読書日記

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宮部みゆき「R.P.G.」 2002年07月22日

 事件を解決に導く二人の刑事は「模倣犯」(未読)の竹上悦郎刑事「クロスファイア」の石津ちか子刑事。巻末の解説は清水義範が書いている。宮部みゆき初の文庫書き下ろし作品。
 
 父親・母親・息子と娘。ネットの上で作られた架空の家族の父親が殺された。3日前に発生した女子大生殺害事件も関連があることが分かっている。犯人は誰なのか?そして動機は?
 
 最初の方では事件の発端と経過が、「理由」を思い起こさせるようなルポタージュ調の文体で綴られている。そして、事件の概要が明らかになったところでいよいよ結末へ向けての疾走が始まる。疾走と言っても至って静的なものだ。カバー裏に書かれているように舞台劇を見るような感覚である。ある目論見のもと警察署の取調室に呼び集められた架空の家族3人の会話。隣の部屋からマジックミラー越しにそれを見つめる被害者の本当の娘。それをさらに外側から読者が見つめる内に、次第に事件の内面が露わになり、やがて真相が姿を現す。真相は意外だが、しかし予想できるかも。読み所は描かれる人間の内面。7点。
 

加納朋子「ささら さや」 2002年07月19日

 霊魂だとかあの世だとかの存在はこれっぽっちも信じていない。でもこんな物語を読むと幽霊になれるものならなってみたい気もする。いちまーい、にまーい、とかおどろおどろしい幽霊はイヤだが、単に肉体がないだけで性格も記憶も生きていたときと変わらず、ましてやいま生きている人を助けることが出来る幽霊なら素敵である。
 
 気が弱くて泣き虫のサヤは、交通事故で頼れる夫を失い、生まれたての赤ん坊ユウスケを抱えて世間の荒波に放り込まれてしまう。しかし死んだ夫が幽霊となってサヤたちを見守ってくれていることが分かる。普段は見えないし話も出来ないのだが、サヤが困っているときには幽霊が見える体質を持った誰かの体を借りてサヤを助けてくれるのだ。
 
収録作品は、「トランジット・パッセンジャー」「羅針盤のない船」「笹の宿」「空っぽの箱」「ダイヤモンドキッズ」「待っている女」「ささら さや」「トワイライト・メッセンジャー」
 
 加納朋子の本領を100%発揮した連作短編集である。爽やかであるが切ない筋立てと、周りを囲む愉快なキャラクターで、万人に自信を持ってお薦めできる作品だ。7.5点。
 

東直己「悲鳴」 2002年07月16日

 探偵・畝原のシリーズ。と言っても読むのは本書が初めて。本作品はシリーズ第三作目に当たるようだ。
 
 主人公はまともであるが、とくに前半で登場する人たちは相当変わった人ばかりである。突然キレる少年や、異常な執着心を見せる女など。こういう人っているのかもしれないけど、こんなにたくさんいて欲しくないなあ(/><)/ 畝原を助けてくれることになる高橋も相当、変。「困ったもんだ」が口癖なのはよいけれど、口癖では済まないほどに脈絡無くセリフに挟み込まれるのはやはりちょっとおかしい。まあ、それ以外は普通の変人か(^^;)
 
 ストーリーにはいくつかの要素が絡み合っているのだが、最後にそれが有機的に繋がることを期待していたらそうではなく、ちょっと物足りない。メインの事件も中央から公安が大挙して押し寄せるほどの事件だったとは思えない。基本プロットに対してその辺りが不満ではある。
 
 さてしかし、人物造形やプロットに不満ばかりかというと全然そんなことはない。どちらの点でも不満点を補って余りある魅力を持った作品だったと思う。なんて言うのか、物語にはもちろんハラハラしたりするのだが、別の意味でとても安心して読める作品だ。東直己作品はまだあまり読んでいない。これから読むのが楽しみだ。7.5点。
 

東野圭吾「超・殺人事件−推理作家の苦悩」 2002年07月09日

 『このミステリーがすごい!』2002年度版では5位を獲得した短編集。東野圭吾は真面目な話ばかりではなくこういうのも書いてくれるから好きである。(小説の中の)現実と作中作の虚実を織り交ぜて読者を翻弄しながら、軽い読み物に仕上げている。
 
