- 石持浅海「煽動者」 2014年03月15日
| 煽動者
著:石持 浅海 実業之日本社 単行本 2012/09/20
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主人公を含め、主要登場人物が政府転覆を企てる反政府テロリスト組織のメンバーという設定だ。普段は正体を隠して、一般人として生活しているが、招集がかかると集まって組織のために働く。テロ組織ということで、狂信的で暴力的な剣呑な暴走集団かと思えば、この組織は示威的行為は行わず、流血沙汰などは避け、極力一般人に被害を出さないという方針で運営されている。なら陰謀集団ではあってもテロリストというのは違うのではないかと思うが、まあここで言葉の定義を厳密に考えても仕方ないか。ところで、この設定はシリーズで、本作の前に『撹乱者』という作品があるらしい。未読であるが、とくに支障は無かったと思う。 正直なところ、存在を知られないようにしながら、裏工作で現政権への不信を煽り、政権交代を目指すというこの秘密組織にリアリティは無い。この作品の中で、主人公たちが立案した計画にしたって、迂遠に過ぎるし、およそ実効性も実現性も感じられない。というあたり、気にはなるが、ここはあくまで物語を楽しむための設定なので深くは考えまい。シリーズになっているということで、続けて読んでいくと組織の謎が明かされてきたりするのだろうか。 さて、主人公たちは、組織の指令によって軽井沢の人里離れた建物に集合するのだが、たくさんの客室を持つ建物に大勢の人物が集まったとなれば、当然の成り行きとして(?)殺人事件が起こる。別に吹雪に閉ざされているわけではないが、非公然組織としてはもちろん警察に届けるわけにもいかない。(作品の設定はこのためでもあるのか?) かくして、本来の任務を進めながらも、殺人者が仲間内にいる緊張感の中で推理を巡らせていくという展開になる。不満なところは多いが、ちょっと気になるシリーズである。6.5点。
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