- 五十嵐貴久「誘拐」 2009年11月29日
| 誘拐
著:五十嵐 貴久 双葉社 単行本 2008/07
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冒頭、題名の「誘拐」から想像していたのとは異なるショッキングな事件で幕を開け、いったいどうなるのかと思った。次の章からは誘拐劇が、わりと淡々と、おもに犯人視点の倒叙形式で進んでいく。 誘拐対象が現職総理の孫娘とあって、スケールが大きな話も出てくるが、国家レベルでの対応の仕方や、取り巻く世界情勢の描写などは、やや安易なところがあって瑕疵があると言わざるをえない。物語の展開上都合良く設定されているのが分かり、はっきり言ってリアリティは薄い。フィクションであるのだからお約束として受け入れることは可能だが、中途半端に現実をリンクさせているところが読んでいて引っかかったのだった。もっとお約束ならお約束で割り切った、完全に架空の舞台設定にしてしまえばよかったと思うのだが。しかし物語を楽しむためには、やはりそのあたりはお約束と割り切るべきところだろう。 誘拐劇は着実に進んでいくのだが、犯人視点であっても、動機の点などがなかなか理解できない。誘拐計画はすべて成功し、最後の目標まで行き着くのだが、それでもまだスッキリとしない。しかし、そこで意外な真相が待っていた。 この、ラストで明かされる意外な真相はよかった。冷静になって現実的に考えると、このあと、刑事の言うようには、丸く収めることはできないと思うのだが、そこはあまり深く考えずにハッピーエンドとして受け止めよう。ということで、全体を通していろいろ無理のあるところも多かったが、十分に楽しめるエンターテインメント作品として仕上がっていたというのが読後の印象である。7.5点。
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