読書日記

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西澤保彦「身代わり」 2010年10月07日

身代わり

 著:西澤 保彦
幻冬舎 ハードカバー
2009/09

 タックシリーズの久しぶり(9年ぶり)の長編。長編では6作目で、短編集を含めると9冊目に当たる作品である。あとがきによると、ミステリとしての本作の事件は独立した物語ではあるが、タックたちの人間ドラマは、前作「依存」の後日談的色合いが濃く、また第二長編「麦酒の家の冒険」や第三長編「仔羊たちの聖夜」とも関わる話題が出てくるので、そちらを先に読むことを勧めている。自分はそれらはもちろん既読だが、もちろんかなり忘れている。。
 
 ボンちゃんこと辺見祐輔主催の飲み会に参加していた学生のひとりがその翌朝死亡する。目撃者の話では女性を襲って返り討ちにあったように見えたのだが、一体なぜそんなことに…?続いて安槻市で起こったのは、自宅で女子高生が、若い警官とともに殺された事件。ふたりの死亡推定時刻は4時間も隔たり、事件の構図は全くの謎だった。これらの事件の真相は?
 
 タックら4人のお馴染みメンバーの物語をまた読めたことは喜ばしい。前作までの細かいことは忘れているにしても・・。ちなみに彼らの間に展開されるドラマはシリーズを読んでいないとよく理解できないと思うが、それで本書がつまらなくなるということは無いと思う、たぶん。一方、作者の言葉通り、本作の核となるミステリ部分は独立した物語である。終盤にいつものように怒濤の推理による謎解きがあるのだが、ははあ、こういうことだったか。ただ、いったんは感心する部分もあるのだが、細かいところを含めて最終的に納得いかないところも多い。無理矢理終わらせた感があり、物語の終わり方に余韻が感じられないのも残念。でも、何とも言われぬ魅力を備えているのだよなあ、このシリーズ。6.5点。
 

三浦明博「感染広告」 2010年10月04日

感染広告

 著:三浦 明博
講談社 単行本
2010/02/11

 広告マンの堂門修介は、欧州の本格ビールリニューアル販売の一大キャンペーンを任される。大々的なキャンペーンとは言え、不景気の中の限られた予算でキャンペーンを打たなければいけない。そこで考えたのが Web 上での展開を中心にしたバイラル広告だった。バイラルとは「ウィルス性の」と言う意味であり、ウィルス感染が広がるように、口コミによって商品を宣伝し市場を広げていくマーケティング手法である。「パンデミック」を裏のキーワードにして仕掛けたキャンペーンは大成功を収めるかに見えたが、広告に関係すると思われる不可解な自殺事件が相次ぐ
 
 もちろん宣伝手法が「ウィルス性の」と言っても、本物のウィルスであるわけでもなく、なぜ死亡者が相次ぐのか。キャンペーンが中止に追い込まれ、責任を負わされる格好になった修介は、真相の調査を始める。本当にキャンペーンと事件は関連があるのか。
 
 次第に明らかになってくる、自殺と広告との因果関係とされるものはかなり胡散臭い。そこは作者も分かっていて、いろいろ制限条件を付けている。とは言えやはり納得できるほどではない。これで警察が逮捕したり法に問うことは本来不可能だろう。という根本的な欠陥はあるのだが、サスペンスとしての出来で言えばそれなりに読ませるものになっていた。点数はやや厳しめで6.5点。
 

東川篤哉「謎解きはディナーのあとで」 2010年09月28日

謎解きはディナーのあとで

 著:東川 篤哉
小学館 単行本
2010/09/02

 「殺人現場では靴をお脱ぎください」「殺しのワインはいかがでしょう」「綺麗な薔薇には殺意がございます」「花嫁は密室の中でございます」「二股にはお気をつけください」「死者からの伝言をどうぞ」の6話からなる本格ミステリの連作短編集だ。もちろんユーモアセンスもたっぷりと入っている。
 
