読書日記

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綾辻行人「奇面館の殺人」 2013年03月20日

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

 著:綾辻 行人
講談社 新書
2012/01/06

 「びっくり館の殺人」以来5年ぶりの「館」シリーズ9作目。全10作品で完結と宣言されているこのシリーズもいよいよフィナーレが近付いてきた。新本格ブームの嚆矢となったシリーズ第一作で作者のデビュー作でもある「十角館の殺人」が世に出たのは1987年で、当初はほぼリアルタイムだった作品世界も、本作の時代設定は1993年なので、今となっては懐かしい時代が舞台と言うことになる。本作はいわゆる「吹雪の山荘」ものになるのだが、もちろん(普通の人には)携帯電話など無い時代である。2012年の「本格ミステリ・ベスト10」第3位、「文春ミステリーベスト10」第7位、「ミステリが読みたい!(早川書房)」第8位、「このミステリーがすごい!」第9位
 
 奇面という言葉で真っ先に思い浮かべるのは80年代の某人気ギャグマンガで、思わずイメージがそちらに引きずられてしまう。実際、検索にかけても、上位に出てくるのはこのマンガ関係ばかりだし、本書のタイトルからついコミカルなイメージを抱く読者は多いかも。しかし、本格推理小説の世界では江戸川乱歩の少年探偵シリーズの一作のタイトルであり、元来は本格ミステリの由緒正しいワードである。というわけで、ギャグでも何でもない、本来の物々しい雰囲気を持った館が登場する。
 
 建築家・中村青司の手になる館であるという興味に抗えず、館主のもう一人の自分探しという奇妙な集まりに、主人公のミステリー作家・鹿谷門美が、怪奇小説家の日向京助から頼まれ替え玉として奇面館を訪れる。館の中では館主も6人の招待客も仮面を被って素顔を隠すというルールがあった。そして惨劇が起こる。
 
 さてしかし、事件は連続殺人に発展することもなく、惨劇の後はわりと淡々と事件の調査と推理が続く。鹿谷は慣れたものであるが、ほかの登場人物たちもとくにパニックになることもなく、その意味ではこの手の物語に付きものである、当事者の恐怖感や焦燥感というものが無いのがもの足りない。緊迫する場面はなく、そのまま最後の謎解きまで行き着いてしまう。せっかくの本格ものなのだから、そこもお約束のフォーマットで良かったのではないだろうかという気がした。さて、完結作はどんなものになるのだろう。そしていつになるのだろうか。7点。
 

東野圭吾「新参者」 2013年03月04日

新参者

 著:東野 圭吾
講談社 単行本
2009/09/18

 加賀恭一郎シリーズの8冊目。言わずと知れた数年前の話題作で、2009年の「このミステリーがすごい!」「文春ミステリーベスト10」で第1位、「本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!(早川書房)」で第5位。阿部寛の主演でテレビドラマが2010年に放送された。本書につづく「麒麟の翼」(2011年・未読)もさっそく映画化されて2012年1月に公開されている。
 
 加賀刑事は所属が日本橋署へ変わっている。個人的には昔の練馬署の方が親しみがあったので残念。いやまったく個人的な感想だが。舞台が日本橋周辺になって、物語に下町の風物を取り入れることが出来るので、話作りにはやっぱりこちらの方が良いだろうな。と言うことで、下町のこの由緒ある土地に新参者としてやって来た加賀の活躍が描かれる。
 
 普通の長編かと思っていたら、いや長編でもあるのだが、実は連作短編集な感じの長編だった。小伝馬町のマンションで一人の女性が殺された事件が軸になっており、加賀は事件の捜査で人形町界隈を歩き回って、その聞き込み先のそれぞれで、独立した物語が描かれるという趣向である。とくに前半の方を読んでいると、ささやかな謎こそ配されているが、ミステリよりも人間ドラマ、人情ものの色合いを濃く感じる。
 