「超税金対策殺人事件」「超理系殺人事件」「超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)」「超高齢化社会殺人事件」「超予告小説殺人事件」「超長編小説殺人事件」「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト5枚)」「超読書機械殺人事件」
 
 筋書きはどれもマンガチックにデフォルメされていて決してリアルではない。オチも予想できてしまうものが多かった。というわけで大傑作はないけれど、気軽に楽しめた。最近のいろいろな風潮や社会傾向をうまく取り入れているのも良い。一番気に入ったのは最後の「超読書機械殺人事件」。実際の話題作や作家をもじった名前が出てくるのも楽しかった。推理小説が好きな人にはお薦めできる一冊。6.5点。
 

真保裕一「黄金の島」 2002年07月08日

 週刊現代に連載されていたという長編小説。加筆修正された単行本の刊行は2001年5月だ。週刊誌連載って作者にとってこれが初めてだと思うが、今年上梓された「ダイスをころがせ!」(未読)もサンデー毎日に連載されていたらしいし、最近、週刊誌連載というスタイルが気に入っているのかな。
 
 主人公の坂口修司はある暴力団組織に属していたが、幹部に疎まれて日本を追われてしまう。タイを経て行き着いたベトナムには、理不尽がまかり通る社会で貧困にあえぎながらも大望を抱く若者たちがいた。若者たちは「黄金の島」であると信じている日本を目指していた。ともに周りがすべて敵に囲まれたような状況での、修司と若者たちの邂逅がもたらすものはいったい何なのか。
 
 敵役ははっきりしているが、かといって善悪がきっちりと色分けできる勧善懲悪の物語ではない。味方と思える人々の中にも嫉妬や裏切りが渦巻き、物語に爽快感はない。ラストもとてもハッピーエンドとは言えないが、しかしこれはリアルな社会の姿を映しているためだろうか。「ホワイトアウト」にも負けない冒険サスペンスの力作であるが、これはたぶん映画には向かないだろう。7.5点。
 

我孫子武丸「小説たけまる増刊号」 2002年06月30日

 個人文庫として全2回にわたって配本された(^O^)「たけまる文庫 怪の巻」「たけまる文庫 謎の巻」にて、ここに収められた短編小説群は既読なのであるが、小説以外も面白そうだったので図書館で借りてみた。
 
 題名から分かるように、単行本であるにもかかわらず、まるで小説雑誌のような装丁で作られている。折り込みの目次もあるしグラビアもある。広告も入っていれば、書評やらルポやら対談(我孫子武丸x我孫子武丸)などもある。ちゃんと字面を追えば通常の雑誌でないことはもちろんすぐに分かるのだが、ぱっと見やパラパラめくる程度では気付かないかもしれない。じっさい本屋では単行本の棚に置かれず、雑誌コーナーに並べられることもあったとか(これは文庫のあとがきで読んだのだったかな?)。
 
 とにかく遊び心がこれでもかと言うくらい詰め込まれた一冊だ。今回図書館で借りたのだが、なんか手元に置いておきたい気もする。刊行はもう4、5年前だと思うがまだ売っているのかな。7.5点。
 

加納朋子「月曜日の水玉模様」 2002年06月29日

 加納朋子らしい、日常の謎を推理する連作短編集各話の表題にもささやかな仕掛けが施されている。小田急線から千代田線に乗り換えて都心に通う有能なOL・片桐陶子と、リサーチ会社に勤めるちょっと頼りない萩広海のふたりが探偵役だ。同じような短編でも、若竹七海の作品だとリアルなイヤな奴がたくさん出てくるのだけど、加納朋子作品だとなんかみんないい人ばかり。どちらも好きなんだけど。もっとも、この作品ではほのぼのムードだけではなく、随所で社会に鋭い視線を向けている
 
