読書日記

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宮部みゆき「英雄の書 上・下」 2011年12月10日

英雄の書 上

 著:宮部 みゆき
毎日新聞社 単行本
2009/02/14

 近年の作者の作品群を大雑把に分けると、現代を舞台にした社会派ミステリ、人情味あふれる時代物、そしてファンタジーというあたりに分類できるだろうか。現代物は力作が多いし、時代物は個人的に作者の書くものの中で一番好きである。それらに比べるとファンタジーものは残念ながらいまひとつに感じることが多い。もちろん駄作だったりすることは無いのだが、宮部作品としては平凡に感じてしまう。受け手となる自分の側の問題だろうか。ファンタジーのジャンルが嫌いということはまったく無いのだが。。
 
 本作品の主人公は小学五年生の普通の女の子。ある日彼女の身に降りかかった青天の霹靂。それは中学二年になる自慢の兄が同級生を殺めて姿を消してしまうという事件だった。そして、不安と悲しみの中にいる彼女に、兄の部屋にあった本が語りかけてくる。兄ばかりではなく、人類の未来を脅かす危機が迫っているというのだ。
 
 主人公が子供で、本の字も大きめだし、小学校高学年くらいから読めるように配慮してあるのだろうか。もとは毎日新聞の連載小説ということだ。前半ではページ数の多くが、登場する異世界の概念や世界観の説明に費やされる。哲学的だったり、禅問答のようだったりして、けっこう難しい。こういう話は、作者と共鳴して想像の翼を広げていくタイプの読者には良いかもしれない。しかし本筋に必要不可欠というわけでもない設定にはあまり興味がない自分のような読者にはいささかまだるっこしい感じがした。冒険ものとしても、あまり見せ場は多くなく、案外あっさりと終わってしまったのは残念。7点。
 

高野和明「ジェノサイド」 2011年11月23日

ジェノサイド

 著:高野 和明
角川書店(角川グループパブリッシング) 単行本
2011/03/30

 今年最大の話題作のひとつであろう本作を、今年も終わろうかという時期にようやく読んだ。噂に違わぬ大傑作だった。「13階段」で乱歩賞を受賞してデビュー以来、多作ではないがそれなりにコンスタントに、良質の作品を世に出してきた作者であるが、それらと比べても、いきなり二段階くらい進化したように感じる。日本の、いや世界のトップ作家と堂々と張り合うことが出来る出来映えだ。
 
 本作品は第2回山田風太郎賞を受賞。第145回(2011年上半期)直木賞にもノミネートされたが、受賞はならず。まあ直木賞が外してくるのはいつものことである。
 
 物語は、ホワイトハウス、戦場、そして日本という、世界中に広く散らばった舞台で始まる。登場人物も舞台もまったく異質でバラバラなため、これがどのようにして絡み合っていくのか興味を引かれつつ、ストーリーは進行する。しかし、はじめはなかなか方向性が見えない。新型ウィルスの脅威による人類の危機を描くのだろうか?しかしそれではありがちだな。などと考えて読み進めていたら、思いもしなかった展開が待っていた。どんどん加速されていく物語に、後半は釘付けとなった
 
 エンターテインメントとしては、例えばダン・ブラウンやマイクル・クライトンらの系列の、壮大なほら話である。しかし本作品の価値はスケールの大きなサスペンスストーリーだけではない。薬学に関することをはじめとして、各部の事実描写が非常にしっかりとした裏付けを持っており、物語の土台がとても分厚い
 
 また、タイトルでもある、人類が歴史上幾度となく繰り返してきた、そして今もなお繰り返している愚行を鋭くえぐり出して突きつけてくる。歴史的視点や考古学的視点、さらには人類という生物に対する生物学的視点から、地球上でもっとも高い知性を持つはずの人間の愚かさや残虐性を、深い洞察に基づいて分析してみせるのだ。
 