 しかしだんだんと「小伝馬町女性絞殺事件」の様子が明らかにされて行き、最後にはそれまでの話が伏線として活かされた、ひとつのまとまりのある物語として結実する。なんでも第一章「煎餅屋の娘」と第二章「料亭の小僧」を書いた時点ではまだ「小伝馬町女性絞殺事件」の全体像は決めていなかったそうなので恐れ入る。推理ものとしては小粒なネタばかりなので、ミステリランキング上位といってもミステリ的なインパクトは小さい。しかしいずれもが上質のドラマになっており、小説としての満足度は高く、いつもながらさすが東野圭吾と感じる作品だった。7.5点。
 

山下貴光「屋上ミサイル〜謎のメッセージ」 2013年02月23日

屋上ミサイル〜謎のメッセージ (『このミス』大賞シリーズ)

 著:山下 貴光
宝島社 単行本
2012/05/11

 高校の屋上を愛し、屋上に集う4人の高校生たちの物語、『このミステリーがすごい!』大賞受賞作の続編である。
 
 前作から数ヶ月、平穏な高校生活を取り戻したかに見えたが、校内のボヤ騒ぎ、油絵切り裂き事件、そして生徒が被害者となった連続暴行事件と不穏な出来事が立て続けに発生する。その上、事件の犯人と噂された国重嘉人が、暴行は自分がやったことだと認めてしまうのだった。辻尾アカネ、沢木淳之介、平原啓太の3人は、何か裏があるはずだと考えて真相究明に乗り出す。調査の過程で出てきたのは暗号。各所に残されていたそれらの暗号が意味しているのは何なのか。そして事件の真相は。
 
 前作では、大きなスケール、突拍子もない設定、脇役も含めて突き抜けた個性のキャラクター、奥深いセリフ回しなどが魅力の源にあったが、本作では全体にパワーダウンしている感は否めない。まあ練りに練ったと窺い知れる受賞作に比べてはいけないか。ただ、読みにくさなどは無かったが、話の展開はあまりテンポがよいとは言えず、途中を飽きさせないために盛り上げるエピソードなどもあまり無く、前作を知っているが故の贅沢を言わせてもらうならば、もう少し練り上げて欲しかった。しかし、ラストでたたみ込むように明かされる事件の真相は爽快で、気持ちよく大団円を迎える。やはり基本的なセンスや筆力はある作家さんだ。すでにこのシリーズ以外にも何冊か出ているほかの作品にも手を伸ばしてみたい。7点。
 

近藤史恵「サヴァイヴ」 2013年02月16日

サヴァイヴ

 著:近藤 史恵
新潮社 単行本
2011/06

 「サクリファイス」そして「エデン」に続くロードレース・シリーズの三冊目は6編の短編集だ。前二作品の過去と未来を描いた外伝的物語で、従来の主人公であるチカこと白石誓のほかに、チーム・オッジの伊庭和実や赤城が語り手となる。白石が語り手の話は小説的な起承転結には乏しいが、サイクルロードレースの独特で苛酷な世界に生きる選手たちの姿が垣間見える。他はそれに加えて案外しっかりとしたミステリ的な企みもあったりして引き込まれた。
 
 「サクリファイス」のキーパーソンでチーム・オッジの絶対的エースであった石尾豪や、石尾の最良のアシストであった最年長の赤城の若かりし頃が読めるのが嬉しい。独立した話としても読めるが、あらかじめ「サクリファイス」を読んでいると、来るべき運命の姿が去来してある種の感慨がある。(記憶があやふやになっていたので飛ばし読みで再読してしまった)
 
「老ビプネンの腹の中」語り手は白石。ワンデーレースの最高峰で過酷さから「北の地獄」とも称される「パリ〜ルーベ」 の舞台を通して苛酷なロードレースの世界を描いている。6.5点。
「スピードの果て」語り手は伊庭。公道上でバイクの交通事故を間近に見てしまった伊庭は、世界選手権を前にスピードに対する恐怖感を持つようになってしまった。さらにチーム内で浮いていて…。7.5点。
「プロトンの中の孤独」チーム・オッジに加入して間もない新人の石尾を赤城の視点から見ている。人付き合いが悪く、エースの久米をはじめチームメイトの多くから嫌われる中、レースに臨んだ石尾が取った行動とは 7.5点。
「レミング」語り手は赤城。チームのエースの座についた石尾だが、レース中の妨害や嫌がらせにあう。誰が何の目的で仕掛けてきたのか。7.5点。
「ゴールよりももっと遠く」語り手は赤城。石尾はエースとして存在感を発揮している。スポンサーの思惑でチーム・オッジがレースに出場できなくなる。このときストイックな石尾が取った行動は。7.5点。
「トウラーダ」語り手は白石。移籍した先のチームメイトの実家にホームステイすることになったチカ。そのチームメイトにドーピング疑惑が持ち上がる。6.5点。
 