 一話目が2007年に雑誌掲載され、二話目から3つの話は雑誌を替えて2009年に連載発表されている。最後のふたつは書き下ろしだ。いかにもシリーズ向けのキャラ設定だが、一作目から次の作品まで間が空いたのはどうして?ともあれ、こうしてまとまって一冊になり、世に出てきたのはめでたい。
 
 国立署で、中堅自動車会社の社長の御曹司である風祭警部とコンビを組む宝生麗子刑事。初めはこのボンボン警部のすっとぼけぶりに振り回されながら麗子が事件を推理するという風に物語をまわすのかと思いきや、なんと職場では秘密にしているが、麗子は大企業グループ総帥のご令嬢。警部を上回るお嬢様なのだった。で、麗子の推理力も頼りない。事件の謎を解くのは、宝生家に勤める毒舌執事である。
 
 「この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」…毒舌にもほどがあろう!でも笑ってしまう。ともかく毎回こんな調子で、麗子から聞いた事件の真相をスパッと見抜いてしまう。安楽椅子探偵ものの常として(?)思わず膝を打つような謎解きはあまり無いのだが、それでもどの話も手堅くまとめてある。本書のベストを挙げるとすると第四話の「花嫁は…」かな。7点。
 

東野圭吾「ダイイング・アイ」 2010年09月18日

ダイイング・アイ

 著:東野 圭吾
光文社 単行本
2007/11/20

 単行本は2007年の初版だが、「小説宝石」で1998年から1999年にかけて連載された作品である。単行本が出版されるまでにずいぶん間が空いているようだが何か理由があったのだろうか。
 
 数年前に交通事故により女性ひとりを死なせてしまったという過去を持つ、バーテンダーの雨村慎介が主人公。冒頭、被害者の夫であった男に襲われて意識不明になり、意識を取り戻したときには事故のことを中心にして記憶の一部を失っていた。嫌な記憶とは言え、記憶の欠落に落ち着かない雨村は、周囲の人間に当時のことを尋ねようとするのだが、なぜか多くの人が口を濁そうとする。
 
 記憶喪失、しかも肝心なところだけ忘れてしまうという、改めて考えれば、実に都合がよい部分的な記憶喪失ではあるのだが、さすがの巧みなストーリーテリングで、一応、特別な不自然さは感じない。こういった設定だとか、妖しげで謎につつまれた女の登場など、現実味より派手さや外連味重視なところはテレビドラマなどの映像向きかもしれないと思った。
 
 ミステリ・サスペンスと思って読んでいたが、ラストはホラー風味が入っていた。怖い系の、そういうのが苦手な人には読後感が良くないかも。連載ものということもあってか、途中の展開や結末の付け方など、若干のまとまりの無さは感じたが、それでもするっと読ませてしまうのはさすがというべきだろう。7点。
 

五十嵐貴久「パパとムスメの10日間」 2010年09月14日

パパママムスメの10日間

 著:五十嵐 貴久
朝日新聞出版 単行本
2009/02/06

 タイトルから明かなように、本作品は「パパとムスメの7日間」の続編となっている。前作と違うのは、そしてタイトルと少しずれているのは、今回はなんと、ムスメがパパに、パパがママに、ママがムスメになって、心と体の交替が三つ巴で起こってしまう。
 
 設定も、そして物語の基本路線も、ほぼ前作と同じである。すなわち人格の入れ替わりによるドタバタ劇であり、お約束的な展開でストーリーは進む。今回のお話の中でいちばん大きな出来事は、パパが勤める化粧品会社で進行していた不正事件であるが、基本的にはそれも含めて細かいドタバタのトピックがあれこれと盛り込まれつつ、ポンポンと勢いよく話が進んでいく感じだ。ラストでは元に戻るために3人が悪戦苦闘するのだが、最初の方のアレやコレが実は伏線になっていたのか、というようなのもあって、なかなかうまくできていた。7点。
 

