読書日記

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星新一「ボッコちゃん」 2008年02月01日

ボッコちゃん

著:星 新一
新潮社 文庫
1971/05

 自選作品集であるこの文庫本の初版発行は1971年だ。自分が最初に読んだのはいつだったか。ということでもちろん再読だ。しかし初読は遠い昔のことである。大抵の話の内容は覚えていない。2話目に登場する表題作「ボッコちゃん」(ちなみに発表は1958年)もストーリーをちゃんと覚えていなかった。そうかこんな話だったっけ。一方、3話目の「おーい でてこーい」はよく覚えていた。これは星作品全体の中でも最高傑作のひとつだと思う。その後を想像せずにはいられないあの結末!本書は作者の初期の作品を収録したものであるようだ。後期の作品も良いが、やはり初期の作品が星新一らしさがもっともよく出ていると思う。
 
 本書は50編ものショートショートからなる作品集で、さすがにこれだけあると傑作ばかりではなく凡作もあるのだが、凡作なりに味わい深く感じるのはひいき目故だろうか。余韻を楽しめる作品やニヤリとさせられる話、爆笑ものの話まで幅が広い。ページを繰る手が止まらないというのは傑作長編の褒め言葉によく使われるが、星新一の本もやはりページを繰る手が止まらなくなる。一編が短いからいつでも中断出来るという気楽さもあるが、ついつい次の話を読みたくなって、もう一編もう一編と止まらなくなってしまうのだ。7.5点。
 

我孫子武丸「狩人は都を駆ける」 2008年01月31日

狩人は都を駆ける

著:我孫子 武丸
文藝春秋 単行本
2007/12

 久しぶりの我孫子武丸の新刊。犬猫病院の向かいに事務所を開いたのが運の尽き。動物嫌いの私立探偵のもとには動物絡みの依頼ばかりが舞い込む。ユーモアも織り交ぜたハードボイルド探偵物語の中・短編5本を収録。えっと、そうか、あの(!)異色の怪作「ディプロトドンティア・マクロプス」の前日譚という位置付けになっているらしい。。
 
「狩人は都を駆ける」週刊アスキーに連載されたという中編。はじめは単なる(?)ペットの誘拐事件だったのが、シリアスで驚愕の事件に発展する。身代金取引現場に向かった探偵の危機一髪が見所。7.5点。
「野良猫嫌い」近所で続く、連続猫惨殺事件の調査を依頼された探偵。最初は見当違いな推理をしながらも、ようやくたどり着いた犯人とその動機は?謎の構築と謎解きの過程はいささか強引。6.5点。
「狙われたヴィスコンティ」ドッグショーの出場取り止めを要求する脅迫状が届いたという出だしの設定はよいのだが、まともな謎解きもないまま、話を途中で放り投げたような結末。5点。
「失踪」ペットの飼い猫を猫さらいにさらわれたと訴える依頼人。作者の初期の傑作「0の殺人」を少し思い出させるようなオチが付く。7点。
「黒い毛皮の女」本編のみ書き下ろし。幕開けのシーンが洒落ている。なんてことのない話から始まり、最後はとんでもない真相が明らかになって決着する。エピローグ的なシーンも良い。7.5点。
 

道尾秀介「シャドウ−Who's the shadow?−」 2008年01月26日

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

著:道尾 秀介
東京創元社 単行本
2006/09/30

 東京創元社のミステリ・フロンティアの一冊。第7回本格ミステリ大賞(2007年小説部門)を受賞している。このほか、『このミステリーがすごい!2007年版』で第3位『本格ミステリ・ベスト10』で第6位『週刊文春傑作ミステリーベスト10』で第10位と、恒例のベストテンに軒並みランクインした作品だ。
 
 母親の病死に始まり、家族そして親しい人たちに次々と不幸が連鎖する。主人公は小学五年生の少年だが、周囲の人々の間で視点を次々と変えながら描かれていく。ストーリー中には多重に張りめぐらされた読者をあざむく罠が。そこに罠が仕掛けてあるなとは気付くのだが、それが一体どんなトリックなのかはなかなか分からない。
 
 リアリティという観点からは少々複雑すぎて非現実的な感じもする。しかし入り組んだ謎というのはミステリ小説の醍醐味でもあるわけで、ミステリ好きな読者なら文句なく楽しめるだろう。「意外な真犯人」もあざといと言えばあざといのだが、ミステリ的と言えば実にミステリ的であった。7.5点。
 

