)、だめ押しのもう一ひねりもあったし(後味は良くないけど)、けっこう満足して読み終えたのだった。おまけ気味の7.5点。
 

歌野晶午「ブードゥー・チャイルド」 2003年01月30日

 15歳の日本人の少年・日下部晃士は前世の記憶を持っている。その記憶によると、彼は黒人の家庭で育ち、幼いうちに悪魔に腹をえぐられて死んだのだ。現在は平凡な中学生のはずの晃士だったが、前世の記憶と現世が交錯したかのような事件で母を失う。前世の記憶は現実なのか?いったい何が起こっているのか。
 
 いきなり前世なんかが出てきて、しかもそれが現在の事件と結びつくなど、摩訶不思議な謎が提示される。とうてい理解不能で現実のこととは思えない謎なのだが、これがちゃんと理に落ちた結末を迎える。真実に導く探偵役になるのは「ジュリアン」というネットの世界で知り合った人物。そういえばこの物語はホームページで始まり電子メールで終わる。それと、謎解きに使われるのは最先端医学である。幻想的な謎を扱う本格ものである一方で、現代の最先端が最大限に取り込まれている。
 
 最大の謎のからくりには種明かしの前に気づいてしまったのだが、周囲に張りめぐらされていた伏線と謎解きも含めて、十分満足できるパズラーだった。7.5点。
 

黒川博行「左手首」 2003年01月20日

 犯罪をテーマにした短編集。
 
「内会」車の窃盗で稼いでいる男が闇賭場を襲う狂言強盗に誘われた。しかし押し入ったはよいが。。6点。
「徒花」急な金が入り用になった中根はマルチ商法で稼いでいる老夫婦の自宅に盗みにはいる。6点。
「左手首」美人局を仕掛けたカモに逆襲され、男をはずみで殺してしまう。バラバラにして証拠隠滅をはかるが。。6点。
「淡雪」夫婦が産業廃棄物の不法投棄をネタにゆすりを企てる。6点。
「帳尻」ホスト出身の占い師・緒方は客の女性から楽に大金を手に入れる美味しい話を聞かされる。7.5点。
「解体」損保会社の車両鑑定人と裏取引をしていた解体屋の佐伯。車両鑑定人が殺されて刑事が佐伯の元へやってくる。7点。
「冬桜」警察の手入れを装って闇カジノから金を巻き上げる4人組。6点。
 
 どの話も取材や調査がしっかりしていることをうかがわせる。一般人にはなかなか知ることの出来ない世界がたいへんリアルに描かれている。文章も上手いし、どんな展開が待っているのかと期待が高まる。しかし致命的なことに、ほとんどの話がそれだけで終わってしまっていた。犯罪は落とし穴があってどれも結局うまくいかないのだが、伏線らしい伏線もなく、小説らしい意外性が無い。ひねりが何もなく、単なる犯罪実録みたいになってしまっている。これはもったいない。この作者の実績から言って、おそらくこれらは狙って書いているのだろうが、やはり何とも物足りない。「帳尻」と「解体」だけは意外性のある結末。
 

山田正紀「ミステリ・オペラ」 2003年01月10日

 第2回本格ミステリ大賞及び第55回日本推理作家協会賞を受賞(2001年)。「このミス」2002年度版では3位にランクイン。分厚い背表紙が目を引く堂々たる大作である。巷の話題になってから一年経つが、図書館で見かけて借りてきた。
 
 「南京虐殺事件」が起こった翌年・昭和13年の満州と、その50年後、平成元年の東京が舞台になっている。さらに量子論的な多世界解釈によるパラレルワールドの要素を加えるなどして幻想ミステリのおもむきを持っている。もちろん奇怪な殺人や消失事件など盛りだくさんの本格推理小説的な要素も詰め込まれており、「本格ミステリ文学の集大成」と評されている作品だ。構成はメタミステリ的でもある。
 
