- 伊坂幸太郎「PK」 2012年05月12日
| PK
著:伊坂 幸太郎 講談社 単行本 2012/03/08
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本に付いた惹句は『「PK」「超人」「密使」からなる"未来三部作"。こだわりとたくらみに満ちた3つの中篇』となっている。実際には、ほとんど未来という感じではなかったが、SF的なところはあった。 SFには、たとえばフィリップ・K・ディックなど、未来への展望と危惧を示しつつ、現代社会に潜む危険性を告発するような物語がよくある。伊坂幸太郎もこれまでそのような小説をよく書いてきた。もっとも作者の場合、警告の対象が必ずしもはっきりとせず、曖昧で得体の知れない存在として描くことが多いようだ。個人的にはもっと具体的、直截的に斬り込んでいっても良いと思うのだが。あるいは、作者はべつに社会への警告を描こうとしているのではなく、ただそういった物語のフォーマットを拝借してきているだけなのかもしれないが。 最初の「PK」はまさにそんな作品だ。ワールドカップ予選突破をかけた大事なPKを蹴るサッカー選手のほか、作家や大臣といった、はじめは時間も場所もバラバラな人物とシーンをつなぎ合わせて、少しずつ収束させながら、「信念を貫く勇気」をテーマにした物語になっていた。2番目の「超人」は「PK」の中で喩え話として出てきた話をメインにしている。登場人物の大臣などは共通人物らしいのだが、「あれ?」というところも。これは第3話を読まないと「あれ?」のままだ。3番目の「密使」はかなりSF色が強くなっている。特殊な能力を持つ青年と、時間の分岐やパラレルワールドについての説明を受ける男のシーンが交互に描かれて行く。 最後が特にSFなのは、SFアンソロジーに発表された作品だからだろう。最初の2作品は雑誌「群像」掲載作品だ。もともとは、それぞれ基本的に独立な作品だったようだが、単行本にまとめるに当たって、互いの繋がりを強調するように手を加えたらしい。結果としてその効果は抜群だ。初出時の詳細を知らないが、単独作品としてみると、「PK」は最後のまとめ方がもの足りなく感じるし、「超人」はだから何?という感じで終わってしまう。しかし「密使」を読むことで、すべての繋がりが明らかになり、様々な伏線と仕掛けが正体を現す。「たくらみに満ち」ていたのは、各話というより、全てまとめてだったか。というわけで、個別には不満もあったが、全体をひとつの作品としてとらえると、なかなか満足のいく一冊だった。7.5点。
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