 鋭い指摘を含む文章も多数出てきて、それらの問題提起にはいろいろ考えさせられることも多く、この作品はフィクションではあるが、フィクションという枠を超えて読者に迫り、作品に深みを与えている。面白い小説でありながら、さらに単なるエンターテインメントにとどまらないすごみを持った作品だった。8.5点。
 
追記:今年の年末恒例ランキングで、本作は「このミステリーがすごい!」第1位「週刊文春ミステリーベスト10」第1位「ミステリが読みたい!(早川書房)」第4位となった。
 

石持浅海「ブック・ジャングル」 2011年11月11日

ブック・ジャングル

 著:石持 浅海
文藝春秋 単行本
2011/05

 市の合併の余波で閉館することになった図書館。思い出のある故郷の図書館を心に刻むために、夜になって建物に忍び込んだ男ふたり。そして、受け取るはずだった除籍本を手に入れるために忍び込んだ女子高生3人。そんな二組に、突如として武装したラジコンヘリが襲いかかる
 
 毎度書くように、リアリティを重視しないのはこの作者の作風と言ってもよいくらいの特徴である。しかし初期の作品群では魅力的なストーリーがそれを欠点と感じさせなかった。ところがどうも最近は低調な気がする。本作の肝は攻撃してくるラジコンヘリとの攻防なのだが、どうにも現実味がない。どんなに操縦者が巧みに操ろうと、たった15グラムのおもちゃのヘリなんて、そもそも脅威にはなり得ない。毒針は別としても、竹串や胡椒爆弾などでは大人が怯むような威力は出ないだろう。また狭い図書館の中で、相手を視認しながらヘリを操縦する攻撃者3人をなかなか見つけられないなんてことも、あり得ない話だ。ほかもとにかく現実味がないことばかりだった。
 
 攻撃者はいったい何者で、なぜこんな攻撃を仕掛けてきたのか、という本作の核心となる謎も、やはりリアリティは薄く、感心できるものではなかった。うーん。攻防のひとつひとつにいちいち現実味が感じられないことにあえて目を瞑れば、まあ、ハラハラドキドキな展開だと言えるだろうか。しかし常に不協和音が響いているような作者との感覚のズレはいかんともしがたく、残念ながら物語に集中することはできなかった。5.5点。
 

東直己「猫は忘れない」 2011年11月6日

猫は忘れない (ハヤカワ・ミステリワールド)

 著:東 直己
早川書房 単行本
2011/09/22

 ススキノ便利屋探偵<俺>シリーズの第12弾である。あ、あれ?12弾!?前回読んだ「旧友は春に帰る」が第10弾だったはずで。。そうか、シリーズ第1作「探偵はバーにいる」の前日譚で大学生時代の<俺>を描いた「半端者」が文庫オリジナルで刊行されていたのか。不覚。読まねば。
 
 つい先日、第2作の「バーにかかってきた電話」が「探偵はBARにいる」のタイトルで(ややこしい!)映画化されていた(2011年9月10日公開)。大泉洋の主演でなかなか評判は良いようだ。それで続編の製作も早々と決定したらしい。比較的知る人ぞ知る作家でありシリーズだったが、今後どんどん注目が集まりそうだ。
 
 そんなわけで本作。馴染みのスナックのママ、ミーナから旅行中の飼い猫の世話を頼まれた<俺>。しかし初日にミーナの家に行ってみると、彼女は部屋で殺されていた。恋人の華から危ないまねを止められながらも、<俺>は事件を追い始める。
 
 最後に明らかになるのは意外な犯人と真相だ。ただ、意外は意外だが、あとから冷静に考えてみると、人の二面性の設定など、安直に思われるところもあったりして、そうだったのか!と膝を打つ感じはしなかった。しかしそれでも物語は面白かった。一応ストーリーはきちんと収束しているし、なにより事件解決に向けた主人公の活躍や経過自体が楽しめた。7.5点。
 

歌野晶午「密室殺人ゲーム・マニアックス」 2011年11月3日

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)