 さてここで告白をしなければならない。実は私は途中1/3くらいまでしか読んでいない。古典的な探偵小説の雰囲気を持つ本作品は、表現や作品世界も重厚で、がんぱって読むが、どうしても作品に入り込めない。いきおいとばし読みになってしまう。作中に古い小説を読んだ桐子が「大時代な文章にいささか辟易して本を閉じた」場面が出てくるが、自分も本書に同じように感じたのだった。
 
 もしかして、やはり私は本格推理小説には向いていないのだろうか。実際、新本格と言われる作品群など90年代以降の推理小説はたくさん読んだし好きなのだが、古典的な本格はほとんど読んできていないのである。うーむ。
 
 ただ、どうやらこの作品は最初の方こそ幻想的に書かれているが、後半では数々の謎がバンバン解かれて、それが多くの読者の支持を集めているようだ。今回は他ごとであまり時間が取れなかったこともあってあきらめたが、そのうち再挑戦してみようか。未読了につき点数は無し。
 

小峰元「ヘシオドスが種蒔きゃ鴉がほじくる」 2003年01月10日

 久々の小峰元。おそらく再読なのだが、読んだとしたら高校の頃かそれ以前だ。内容はもちろん覚えていない。
 
 主役は例によって高校生の男子で、寺の息子である通称・法王と、絵描き志望の通称・画伯の悪友ふたりとともに、次々に事件に巻き込まれる。ただし、探偵役をつとめるのはヘシオドス(前8世紀の古代ギリシャの詩人)に傾倒する主役の祖母である。探偵役がお婆ちゃんであるところは、清水義範の「やっとかめ探偵団」にも雰囲気が似ている。とは言っても小峰元は小峰元らしい雰囲気に満ちあふれているのだが。
 
 体裁は連作短編集のようであるが、全編で「誰かが事件解決の種を蒔いたのに別の誰かがほじくり返した」という構図にこだわっている。小峰作品の楽しみのひとつである各章の題名も例によって凝っており、本作品ではことわざのもじりになっている。
 
 各話の謎解きはなかなか面白いのだが、目の肥えた読者はさほど関心しないかもしれない。しかし私はこの小峰作品独特の雰囲気にやはり惹かれてしまう。これは自分のミステリ原体験の記憶によるものなのだろうか。それとも最近の読者、とくに物語の時代は生まれるはるか以前だというような若い世代の目にも、小峰作品は魅力的に映るのだろうか。7.5点。
 

黒崎緑「しゃべくり探偵 ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの冒険」 2002年12月25日

 再読。作者の黒崎緑は「闇の操人形」や「聖なる死の塔」といったカチカチの本格を書く人なのだが、このようなコミカルな作品も書く。私が最初に読んだ黒崎緑の作品がこの何とも楽しい作品だった。文庫表紙のいしいひさいちの絵に惹かれたのも買った理由のひとつだったかな。
 
 登場人物は和戸(わと)くん、保住(ほずみ)くん、守屋(もりや)教授などなど。もちろんこれらはワトスン、ホームズ、モリアーティ教授から取られた名前だ。和戸くんが巻き込まれるトラブルに、話を聞いただけの保住くんが謎解きをする。
 
 白眉はすべての文章がこの二人の会話からなっている「その一 番犬騒動」。大阪弁による軽妙なボケとツッコミのしゃべくり漫才そのものなので、それだけでもたいへん面白い。そしてさらに、その会話の中には伏線がたくさん張りめぐらされており、押しも押されもせぬミステリ作品になっているのである。「そのニ 洋書騒動」は手紙とファックスのやり取りで、ロンドンに行った和戸くんからの手紙を読んだ保住が洋書紛失事件の真相を見破る。なぜかロンドンではみんな関西弁を忘れている気がする。。「その三 煙草騒動」では日常的な事件から一転して殺人事件が起こる。日本の保住くんとロンドンにいる和戸くん二人の電話による会話だが、「その一」に比べると漫才度は下がったかな。そして最後の話、「その四 分身騒動」では、ドッペルゲンガー騒ぎの真相とともに、これまでの話全体に仕掛けられていた謎が明かされる。
 
 最近、続編の「しゃべくり探偵の四季 ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの新冒険」も文庫化されたはずである。読まなくちゃ。7.5点。
 

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