首藤瓜於「刑事の墓場」 2008年01月22日

刑事の墓場

著:首藤 瓜於
講談社 単行本
2006/04/18

 作者は「脳男」で第46回(2000年)江戸川乱歩賞を受賞した人である。これが3作目? 寡作な人でもある。あ、でもつい最近になって「脳男2」が上梓されているらしい。しかも上・下の2冊組の大作。是非読もうと思うが、まずは本作品である。
 
 出世志向の強い若手刑事・雨森が、陰で刑事の墓場と呼ばれている弱小警察署に異動になる。これは何かの間違いですぐにまた配置換えになると信じて、異端の警察署に馴染もうともしない雨森だったが、そこで否応なく事件に巻き込まれていく。はみ出し者ばかりが集まり、警察組織のお荷物扱いで、周りの警察官からも蔑まれる警察署だったが、実は署員はみな大いに有能で、署の存亡の危機に直面した彼らが全能力を傾けて事件の解決にあたる。
 
 実はなかなかに端正な刑事ものである。現実的かと言われればところどころ無理のある箇所もあるが、魅力的なキャラや、しっかりしたプロットに支えられて読み応えがある。事件が終結した後のおまけ的なエピソードはちょっと浮いており、これは蛇足な気がするが、まあおまけなのでよいか。7.5点。
 

北村薫「玻璃の天」 2008年01月17日

玻璃の天

著:北村 薫
文藝春秋 単行本
2007/04

 『街の灯』に続くベッキーさんシリーズの2冊目だ。
 
 その筋(どの筋?)では、本書は直木賞受賞を逃した作品として記憶されているかもしれない。作者はこれまで幾度も候補になっており、なぜ今まで受賞していないのかとの声が圧倒的な中、今度こそ本命、いかに選考委員に見る目が無くって空気が読めないとしても、いくら何でも今回は、とガチガチに鉄板視されていたにもかかわらず受賞を逃すという、まさかの結果に終わった。その辺の事情とか世評はメッタ斬りコンビ対談やその筋のブログなどに詳しい。
 
 昭和初期を舞台にしたミステリ連作である。主人公は士族出身の華族令嬢で、女子学習院に通う好奇心旺盛な花村英子。そして彼女を守り助けるのが、若き女性ながら花村家の運転手を務め、武術にも優れ卓越した教養と洞察力を持つ、ベッキーさんこと別宮みつ子。本書に収められたのは浮世絵が消失する「幻の橋」、暗号ものの「想夫恋」、もっとも本格っぽく墜落死事件の謎を解く「玻璃の天」の三作である。舞台が昭和8年ということで、時代を映した描写が本書の眼目のひとつだ。しかし、当時の銀座の様子が描かれるところなどはただワクワクしながら楽しめばよいだけだが、一方で、軍部の台頭などが示唆されて、暗くなり行く社会の様子もうかがえる。一応、大体のところはまだ時折影が差す程度で、それは遠くに見える暗雲に過ぎない。しかし本書で一部が明らかになったベッキーさんの身の上など、歴史の流れはやはり色濃く現れつつある。この後の歴史を知る読者としては、暗黒時代前夜というこの時代設定に、いやでも不安をかき立てられる。シリーズは3部作になる予定なのだそうだが、第3弾ではこの時代背景がストーリーにどのような影響を与えるのだろうか。7.5点。
 

奥田英朗「町長選挙」 2008年01月10日

町長選挙

著:奥田 英朗
文藝春秋 単行本
2006/04

 何となくはまってしまったトンデモ精神科医・伊良部一郎シリーズ。めでたく直木賞を受賞した「空中ブランコ」に続く第3弾だ。
 
「オーナー」今回の患者は、日本一の発行部数を誇る新聞社の会長で人気球団のオーナー田辺満雄。通称ナベマン。って当然モデルはあの人…だよね。球界再編騒動の渦中で、ストレスからパニック障害になったナベマンが伊良部にかかると。。結末は現実と違って(?)さわやか。7.5点。
「アンポンマン」取りつぶされかけた球団買収に名乗りを上げたりして何かと世間を騒がせる若きIT企業ライブファスト社長、通称アンポンマンが患者さん。もちろんモデルはあのヒト。前書からそうだったけど、だんだんと看護婦のマユミさんの存在感が大きくなってきている。7.5点。
「カリスマ稼業」美貌と若さを誇る女優が患者さん。中年にさしかかり、衰えが気になるが、女優の見栄で弱気なところは見せられない。美容に病的なまでにこだわるようになった彼女のモデルは、・・・まあいいか。芸能人の名前が他にもいろいろ出てきて、いっそ実名で書いても変わらないのじゃないかと思ったり。。7点。
「町長選挙」一応は東京都に属するが、まったく東京らしからぬ離島に、短期で赴任することになった伊良部。そこでは町長選挙の真っ最中で、町民が二派に分かれて実弾(現金)が飛び交う熾烈な票の獲得合戦が行われていた。都の中央から派遣されている若い公務員は両派の板挟みで苦しめられ、その上、恐れを知らぬ伊良部がいつもの調子なので、これがさらに頭痛の種になる。7点。
 