大森望、豊崎由美「文学賞メッタ斬り! ファイナル」 2013年02月10日

文学賞メッタ斬り! ファイナル

 著:大森 望 , 他
パルコ 単行本
2012/08/01

 書籍としては4年ぶりの刊行となり、とうとうファイナル、完結宣言と相成った。さすがに5冊目ともなると、新鮮味のあるネタはあらかた尽きたか。本書は、企画はあったが長く頓挫していたものらしいが、メッタ斬りの最大のネタ元でもあった石原慎太郎の、悪口雑言を残して芥川賞選考委員を辞任という出来事がトリガーになってついに刊行された。
 
 と言うわけで、内容は「さらば、石原慎太郎!」をはじめとして、定番コンテンツである年二回の芥川賞・直木賞の受賞予想と結果の感想を前回以降2008年から2012年までの4年間分、「選評・選考委員メッタ斬り!」、受賞作家である道尾秀介や円城塔との鼎談などが盛り込まれている。ほぼ全編が会話形式、すなわちふたりの対談、プラスアルファを交えた鼎談、座談会になっている。
 
 ちなみに、芥川賞・直木賞メッタ斬りは、以前は半年ごとにWeb上でテキスト公開されていたわけだが、昨今はラジオ番組(ラジオ日本「ラジカントロプス2.0」)の企画として続いており、音声コンテンツがポッドキャスト配信されていた。一度しか聴いたことなかったが、本書ではそれらを文字起こしして収録している。今後もラジオは続けるらしいが、書籍にまとめるのは本書で一応最後と言うことで、やっぱり文字で読みたいなあと思う。Web掲載も復活して欲しいところだ。7点。
 

歌野晶午「コモリと子守り」 2013年02月09日

コモリと子守り

 著:歌野 晶午
光文社 単行本(ソフトカバー)
2012/12/15

 あれっ、しまった。舞田ひとみシリーズというのが出ていたのか。第一作の「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」は読んだけど、次の「舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵」を読み損ねている。本書はシリーズ三作目である。舞田ひとみは17歳。
 
 冒頭、高校をドロップアウトして引きこもりな日々を過ごしている馬場由宇が、虐待が疑われる幼児を後先考えず連れ帰ってしまう。困った由宇は、かつての同級生、舞田ひとみを頼って連絡を取る。ところが由宇が舞田ひとみに会いに行き、しばらく目を離していた隙に、幼児はまた他の誰かに連れ去られてしまった
 
 覚えていなかったが、馬場由宇も第一作「舞田ひとみ11歳」の登場人物である。さて、由宇に頼りにされる舞田ひとみはしっかり者キャラということになっているのだが、この最初の方では十分に頼れる感じでもない。それでもなんとか無事に子供を見つけて事態を収めるのだが、これは物語の序章に過ぎなかった。その後、前代未聞の奇妙な誘拐事件に発展する。この手の込んだ誘拐事件は、ひとみの叔父である刑事・舞田歳三の視点中心に切り替わって描かれていく。そして最後にはひとみの推理で真相が見破られて解決を見るのだった。
 
 ところで、最終章「かなり長めのエピローグ」は必要だっただろうか。もうひとつのストーリーだった由宇の家庭事情にまつわる物語なのだが、結末にすっきり感が乏しく、いささか中途半端だし、本筋の誘拐事件とは直接関係のない話なので、作品全体の中の位置付けとしても据わりが悪い感じがした。7点。
 

ジェフリー S.ローゼンタール (中村義作・監修, 柴田裕之・訳)「運は数学にまかせなさい−確率・統計に学ぶ処世術」 2013年01月26日

運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 ((ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ))

 監修:中村 義作
早川書房 文庫
2010/07/10

 日常に関わる様々な事柄について、確率論や統計学に基づいて解説した本だ。と言っても、確率・統計の教科書というわけではないので、数式を使った難しい理屈や証明があるわけではなく、結論のみを示して説明してあるので誰でもとっつきやすい。
 
