- 福井晴敏「終戦のローレライ」 2006年05月01日
- 作者は「Twelve Y. O.」で第44回江戸川乱歩賞を受賞(1998年)。1999年発表の「亡国のイージス」で第53回日本推理作家協会賞、第18回日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞をトリプル受賞。そして2002年発表の本作「終戦のローレライ」で第24回(2003年)吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞を受賞している。2005年には「ローレライ」「イージス」そして半村良作品の翻案作品「戦国自衛隊1549」が相次いで映画化されるなど、今もっとも勢いのある作家の一人だろう。私が読むのは本作が初めて。
第二次世界大戦の末期、すでに敗北したナチスドイツから秘密兵器「ローレライ」を手に入れ、日本の終戦工作に利用しようという謀略が進行していた。これを指揮する浅倉大佐に集められた潜水艦乗りの面々の中には、17歳の折笠征人も含まれていた。国家と戦争という大波に揉まれながらも、彼らは必至に自分たちのとるべき道を探り、闘い続ける。彼らが命がけで得られるものは何なのか、あるいは何を失うのか。 二段組みで文字がギッシリ詰まった、上下巻あわせて1000ページを超える大作である(文庫は全4巻)。実際、読み終えるまでにかなり時間が掛かった。重厚長大な文章はこの人の作風であろうか。もちろん読みにくいということは一切無いのだが、とにかく密度の濃い文章が続く。ストーリー自体も、上巻だけで終わらせることも十分可能なほどの密度の高さで、これをどうやったら2,3時間の映画作品(もちろん未見)に出来るのかまったく不思議なくらいである。潜水艦による戦闘の描写にしても、軍事マニアならぬふつうの読者には無用と思えるほど、細部に至るまで丁寧に描いている。ともかく全体が、時には蛇足と思えるほど重厚に固められているのだが、これはきっと仕事のために文章を捻り出すなどというのとは正反対に、作者が筆からほとばしるままに書いていった結果なのだろう。作者の作品にかける並々ならぬ思い入れが伝わる。7.5点。
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