「月曜日の水玉模様」この話で出会う陶子と広海だが、なぜか金庫破りをすることに。6.5点。
「火曜日の頭痛発熱」診療所でもらった風邪薬の取り違えから思わぬ事情が判明する。7.5点。
「水曜日の探偵志願」日常に見かける謎を追究すると?最後がよく理解できなかったのだけど。。7点。
「木曜日の迷子案内」しんみり。でも謎解きとしては一番無理があるかな。6点。
「金曜日の目撃証人」ちょっとだけイヤな奴がでてくる。時計は普通身近にも沢山あると思う。6.5点。
「土曜日の嫁菜寿司」じーん。ひっくり返すと世界が変わる。うっかりすると大事なことをいろいろ見過ごしているかも。7.5点。
「日曜日の雨天決行」これまでの登場人物がいろいろ出てくる総集編的内容かと思ったら、実は結構シビアな背景がある。7点。
 

貫井徳郎「誘拐症候群」 2002年06月26日

 貫井徳郎作品を読むのは久しぶりだ。本書は症候群三部作の二作目。あれ?一作目「失踪症候群」って読んでたっけな?読んだような読んでいないような。。とにかく読んでいたとしてももう何年も前だ(すっかり忘れてる)。
 
 この物語には二つの異なる誘拐事件が出てくる。ひとつは比較的少額の身代金を狙い、警察にも知られないまま進行する知能犯の連続誘拐。もうひとつは大金を奪う粗暴な誘拐劇。これらの事件に関わり、謎を追うのが本作品の主人公である托鉢僧・武藤と、彼が属する環をリーダーとした警察の秘密グループである。
 
 前半では警察の無能や組織の硬直ぶりが際だつが、一方で悪を見逃さない環たちの秘密グループが警察内部にあるというのも面白い。解説によればこれは作者が大ファンだという某TV時代劇の設定を取り入れたものだ。あと、読んでいて、あれ、この設定は岡嶋二人の「眠れぬ夜の・・」シリーズと似ているな、と思ったら、やはりそれに触発されて書かれたものでもあるらしい。
 
 自分に自信過剰な<ジーニアス>を名乗る犯人が環に追いつめられていく場面は期待通りで小気味よい。最初から最後までまったく飽きさせない展開は期待以上の出来だった。ただ、結局もうひとつの誘拐の方は影が薄くなってしまった。こちらももっと裏がある事件だと思っていたのだが(ちょこっとだけ裏があったが)、主犯はあっさり捕まってしまった。
 
 あと私の好みでは、勧善懲悪ものならもっとハッピーエンドが良かったのだけど(よく知らないが、某TV時代劇はどうなんだろう)、まあしかしそれはこの作者のカラーではないのだろうな。これまで読んだことがある作品もみんな重苦しい雰囲気が漂っていた。本書では正義の味方的役割のはずの環グループ自身さえ疑問の対象になっておりラストで万々歳とは行かない。三作目もすでに刊行されているはずだ。三作目で彼らはどのような結末を迎えるのか。7.5点。
 

北川歩実「透明な一日」 2002年06月23日

 今回の題材として取り上げられるのは記憶障害である。この記憶障害というやっかいな問題に加えて殺人事件が発生し、さらにその背景には14年も前の連続放火事件が関わっている・・!?
 
 記憶障害というと、とくに小説や映画の世界でポピュラーなのは記憶喪失だろう。ある時点までの過去の記憶をすっかり無くしているというやつである。しかし本書の記憶障害は前向性健忘症というもので、今現在の記憶ができない。つまり何年も前(本書では交通事故にあう以前)の記憶は普通なのだが、数時間前の出来事はすっかり忘れ去ってしまうのである。新たな記憶が蓄積されないことによって、本人にとっての時間が止まったままになってしまう。主観的には同じ時間をいつまでも繰り返さなければならないわけで、本人は気付かないとは言えこれはちょっと怖い。前向性健忘症は作品の中でも実例がいくつか紹介されているが、そういえばそんな症例は聞いたことある気がする。おそらくいわゆる記憶喪失よりは現実に存在する病気だろう。ただしこの作品中の症状は徹底していて、ここまでの例が実際にあるのかどうかは分からない。
 
