新野剛志「カクメイ」 2015年06月06日 | カクメイ
著:新野 剛志 中央公論新社 単行本 2013/11/22
|
ここのところすっかり「あぽやん」シリーズの作者というイメージが強くなっていて、わりと日常路線の作風という印象ができていたが、思い出せばもともと江戸川乱歩賞を受賞してデビューした作家さんだ。この作品は「あぽやん」路線とは異なる、クライムサスペンスになっていて、乱歩賞っぽい雰囲気に回帰していた。 準主役的な位置づけで登場する村岡がディレクターとして勤務するテレビ局への嫌がらせから物語は始まる。やがてそれは単なる嫌がらせではなく、脅迫事件へと発展していく。読み始めて最初は、何かスケールの大きな犯罪だか陰謀だけへと繋がるのかと思ったが、読み進めていくと、実は案外と個人的な動機による事件だった。とくに、前半で描かれる「事件の動機」へとつながる主人公の高校生時代のストーリーは、ごく個人的な、「犯人」個人の不遇な青春時代の物語になっている。 時代設定はバブル期で、人々が浮かれ舞い上がっていた時代をバックグラウンドにして、格差問題だったり、享楽的な社会に対する批判という視点もある。ただ、少々要素を盛り込みすぎて、ひとつひとつが十分に咀嚼できていないきらいがあった。ストーリー的にも、内容が理解できないと言うほどでは無いが、やや複雑になりすぎている。焦点が絞り切れていない感じで、結末もすっきりとはしない。ただ、それなりの読み応えはあった。 「あぽやん」的なのも悪くはないが、骨太のサスペンスミステリみたいなのも、この作者の得意分野だと思うので、今後もそういうのを期待したいところだ。いや、もしかして読んでいない中に、すでにそういう傑作もあったりするだろうか。7点。
|