- 井上尚登「クロスカウンター」 2008年02月16日
かつて証券会社でアナリストを務めていた七森恵子は、ある出来事があったあと退社して、現在はフリーの金融探偵である。探偵の仕事の内容は、依頼主の投資対象となる会社の情報を得ること。目的のために社員やアルバイトになって潜入調査まで行う。 「T.R.Y.」系の作品の印象が強い作者だが、「キャピタルダンス」のようにどうやら経済ものも得意とするようだ。このような潜入調査まで行う経済専門の探偵というのが現実の世の中に存在するのかどうかは知らないが、物語の中に出てくる経済関係の背景はしっかりしている。そしてその上にサスペンス的なドラマがうまく構築されていた。 「砂の上のダンス」「偽りの竜」「危険な水」「懐かしい顔」「女神の歌が聞こえる」の5章から構成されていて、1,3,5章が雑誌掲載作品で、2章と4章は書き下ろしだ。各編単体でも一応まとまりのある作品となっているが、やはり書き下ろし部分を加えた全体を、恵子を退社に追い込んだ出来事を軸にしたひとつのストーリーとして読むべき作品である。そして、どんでん返しのある最終章の仕掛けは、さすが「T.R.Y.」の作者!という感じで面白かった。7点。
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