 謎解きは相当複雑だ。最後にたたみ込むようにして二重三重の謎解きが行われるが、ついて行くのに精一杯だった。そのため謎が解けたことによる爽快感には乏しかったが、良くできていることは違いない。前向性健忘症という素材が十分に生かされていて楽しめる作品だった。この推理小説にとって魅力的な素材は、最近ほかの作者の作品や映画などでも扱われているようだ。7.5点。
 

東直己「残光」 2002年06月19日

 第54回日本推理作家協会賞受賞(2001年)。菅浩江「永遠の森」と同時の受賞だ。荒唐無稽とも言える設定だがうまくツボにはまっている。ハリウッド映画にありそう。ふつうのTVドラマにしたのじゃ面白味は出ないだろう。お金を掛けて超豪華アクション映画にアレンジすると楽しめそうな話だった。
 
 主人公は榊原健三なんだよなあ、きっと。三人称で描かれており必ずしも主人公の影は濃くないのだが、いろいろ訳ありのこの主人公はランボーかゴルゴ並みに強い。その健三がかつての恋人の子供を守るために、腐敗した警察組織そして暴力団に立ち向かう。警察の腐敗は現実世界でも一緒だが、さすがにこの物語のようなことは難しいだろう。モラルの問題ではなく、これだけのことを隠蔽するのは不可能だ。その他にもご都合主義は随所に見られるのだが、あまり気にならない。ノンストップハードボイルドの世界を一気に読んでしまった。
 
 この作者の作品を読むのはデビュー作「探偵はバーにいる」以来2冊目になるが、文章はさすがに上手くなっている。ただ登場人物が覚えきれないのはまあ自分のせいだが、場面転換が頻繁で、途中何度も数行を読み返す作業が必要だった。一方、「探偵はバーにいる」の感想には盛り上がりに欠ける、と書いたのだが、本作は盛り上がりっぱなしでここでも作者の成長ぶりがうかがえた。掘り下げ方は物足りないが(あえて掘り下げていないのかもしれない)、エンターテインメント小説として大変楽しめた。7.5点。
 
 追記:ところで本書に出てくる「便利屋」って「探偵はバーにいる」の探偵だよね、たぶん。どうやら健三をはじめ登場人物たちは東直己作品でお馴染みのキャラがオールスター総出演ということらしい。うーん、他の作品もはやく読まなくっちゃ。
 

泡坂妻夫「奇術探偵 曾我佳城全集」 2002年06月14日

 1980年から2000年までの間に書かれた奇術探偵・曾我佳城の短編を22編まとめた豪華な一冊である。2001年の「このミステリーがすごい!」では堂々の一位に輝いている。曾我佳城はすでに引退した伝説的な女流奇術師だ。しかし今でも奇術関係者との交流は深い。また人前に出れば常にスポットライトを浴びているかのような存在感と美貌の持ち主である。そんな佳城が明晰な頭脳と奇術的な発想で数々の難事件を解決していく。
 
 この作者の亜愛一郎シリーズの印象から、キャラの面白味で楽しむ小説かと思って読み始めたのだが、意外なことに(?)なかなか読み応えのある推理小説が多かった。とくに前半、すなわち、より古い時代に書かれたものが良い。もちろんキャラのかもし出す雰囲気などにも味があるのだが、それ以上にミステリとしての要素がしっかりしており、またミステリという以前の小説としての出来も素晴らしい作品がたくさんあった。
 
 ふつうなら単行本三冊分の作品がぎっしり詰まっていたこともあって読み終わるのに思いのほか時間がかかった。途中で止められなくなるほど面白いというわけではないのだが、なぜか満足度は高い。このような秀作を長年書き続けてきた作者に敬意を表したい。しかし最後の作品「魔術城落成」には不満もある。シリーズ全体の"意外な結末"ではあるが、ちょっとひどいんじゃないか(~へ~;) 一見壮大だが、よくよく考えれば動機も仕掛けもそして結末も陳腐。人によって違うだろうが、私はもっと爽やかに終幕を迎えてほしかった。7点。
 

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