 ふと考える。シリーズ前作でめでたく直木賞受賞と相成ったが、実在の人物をもろにモデルにした本書だったらどうだったろう?ま、直木賞を獲ろうが獲るまいが、底抜けに楽しいシリーズなのである。
 

J.R.R.トールキン(瀬田貞二,田中明子・訳)「指輪物語 旅の仲間(第一部)、二つの塔(第二部)、王の帰還(第三部)」「追補編」 2008年01月03日

新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)

原著:J.R.R. Tolkien
評論社 文庫
1992/07
新版 指輪物語〈5〉二つの塔 上1 (評論社文庫)

原著:J.R.R. Tolkien
評論社 文庫
1992/07
新版 指輪物語〈8〉王の帰還 上 (評論社文庫)

原著:J.R.R. Tolkien
評論社 文庫
1992/07
指輪物語 (10) 新版 追補編

著:J.R.R.トールキン , 他
評論社 文庫
2003/12

 さて、たしか10月はじめくらいから読み始めて、途中でほかの本も読みながら、全編を読み終わったのは年が明けて1月3日。3ヶ月ほどもかけて読んだことになる。なにせ超が付く大作である。「旅の仲間」「二つの塔」「王の帰還」の三部に分かれているが、基本的にひと続きの物語だ。評論社文庫で全九巻。さらに「追補編」が一冊。第一部だけで4冊あり、なんと上下巻がさらにそれぞれ2冊に分かれていて上1、上2となっている。まことに長大な物語なのである。もちろん中身もギッシリ。ということで、なかなか読み進まないのだ。それに、現代小説の基準から言えば決して読みやすいとは言えない。とくに序盤、第一部の前半(といっても文庫本二冊分あるわけだが)なんかは、険しく厳しい道のりを延々と進んでいくのだがストーリーの起伏には乏しく、なかなか先が見えない。実際、このあたりまでで、いや、早ければ上1の中盤で挫折する人も多いらしく、ネット上には「指輪物語」を最後まで読破するためのアドバイスページなるものもあった。
 
 とは言え、物語世界の緻密さと堅牢さは賞賛に値する。何もここで自分が新たに賞賛しなくても、すでに世界中から最大級の賞賛を集めた史上最高のファンタジーと呼ばれる作品なわけであるが。2001年から2003年にかけて公開された映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作で近年ますますの注目を浴びた作品でもある。映画で知った、映画を先に見てから本を読んだ、という人も多いだろう。
 
 ストーリー的には「ホビットの冒険」に続く物語であるが、様相はかなり異なる。「ホビット」が子供向けに書かれたのに比べて、本作品は大人をおもな読者として想定している。「ホビット」の主人公ビルボの養子となったフロドが主人公である。冥王サウロンの復活を阻止すべく、その力の源である"ひとつの指輪"(「ホビット」でビルボが偶然ゴクリから手に入れたあの指輪)を滅びの山に運び消滅させるという使命の旅が描かれる。
 
 主人公はフロドだが、彼ばかりではなく旅の仲間たち一人ひとりが丁寧に描かれて行く。第一部の終わりで仲間たちはバラバラになり、同じ目的を持ちつつも別々の道を歩むことになるのだが、別れ別れになった彼らが交互に描かれ、フロドばかりに比重を置いているということはない。また、第三部のいよいよクライマックスという場面では、主人公フロドよりも、彼に付き従うサムこそが主人公と言って良い活躍を見せることになる。フロドや仲間たちの誰もが旅を通して大いなる成長を見せるが、サムほどではない!
 
 『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』などのコンピュータロールプレイングゲームも含め、ファンタジーの世界の基礎を築いた金字塔作品だ。読むのはひと苦労だが読む価値はたしかにある。映画の方も評判は良いようである(原作に思い入れの強い人には不満もあろうけど…)。映画もかなりの大作だが、さて、この世界はどのように表現されているのだろうか。7.5点。
 