 著:歌野 晶午
講談社 新書
2011/09/07

 まさかのシリーズ第2弾「密室殺人ゲーム2.0」の登場に驚いた密室殺人ゲームシリーズの3冊目。本書は「外伝的エピソード」なのだそうで、シリーズの中では番外編的な位置づけとなるらしい。ってつまり、シリーズはさらに続いていくのか。おそるべし。
 
 基本形式はいつも通り、お馴染みの(といっても中身までは同じではない)素顔を隠した5人、ハンドルネーム「頭狂人」「044APD」「aXe」「ザンギャ君」「伴道全教授」による犯罪トリック推理ゲームである。しかし今回は、ビデオチャットの一部始終を録画したファイルが動画投稿サイトで公開されて、外部の第三者の視点が入ってくる。いったい何を狙って動画は投稿されたのか。
 
 余談だが、このシリーズはもともとチャットだのネットだの、いかにも現代的なツールの上に成り立っている物語であるが、本書ではますますジャスト現在という描写が多い。WiFiだのBluetoothだのスマートフォンだの、いかにも今的なガジェットがたくさん出てくる。進歩の早い世界のことなので、10年後15年後にこの作品を読むとどう感じるのか、いらぬお世話ながら気に掛かる。
 
 閑話休題。さて、本書に出てくる個別のトリックはまあいつもの通り(いや今回はいつも以上に?)リアリティはない。しかし別にそれは構わないというのがこのシリーズの特徴である。リアリティはなくともそれなりに面白いトリックになっていればそれでよい。そもそも読みどころはそこではなくて、例えば5人がチャットで交わす軽妙な(?)会話がこのシリーズの魅力になっている。そしてもうひとつの注目が、全体に仕込まれた仕掛けである。なるほど今回はこう来たか。外伝的という意味もなんとなく分かった。この奇想天外な設定のシリーズは今後どのように続くのだろうか。7点。
 

真保裕一「ブルー・ゴールド」 2011年10月30日

ブルー・ゴールド

 著:真保 裕一
朝日新聞出版 単行本
2010/09/07

 題名のブルー・ゴールドというのは、「青い金脈」すなわち「水」のことらしい。本作品は、水をめぐる利権がテーマとなっている。
 
 最初の方からハイスピードで描かれているのは、総合商社の内外で繰り広げられる複雑な権謀術数などで、よく分からずに面食らう。こういうのが実態としてどの程度まで現実に即しているのか分からないが、描かれる大手商社やお役人の世界は伏魔殿よろしく裏取引や秘密工作などは日常茶飯事、荒っぽいことやとても表には出せないことも多い。もともと得意な分野ではない経済がらみの複雑な駆け引きや、利権をめぐって展開する企業や役人の心理や綱引きなどが満載で若干戸惑った。
 
 主人公の藪内之宏が社内の争いのあおりを喰らって出向させられた小さな関連会社は、社長を筆頭にひと癖もふた癖も三癖もあるような人物たちで固められていた。そこでいきなり手掛けることになった仕事は、清浄な水を大量に必要とする工場誘致の仕事。しかし妨害工作と思われる出来事が頻発して…。
 
 物語は、決して地味とは言えないが、派手というわけでもない。プロローグやタイトルからは、国際的規模の陰謀などが描かれるのかと勝手に想像していたのだが、実際に関わってくるのはいくつかの企業と一地方であり、背後にあるのも個人的な思惑で、規模の大きな話ではなかった。しかし経済がらみで理解しづらいところもあったとは言え、しっかりと書かれているのでなかなか楽しめた。なにより登場人物たちが良い。この個性的な面々の活躍をまた別な物語でも読んでみたい。7点。
 

東野圭吾「流星の絆」 2011年10月17日

流星の絆

 著:東野 圭吾
講談社 単行本
2008/03/05

 単行本刊行が2008年3月。早々にテレビドラマ化されてその年の10月から放映されていた(見ていないのでストーリーの原作との違いなどは分からない)こともあり、かなり話題にもなっていた作品だ。例によって旬を過ぎた今ごろになって読むが、もちろん良い作品はいつ読んでも良い。
 