トム・ロブ・スミス(田口俊樹・訳)「チャイルド44 上・下」 2010年09月10日

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

 原著:Tom Rob Smith
新潮社 文庫
2008/08/28

 一応記録のために。。。
 
 翻訳のためなのか、原文の問題なのか、自分には非常に読みづらかった。緻密な描写と評価する向きも多いだろうが、自分には回りくどくて冗長と言う印象。スターリン体制下、恐怖政治による暗黒時代のソ連が舞台であるという雰囲気の重たさと暗さもあって、なかなか読み進めなかった。最近感じることが少なくなっていた翻訳物への苦手意識がむくむくと頭をもたげてきた。そんなわけで、もしかすると後半まで読み進めば面白くなったのかもしれないが、上巻の半分を過ぎたところで挫折
 
 2009年版「このミステリーがすごい!」の海外編第1位になるなど、大変評価が高い作品であるので、自分のような読者はどうやら少数派だ。読んだときの体調(?)と気分に合わなかったのか。またそのうち、重たくてシリアスな小説を読みたい気分になったら再挑戦してみようか。未読了のため点数は無し。
 

奥田英朗「オリンピックの身代金」 2010年09月03日

オリンピックの身代金

 著:奥田 英朗
角川グループパブリッシング 単行本
2008/11/28

 1964年開催の東京オリンピック。話でしか知らないが、国家を挙げての一大プロジェクトであり、全国民の期待と関心を集めた超特大のイベントだったことは想像に難くない。仮に今後また日本でオリンピックを開催することがあっても、このときほどの熱狂にはなるまい。
 
 この当時の日本社会は、戦後の荒廃から急速な発展を遂げつつある時期である。戦後30年くらいの間の社会の変貌ぶりは、ほとんど変わってないと言ってもよいくらいの近年の30年間とは比べものにならない。急速な変化の結果出現した、ここで描かれている都会の様子などは、すでに現代との連続性が感じられる。一方で、貧困にあえぐ農村部の実態は、現在からは隔世の感があり、戦前どころか明治かそれ以前から変わらないような暮らしぶりに唖然とする。高度成長期のオリンピック当時の日本はこんなだったのかと、改めて驚く。
 
 オリンピックという華やかなイベントの陰には、未だ貧しく非人間的な日常に甘んじる国民の存在があった。秋田の貧しい農村出身の東大院生、島崎国男は手に入れたダイナマイトを使って、貧しい国民を置き去りに、あるいは犠牲にして推進されるオリンピックを妨害することで、国家に一撃を喰らわせようと決意する。
 
 ふたつの時間軸に沿った構成で物語は進む。ひとつは事件の発生と経過を主に警察の視点から見たストーリー。もうひとつは、ひと月あまり時間をさかのぼり、「犯人」である島崎がなぜそのような事件を起こしたかを追っていくストーリーになっている。ふたつの時間軸はやがて接近し、緊迫のオリンピック開会式で交わる。
 
 現代でも格差だとか社会の歪みといった構造は厳として存在する。しかしこの当時のそれらは、さらに厳しく、あからさまなものだっただろう。サスペンスストーリーであると同時に、緻密な社会描写で時代を描き出した本作品は、見かけ以上の厚みと奥深さを備える作品であった。7.5点。
 

海堂尊「夢見る黄金地球儀」 2010年08月23日

夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)

 著:海堂 尊
東京創元社 単行本
2007/10

 先に読んだ「ジェネラル・ルージュの伝説−海堂尊ワールドのすべて−」の自作解説によると、自作をあまりミステリーと認識してもらえないことに反発した(?)作者が、「きちんとしたミステリー」を書いてみたいと思って書いた作品だ。とくにコンゲームものを書きたいということだったようだが、読み終わっての感想は、コンゲームものとしては?だ。たしかにそういう要素もないではないけど。ジャンルを当てはめるならユーモアミステリというのがいちばんしっくり来る。リアリティゼロ、シリアス度ゼロだが、笑えるところには事欠かない。あと、作者の著作の中では珍しい医療要素ゼロの小説である。
 