加納朋子「モノレールねこ」 2007年11月16日

モノレールねこ

著:加納 朋子
文藝春秋 単行本
2006/11

「モノレールねこ」不細工だが愛嬌のあるおデブの野良猫を介した少年の奇妙な交流の行方は?ネーミングセンスが良いなあ
「パズルの中の犬」何の絵柄もない真っ白のジグソーパズルから浮かび上がって見えた犬の正体は?
「マイ・フーリッシュ・アンクル」突然の悲運を乗り越えようとする少女のそばにいたのは、ただ一人、ダメ叔父さんだった。
「シンデレラのお城」読み方によっては一種の狂気の物語。でも作者らしい哀切にあふれた狂気
「セイムタイム・ネクストイヤー」我が子を失い悲しみと絶望の縁にいる母親の前に現れた奇蹟の謎。
「ちょうちょう」開店したばかりのラーメン屋を舞台にして人の悪意と厚意と誠実味が織りなす人間模様。
「ポトスの樹」自分勝手で子供じみたロクデナシのクソオヤジに苦しめられる少年の物語。最後はもちろん"いい話"になって終わるが、クソオヤジぶりが許せるかどうかは微妙。
「バルタン最期の日」うっかり男の子に釣り上げられて飼われることになったザリガニの視点から見た、ある家族の物語。珍妙な設定なのにしみじみと泣かせる本書の白眉
 
 作者の持ち味を存分に発揮した、しみじみとした味わいで傑作ぞろいの短編集だった。全体に家族がモチーフになっている。お薦め。7.5点。
 

佐藤多佳子「一瞬の風になれ」 2007年10月05日

一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--

著:佐藤 多佳子
講談社 単行本
2006/08/26
一瞬の風になれ 第二部 --ヨウイ--

著:佐藤 多佳子
講談社 単行本
2006/09/22
一瞬の風になれ 第三部 --ドン--

著:佐藤 多佳子
講談社 単行本
2006/10/25

 「第一部 --イチニツイテ--」「第二部 --ヨウイ--」「第三部 --ドン--」の全三巻。第28回吉川英治文学新人賞、そして第4回本屋大賞(2007年)を受賞した話題作。
 
 実在の高校陸上部を取材して書かれた青春スポーツ小説である。実はその高校とは自分の職場の近くにある高校らしい。そのため登場人物がトレーニングに出かけた公園だとか、買い物に行ったスポーツショップだとか、近辺の実在する地名・施設名がどんどん出てきて具体的に風景が思い描けるので、そのあたりも個人的には楽しめた。そう言えばしばらく前に近くの本屋で「ご当地が舞台の話題作」というようなことが書かれたポップとともに平積みされていたのを見かけた。
 
 もちろん本作品の魅力はそんな限られた楽しみだけではない。たいへん素晴らしい青春小説だった。青春小説なんていうとステレオタイプなストーリーを思い描いて身構えてしまう向きも多いと思うが(私もそう)、本作品はそんな鼻に付くようなところは一切無く、爽やかでスリリングで実に清々しい物語だった。いや、あえて探せば類型的なところを指摘出来ないことはないし、登場人物像が女性作家が理想とする少年像の投影で現実の男子高校生っぽくないとかも言えるのだが、これはいい意味で言ってあくまでフィクションなのであり、不自然であるとはまったく感じなかった。
 
 本屋大賞受賞作らしく、万人が楽しめるであろう名作である。本作を薦めてくれて、さらに本を貸していただいたKさんに感謝。8点。
 

奥田英朗「空中ブランコ」 2007年09月27日

空中ブランコ

著:奥田 英朗
文藝春秋 単行本
2004/04/24

 変人精神科医・伊良部一郎シリーズ第2弾。第131回(2004年上半期)直木賞受賞作
 
「空中ブランコ」サーカス団員である患者への往診を口実に、サーカスに押し掛けた伊良部が空中ブランコに挑戦する。なんの躊躇も見せず空中に飛び出す伊良部のキャラはスゴイ。やっぱり常人の神経ではない!
「ハリネズミ」強面のヤクザにも我らが伊良部は何ら臆するところがない。先端恐怖症になったヤクザという設定がまた良い。
「義父のヅラ」伊良部の同窓生である精神科医が、義父でもある医学部長のカツラをはぎ取ってしまいたい衝動に駆られるという、想像するだに笑える状況で伊良部がとった行動は。
「ホットコーナー」一塁への送球が出来なくなったプロ野球選手。「イップス」という症状だそうで、スポーツ選手にはこういうこともあるのだなあ。
「女流作家」本当に書きたいものを書けないというストレスを抱えた流行作家。作家業の人たちには多かれ少なかれこういう悩みもあるのだろうか。あるいはモデルがいたりして。
 
 トンデモ精神科医・伊良部と、奇妙な症状を抱えるおかしな患者たちが生み出す極上の滑稽話たち。どれも最高に面白く実にレベルの高い短編集になっていた。単なるドタバタに終わらない(とくに最後の話のラストとか)ところが心憎い。7.5点。
 

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