 超人気作家の東野圭吾ということで、読者の期待や要求は当然高くなる。これだけ上がった高いハードルを超えていくのは相当たいへんなことだ。そりゃあ東野圭吾とて人間だからつまずくこともあろうが、多くの場合にしっかりと高いハードルを越えてくるのは驚異的である。これもそんな一冊だった。
 
 まだ小学生だった兄・弟・妹の三兄弟が、流星群を見るために親に内緒で深夜に家を抜け出して、帰ってきたとき目にしたのは両親が何者かに殺されているという悲惨な光景だった。その後施設で成長し、やがて社会の荒波の中で生きる術として選んだのは人には言えない稼業であったが、兄弟の絆は変わらない。そんな生活の中、未解決のまま時効を迎えようとしていた事件の犯人と思われる人物を発見する。
 
 衝撃的で痛ましい事件から始まった物語は、その後の展開も決して明るくはない。このままストレートに悲劇的な結末で終わるのではないかと恐れながら読み進めた。凡百の作家が書いたなら、きっとそうなっていただろう。それでもサスペンスとしては、ひとつの作品として十分に成り立つ。しかし、東野圭吾はそうしない。意外な真相と真犯人そして、しみじみと安心して読み終えられるラスト。少々強引なところもあるが、きちんと筋は通っており、どうやったらこんなストーリーが書けるのかと感心するばかりだ。8点。
 

伊坂幸太郎「モダンタイムス」 2011年10月10日

モダンタイムス (Morning NOVELS)

 著:伊坂 幸太郎
講談社 単行本
2008/10/15

 「モダンタイムス」と言えば連想するのはチャップリンである。何か関係があるのだろうかと思って読み始めたら、なるほど、見当が付いてきた。チャップリンの映画は、機械化やオートメーション化が進む近代社会は果たして人類を幸せにするのだろうかというテーマを皮肉を効かせながら描いたものだった。一方、本作品では数十年先の未来を舞台にして、主としてコンピュータ技術やネット社会の進化が社会にもたらす怖さを描く
 
 「魔王」の続編という位置づけ(といっても物語は独立している、はず)で、徴兵制が導入されていたりして、この未来社会はずいぶんと国家主義的色彩が強まっているようだ。そして秘密裏に行われているらしい、進歩したネットワークによる監視。国家がネットを支配したとき、いったい何が起こるのか。「ゴールデンスランバー」の執筆中に並行して連載されていたということで、「国家や巨大権力による不気味な怖さ」といったテーマが共通していた。
 
 描かれる国家像は、政治家を含むいかなる個人をも超越した得体の知れない巨大システムという位置づけで、その実態は最後まで茫洋として闇につつまれたままだ。そんなわけで、「ゴールデンスランバー」同様、最後には悪を倒してすっきりと言った勧善懲悪のドラマにはならない。作者もそれは意識しているのだろう。終盤で登場人物(主人公の怖い妻)にわざわざ「わたしはね、悪者をさっさとやっつけて万歳!って話が大好きなのよ」と言わせて、それでもそうはならないのだとアピールしている。
 
 分かりやすいカタルシスは無いとは言え、後味はそれなりにすっきりとしており読後感がよいのはさすがだ。それに作者特有のウィットに富んだ文章は他の作品にも増して濃密で、伊坂ファンにはとても楽しめるだろう。連載ものだったからだろうか、あちこち枝葉を広げすぎて回収し切れていない要素もあるが、逆に言えばバラエティ豊かな内容を楽しめる物語となっていた。7.5点。
 

梓崎優「叫びと祈り」 2011年09月21日

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

 著:梓崎 優
東京創元社 単行本
2010/02/24

 「砂漠を走る船の道」「第5回ミステリーズ!新人賞」を受賞(2008年)。この作品を冒頭に据えた連作短編集で、主人公の青年・斉木が、仕事などで訪れた先の世界各国で遭遇する事件や謎を描いている。2011年版(2010年の作品)の「このミステリーがすごい!」第3位「文春ミステリーベスト10」第2位「本格ミステリ・ベスト10」第2位「ミステリが読みたい!(早川書房)」第5位2011年本屋大賞でも第6位にランクインしていた。
 
