- 法月綸太郎「ノックス・マシン」 2013年05月11日
| ノックス・マシン
イラスト:遠藤 拓人 角川書店(角川グループパブリッシング) 単行本 2013/03/27
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『本格ミステリとSFの美しき「融合」』『異形の奇想ミステリ集!』という売り文句が付いた「本格」SF集。あとがきによれば「本格」SFとは、本格ミステリを主題にしたSFの意だという。4編の短中編を収録している。3編目を除いて、虚実を織り交ぜた構成になっている。「実」の部分は英米推理小説の古典作品を俎上に載せて分析する内容で、ミステリ評論家としても活躍する作者の得意分野を活かした物語である。 「ノックス・マシン」数理解析モデルで文学を解析し再生産する(コンピュータが文学を書く)近未来のゴリゴリのSFワールドにて、推理小説の基本ルールとしてロナルド・ノックスが1928年に考えた「ノックスの十戒」を中心にガリガリの本格ミステリ論が展開される、ミステリ的にもSF的にも「本格」な作品。十戒にまつわる謎がSF的に解明される。しかし、なぜそこが時間の特異点だったのかという謎が残されたままになったのは気になった。7.5点。 「引き立て役倶楽部の陰謀」これはSFというよりむしろファンタジー?代名詞的存在のワトスン御大をはじめ、探偵小説に出てくる名探偵の相棒たちが組織する"倶楽部"で、ミステリの新潮流を阻止し、古式床しい探偵と相棒の形式を"作者"に遵守させるため、実力行使に及ぶべしという討議が始まる。クリスティ失踪事件の「真相」を明かし、最後はメタ構造をかぶせてきた。ミステリ評論に肉付けしてフィクションに仕立てたような作品だった。7点。 「バベルの牢獄」本編は古典ミステリは絡まない、奇想SF作品。データ人格への変換だとか鏡像人格技術だとか、なかなかアイデアが面白いなあ。ただ、難しい言葉がちりばめられている割に、その使い方などで科学的厳密性は低いかな、なんて思っていたが。。まさか!こんな結末が!!こんな仕掛けが!!!二度は使えない一回限りの大技だが、まったく想像の埒外で意表を突かれた。こういう意外性も好きである。8点。 「論理蒸発─ノックス・マシン2」第一話の続編。ネットのデータ空間上で文学作品が次々に"炎上"するという事態が起こる。鍵となるエラリー・クイーンの国名シリーズなど、古典探偵小説の深層が語られるとともに、炎上事件の現象と理由が、近代物理学の科学的事実とのアナロジーで説明される。誰がどうすれば事態を食い止められるのか。7点。 古典推理小説にまつわる謎解きをSF的に展開したり、探偵小説趣味とSF趣味をこれでもかというくらいたっぷりと詰め込んだ内容はたいへんにマニアックで、読者を選ぶかもしれない。しかし作者の深い造詣の上に成り立つ、奇抜で凝った趣向が、なかなかのインパクトを持った作品集だった。
追記: 本書は、2014年版の「このミステリーがすごい!」で第1位、「文春ミステリーベスト10」第3位、「本格ミステリ・ベスト10」で第4位となった。
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