 確率・統計の実際が直感的推測を裏切ることは案外多い。最初の方に出てくる、或るグループ(例えば学校の同じクラス)の中に、同じ誕生日の者がいる確率の例などは有名だろう。23人のグループなら5割の確率で同じ誕生日の人の組み合わせが見つかり、41人のグループなら9割の確率で見つかる。直感ではもっと多くの人数が必要に思えるので、これは「誕生日のパラドックス」と呼ばれたりしている。
 
 ポアソン・クランピングの話も面白い。例えば流れ星を探して空を見上げていると、立て続けに見れたり、逆に長い間ぜんぜん見えなかったりすることがある。ランダムに起こる事象は(直感とは異なり)偶然以上に偏っているように見えるのだが、これをポアソン・クランピングと呼ぶそうだ。頻度の高くない現象が発生する確率はポアソン分布で表される。他にも例えば、平均10分間隔で運行しているバスを、停留所で待つ時間が平均何分になるかという問いがある。10分ごとの等間隔で運行しているならば、運が良ければバスはすぐに来る(待ち時間0分)し、運悪く出発した直後だったら10分待つことになり、平均の待ち時間は5分だ。しかし等間隔ではなくランダムにバスが来るならば、平均の待ち時間は倍の10分になる。こういう事はなかなか直感では分からない。
 
 犯罪発生率の傾向(最近は物騒になって来ているなんてよく聞くが、実際はどうなのか?)、世論調査はどこまで当てになるのか、ギャンブルは儲かるのか、など、ほかにも内容は盛りだくさんだ。スパムメールフィルタに用いられるベイズ統計の話なんかも面白かったし、モンテイー・ホール問題(モンテイー・ホールジレンマとも呼ばれる)も出てきた。数学者でさえ確信を持って間違ってしまうこの問題は、確率問題に対する直感の倒錯例として、もっとも興味深い。
 
 同様のジャンルでは以前読んだ、ホームズのパスティーシュ小説の体裁で書かれた「まただまされたな、ワトスン君!」(定番トピックは本書とかぶっている内容もある)も面白く読める良書だったが、本書もまたお薦めである。7.5点。
 

法月綸太郎「犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題」 2013年01月25日

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

 著:法月 綸太郎
光文社 新書
2012/12/15

 第一弾の「六人の女王の問題」から、ようやくと言うべきか、いや、でも案外予想よりは待たずに済んだ様な気もする。シリーズの雑誌掲載で連載みたいなものだから、それなりに着実に進行したのだろう。と言うわけで、12星座の残されていた半分をそれぞれモチーフに取り上げた連作短編集である。
 
「【天秤座】宿命の交わる城で」天秤座に対応するタロットカードが残されていたふたつの殺人現場。どんなつながりがあり、どんな犯罪が行われたのか。「キングを探せ」のパイロット版でもあるという作品。
「【蠍座】三人の女神の問題」かつての人気アイドルグループの所属事務所社長が殺害された。犯人はすでに判明していると言うが、その真相は。
「【射手座】オーキュロエの死」編集者を通じて、身に覚えのない殺人で疑われているという相談を受けた綸太郎。容疑者は二転三転して、最後に明らかになった犯人とは
「【山羊座】錯乱のシランクス」自由を奪われて監禁されていた男が部屋の壁に残したダイイングメッセージは何を表していたのか。
「【水瓶座】ガニュメデスの骸」著名な女性経営コンサルタントはいったい何に対して身代金を支払ったのか。最近テレビでよく見る誰かを連想させるキャラが印象に残った。
「【魚座】引き裂かれた双魚」成功した女性経営者が、幼くして亡くなった息子の生まれ変わりを探すという、その本当の目的はどこにあるのか。
 
 星座とその神話をきちんと絡めながら構築されたプロットはたいへん良くできている。良くできているのだが面白味はいまひとつ。複雑なトリックが面白いトリックとは限らない。とは言え、これだけの緻密な論理パズルを揃えた本書、一読の価値はあろう。大当たりがないかわりに外れもない。ロジック重視の人には当たりの一冊。7点。
 