「砂漠を走る船の道」砂漠のただ中という一種の密室状況で起こった連続殺人事件の犯人と動機は?さらにもうひとつの仕掛けがある。ただ、犯行動機はいまひとつ説得力に欠けるし、最後に明らかになる仕掛けもかなり強引な感じがした。7点。
「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」人が風車の中に消え去るという謎を解く。伝説上の謎の解決は現実的にもよくある種類。1年前の消失の謎解きは…、えー、そんなのあり?7点。
「凍れるルーシー」ロシアの修道院で崇められている250年前に亡くなった女性の不朽体。新たに列聖するために調査に訪れた神父に同行した斉木がそこで目撃したものは。ラストはよく分からない。ちょっとオカルティック。6点。
「叫び」南米アマゾンの奥深くにある小さな集落で謎の伝染病が発生する。住民が次々に倒れ、存亡の危機に瀕した集落で起こったのは、連続殺人事件だった。一体なぜ?6.5点。
「祈り」ラストを飾るにふさわしいと言えばふさわしく、でも分かりづらいと言えば分かりづらい物語。ある意味衝撃的で、このシリーズはもっと続くのかと思っていたが、このラストだとこれで打ち止めなのか。6.5点。
 
 それぞれ異境の土地を舞台にしており、多くの謎の根底にはその土地独特の論理や価値観がある。しかし独特とは言え、そこには一定の合理性があって欲しいが、そこがもうひとつで、説得力が感じられないきらいがあった。というわけで、(受賞作は)選考委員を驚嘆させたという宣伝文句や、前評判から期待していたほどには感心しなかったのだが、作品の持つ雰囲気は決して悪くない。東京創元社好みの作風である。さらに洗練されることを期待したい。
 

北村薫「鷺と雪」 2011年09月11日

鷺と雪

 著:北村 薫
文藝春秋 単行本
2009/04

 ようやく読んだ『街の灯』『玻璃の天』に続くベッキーさんシリーズの三冊目。三部作とされていたのでこれが完結編となる。作者は本書で第141回(2009年上半期)直木賞を(ついに!)受賞した。
 
 収録されているのは、進歩的な考えの持ち主で風格漂う若き子爵の失踪事件の真相を探る「不在の父」、中学受験を控えた老舗和菓子屋の、素直で真面目な息子が夜遅くに出歩いて補導された理由を明らかにする「獅子と地下鉄」、ドッペルゲンガーのように、そこにいるはずのない人物が写真に写っていた謎を解く「鷺と雪」の3編。
 
 このシリーズは、上流階級に属する女子学生・花村英子の視点から描かれる、戦前の、昭和初期という時代の空気を色濃く反映した連作集だ。一応どの作品も、何らかの謎を解くというミステリ的な骨格を持っているが、内容的にはむしろそれ以外の要素が多い。これは最近の作者の作風のようだが、その時代の出来事や文化など、幅広い話題が盛り込まれている。巻末に挙げられた参考文献の量がすごい。
 
 実のところ、ストーリー的には必ずしも必然性のないエピソードが多いというのは、しっくりこないところはある。様々な話題が出てくるのは、会話の中ならば興味深く聞けるし、文章なら例えばエッセイであれば良いだろう。しかし小説の中に入れ込むのは、あまり多すぎると主題がぼけて、付け合わせが過多な料理のようにならないか。まあ、作者らしい教養あふれる、ユーモアも交えた品のある美しい文章で綴られており、素直に受け入れればよいのかもしれないが。ただそれでも、もっと主人公やベッキーさんをクローズアップした物語にして欲しかったという思いはある。これでシリーズ完結のはずだが、このラストは、彼女らのその後が気になる。7点。
 

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