 舞台は近未来の2013年。他の作品で知っているキャラとしては浜田小夜などが登場するのだが、彼女、こんなキャラだったっけ。彼女の所属する4Sエージェンシーって何?いつの間にこんな組織が?存在が唐突で謎なのだが、これはどれか他の作品を読むと分かるのだろうか。
 
 1988年、ふるさと創生事業で国から交付された一億円で桜宮市が作ったのは黄金地球儀。「平沼鉄工所」営業部長の平沼平介と、悪友・久光穣治(通称ガラスのジョー)は、市の不正に対する義憤から“ジハード・ダイハード”を合言葉に、これを盗んでしまおうと計画する。平介の高校の後輩の殿村アイや4Sエージェンシーを巻き込んで展開される、ドタバタストーリーで、緻密さには欠けるが、全体にすっとぼけた感じが面白かった。7点。
 

海堂尊「ジェネラル・ルージュの伝説−海堂尊ワールドのすべて−」 2010年08月22日

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

 著:海堂 尊
宝島社 単行本
2009/02/20

 100ページ弱の中編小説を一編と、海堂尊作品の解説・資料を組み合わせて作られた一冊である。前半に小説が置かれ、後半が作者自身が語る作者の経歴や、本書発刊時までの全作品の自作解説が収められている。さらに登場人物紹介や相関図があって、作者の作品に共通する「海堂尊ワールド」の全貌が見渡せるようになっている。
 
 この作者の作品群における最大の特徴は言うまでもなく、どの作品も虚構の同じ世界が舞台になっているところだ。各物語は独立しているが、人物や事件の相互のつながりを把握しているとより楽しめるようになっている。舞台の地理的範囲こそ大きくないが、時間的には過去・現在に加えて近未来まで舞台になっている。登場人物の数もかなり多いので、このようなデータ集はとても役に立つ。
 
「ジェネラル・ルージュの伝説」速水晃一の若き日を描いた中編。速水がジェネラル・ルージュと呼ばれるようになった「ジェネラル・ルージュの凱旋」で触れられていた「伝説」が語られる。時系列的には先日読んだばかりの「ブラックペアン1988」の3年後の話とあって、つながりがいろいろ分かりやすかった。やはり他の作品との関連が分かるとさらに楽しめる。7.5点。
 
追記:2010年6月に本書の文庫版が発売されて、解説パートの改訂や追加があり、小説作品も新たに短編2作品が加えられているらしい。代わりに削られているところも多いらしいけど。
 

石持浅海「君がいなくても平気」 2010年08月18日

君がいなくても平気 (カッパ・ノベルス)

 著:石持浅海
光文社 新書
2009/12/17

 携帯関連用品の会社とベビー用品メーカーによる共同開発チームの職場で発生した殺人事件。死因はニコチンによる中毒死で、同じ職場の仲間の中に犯人がいると思われる状況だった。まもなく主人公の水野勝は、同僚で恋人の北見早智恵が犯人である決定的証拠を発見してしまう。
 
 彼が考えたのは恋人を守ることでも告発することでもなく、知らない顔をして、自分が側杖を食う前に早智恵と別れることだった。もともと、いずれ別れることを前提に、本気で愛していたわけではないし、巻き添えで自分の将来に影響を与えたくなかったのだ。…こう書くと、主人公はガチガチのエゴイストで感情欠落人間のようだが、実は意図的にクールなふりをしているような面もあり、どうやらまったくのドライ人間というわけではない。
 
 犯行の動機や方法の推理がメインに物語は進むが、各章のタイトル「君が殺した」「君と別れることにした」「君がまた殺した」「君の罪について考えた」「君はなぜ殺した」「君がいなくても平気」を見るだけでも、基本構成はなかなか魅力的に思える。しかし、読み終えて振り返ると、登場人物たちの心理の動きや、その上で取られた行動には、いまひとつ納得しきれないところもあった。犯行の動機も「なるほどそう言うことだったのか」と思う一方、被害者のひとりに対してはまあ納得できるとしても、他に対してはどうかと思った。7点。
 

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