山下貴光「屋上ミサイル」 2013年01月12日

屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)

 著:山下 貴光
宝島社 単行本
2009/01/10

 第7回(2008年)『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作品
 
 八割方は現実世界なのだが、その日常の中に突飛な設定を紛れ込ませてある。また、教養を感じるちょっとした雑学的知識を盛り込んだり、斜に構えたような文章や、飄々としたキャラクター造形、そらとぼけた風の会話など、センスが全体的に伊坂幸太郎っぽい。当然、選評でも指摘されており、読んだ人たちも各所で言及している。中には模倣だと批判する声もあるようだが、高いレベルでの模倣や換骨奪胎の試みはむしろ賞賛されるべきだろう。実際面白かった。
 
 アメリカ大統領が監禁され米軍基地が占領されるという、世界が危機的状況を迎えている中で物語は進行する。と言っても、日本の高校生にとってそれは、当面は遠い世界の出来事であった。学校の屋上で顔を合わせた男女4人、デザイン科の辻尾アカネやリーゼント頭の国重嘉人らが結成することになった「屋上部」は、、好奇心のおもむくままの暇つぶしのようにして、身近な謎と事件に首を突っ込んでいく。あちこちに伏線が置かれ、それを回収しながら連鎖的に事件がつながっていくという展開になっている。
 
 巻末に選評が載っているが、このミス大賞の選考委員の間でも、評価が真っ二つに割れている。伊坂幸太郎などの先行作との類似と、偶然が重なる筋立てが、評価の分かれるポイントだったようだ。後者は、フィクションと言えどあまりに都合の良い偶然はリアリティを削ぐという指摘で、たしかに一般論として、その手の作品に白けることはままある。しかし本作品に関しては、軽妙な展開の面白さが先に立ち、自分は気にならなかった。
 
 大枠の設定であった、大統領監禁のテロ事件は結局何だったの?という辺りが、あまり本筋に絡まずに終わったのが残念だが、そう言うところも伊坂幸太郎っぽいのだな。ともあれ、楽しくテンポ良く読めるという点で出来映えは素晴らしい。このテイストをもっと磨いて今後も楽しませて欲しい。まずはすでに上梓されている続編「屋上ミサイル〜謎のメッセージ」を読むのが楽しみだ。7.5点。
 

近藤史恵「エデン」 2012年12月26日

エデン

 著:近藤 史恵
新潮社 単行本
2010/03

 「サクリファイス」の続編となった作品だ。前作を読んでからずいぶんと間が空いてしまったが、遅ればせながらようやく読んだ。シリーズ第3弾となる「サヴァイヴ」もすでに上梓されている。
 
 前作などで多少の知識は得ているが、それでもサイクルロードレースのルールや勝負というのは門外漢には分かりにくい。ルールには無い紳士協定みたいなのもあったりするし。だが、その辺りのいろいろは、作中で適宜説明してくれており、それを読んで知らない世界を知るというのも本書の愉しみのひとつになっている。しかしそれでもなお不思議なスポーツだなあ。
 
 前作「サクリファイス」の数年後の話だ。白石誓はフランスのチームに所属していた。そして迎えるのは、最高峰レースであるツール・ド・フランス。ところがその大舞台を前にして、チームは消滅の危機を迎えていた。チーム存続のためにやや不穏な画策がなされて、ぎくしゃくするチームメイト。彼らは果たしてどのようなゴールを迎えるのか。
 
 3週間という長丁場のツール・ド・フランスの進行にあわせて、勝負の駆け引きや競技仲間らとの人間関係などが描かれていく。前作はミステリ色も強かったが、本作品ではほとんどミステリ色は無い。最終章で人死には出るが、犯罪絡みというわけではない。その背景に隠されていた経緯が明かされたりはミステリ的でもあるが、やはり作品全体としては、自転車競技をテーマにしたスポーツ小説であり、その独特の世界の中で繰り広げられる人間ドラマがメインである。そして自転車レースの世界とマッチした物語はやはり素晴らしかった。
 
 次の「サヴァイヴ」はシリーズの外伝的エピソードを集めた短編集になっているようだ。もちろん読むつもり。今度はなるべく間を置かないうちに読もう。7.5点。
 

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